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第一章
23、乙女ゲーム崩壊の瞬間
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放課後、生徒会室に向かうと、早速アレックス殿下はヒロインちゃんと一緒にいた。
「とうとう私を生徒会に入れてくれる気になったのですね……!」
「そうだね。そのことを話そうと思っていたから、少し落ち着いて待っていてね」
どうぞ、と殿下が生徒会室にヒロインちゃんを通す。
それを見ていた私とライ君。私は殿下の行動の意味は解っているけれど、ライ君は寝耳に水だったらしく、ひたすら怪訝な顔をしている。
「……あれ、いいのかよ」
「アレックス殿下の深いお考えの元でしょう。大丈夫ですよ」
行きましょう、とライ君を急かすと、ライ君は腑に落ちない顔で生徒会室に入った。
そこには、そこそこ爵位の高いご令嬢とご令息が学年問わず数名既に待機していた。
私たちが最後だったらしい。
「さて、集まって貰ったのは他でもない。この生徒会をここへ呼んだ皆に運営してもらおうと思ってのことだ」
徐に殿下が話し始めた。
皆、背を伸ばして聞いている。
「まだ今年になってそれほどの時間は経っていないけれど、私は王宮から密命を受けて、暫く学園を離れなければならなくなった。内容は極秘なので伝えることは出来ないが、私たちの代わりを出来る優秀な者たちを集めたつもりだ。皆、我々の代わりに、この学園をより良いものとするよう、力を貸してくれないだろうか」
アレックス殿下が皆を見回すと、ヒロインちゃんが驚いたような顔でアレックス殿下を見ていた。
一番上座に座っていた、三年生の侯爵家ご子息がはいと手を上げる。
「それはアレックス殿下が生徒会長を辞するということでしょうか」
「ああ。すぐに帰ってこれるのであれば、こんな風に無理な引継ぎはしないが、いつ戻って来られるかわからないんだ」
「それは……私でよければ、精いっぱいアレックス殿下の後任をさせていただきます。殿下は、道中お気をつけてください」
「ありがとう」
キリッとした顔で、侯爵ご令息がぐっと手を握る。そして、チラリと自分の横に座る者たちを見て、くい、と掛けている眼鏡を指で上げた。
「では、シーマ様とザッシュ様もご一緒するのですね」
「ああ。それと、シーマと婚約したグロリア嬢も我々と行動を共にすることになった。実質、生徒会政権交代だな。君に全てを任せたよ。信頼している」
キラキラの顔で、アレックス殿下は侯爵ご令息の手を握った。侯爵ご令息はちょっと感激したような顔をしている。もともとアレックス殿下のことは嫌いじゃなかったらしい。侯爵ご令息のステータスに見えるハートがすべてを物語っている。そして、ヤル気に満ち満ちている。頑張れ。
「それと、隣国よりかねてから打診されていた交換留学に、我が学園から成績優秀者としてマーランド伯爵令嬢が選ばれたので、彼女も生徒会を辞めざるを得なくなってしまう。一年からの補佐は、アリア嬢とライ君となる」
「ちょ、待ってください」
アレックス殿下の言葉を、ライ君が強引に遮った。
っていうか私そういう設定だったの? 先に教えて欲しかった。まあ、私が何も言わなければ何とでもなる設定だけれども。なんの繋がりもなかった私が殿下と共になんて、いらぬ疑いをもたれるわけだから、そういう設定はちょっとありがたいけれど。顔に出さないよう無表情を装いながら、じっとアレックス殿下を見ると、アレックス殿下は軽くウインクを投げてよこした。
「お、ライ、どうした? 実質残るのはライだけだから、これからのことをお願いするよ」
「いや、殿下たちがいなくなったら俺仕事出来ないっすよ。それと、ちょっと資金繰り難しくて、放課後は友人とギルドの仕事をしたいから補佐が難しいって殿下に相談しようとしていて」
いきなりのライ君の生徒会辞めたい発言には、流石にアレックス殿下も驚いた顔を見せた。
待って、いきなりどうしたのライ君。
ちょっと気になって鑑定してみれば、一言欄に『勇者たちが動き出したので焦っている』と書かれていた。なるほど。私たちが勇者活動をすることを殿下の言葉だけで悟ったのか。さすが魔王。聡い。どう動くのかはわからないけれど。
