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19、実家に帰って来たはずなのに
しおりを挟む「トレック村の移住は一月後ですね。依頼した傭兵団はいつ頃着くか連絡取れましたか?」
「半月後には着くそうですよ。移住までの空き時間は兵士たちと共に訓練をしてくれるそうなので、その期間の分も報酬を用意してまーす」
「ナジェ村とユウラ村の統合は」
「あ、それ、ユウラ村の方に家屋を建てて統合予定だったんですけど、最近行ったら家屋建築予定地の地盤が少し緩いって親方が言ってたんで、どうせならどっちも郊外の農地に越してもらおうかと提案してます。了承してもらい次第こっちの計画表の日程で動くことになりました。一応同じ傭兵団には連絡済み。了承貰ってます。条件はこっちに多少の上下は許容範囲で」
書類を手に、アラン様の部下のテレン室長と予定のすり合わせをする。
村の移住や修理は俺の仕事になっているので、二人で予定をすり合わせているのだ。
今まではこの領自体が貧しすぎて移住も何も出来なかったけれど、今年はようやく領民たちを安全に移住できるようになったから。
家屋は既に用意済み。ノームたちには頑張って貰った。移住は太陽の季節のような雪のない時じゃないと出来ないことだから、だいぶ頑張った。
絶対に自分の地を離れたくないという村の人たちもいたけれど、そういう人たちにはしっかりと雪に潰れない家屋を用意した。何なら農地も村人の手で何とか出来る程度ひろげたりもした。昨年一年アラン様と領中を走り回ったかいがあったってもんだ。
今テレン室長の手にある資料は、この領内の村の状況を余すところなく書かれた大事な資料。それを元に、村の統合計画を実行中なんだ。どれもこれもそれを許可してくれたアラン様と手足となって動いてくれるノームたちのおかげ。
領民が増えないなら、自領から集めてくればいい、とアラン様に伝えたら、今までは貧しすぎてやりたくてもやれなかったんだそうだ。
皆が無事雪の季節を過ごしてくれるなら、願ってもない、とアラン様は一も二もなく許可してくれた。
ノームを動かすのも進言したのも俺なので、陣頭指揮は俺。まだここに来て一年目でそんな立場に立っていいのかな、とも思ったけれど、執務棟の人たちは満場一致でオッケーを出してくれた。だから頑張らないと。
なんて思っていた矢先、俺とアラン様は陛下からの命令で王都に行くことになるなんて。
王家からの出頭命令は、時期など関係ないとばかりの日時が指定されていた。
急遽テレン室長に移住計画のすべてを引き継いだ。どうせなら移住開始までには帰ってきたいなあと思いながら。
「それにしてもこんな忙しい時期に呼び出すとか、ふざけてますよね」
「春小麦を蒔く季節ですからな。そうでなくても今年の移住計画が押しているというのに」
「先輩がたが優秀なお陰でサウスさんが俺たちの方について来てくれるのは、俺としてはだいぶ安心なんですけどね」
「そうは言いましても、私が王宮勤めをしておりましたのは、アラン様が王宮を辞した時まで。それ以降のことは詳しくありませんので、お力になれるかどうか」
「全然心強い。ね、アラン様」
「まったくだな。頼りにしている。情けない領主で申し訳ないな」
「とんでもございません」
いつものことだけれど、お供は連れて行かない。それこそ、メイドさんの一人も連れて行ってしまうと館の方がおろそかになってしまうくらいには人手が足りないから。
騎士も、今回は連れて行かない。
子フェン三匹とも馬車を引いてもらうので、それだけで騎士何十人分の働きをしてくれるし、いざとなればノームたちを呼び出せるから。それに、人を乗せた馬は、子フェンたちの走るスピードについてこれないから。
何より、出頭命令の期日は、普通の馬車で行くとなると、手紙が届いてからすぐに飛び出さないとギリギリという何とも酷い指定だったんだ。
流石に直で王宮に行っても素手で敵地に入り込むような状況になってしまうので、まずは馬車で俺の生家へ全速力で行ってから、そこで体裁を整えてから王宮に行くという段取りを組んだ。子フェンたちが全力で走れば、通常の倍くらいは距離を稼げるので時間に余裕ができるんだ。ちなみに、乗っている人たちの健康状態はこの際目をつぶる。
俺たちが馬車に乗り込むと、サウスさんが御者台に座った。
子フェンたちが全力で走るという馬車の御者台は普通とは違う特別仕様だ。どれだけスピードを出しても落ちないように安全ベルト及び風よけが付いている。親方力作の特別製だ。
「皆様、今日は思いっきり走ってよろしいですよ。元気に行きましょう」
『ワカッタ!』
『ガッテンショウチ!』
『メッチャガンバル!』
三匹はサウスさんの言葉に元気いっぱいに応えている。
