最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

理性崩壊待ったなし……?


「アル……ん……っ」

 兄様の言葉を塞ぐように、唇を何度もくっつける。
 兄様がつらくなるような言葉を紡がせないように。
 服を握っていた手を離して、首に回して兄様の顔が逃げないようにする。
 もう片方の手は彷徨っていた兄様の綺麗な手をぎゅっと握り、胸に押し付けた。
 ちゃんと生きてるから。心臓、動いているから。
 だから……

「ふ……っ」
 
 兄様の口から洩れる吐息がとても色っぽくて、胸がきゅんとなる。 
 そのきゅんとした感じも手のひらから伝わっちゃうかな。
 そんなことを思った瞬間、口の中に兄様の舌が潜り込んできた。
 俺が自分で胸に重ねた兄様の手に、少しだけ力が入る。
 長い指がそろっと動いて、俺の胸の部分をさわりとひっかけた。
 と思った瞬間、兄様の顔がいきなり離れていった。
 突然引き抜かれた舌に驚いていると、兄様の綺麗な顎の下が目に入った。
 兄様が片手で顔を覆って天を仰いでいる。

「……アルバ、誘惑するのは、まだ早すぎ……」

 誘惑……?
 誘惑……俺はただ、兄様の辛い気持ちを逸らそうとしただけで。

「身体は、アルバがちゃんと卒業して、大人になったら、その時は好きなだけ触れさせてもらうから」

 兄様の手がそっと俺の手の間を抜けて胸から離れていく。
 そ、それはただ心臓の鼓動が感じられたら生きてるってわかってもらえるかなって……
 む、胸に手を、添えさせるとか……よく考えたら破廉恥すぎるな……⁉
 俺の顔は、一瞬にして真っ赤になった。
 さっと胸を腕で押ると、ばくばくばくばくとさっきよりも元気な鼓動が伝わってくる。口から心臓が飛び出しそうだ。
 でも確かに。俺からキスして俺から胸に触れさせて誘惑したと言われたら、確かに! としか言えない。

「兄様にならいつでもどこでも好きにしてもらって全然かまわないのですが……! ぼ、僕はなんて破廉恥なことを……!」

 せめてもう少し兄様を楽しませられるようなお胸のふくらみとかあればいいんだけど!
 こんなペタンコのガリガリで誘惑とか本当に申し訳ない……
 兄様はそっと俺を膝から下ろすと、ひじ掛けに腕を置いてその上に顔を突っ伏した。

「アルバが無自覚なのはわかってる……わかってるんだけれども……! あと、あと一年と少し……!」

 感情ののった呟きに、俺は顔を手で仰ぎながら首を捻った。
 何があと一年と少しなんだろう。
 俺の卒業? もしかして兄様も一緒に王宮に通うのを楽しみにしてくれてるのかも。
 兄様はしばらくそこで顔を伏せていた。
 俺の顔も熱さが引いたあたりで、兄様もようやく顔を上げた。

「……ごめんねアルバ。まだまだ僕も未熟だった……誘惑に弱すぎて自分でもがっかりしちゃうよね」
「兄様にがっかりすることなんて何一つないですよ」
「ちょっと仕切り直させて」
「ええと、はい……?」

 何を仕切り直すのかな。思い当たることがないんだけど。
 兄様は深呼吸を一つすると、俺の腰に腕を回した。

「アルバが僕に魔力補充以外で自分からキスをくれたの、初めてだね。嬉しいからもう一度アルバからキスしてほしいな」

 ね、と顔を近づけられて、仕切り直しって俺からのキスかああああ! と頭を抱えた。

「あ、あれはとっさにというか、もう兄様がつらい気持ちにならないようにというか、僕が生きてるんだと伝えたかったというかなんて言うかそんな感じでしたものであって……っ」
「うん」

 恥ずかしすぎてもう一度なんて出来そうもない。
 グダグダ言い訳を並べても、兄様は楽しそうな笑顔でそっと口を突き出している。そのキス待ち顔が可愛すぎてぐっと胸が詰まる。

「だから、あの、その、僕からのキスっていうかそういうのはあのええと……」
「うん」

 とがった唇可愛すぎか。レア兄様の顔めちゃくちゃ脳裏に保存しました!
 ここここれはもしや、俺がキスをしないとこのままずっとこうしているってこと……?
 俺がこんな女神もかくやという兄様にききききっすなんてして罰があったからこの仕打ちなのか……?

「アルバ、もしかして、僕とキスをするのは嫌い……?」
「そんなことはありえないのでそんな悲しそうな顔しないでください……っあの、兄様からなら俺をどれだけ好きにしても何の問題もないですけど、俺が兄様を好きにするのは罰が当たるっていうかなんて言うか」
「僕もアルバになら何をされてもいいんだよ。嫌いだって捨てられる以外」
「兄様を捨てるなんてそれこそ天と地がひっくり返ってもあり得ない……!」
「アルバ、キス一つだから。他のことはしないから。……それで、我慢させて」

 ね、と首を傾げられて、俺は白旗をあげた。
 そっと近づいて、そのとがった唇に自分の唇をちょんとくっつけて、そっと離れた。舌を入れるような大人なキッスは無理。非常時でもないと無理。俺の理性が飛びます。今俺お年頃だからね。もうそういうお年頃だからね! 

