13 / 47
12、快適馬車で聖山へ
しおりを挟む俺が文官の仕事を覚えた太陽の季節にかかるころ、外はようやく緑のじゅうたんに変わった。
山からの栄養をたっぷり含んだ水が近くの河を流れていくため、ここいら辺の土地は栄養が沢山だ。しかも手付かずだからこれから耕して植物を植えたら、その栄養を余すところなく吸い上げて、とてもいい作物が出来る。と、土地を耕しているノームたちを統率する親方が言っていた。
「流石に三十人もいると早いね」
「欲を言えば、もう二十程召喚して欲しいところだの。隣の開いている場所に作業所と蔵をさっさと作りたいの」
「流石にあと二十は俺が無理……動けなくなるもん」
「寝ていればよい。何ならわしが北のの許可を取ってこよう」
「勘弁して……」
親方の首根っこを掴んで、さっさとアラン様の所に行こうとするのを阻止する。
そんな一気にやらなくてもいいのに、と口を尖らせれば、今が一番いい時期だから時期を逃してはいけない、と親方が反論してきた。
「田畑の大きさが決まれば、おのずと作業所と蔵の大きさも決まる。しかもここは田畑を広げる余地もある。最高の地じゃな」
「なるほど本命はやっぱり蔵か」
「当り前じゃ。うんまい酒を造るんじゃ」
「親方たちが酒造りしたらもともとある酒とは味が違って来るんじゃない?」
「そうじゃの。全く違うの。そこが問題じゃ……」
「問題じゃ……じゃねえよ。一番重要な所じゃねえかよ」
呆れて溜息を吐いていると、遠くに見慣れた馬車が見えた。
引いているのは子フェンたちだ。ということは、御者はサウスさんか。
『アッ! アッチニオヤカタガイルヨ!』
『イッテミタイ!』
『ナニシテルノカナ!?』
三匹ともノリノリで、勝手にこちらに進路を変えて爆走してくる。
サウス様はにこやかに「お気をつけて走ってくださいね」と諫めるどころか応援している。いいのかアレ。
すぐに馬車は目の前に停まった。
爆走した割に静かに停まることが出来たのは、さすがに躾はしたのか。
「よーしよし。ちゃんと止まれるようになったな。もし北のの馬車をまた壊したらお仕置きするところだ」
満足そうにうなずいている親方がいたので、子フェンの教育係が誰だったのか図らずも知ってしまった。
サウスさんは、俺の斜め後ろに立つと、畑になりかけている広大な地を見て目を細めた。
何もなかった不毛の地は、沢山のノームたちによって、穀倉地へと変わろうとしていた。
というか魔法で一瞬で変わった。情緒がないけれど、速くていい。
ここに作物を植えたら、今度こそアラン様の予定を合わせて聖山に行く予定だ。
その時はサウスさんが御者を務めてくれるらしい。
というより、親方が手塩にかけて作り上げた今サウスさんが使っている馬車は、子フェンだけが引くことを許されたアラン様専用馬車となった。造りが普通の馬が引く物よりもさらに強く重くなってるんだ。どれだけ飛ばしても車輪とかが壊れないように。中も揺れない設計になっている。
まだ力加減の難しい子フェンたちが普通の馬車を引いた結果、二台ほど壊してしまったから。引く練習中の出来事だったのが幸いして怪我人はいなかったけれど、お詫びとして俺と親方から最新型の馬車を子フェン用としてアラン様に贈ったんだ。あの時は本当に申し訳なく。大破した馬車を見たアラン様のあの何とも言えない顔が忘れられない。
絞り出すように「……さすが子フェンたちは力が強いな……」としか言えない気持ち、ちょっとわかります。
もちろん普通の馬用馬車も超快適仕様でお詫びした。俺も紋章を取り付ける係を請け負い、深く深く頭を下げた。
でもアラン様はとても寛大で、笑いながら「快適な馬車になるのならいうことは何もないな」と許してくれた。いい人。
「疲れているなら一眠りしてもいいんですからね」
俺はアラン様の隣にフワフワのクッションを置いてそれをポンポンと手で叩いた。
今日はアラン様と共に聖山に行く日。
昨日まで領内の村と街を見回っていたアラン様は、遅くまで詳細をまとめ、今朝もほぼ寝ずに仕事をしていた。
その間俺はノームたちの畑を任せて文官の仕事をしていたわけだけれども、魔力を毎日ノームたちにあげているせいか、ちょっと怠くてあまり仕事が出来なかった。周りの人たちは皆いい人で、出来ることをやればいいよ、と言ってくれるけれど、やっぱりアラン様がいないと仕事の進みは全然違っていて、皆疲れた顔をしていた。