これだったら十日の道のりも五日程度まで縮まりそうだ。
そこでハッと気づく。子フェンが全力で五日として、普通の馬が引く馬車で片道五日で帰って来たアラン様って実はとんでもなくすごいんじゃないだろうか。いや、アラン様が凄いのは知ってたけど。
座り心地のいい椅子に腰を下ろして、既に簡易テーブルに書類を広げているアラン様をちらりと見ながら、俺はそんなことを考えていたのだった。
道中は荒れた道で馬車が跳ねたり揺れたりと乗り心地が酷かった以外は特に問題もなく、四日目で王都に着くことが出来た。
大通りを通らず、うちの実家からほど近い門からそっと入ってうちを目指す。
幻獣たちが住むからと郊外に近い場所に館があるのがありがたい。
家に馬車を乗り付けると、迎え出てくれていたネーベルがお帰りよりも先に「その馬車欲しい!」だったのは笑えた。
「兄ちゃんにお帰りくらい言ってくれていいんじゃないか? 次期当主様」
「あっとそうだった。だって兄さんすっごく快適そうな馬車に乗ってるんだもん。欲しいって思うに決まってんじゃん。おかえり兄さん。何やら大変なことになったね。兄さん一人の肩に王族を背負わせてる気がして心苦しいよ」
満面の笑みでこのセリフである。
ネーベルの頭に愛あるグリグリをかますと、一歩後ろで待っていた両親と兄さん、そして幻獣たちにハグで挨拶した。
玄関先で立ち話もなんだし、と父さんは俺たちを応接室に通してくれた。今日から城に上がる日まで、アラン様もうちのゲストだ。俺も一度家を出たので、ゲスト扱いになるはずなんだけど、今もまだ俺の部屋は普通に残っているらしいので、ありがたく使わせてもらうことにする。
「ありがたく使うとか、何やらマーレを嫁にやった気分だな
「家を出た息子なんてそんなものよ。ねえ、グラシエール公爵様」
「そうですね。ご子息が有能すぎてもう返したくありませんから」
「あら。マーレに対してそう言って貰えるの、本当に嬉しいわ」
晩餐も和やかなものだったけれど、アラン様の俺よいしょはほんとやめて欲しい。
むず痒くて思わず手を止めて顔を覆うと、隣からネーベルのクスクス笑いが聞こえて来た。
「照れてるー。兄さん照れてるー」
「うるせえ!」
「こら、行儀が悪いぞ二人とも」
和やかな晩餐の席は、父さんの叱責で幕を閉じた。
夜はアラン様が土産にと持ち込んだ北の酒。ノームたちが新たに開拓した農地で作った芋が原料の酒は、口当たりがとてもまろやかでかなり美味かった。従来作られて来た酒とは一風変わった味に、領民たちも魅了されて、村ごと移住して芋と酒造りを始める者たちまで出る始末。そこもしっかりと今年の移住計画の中に入っている。
沢山作って欲しいよ、こんな美味い酒なら。
一口飲んだ母さんも顔をほころばせているし、フェンリル様とフェニックス様なんか瓶を片手に始めてしまっている。
そんな状態の皆を見ても、アラン様は微笑して膝の上の子フェンを撫でながら自身も少しずつ飲むだけ。寛容すぎる。
「それにしても余程北は過ごしやすいんだなあ。七号も十一号も十八号もかなり満たされてやがる」
『オニキス!』
『ラズリ!』
『シトリン!』
ナマエチガウ! とアラン様の膝から立ち上がった子フェンたちがフェンリル様に突っ込んでいく。それをフェンリル様は面白そうな顔をしながら受け止め、頭がちぎれるんじゃないかという程子フェンたちを撫で繰り回した。
「そうかそうか。良い名を貰ったな。オニキス、ラズリ、シトリン。毎日たらふく美味え酒を飲んでるんだろ? 毛艶が最高だな」
『サウストカシテクレル』
『キモチイイノ』
『ゴハンオイシイノ』
「そうかそうか。いいなあ。俺も北に就職してえなあ。なあメル、一緒に北に引っ越さねえ?」
いきなり話を振られて、兄さんがえっと驚いた顔をする。
その後、考えるそぶりをして、楽しそうですね、と社交辞令のような返しをしたところで、フェンリル様がアラン様に「ようよう」とチンピラのように声を掛けた。
「グラシエール公爵閣下。北でなんかポストは開いてねえか? 農民でも可。でもメルは有能だから内部に引っ張ってったほうがお得だ」
どうよ、とフェンリル様に近付かれても、アラン様は動揺することもなく、酒のグラスを掲げた。
「マーレの家族はいつでも大歓迎だ。それに北はいつでも、人手不足だ」
口角を上げたアラン様と、バチっと目が合った。
え、幻獣だからじゃなくて、俺の家族だから?
その一言がじわじわと胸に温かい何かを満たしていく。
酒をちびりと口に含みながら、実家に帰ってきているはずなのに、早く北に帰りたいなと思ってしまった俺だった。
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