「ありがとう、アルバ」

 兄様はとても満足したのか、俺の頭にチュッと唇を落とした。


   ◇◆◇(side オルシス)

 ずっと心にわだかまっていたことを、とうとうアルバに聞いてしまった。
 アルバが小さいころ言っていた、僕が全く笑わなくなるという、僕の未来。
 その笑わない僕がいたから頑張れたと笑うアルバに、出会う前からアルバを助けられたという嬉しさと、今の僕よりそっちの僕の方が好きなのでは、という不安が、アルバの寝顔を見ていると湧き上がっていた。
 僕の顔、声、性格、所作、すべてが理想だとそっと父に教えて貰った時はとても嬉しかった。
 でもそれは時間が経つごとに、疑念に変わった。

 じゃあ、今の僕は?
 ちゃんとアルバの理想になれている? 

 アルバから話を聞く限り、その笑わない僕はあらゆる面で完璧だったらしい。

 今は? 僕は、ちゃんと完璧に出来ている?

 完璧になんて、出来ているわけがない。自分でもわかる。
 アルバを見るたび懐に入れて、他の誰にも見せないように閉じ込めて、あの笑顔を独り占めしたくなる。そんな傲岸不遜で自分勝手な想いを持つ僕なんて、全然完璧じゃない。
 それなのに、アルバはそんな僕の気持ちをすっ飛ばすように、どっちも同じ人だと、どっちも自分の理想だとこともなく言ってくれた。
 とても心は軽くなったけれど、今度は、その笑顔をなくした僕の境遇が脳裏をよぎった。

『幼いころに亡くなった義弟とは仲が良かった。けれど、父がその義弟ばかりをかわいがることに嫉妬した自分が嫌になることもあった』

 小さなアルバが教えてくれた、アルバの中で歩んでいた僕の末路。
 小さな義弟、アルバを亡くす。
 考えただけで血の気が引いた。
 と同時に、当たり前だと思った。その僕に同情すらした。
 父の言う僕の笑顔はアルバにかかっているという言葉は、誇張でもなんでもなく、本当のことだ。
 この愛おしい義弟であり婚約者であり最愛のアルバがいないなんて。

「笑えるわけがない」

 きっと心も凍り付き、何も感じられなくなるのではないか。もしくはこの世に生きている意義を見出せなくなるのではないか。そんなことまで思う。
 暗く深い深層に沈んでいく気持ちは、ふと唇に触れた感触で浮上した。
 目を開ければ、最愛のアルバが身体を伸ばして、僕の口に、自分からキスをしていた。
 魔力の譲渡もなにもない、ただ、触れるだけのキス。
 たったそれだけのことで、僕はとても救われた気持ちになった。
 ホッとして肩の力を抜いた瞬間、アルバに手を掴まれ、その手を、胸に導かれた。

 アルバの薄いからだが、服越しに触れる。
 いつでもアルバを抱き上げ抱きしめ、触れることには慣れていたはずなのに、その行動は一瞬にして僕の理性を崩壊させた。
 普段とは違う動きで、僕の手を、自分の胸に這わせる。
 服越しに、アルバの胸の突起が触れた瞬間このまま組み敷きたい欲に駆られた。
 学園を卒業したら結婚して、伴侶となるんだから、このまま抱いてもいいんじゃないか。
 アルバのすべての初めてを僕が。
 アルバが自らこの手を胸に導いてくれたんだから。
 いろいろな言葉が頭をぐるぐると巡り、触れている唇から漏れた吐息に、やられた。
 舌で口を蹂躙して、指で先ほど探り当てたアルバの胸を探す。
 指先に小さな突起が引っ掛かった瞬間、頭が冷えた。

 早い。まだ早い。
 慌てて口を解放し、顔を覆う。
 ダメだ。今日の昼、あのアルバの本音を聞いてしまってから、理性がどこかに行ってしまってる。
 今日の僕は調子に乗って浮かれていた。
 そんな状態でアルバを好きにしたら、きっと後悔しかない。
 アルバはそんな状態でも許してくれるかもしれないけれど、僕がだめだ。
 ちゃんとアルバを最初から最後まで喜ばせて、どれだけアルバを愛しても何の問題もない状態じゃないと、だめだ。アルバが憂うようなことをしてはだめだ。
 今だってきっとアルバはそれほど深い意味はないから——
 深呼吸し、崩れた理性を積み上げた僕は、ようやくアルバの顔をまっすぐ見ることが出来るようになった。もう少しアルバが積極的だったらなし崩しで誘惑されていたと思うと、やっぱり僕はどこも完璧じゃないなと心の中で苦笑した。
 それはそれとして、アルバからのキスはちょっと心ここにあらずだったので、もう一度味わいたい。せっかくの最初のキスだったのに。
 アルバは僕のおねだりには、困ったような顔をしながらもでろでろに甘い態度で叶えてくれるから。

「アルバからもう一回キスしてほしいな」

 それで、今はそれだけで我慢するから。


   ◇◆◇
 
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