平凡次男は平和主義に非ず

朝陽天満

文字の大きさ
14 / 47

13、その頃の王宮とその頃の俺たち

しおりを挟む
「まだ城は直らんのか」

 宰相はイライラしながら進捗を報告する部下に言葉を掛けた。
 城の補強を担当する部下は、汗をぬぐいながら小さくなる。

「申し訳ありません。大穴が空き、周りの支柱も傷ついております。そう簡単に修繕は出来ないでしょう。早くて『実りの季節』の初めごろになるかと」
「前は一日で直っていただろう」
「あの時はヴィーダ家の次男坊が来て直していきましたので」
「なら、その次男坊を呼べばよい」
「それが……声を掛けたのですが、次男坊は家を出てしまったので招集に応じることは出来ないと」

 部下の言葉が更に苛立ちを募らせる。
 ヴィーダ家はこのメイユール国にとって、特別な地位にいる。だから、無理やりに招集しようとしても、この部下程度の地位では応じてなど貰えないだろう。
 そうでなくても、先日王宮に務めていたヴィーダ家の長男が城を辞したばかりで、陛下が荒れている。
 盟約の話を出しても、ヴィーダ家当主の契約獣であるあの美しいウンディーネが「なんの問題もありません」と言い切ったので、無理やり誰かを城に上げるということも出来なくなっているのだ。
 ヴィーダ家の者を従えられなかった王は愚王、と言われるこの国で、とうとう城に一人もヴィーダ家のいなくなってしまった状態に、陛下は大変焦っておられるし、王子たちは勝手に王位争奪をしてぎすぎすしている。
 頭の痛いことだ、と宰相は眉間を指で揉んだ。

「城を壊す元凶がいなくなった、と安心すればいいのか……」

 溜息と共に零した言葉は、既に部下が宰相の前を辞しているので誰にも聞かれていない。
 けれど、城を壊した元凶は、直接破壊したヴィーダ家長男の召喚獣ではなく、その召喚獣の耳にヴィーダ家を貶めるような言葉を聞かせる者たちだということを、宰相は気付こうとしていなかった。
 そして、王宮に仕える貴族たちの間には、ヴィーダ家に愛想をつかされた王世代だという噂が陰で出回るのだった。

   ◇◇◇


「ここは北のの領地だから、掘って売れば儲けるぞ。金を儲けて人を雇って農地を拡大して酒を造るぞ」

 親方が中を見て満足そうに頷く。
 その間にも、他のノームたちが空いた穴に柱を立て、崩れ落ちないように加工して入り口を作ってしまった。素早い。
 アラン様は額を押さえて苦悩している。サウスさんは口を大きく開けてただ茫然とノームたちの動きを見ていた。手にはしっかりとラズリを抱き上げているけれども。

「まーたすごいもんがあるね親方。ところでこれってどこまで掘っていいやつ? 聖山にかからない?」
「皆が聖山と呼ぶ山の聖域は、あの上の方にちょっと出っ張った岩が見えるあたりから上の方なんじゃ。麓を掘ったとしてもそう簡単に崩れるようなやわな山じゃないから、これから掘り始めるとして、人間が五十年掘ってもまあ大丈夫じゃろ。どの国もここには手をださんからの。掘り放題じゃよ、北の」
「掘り放題だと言われてもな……とてもありがたいし、我が領が生き返るが……私の常識ではここが既に聖山の一部なので、陛下に何かを言われ没収とかされそうで怖いな……」

 没収って、と俺と親方は一緒に眉を顰めた。
 契約書を見たわけじゃないけれど、この領がギリギリ生き残れる程度の、余力を残さない感じで税をとられている状態で、更に儲けがあるのを没収ってちょっと人としてどうかと思う。
 思わず呟くと、後ろからサウスさんが小さい声でその通りなのです、と教えてくれた。

「陛下は、旦那様を脅威に感じているのでございます。ご自身が召喚師を手元に置けなかったこと、幼い旦那様がとても優秀だったことにより。王宮にいれば必ず旦那様に王位を、と誑かす者も出て来るだろうと、ありもしない醜聞をでっちあげ、こちらに……」
「サウス」
「は、失礼いたしました」

 アラン様の制止の声に言葉を止めるも、サウスさんは少しだけ悔しそうだった。
 なるほどねーと頷くと、親方が呆れた様な声を上げた。

「人間とは本当にわからんのう。能力のある者が上に立たなければ最善にはならんだろうに」
「人間は権力が大好きだからね。最善よりも金と権力なんだよ」

 親方は、俺の言葉に呆れたのう、と苦笑した。人間がどうなろうと知らんが、と付け足して。
 

「ということで、これをどうやって手に入れてどこに売るかなんだけど……アラン様、これさ、うちの伯父さんの領に流しません? あそこならいいように国外に流せるからさ」
「……マーレ?」
「だってさ、自分を苛める人の所にわざわざ流してやる必要ないじゃん」
「そうじゃのう。クロックの所なら安心じゃの。ルイ様に一報入れるか」
「あ、手紙書くね。あと炭もそうだし、ちょっと人手が欲しいよね。でも、ここの採掘はあんまり人の手入れない方がいいから、親方に任せていい?」
「ええぞ。その代わり毎日十人ほどここに呼ぶからの」
「問題なし。もっとやっちゃっていいのに」
「最初はこっそりじゃ」
「はは、こっそりね」

 俺と親方で交渉成立したので、俺は後ろを振り返った。
 アラン様にガン見されていた。
 その綺麗な顔には言いたいことが沢山あるって書いてあった。
 クロックっていうのは領地を治めている伯父さんの名前で、契約獣がセイレーンのルイ様なんだよ。セイレーンって言っても伯父さんの同性のセイレーンだからと当主にはならずに領地を一手に引き受けてくれているんだ。

「という訳で。この鉱山は俺担当で。精霊たちが掘る分には誰も文句言えないですから。何せ聖山だし?」
「そうじゃの。北の。わしがここを富ませるから、美味い酒をたんと造れ」
「……はぁ」

 アラン様は盛大に溜息を吐くと、顔を手で覆って、肩を震わせた。
 呆れちゃった? と下から覗くと、手の隙間から見えたアラン様の口は弧を描いていて、目が合った瞬間、耐えられないとでも言う様に、アラン様は声を出して笑いだした。

「はははは、マーレが来てから、怒涛のようだ。マーレは自分のことを平凡というが、とんでもない。嵐の目だな!」
「いやいや、俺自体は特筆した能力ないですから」
「魔力は美味いがの」

 見た目もそこら辺の人に埋もれるくらいに普通だし、成績だって大体真ん中くらい。常識人だと自分では思ってるんだけどなあ。
 
「あ、でも親方たちを召喚できたのは俺的に自慢だけど。周りのやつらは俺が特定の聖獣と契約してないから能力が低いって思ってるみたいだけど、別にそういうわけじゃないしね。どっちかというと、俺みたいなののほうが召喚師仲間では能力高い方なんだよな、親方」
「そうじゃの。数の勝利じゃ」
「違う親方そこじゃない」

 へへん、と胸を張ると、アラン様は更に笑いを深くした。
 

しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

処理中です...