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35、雪の季節の準備開始
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濃厚な夜を過ごした次の日からは、雪の季節の支度が始まる。
雪深いこの地は、実りの季節に入る前に雪支度を始めないと極寒の雪の季節が越せない。
前の年に切り倒していた木を薪にして、各村に配り、村で作った作物で足りない場合は王都から買った食物を配り、雪に包まれて身動き取れない状態の餓死や凍死を防ぐ。
今年はまだ配給を続けているけれど、もう少し潤い、きちんとした商店がしっかりとここに根付いたら、今度こそ配給ではなく、雪の季節の食料も格安で売ることを計画している。
去年は自然の猛威に一人も脱落することなく花の季節を迎えることができたので、今年はさらにほんの少しだけ余裕を持って花の季節を迎えたい。
村の実りのごく一部を税として納めてもらい、残りは雪の下でも無事花の季節まで食べていられるよう加工や保存する。
今年は第二王子もここで雪の季節を乗り越えることになるし、騎士団の連中はもっと南の温かいところから来たから、むしろそっちの方の注意が必要になる。
「そっか。他の領地から来た人たちはここら辺の雪の季節が一番の山場なのか……」
やっぱり気候が厳しいと人を集めるのは難しいかなあ、としかめっ面をしていると、アラン様が肩を竦めた。
「たとえやる気があっても、雪が降り始めると皆ここを離れてしまうからな」
「第二王子殿下と騎士団の皆は大丈夫でしょうかね」
「そればかりは雪の季節を迎えてみないとわからないな」
太陽の季節が終わったばかりなのに、そろそろ上着は必須となってくる北の地。
俺とアラン様の上着を用意しながら、サウスさんがニコニコと見送ってくれる。
一番北の村で収穫をするので、視察がてら家屋の確認にアラン様と共に行くことになっているんだ。十日を掛けて領地を巡り、村々を確認するのは大事なこと。
今回は俺たちの周りに騎士団の護衛が付くことになった。とはいえ、俺たちの乗る馬車を引くのは子フェンたち。騎士たちは騎馬を全速力で走らせないと並走できないんじゃなかろうか。
先頭を護衛してくれるのは、副団長のゴウドさん。
それと数人の精鋭たちの中に、何故か第二王子も入っていた。
フェンリル様に現地で勉強しろと追い立てられたらしい。
文句も言わずに馬の手入れをしている。
俺たちと目が合うと、ぺこりと頭を下げた。
素直になったな、と何やらできの悪い弟を持った気分になる。
「そういえばネーベルが今年卒業だから、お祝いを送らないと」
第二王子を見ていて、ふと学園のことを思い出した。
第二王子自体は、ここに飛ばされることになった時、学園の卒業試験を受けて合格し、すでに卒業資格はあるらしい。騎士団長になるのに学園の卒業資格もない者は恥ずかしいとかなんとか陛下と第一王子に発破をかけられたらしく。
でも第二王子の成績は悪くなかったどころか結構頑張っていたらしいので、案外楽勝でクリアしたんだそうだ。その話を聞いたときに、アラン様がお祝いのプレゼントを渡したら、ちょっとだけ涙ぐんでいたのが見えたけれど、見なかったことにしてそっと目を逸らした。だいぶ嬉しかったらしい。
本当だったらまだ学園に通っている時期なのにとアラン様が同情的なのは少しだけ嫉妬するけれど、同じように思っていたので、その嫉妬には蓋をした。
馬車の窓から見える騎乗した第二王子は、ちゃんと立派な騎士に見える。
フェンリル様に鍛えられて、まだ短い期間ながらも身体つきも一回り大きくなったんじゃないかな。
「その時期は新年の祝いのため、一度王宮に行かないといけない」
「税報告もありますもんね」
いつもの税でいいから楽勝だな、なんてホクホクしていたら、アラン様に苦笑されてしまった。
そして、今年は祝賀パーティーは出ないといけないらしい。
毎年貧困が理由で出席できなかったんだけど、今年は俺とアラン様が婚姻したから、それの報告も兼ねて出席しないといけないらしい。まあ、王都までついて来てくれる騎士団も出来たことだし、見栄えだけは去年より段違いだと思う。その見栄えが、今後この領に人を引き込む鍵になるからと、サウスさんとなぜか兄さんがかなり気合いを入れていた。
でもどれも雪の季節が過ぎてからのことだから、その前に厳しい雪の季節を乗り越えないとね。
と思っていた時期もありました。サウスさんから、俺たちの服を新調しないといけないよと注意されるまでは。
「マーレ様は少し成長致しましたから、昨年おつくりになった服は裾が短いかと」
「手直し出来ないやつ?」
「男性の祝賀用衣装はお体に合わせて作りますので、仕立て直したほうが見栄えがよろしいと思います」
その言葉に、俺は盛大に溜息を吐いた。
前にアラン様とおそろいで作った服の値段が頭をよぎる。
視察に出る前にぎっちりと採寸されて、息も絶え絶えになったのを思い出し、肩を落とす。
「やっぱいっそ出たくねえ……」
「けれど王宮には上がらないといけないからな。ヴィーダ家も出るのだろう。たまには家族の顔を見ると思って気楽に出ればいい」
土産は酒でいいかと呟くアラン様が眩しくて、俺は両手で顔を覆って天を仰いだ。
「さ、戯れはこれくらいにして、そろそろ出ようか。今日は三つ先の村までか」
アラン様に促され、馬車に乗り込む。
サウスさんは領事館での仕事をしてくれるので、今回はまだ若手の領民が御者をしてくれるそうだ。子フェンを見る目がとても優しい。
見送りに手を振り返しながら、今日の予定を書き込んだ紙を手元に引き寄せた。
どの村へ行くとかそういうメモじゃない。今日からノームたちを動かす予定表だ。
すべてを完璧に行うとなると、今回の視察も俺はずっと寝ながら移動となる。
でもそれは俺が望んだことだから。
自分の目で見て、必要なものを考えて、ちゃんと生きている指示を出したい。数字だけを見て使えない指示を出す主人にだけはなりたくないし、そうなったらきっとノームたちも俺から離れて行くと思う。
「じゃあ、親方に頼みますか」
早速書類を広げるアラン様の正面で、俺は親方を呼び出した。
今回は進む先の街道を整備しながら回る予定だ。今日行く場所までの道はだいぶ良くなっているので、その先に石を敷いていく。ついでに敷いた石道路の確認もしつつ
回る予定なので、親方はこれから御者台の方へ移り、俺はベッドにまっしぐら。起きていると確実に胃の中身をぶちまけてしまいそうなので。
アラン様は無理はするなって言ってくれるんだけどね。
雪深いこの地は、実りの季節に入る前に雪支度を始めないと極寒の雪の季節が越せない。
前の年に切り倒していた木を薪にして、各村に配り、村で作った作物で足りない場合は王都から買った食物を配り、雪に包まれて身動き取れない状態の餓死や凍死を防ぐ。
今年はまだ配給を続けているけれど、もう少し潤い、きちんとした商店がしっかりとここに根付いたら、今度こそ配給ではなく、雪の季節の食料も格安で売ることを計画している。
去年は自然の猛威に一人も脱落することなく花の季節を迎えることができたので、今年はさらにほんの少しだけ余裕を持って花の季節を迎えたい。
村の実りのごく一部を税として納めてもらい、残りは雪の下でも無事花の季節まで食べていられるよう加工や保存する。
今年は第二王子もここで雪の季節を乗り越えることになるし、騎士団の連中はもっと南の温かいところから来たから、むしろそっちの方の注意が必要になる。
「そっか。他の領地から来た人たちはここら辺の雪の季節が一番の山場なのか……」
やっぱり気候が厳しいと人を集めるのは難しいかなあ、としかめっ面をしていると、アラン様が肩を竦めた。
「たとえやる気があっても、雪が降り始めると皆ここを離れてしまうからな」
「第二王子殿下と騎士団の皆は大丈夫でしょうかね」
「そればかりは雪の季節を迎えてみないとわからないな」
太陽の季節が終わったばかりなのに、そろそろ上着は必須となってくる北の地。
俺とアラン様の上着を用意しながら、サウスさんがニコニコと見送ってくれる。
一番北の村で収穫をするので、視察がてら家屋の確認にアラン様と共に行くことになっているんだ。十日を掛けて領地を巡り、村々を確認するのは大事なこと。
今回は俺たちの周りに騎士団の護衛が付くことになった。とはいえ、俺たちの乗る馬車を引くのは子フェンたち。騎士たちは騎馬を全速力で走らせないと並走できないんじゃなかろうか。
先頭を護衛してくれるのは、副団長のゴウドさん。
それと数人の精鋭たちの中に、何故か第二王子も入っていた。
フェンリル様に現地で勉強しろと追い立てられたらしい。
文句も言わずに馬の手入れをしている。
俺たちと目が合うと、ぺこりと頭を下げた。
素直になったな、と何やらできの悪い弟を持った気分になる。
「そういえばネーベルが今年卒業だから、お祝いを送らないと」
第二王子を見ていて、ふと学園のことを思い出した。
第二王子自体は、ここに飛ばされることになった時、学園の卒業試験を受けて合格し、すでに卒業資格はあるらしい。騎士団長になるのに学園の卒業資格もない者は恥ずかしいとかなんとか陛下と第一王子に発破をかけられたらしく。
でも第二王子の成績は悪くなかったどころか結構頑張っていたらしいので、案外楽勝でクリアしたんだそうだ。その話を聞いたときに、アラン様がお祝いのプレゼントを渡したら、ちょっとだけ涙ぐんでいたのが見えたけれど、見なかったことにしてそっと目を逸らした。だいぶ嬉しかったらしい。
本当だったらまだ学園に通っている時期なのにとアラン様が同情的なのは少しだけ嫉妬するけれど、同じように思っていたので、その嫉妬には蓋をした。
馬車の窓から見える騎乗した第二王子は、ちゃんと立派な騎士に見える。
フェンリル様に鍛えられて、まだ短い期間ながらも身体つきも一回り大きくなったんじゃないかな。
「その時期は新年の祝いのため、一度王宮に行かないといけない」
「税報告もありますもんね」
いつもの税でいいから楽勝だな、なんてホクホクしていたら、アラン様に苦笑されてしまった。
そして、今年は祝賀パーティーは出ないといけないらしい。
毎年貧困が理由で出席できなかったんだけど、今年は俺とアラン様が婚姻したから、それの報告も兼ねて出席しないといけないらしい。まあ、王都までついて来てくれる騎士団も出来たことだし、見栄えだけは去年より段違いだと思う。その見栄えが、今後この領に人を引き込む鍵になるからと、サウスさんとなぜか兄さんがかなり気合いを入れていた。
でもどれも雪の季節が過ぎてからのことだから、その前に厳しい雪の季節を乗り越えないとね。
と思っていた時期もありました。サウスさんから、俺たちの服を新調しないといけないよと注意されるまでは。
「マーレ様は少し成長致しましたから、昨年おつくりになった服は裾が短いかと」
「手直し出来ないやつ?」
「男性の祝賀用衣装はお体に合わせて作りますので、仕立て直したほうが見栄えがよろしいと思います」
その言葉に、俺は盛大に溜息を吐いた。
前にアラン様とおそろいで作った服の値段が頭をよぎる。
視察に出る前にぎっちりと採寸されて、息も絶え絶えになったのを思い出し、肩を落とす。
「やっぱいっそ出たくねえ……」
「けれど王宮には上がらないといけないからな。ヴィーダ家も出るのだろう。たまには家族の顔を見ると思って気楽に出ればいい」
土産は酒でいいかと呟くアラン様が眩しくて、俺は両手で顔を覆って天を仰いだ。
「さ、戯れはこれくらいにして、そろそろ出ようか。今日は三つ先の村までか」
アラン様に促され、馬車に乗り込む。
サウスさんは領事館での仕事をしてくれるので、今回はまだ若手の領民が御者をしてくれるそうだ。子フェンを見る目がとても優しい。
見送りに手を振り返しながら、今日の予定を書き込んだ紙を手元に引き寄せた。
どの村へ行くとかそういうメモじゃない。今日からノームたちを動かす予定表だ。
すべてを完璧に行うとなると、今回の視察も俺はずっと寝ながら移動となる。
でもそれは俺が望んだことだから。
自分の目で見て、必要なものを考えて、ちゃんと生きている指示を出したい。数字だけを見て使えない指示を出す主人にだけはなりたくないし、そうなったらきっとノームたちも俺から離れて行くと思う。
「じゃあ、親方に頼みますか」
早速書類を広げるアラン様の正面で、俺は親方を呼び出した。
今回は進む先の街道を整備しながら回る予定だ。今日行く場所までの道はだいぶ良くなっているので、その先に石を敷いていく。ついでに敷いた石道路の確認もしつつ
回る予定なので、親方はこれから御者台の方へ移り、俺はベッドにまっしぐら。起きていると確実に胃の中身をぶちまけてしまいそうなので。
アラン様は無理はするなって言ってくれるんだけどね。
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