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18、活気づく領都へ
しおりを挟む雪解けもだいぶ進んだ領都。
街は俺が来た時よりもよほど活気づき、領民たちの顔は明るい。
建物も少しずつノームによって修繕させているからか、今年は雪の重さで潰れる家もごく少数。間に合わなかった家の住民には、冬の間の避難場所も確保してあるので、凍死や圧死などの死人も今年はほぼ出ていないとのこと。
アラン様と二人で歩いていると、皆が明るい顔で感謝を伝えて来るのが、面映ゆい。
「領主様、マーレ様! 今年は雪で潰れる家もなく、無事雪の季節を乗り切りました」
歓迎してくれる雰囲気と、街の人たちの笑顔が嬉しい。
馬車で通るだけだったら、こんな雰囲気を味わうことは出来ない。
街の人たちにつられるように楽しい気分で足を進めると、融けかけた雪に足をとられて、ずるっと滑る。
「うわっ」
身体が傾いだ瞬間、力強い腕が俺の身体を支えた。
「こういう状態が一番すべるんだから気を付けなさい」
「ありがとう、ございます」
思ったよりも近い位置からのアラン様の声に、心臓が跳ねる。
振り返れば、間近にアラン様の綺麗な顔があった。
そして、支えてくれる力が、思った以上に頼もしくて驚く。
周りから微笑ましい笑い声が聞こえて来て、俺はようやく自分がドジを踏んだことに気付いた。
「わわ、ごめんなさい! アラン様、痛いところとかありませんか⁉」
重かったでしょ、と慌ててアラン様の腕から逃げると、アラン様は苦笑して首を横に振った。
「転びそうになったのはマーレなのに、どうして私が怪我をすると? それにマーレは軽い。もう少し食べろ」
「たくさん食べてますけど!」
「もっとだ。マーレは魔力をたくさん使うだろう。その分しっかりと栄養を取らないと、身体の方に栄養が行き渡らないだろう」
「成長期はもう終わりました、けど」
俺たちの問答に、周りにいた人たちが笑い声を上げる。
アラン様に頑張れと言うのはいいとして、この流れで俺に気を落とすなよってちょっと嫌味だよな。くそう。
「まあ、兄さんみたいににょきにょき育っても大変そうだし、いいけどね」
口を尖らせながら独り言をつぶやくと、それが聞こえていたのか、アラン様まで声を出して笑いだした。
目当ての服飾店に着いても、アラン様の雰囲気は柔らかかった。
テーラーに採寸される俺を見ながら、アラン様は真剣に服に使う布地を選んでいる。
アラン様が手に取った布は、俺が普段は絶対に選ばないような明るい色合いの物ばかり。
「そんな色俺に似合うんですかね」
採寸を終わらせアラン様の横に腰を下ろしながら首をかしげると、アラン様とテーラーが揃って「似合う」と断言した。
「マーレ様に最高に似合うよう、私共が最高の式典服をご用意いたします」
「頼む」
ちなみにサウスさんの采配で、アラン様も新しい式典服を一着作ってもらうことになっている。
いつもは余裕がなさ過ぎて身の回りの物よりも領地の立て直しを優先しがちだったけれど、今年はしっかりと黒字になったので、今のうちに新調してしまおうとのこと。アラン様は渋っていたけれど、サウスさんに領地の顔が襤褸を着てどうするのですと諭されて頷く他なかったようだ。
「どれもこれもマーレのお陰だな」
「まだまだ序の口ですよ?」
まだ鉱山の方はほぼ手を付けていないし、活気づいて人が増えれば農地も増やせる。
雪深い北の地は、手掛ければどこかでも豊かに変えることができる場所だから。
鉱山もまだまだ手付かず。今はノームたちが数人で掘っているけれど、これが本格的になればもっと収入は増えることはすでにわかっているのだから。
「今年はもっと稼ぎますし、そうしたら来年ももっと活気づきますって」
街頭で売っている串焼きを食べ歩きながら、俺とアラン様は街歩きを存分に楽しんだ。
けれど、楽しい時間はすぐに終わりを告げた。
アラン様と俺の元に、王宮からの親書が届いたのだ。
差出人は陛下。
せっかくヤル気を出していたのに、あの人たちはことごとく俺の邪魔をするんだな、と王家の紋様が入った封蝋を見ながら溜息を吐いた。
中身は、俺とアラン様の招集命令だった。
「ふむ、どうやらリヒトへの対応に対しての出頭命令らしいな。私も一緒に呼び出されたのはよかったが」
「よかないですよ。なんでアラン様まで怒られるんですか。おかしいのはあのクソ王子なんですからね。これ、無視しちゃダメかな」
「私の下で働いているマーレを呼び出すのだから、私にも責任はあるんだそうだ。そうだな。これは陛下も私の保護下にマーレがいると宣言してくれているようなものだな。気合いを入れて王宮に行くか。そろいの服ももうすぐ出来上がるだろう」
「そろいの服……?」
アラン様は特に手紙の内容を気にする感じもなく、むしろ楽しそうに笑って、用意をしようと俺を促した。
俺の手紙の中身は、第一王子殿下に対する不敬への謝罪要求だった。
手紙じゃなくて王宮に来て、目の前で謝罪すれば許してやる的なことが迂遠に書かれていたので、やなこったと返事だけ書こうと思っていたんだ。
なのに同じような手紙を貰ったアラン様は、何故かとても嬉しそうで。
その理由が、陛下がちゃんとアラン様の下に俺がいることを認めているということなんて……本気で、戸惑う。
イラっとするような内容の手紙が手にあるのに、アラン様のその一言だけでイライラがなくなった。
「これで、アラン様が王様になったらもっと気分がよくなるのに」
思わず呟けば、アラン様は笑顔を苦笑に変えた。
「私には北の地で十分だ。それにマーレ、そんなことは王宮では言うなよ。即首がなくなるから」
「わかってますって。でも、俺らヴィーダ家の全員一致の意見だということも覚えておいてくださいね」
「それは……規模が大きな期待だな。私は道を間違わないよう、努力しよう」
「アラン様は絶対に大丈夫ですって」
幻獣たちに好かれる人は、根本的に人がいいから。親方なんて気付くとアラン様と酒を酌み交わしている飲み友なんかになっているから、人柄はもうそれだけで折り紙付き。
それを伝えても、アラン様は苦笑するのみ。
俺たちにしたら最大の褒め言葉なのに。
「だったら、ヴィーダ家の者たちも十分人がいいんだろう。伴侶となるくらいだ」
「どっちかって言うと俺らは幻獣寄りだから、あんまり人間の人がいいっていうのは当てはまらないかも。だって性格がめっちゃひねくれている人もいるし。周りの人たちには苦手意識持たれてる大叔父さんなんですけど、幻獣の血が濃い俺らは別に嫌いじゃないしむしろたまに突拍子もない行動を起こす大叔父が楽しくて仕方ないんですよ」
直系からはずれるので幻獣のパートナーはいないんですけどね、と続けると、アラン様はふむ、と顎に手を当ててなにやら考えた後、じっと俺を見た。
「幻獣寄りということは、マーレも私のことを好いてくれているということだよな」
「そうじゃなかったらここにいないですよ」
当たり前じゃん、とあっけらかんと返すと、足元に丸まっていた子フェンたちが一斉に頭を上げて「ヤッパリマーレサマニブーイ」と大騒ぎした。
アラン様のことを好いているのは、本心。
その好きっていう感情が、敬愛とかそっちよりももっと心を揺さぶる類のものだっていうのも、この一年でちょっとだけ自覚した。だから、鈍いわけじゃない。
でも相手は俺だよ? 兄さんとかネーベルならまだしも、俺だよ。アラン様は俺を気に入ってくれているけど、かといってそれは恋愛感情なんかじゃないだろ。
だから、鈍いわけじゃないんだ。
うるせえ、と子フェンを抱き上げて、俺はアラン様の視線から少しだけ身を隠した。
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