しかも残って頑張れと言えなくなる理由がまた。お金がなくて学園に通うの辛い、と言われたら、生徒会補佐なんてやってられないってなるよね。ライ君もともと平民としてここに来てるんだし。これは断れない。流石ライ君。
やっぱりライ君がどう動くのかが全然わからないから、ライ君対策だけは何も思いつかない。
殿下を見ているライ君のハートは普通に赤かったから敵対はしてないとわかるけど。
この際アレックス殿下に密かにライ君は友好的魔王だってことぶっちゃけちゃおうかなとか考えていると、今度はヒロインちゃんがはいと手を上げた。
「では、生徒会全員が総入れ替えということでしょうか」
困ったような悲しそうな上目遣いで、ヒロインちゃんは殿下を見た。とてもあざと可愛い顔だった。
やりたかった生徒会補佐だよ。喜んでいいよ! とはいえ、攻略対象者が生徒会顧問の先生一人だけになっちゃうけど。実質『星火の乙女』攻略対象者が総入れ替えってことだよね。
「そうなるな。けれど、君ならば絶対に出来ると信じているよ。生徒会長は三年ボンテール侯爵家嫡男ファーン、副会長が二年メトロ伯爵家の次男ジャック、書記が三年ヨーグ伯爵家嫡男グレッグ、会計が二年トラントル子爵家令嬢レノア嬢、補佐が一年アリア嬢。我ながら素晴らしい人選だと思っている。皆、超優秀だからな。ファーンなどは私と成績を競い切磋琢磨した仲だ。問題は、ライが辞めてしまったらもう一人の補佐をどうするかなんだけど……それは後ほど考えよう。どうかな、アリア嬢」
「わかりました。精いっぱい頑張ります!」
ぐっと手を握りしめたヒロインちゃんは、アレックス殿下に紹介された生徒会メンバーの爵位に目を輝かせていた。爵位に対する執着が凄い。きっと男爵より上の人を探したいんだろうなあ。でもあんなにがつがつしていたらドン引きされちゃう気がしないでもない。顔は可愛いのに。もっとお淑やかにしたらいいのに。
ほら、横に座っているジャック様なんて、チラチラヒロインちゃんを見ているから。すぐ落ちるよきっと。頑張れ。
それから一週間は引継ぎ期間が設けられ、皆がある程度仕事を出来るようになったところで、私たちは生徒会を辞した。
乙女ゲーム崩壊の瞬間だった。むしろ、第二部が始まるのかもしれない。頑張れ。
「とうとう私を生徒会に入れてくれる気になったのですね……!」
「そうだね。そのことを話そうと思っていたから、少し落ち着いて待っていてね」
どうぞ、と殿下が生徒会室にヒロインちゃんを通す。
それを見ていた私とライ君。私は殿下の行動の意味は解っているけれど、ライ君は寝耳に水だったらしく、ひたすら怪訝な顔をしている。
「……あれ、いいのかよ」
「アレックス殿下の深いお考えの元でしょう。大丈夫ですよ」
行きましょう、とライ君を急かすと、ライ君は腑に落ちない顔で生徒会室に入った。
そこには、そこそこ爵位の高いご令嬢とご令息が学年問わず数名既に待機していた。
私たちが最後だったらしい。
「さて、集まって貰ったのは他でもない。この生徒会をここへ呼んだ皆に運営してもらおうと思ってのことだ」
徐に殿下が話し始めた。
皆、背を伸ばして聞いている。
「まだ今年になってそれほどの時間は経っていないけれど、私は王宮から密命を受けて、暫く学園を離れなければならなくなった。内容は極秘なので伝えることは出来ないが、私たちの代わりを出来る優秀な者たちを集めたつもりだ。皆、我々の代わりに、この学園をより良いものとするよう、力を貸してくれないだろうか」
アレックス殿下が皆を見回すと、ヒロインちゃんが驚いたような顔でアレックス殿下を見ていた。
一番上座に座っていた、三年生の侯爵家ご子息がはいと手を上げる。
「それはアレックス殿下が生徒会長を辞するということでしょうか」
「ああ。すぐに帰ってこれるのであれば、こんな風に無理な引継ぎはしないが、いつ戻って来られるかわからないんだ」
「それは……私でよければ、精いっぱいアレックス殿下の後任をさせていただきます。殿下は、道中お気をつけてください」
「ありがとう」
キリッとした顔で、侯爵ご令息がぐっと手を握る。そして、チラリと自分の横に座る者たちを見て、くい、と掛けている眼鏡を指で上げた。
「では、シーマ様とザッシュ様もご一緒するのですね」
「ああ。それと、シーマと婚約したグロリア嬢も我々と行動を共にすることになった。実質、生徒会政権交代だな。君に全てを任せたよ。信頼している」
キラキラの顔で、アレックス殿下は侯爵ご令息の手を握った。侯爵ご令息はちょっと感激したような顔をしている。もともとアレックス殿下のことは嫌いじゃなかったらしい。侯爵ご令息のステータスに見えるハートがすべてを物語っている。そして、ヤル気に満ち満ちている。頑張れ。
「それと、隣国よりかねてから打診されていた交換留学に、我が学園から成績優秀者としてマーランド伯爵令嬢が選ばれたので、彼女も生徒会を辞めざるを得なくなってしまう。一年からの補佐は、アリア嬢とライ君となる」
「ちょ、待ってください」
アレックス殿下の言葉を、ライ君が強引に遮った。
っていうか私そういう設定だったの? 先に教えて欲しかった。まあ、私が何も言わなければ何とでもなる設定だけれども。なんの繋がりもなかった私が殿下と共になんて、いらぬ疑いをもたれるわけだから、そういう設定はちょっとありがたいけれど。顔に出さないよう無表情を装いながら、じっとアレックス殿下を見ると、アレックス殿下は軽くウインクを投げてよこした。
「お、ライ、どうした? 実質残るのはライだけだから、これからのことをお願いするよ」
「いや、殿下たちがいなくなったら俺仕事出来ないっすよ。それと、ちょっと資金繰り難しくて、放課後は友人とギルドの仕事をしたいから補佐が難しいって殿下に相談しようとしていて」
いきなりのライ君の生徒会辞めたい発言には、流石にアレックス殿下も驚いた顔を見せた。
待って、いきなりどうしたのライ君。
ちょっと気になって鑑定してみれば、一言欄に『勇者たちが動き出したので焦っている』と書かれていた。なるほど。私たちが勇者活動をすることを殿下の言葉だけで悟ったのか。さすが魔王。聡い。どう動くのかはわからないけれど。
しかも残って頑張れと言えなくなる理由がまた。お金がなくて学園に通うの辛い、と言われたら、生徒会補佐なんてやってられないってなるよね。ライ君もともと平民としてここに来てるんだし。これは断れない。流石ライ君。
やっぱりライ君がどう動くのかが全然わからないから、ライ君対策だけは何も思いつかない。
殿下を見ているライ君のハートは普通に赤かったから敵対はしてないとわかるけど。
この際アレックス殿下に密かにライ君は友好的魔王だってことぶっちゃけちゃおうかなとか考えていると、今度はヒロインちゃんがはいと手を上げた。
「では、生徒会全員が総入れ替えということでしょうか」
困ったような悲しそうな上目遣いで、ヒロインちゃんは殿下を見た。とてもあざと可愛い顔だった。
やりたかった生徒会補佐だよ。喜んでいいよ! とはいえ、攻略対象者が生徒会顧問の先生一人だけになっちゃうけど。実質『星火の乙女』攻略対象者が総入れ替えってことだよね。
「そうなるな。けれど、君ならば絶対に出来ると信じているよ。生徒会長は三年ボンテール侯爵家嫡男ファーン、副会長が二年メトロ伯爵家の次男ジャック、書記が三年ヨーグ伯爵家嫡男グレッグ、会計が二年トラントル子爵家令嬢レノア嬢、補佐が一年アリア嬢。我ながら素晴らしい人選だと思っている。皆、超優秀だからな。ファーンなどは私と成績を競い切磋琢磨した仲だ。問題は、ライが辞めてしまったらもう一人の補佐をどうするかなんだけど……それは後ほど考えよう。どうかな、アリア嬢」
「わかりました。精いっぱい頑張ります!」
ぐっと手を握りしめたヒロインちゃんは、アレックス殿下に紹介された生徒会メンバーの爵位に目を輝かせていた。爵位に対する執着が凄い。きっと男爵より上の人を探したいんだろうなあ。でもあんなにがつがつしていたらドン引きされちゃう気がしないでもない。顔は可愛いのに。もっとお淑やかにしたらいいのに。
ほら、横に座っているジャック様なんて、チラチラヒロインちゃんを見ているから。すぐ落ちるよきっと。頑張れ。
それから一週間は引継ぎ期間が設けられ、皆がある程度仕事を出来るようになったところで、私たちは生徒会を辞した。
乙女ゲーム崩壊の瞬間だった。むしろ、第二部が始まるのかもしれない。頑張れ。
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