最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

母の言葉とその想い

 次の日の朝食は、ほんの少しだけ兄様の顔を見るのが恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちで一緒に食べた。
 兄様も俺の顔を見てほんの少しだけ乙女のように頬を赤らめてふにゃっと笑ったので、俺もつられた。兄様が乙女で可愛すぎるんだが。
 なし崩し的に手を出さなくてよかった。そんなことをしたら兄様に今度こそドン引きされるかもしれないから。まあきっと兄様の服を剥いだところで頭に血が上ってパタリ昇天ってことになりそうな気がしないでもないけれど……
 伝言魔法一つでここまで胸がドキドキできるシチュエーションが味わえるなんて。

「……幸せ」

 思わず感情を吐露すると、コホンと俺の斜め方面からわざとらしい咳が聞こえてきた。

「……仲がいいのはとてもいいことなのだけれどね……父様はとても胸中複雑だよ……息子たちが、大人になってしまって……っ、オルシス、アルバはまだ未成年なのだから、その、ちゃんと倫理というものを考えて行動しなさい」

 本当に複雑そうな表情の義父に、兄様はフワリと微笑んだ。

「はい、父上。アルバと名実ともに伴侶となるまで、倫理に悖る行為はしないつもりですし、父上に忠告してもらえると戒めになり、本当にありがたいです」

 兄様の答えに、義父はさらに困惑の表情をのせた。とても器用な顔つきだけれど、元がとても良いのでどんな表情でも似合ってしまうね。

「父様、すみません……僕、ちゃんと理性を保てるよう精進します」

 ぐっと握りこぶしを握って宣言すると、義父は目を真ん丸にして「えっ、アルバが⁉」と驚いた声を上げた。ええと、義父は俺が我慢が効かずに兄様を襲っちゃうような人物だと思ってたの? 
 少なからずショックを受けて自分の行動を思い出してみれば、確かにすぐにブチ切れて手は出さないまでも口を出しちゃってたことに思い当たった。それに兄様に対しての「待て」が出来ているとは自分でもいいがたいし……昨日は自分からキッスしちゃったし……うん。けだものかもしれない……
 ずーんと落ち込むと、義父が「違うから!」と慌てていた。

「アルバは誰よりも理性的で我慢強いとても素晴らしい子だよ。もちろんオルシスも。ただ、今朝は少し二人の雰囲気が……ううん、いや、なんでもない。そうだな、お前たちはあと二年後にはこのような雰囲気が当たり前になるんだろうな……」

 義父は一人自分の中で完結してしまったらしく、ほう、とやたら色っぽい溜息を吐いてフォークとナイフを置いた。

「そろそろ時間だな。オルシスは遅れないように。アルバは、あまり無理しないように。それと……無茶しないように」
「「はい」」

 義父の言葉に返事をしつつ、兄様と顔を見合わせてもう一度にへらと笑う。
 義父の言う無理と無茶が何のことなのかはわからなかったけれど、今日もまた学園で頑張ろうと思えた。



 兄様と義父を見送り、俺も学園に行く準備をする。
 すると、ルーナが庭で花を摘んでいるのが見えた。

「ルーナ、おはよう」
「アルバ兄様、おはようございます。学園頑張ってくださいね」
「ありがとう。頑張るね。ルーナもお勉強無理せず頑張ってね」
「はい!」

 にこやかに俺を見あげたルーナは、手にした花を一輪差し出してきた。

「これ、アルバ兄様にあげる。こっちのは父様と母様とオルシス兄様とブルーノ兄様にあげるの。今日ね、ブルーノ兄様が少しだけ戻ってくるんだって。楽しみなの」

 えへへ、と笑うルーナが可愛くて、綺麗に結った髪を崩さないようにそっと撫でる。
 ブルーノ君、少しだけ帰ってくるんだ。昨日は何も言ってなかったな。
 もしかしてレガーレを取りに来るのかな。

「王子殿下が落ち着いてるのかな?」

 俺の呟きを拾ったルーナの表情が少しだけ陰った。

「心配ね……」

 そっとルーナの手が俺の手を握る。
 まだまだ小さなその手は、俺が発作を起こした時の雰囲気を全然忘れていないというようにぎゅっと力が込められていた。

「ブルーノ君がいるから大丈夫だよ」
「……うん」

 ルーナの手はとても温かくて、いまだ陰ったままの表情との温度差がほんの少しだけ気になった。



 一日学園で勉強をして公爵邸に帰ってくると、母とルーナがお出迎えしてくれた。

「アルバ、おかえりなさい」
「アルバ兄様おかえりなさい。もうブルーノ兄様は王宮に戻ってしまったのよ」
「ただいまかえりました。そっか。ルーナも寂しいね」

 口を尖らせたルーナにハグをしながら、母に視線を向ける。
 母は苦笑して肩を竦めたけれど、そっとルーナの肩に手を置いて、顔を覗き込むようにしてルーナをお茶に誘った。

「ふふ、ブルーノ君の前ではちゃんと笑顔だったのは偉かったわね。さ、母様とお茶をしましょう。ブルーノ君に渡すために作ったクッキー、まだ残っているでしょう?」
「はい!」

 ぱっと顔を上げたルーナは、ようやく尖った口を笑みに変えた。母はこういうフォローが上手だよね。

「ルーナの手作りクッキーか。いいな、僕もお茶にお呼ばれしたいなあ」

 ルーナに伝えると、ルーナは目を輝かせた。

「もちろんよ。アルバ兄様の大好きなクッキーを用意するわね!」
「どうせならフレッド君とルフト君も誘って温室でお茶をしましょう」

 母の提案により、俺たちは温室に移動した。

「あのね、研究員さんたちにもクッキーを差し入れしたくて、たくさん作ったの」

 俺と手を繋ぎながら、ルーナがそっと教えてくれる。いい子に育ったなあ、と感動していると、俺達を発見したルフト君がぱっと笑顔を浮かべて走り出そうとしてから、一度止まってぺこりと頭を下げた。

「ふふ、ルフト君もちゃんとお勉強しているのね」

 母がにこやかにルフト君の所作を褒める。

「ルフト君、こちらへいらっしゃい。お手伝いを頼みたいの」
「はぁい!」

 母に呼ばれて、ルフト君が嬉しそうに駆けてくる。

「およびでしょうか!」
「ええ。あのね、たくさんクッキーを作ったのよ。なので、研究員さんたちにもクッキーを配りたいのだけれど、ルフト君にお願いしてもいいかしら?」
「はい!」

 とてもいい返事をして、ルフト君は小分けにされたクッキーの袋がたくさんのった籠を母から受け取った。
 嬉しそうに笑うと、その籠を落とさないように皆が作業している方に向かっていった。

「ルフト君が戻ってきたら、お茶にしましょうか。きっとフレッド君も一緒に来るだろうから」

 すっかり行動パターンを読んでいる母が、テーブルに着く。ルーナもその隣に座ったので、俺も腰を下ろした。
 レガーレやその他薬草を所狭しと栽培している温室は、出来上がった当初よりも数倍の広さになっている。都度ブルーノ君が地魔法を使って温室を広げていった成果だ。今では薬草と言えば公爵邸の研究所と言われるほどには有名になっている。まあ、レガーレがここにしかない時点で頭一つ抜きんでた状態なんだけどね。
 ブルーノ君はそれで満足せず、他の薬草類も色々と育て始めた。地属性の本領発揮だと嬉しそうに。

「そういえば、ブルーノ君は最初に挨拶したときに草花の研究がしたいって言ってたんだよね」

 隣国に行ったり王宮に駆り出されたりして不在にしているけれど、ちゃんと研究所の方は動いている。
 でも、ここの主軸はブルーノ君で、今じゃ立派な研究所所長だ。

「ブルーノ兄様、ここで研究するのがとても楽しそうよ。見ていて私まで楽しくなっちゃうもの。地属性じゃないのがもどかしいくらいよ」
「属性は自分で選べないからね」

 俺の場合、オルシス様や兄様をたくさん視ることが出来るから、刻属性は天職ならぬ天属性だと思うけれど。その都度死にかけるのだけが欠点かなあ。兄様を泣かせちゃったし。

「あら、母様は属性がなんであれ、皆が元気ならそれが一番だと思うわ」

 母の言葉は、俺という子供がいるからこそ重かった。とても軽く言ったはずの言葉が胸にずしんとまるで重低音のように響いた。

感想 900

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