でも、領事館の窓から着々と育っている畑が見えるのか、皆は休憩時は外に目を向けて口もとを緩めていた。
そんな感じでアラン様も俺もお疲れ。
サウスさんが繰る快適馬車内は、静けさに包まれていた。
「着きましたよ」とサウスさんに起こされるまで、俺もアラン様も超爆睡していた。
寝ても疲れない馬車ってホント快適。今度はベッドも付いている馬車をアラン様に贈ろうかなと考えながら伸びをする。
「お疲れではありませんか」
「大丈夫。サウスさんこそずっと御者させてごめんな」
「いいのですよ。オニキスラズリシトリンが頑張ってくれているのです。私はただ座っているだけですし、その可愛らしいお姿を留めておけるので、むしろ嬉しく思います」
「ならいいけど」
目の前のアラン様は、よほどお疲れなのか、今もまだぐっすり寝ていた。
「もう少し休ませようか。予定より早く着いちゃったし」
「そうでございますね。では、私は少しお湯でも沸かして昼食の用意を致しますね」
「俺も手伝う」
サウスさんに付いて馬車から飛び出すと、目の前にはとても大きな白い山がそびえ立っていた。
これが聖山。なんだけれど、聖獣たちが言うには、正しくは聖山と呼ばれる場所は頂上付近なんだとか。とても美味しい空気の場所があり、魔力に溢れ力がみなぎるんだそうだ。
そこを弄らなければ麓はその地の者が好きにしていいんだそうだ。多少掘っても倒れる程やわな山じゃない。
きっと親方はここで何かを見つけたんだね。この地が発展する何かを。
聖山を見上げて深呼吸していると、馬車からアラン様が下りて来た。
「すまない……すっかり寝入ってしまった……道中暇ではなかっただろうか、マーレ」
「全然。俺もずっと寝ちゃってました。さすが親方の馬車、快適過ぎて」
「本当に。乗っていても揺れない馬車とは本当にいい物を頂いてしまった。今回の視察はかなりこの馬車とフェンリルたちのお陰で楽することが出来た。礼をいう」
「いいえ。アラン様が快適に使えるんであれば嬉しいですから」
ニッと笑うと、アラン様もつられるように綺麗な笑みを浮かべて、俺の隣に立った。
見上げると首が痛くなるほどに高い山は、とても荘厳な雰囲気を醸し出している。
本来なら馬車で来るのは難しい場所だけれど、親方はここに通うことを想定して、少しずつ道を作っていたようだ。知らなかったけど。好きにやっちゃってって言ったのは俺だけど報告くらいは欲しかった。
「召喚、親方」
早速親方を呼ぶと、親方と共に大きな槌を持ったノームたちがわらわらと現れた。
「ようやく連れて来れたのだな、北のを」
「うん。でもちょっと無理させちゃったかも」
「そんなことはない。遅くなって申し訳ない」
「ええって。領地を回っていたのじゃろ。自分の目で見て回ることは大切じゃな。下の者も上の者が目を掛けてくれるとわかれば自ずと慕ってくるものじゃ」
「そうだな」
親方の言葉に、アラン様はちょっとだけ嬉しそうに、くすぐったそうに笑った。
早速こっちに来てくれという親方の後ろを付いていくと、親方はその場所からすぐ近くの地面に魔法でしるしをつけた。
「ここじゃな。思いっきりやってしまえ」
親方の合図とともに、槌を持ったノームたちが一斉にそれを振り上げ、しるしに向かって槌を叩きつけた。
「どっせ―い!」
掛け声とともに、何度も槌が叩きつけられる音が響く。
数にして十程槌を叩きつけると、その場所がガラガラと崩れ落ちた。
その間から見えたのは、鉱床らしき空洞だった。
793
あなたにおすすめの小説
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした
Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち
その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話
:注意:
作者は素人です
傍観者視点の話
人(?)×人
安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる