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御子誕生編
おんなじなんだと思う
俺はそっと兄様の頬に手を伸ばすと、そっと口元を親指でなぞった。
「僕が知っていたオルシス様は、本当に、全く、全然笑わない無表情の人でした。一度だけ微笑んだオルシス様は、口元がほんの―……り、ニコ……ってした? って目を凝らすほどの笑みしかその顔に乗せなかったくらいです。こんな風に」
俺はあの微笑んだか微笑んでないかわからないくらいの微笑みを浮かべた友人ルートオルシス様の口元の真似をした。
兄様は首をかしげて、そして俺の口元をじっと見て、もう一度首を傾げた。はい可愛い。少し眉が寄っていて困惑しているのが可愛い。
「……本当にそれが笑っているの? 僕にはどうしても笑っているようには見えないんだけども……」
怪訝そうな顔をする兄様に、思いっきり頷く。あの微妙なラインをうまく表せてないのかもしれないね。でもね、ちゃんと笑ってるんだよ。錯覚レベルの差だけど。
「笑うんですよ。あの時の感動は絶対に忘れられません……表情筋が生きていたのか……! とガッツポーズをとってしまったくらいです」
「表情筋……そう言えば小さいころ死滅するって言ってたよね」
そうです。あのままだったらきっと表情は抜け落ち、頬の筋肉は使われることなく休止していたことだろうと思う。義父がすぐに聞いてくれて変わってくれたから、兄様は今もこんなに表情豊か。最高だよね。
「じゃあアルバは、そっちの方が好き?」
「どっちも好きですが、そもそもどちらも兄様なので比べられるはずがありません。でも、まだ兄様に会う前に心にいたオルシス様は、疲弊しきっていた僕の心の支えでした。もしあの時オルシス様がいなかったら、もしかしたら僕は早々にくたばっていたかもしれません」
何せ、社畜だったからね。他に楽しみもなく、喜びもなく、ただ仕事をして日々暮らしていただけ。楽しいなんて思うことがもう何一つなかった。そんな中で一目惚れしたオルシス様。銀髪紫瞳で超クールなその美貌に、俺は一瞬で虜になったよね。それからは毎日が最高に楽しくて、オルシス様のためなら仕事も頑張れたんだ。それからは会社の評価も上がって、本当に運気が上がったよね。どう伝えていいのかわからないのがもどかしい。
「今目の前にいる屈託なく笑うオルシス様……兄様は僕の希望であり縁……楽しそうに暮らす兄様は僕の理想で、そして、家族をとても大事にして愛してくれる兄様は僕の夢で。今、まさに夢がかない続けているところです。オルシス様に笑ってほしかった。ちゃんと本当に楽しそうに笑ってくれる兄様は、僕がずっと追い求めていたもので……立ち位置は違えど、どちらも僕にはなくてはならないんです」
「アルバ……」
兄様は、少しだけ目を伏せると、ほぅ、と小さく息を吐いた。長い銀色のまつ毛がばさりと影を落として、この世のものとは思えないほどに美しかった。
「それに……あの表情筋の死んでいたオルシス様も、義弟の死や父との確執など色々とあったのに、やっぱり端々から家族を愛していたのは感じるので、根本は変わりないと思います。どちらも、僕が大好きなオルシス様です」
そう、と兄様はぽつりと呟いた。
俺を抱きしめる腕が少しきつくなる。
伏せるような瞳を、銀色の髪の毛が隠し、影を作る。それでもその間から見える瞳には、ランプの光が反射し、まるでキラキラした宝石のように美しかった。
薄めの唇が、上下に動く。そこからは言葉が紡がれることはなく、ただ吐息だけが漏れた。
少しの間じっと動かなかった兄様は、そっと瞳を俺に向けると、一つぱちりと瞬きをした。
そして、その美しい目が、すっと細められた。
「きっと、きっとその笑えなかった僕は、こんなに大事な存在をなくしてしまったから……笑えるわけがないよね。想像しただけで胸が押し潰されそうだよ。アルバを失った僕は、絶対に笑うなんて出来るわけがない……」
何度、そんな気持ちを味わったか……
吐息のように紡がれた呟きは、それでもこれほど間近にあった俺の耳には届き。
せっかくの病が治ってもまだまだ魔力暴走をすると魔力がなくなって命の危険に脅かされるような状態になる俺は、今も現在進行形で兄様を悲しませているんだと思うと、申し訳なさが募る。
「兄様……」
寂しそうな兄様に、沈んだ兄様に、どうにかして笑顔を取り戻したかった。
俺はそっと背中をまっすぐにして……
俺の存在を、一番感じてもらえる方法で——
何より、俺がとてもとてもしたかったから。
俺は、自分から兄様の口にキスをした。
「僕が知っていたオルシス様は、本当に、全く、全然笑わない無表情の人でした。一度だけ微笑んだオルシス様は、口元がほんの―……り、ニコ……ってした? って目を凝らすほどの笑みしかその顔に乗せなかったくらいです。こんな風に」
俺はあの微笑んだか微笑んでないかわからないくらいの微笑みを浮かべた友人ルートオルシス様の口元の真似をした。
兄様は首をかしげて、そして俺の口元をじっと見て、もう一度首を傾げた。はい可愛い。少し眉が寄っていて困惑しているのが可愛い。
「……本当にそれが笑っているの? 僕にはどうしても笑っているようには見えないんだけども……」
怪訝そうな顔をする兄様に、思いっきり頷く。あの微妙なラインをうまく表せてないのかもしれないね。でもね、ちゃんと笑ってるんだよ。錯覚レベルの差だけど。
「笑うんですよ。あの時の感動は絶対に忘れられません……表情筋が生きていたのか……! とガッツポーズをとってしまったくらいです」
「表情筋……そう言えば小さいころ死滅するって言ってたよね」
そうです。あのままだったらきっと表情は抜け落ち、頬の筋肉は使われることなく休止していたことだろうと思う。義父がすぐに聞いてくれて変わってくれたから、兄様は今もこんなに表情豊か。最高だよね。
「じゃあアルバは、そっちの方が好き?」
「どっちも好きですが、そもそもどちらも兄様なので比べられるはずがありません。でも、まだ兄様に会う前に心にいたオルシス様は、疲弊しきっていた僕の心の支えでした。もしあの時オルシス様がいなかったら、もしかしたら僕は早々にくたばっていたかもしれません」
何せ、社畜だったからね。他に楽しみもなく、喜びもなく、ただ仕事をして日々暮らしていただけ。楽しいなんて思うことがもう何一つなかった。そんな中で一目惚れしたオルシス様。銀髪紫瞳で超クールなその美貌に、俺は一瞬で虜になったよね。それからは毎日が最高に楽しくて、オルシス様のためなら仕事も頑張れたんだ。それからは会社の評価も上がって、本当に運気が上がったよね。どう伝えていいのかわからないのがもどかしい。
「今目の前にいる屈託なく笑うオルシス様……兄様は僕の希望であり縁……楽しそうに暮らす兄様は僕の理想で、そして、家族をとても大事にして愛してくれる兄様は僕の夢で。今、まさに夢がかない続けているところです。オルシス様に笑ってほしかった。ちゃんと本当に楽しそうに笑ってくれる兄様は、僕がずっと追い求めていたもので……立ち位置は違えど、どちらも僕にはなくてはならないんです」
「アルバ……」
兄様は、少しだけ目を伏せると、ほぅ、と小さく息を吐いた。長い銀色のまつ毛がばさりと影を落として、この世のものとは思えないほどに美しかった。
「それに……あの表情筋の死んでいたオルシス様も、義弟の死や父との確執など色々とあったのに、やっぱり端々から家族を愛していたのは感じるので、根本は変わりないと思います。どちらも、僕が大好きなオルシス様です」
そう、と兄様はぽつりと呟いた。
俺を抱きしめる腕が少しきつくなる。
伏せるような瞳を、銀色の髪の毛が隠し、影を作る。それでもその間から見える瞳には、ランプの光が反射し、まるでキラキラした宝石のように美しかった。
薄めの唇が、上下に動く。そこからは言葉が紡がれることはなく、ただ吐息だけが漏れた。
少しの間じっと動かなかった兄様は、そっと瞳を俺に向けると、一つぱちりと瞬きをした。
そして、その美しい目が、すっと細められた。
「きっと、きっとその笑えなかった僕は、こんなに大事な存在をなくしてしまったから……笑えるわけがないよね。想像しただけで胸が押し潰されそうだよ。アルバを失った僕は、絶対に笑うなんて出来るわけがない……」
何度、そんな気持ちを味わったか……
吐息のように紡がれた呟きは、それでもこれほど間近にあった俺の耳には届き。
せっかくの病が治ってもまだまだ魔力暴走をすると魔力がなくなって命の危険に脅かされるような状態になる俺は、今も現在進行形で兄様を悲しませているんだと思うと、申し訳なさが募る。
「兄様……」
寂しそうな兄様に、沈んだ兄様に、どうにかして笑顔を取り戻したかった。
俺はそっと背中をまっすぐにして……
俺の存在を、一番感じてもらえる方法で——
何より、俺がとてもとてもしたかったから。
俺は、自分から兄様の口にキスをした。
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