最推しの義兄を愛でるため、長生きします!

朝陽天満

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御子誕生編

婚約者のキスはいいものです


 ブルーノ君が出て行ったので、俺も戻ろうかと腰を上げた瞬間、俺は腰を絡めとられ、兄様の膝の上にすとんと腰を下ろしてしまった。
 こつんと兄様の額が俺の肩に乗る。
 ぎゅっと抱き締められて、一瞬すべてを忘れて兄様の行動のお可愛いらしさに心の中で悶えた。

「今日やってみた刻魔法の発動、絶対に一人ではやらないように」
「はい……」

 ぎゅっとされてぐりぐりされてそんなお願いをされたら、俺に否やはない。
 兄様はしばらくその状態でいたので、俺も身動き取れずに固まっていた。

「兄様……」
「アルバが僕だけのアルバじゃなくなりそうで怖いな……」

 まるで囁くような声で零したそれは、兄様の本音だろうか。
 俺が兄様以外のものになんてなるわけがないのに。
 頭の中を開けて見せてあげたいよ。どれだけ兄様で占められているのかを。

「むしろ僕が兄様一色過ぎて兄様に呆れられそうですよ」
「ふふ、絶対に呆れないよ……本当はこんな風にアルバを縛るのは僕の我儘でしかないんだ。父上の理想を断ち切って、たとえサリエンテ家の直系の血が途絶えたとしても、アルバ以外をそばに置きたいなんて思えない僕の我儘。アルバが僕に向ける気持ちよりもきっと、僕の方が大きい自信がある」
「兄様、そこは僕の方が絶対に大きいですよ。これだけは譲れません。僕だって、嫡男である兄様の婚約者なんて、本当は辞退しないといけないのに、義父が優しいのをいいことに絶対にこの立場を他のご令嬢に譲る気はないですし」
「僕だって負けないよ。ずっとずっと、それこそアルバが僕を好きだってずっと言ってくれていた時から、もう手放せないなって思っていたもの」
「だったら、僕は生まれた時からずっと見続けていた兄様をすでに大好きだったので大好き歴は長いです」

 胸を張ると、兄様はふ、と表情を緩めて、そして声を出して笑い始めた。
 さっきまでの暗さはもうその瞳にはなく、まるで光の王子様のような麗しい風貌で無邪気に笑う兄様はそれはそれは眼福だった。

「アルバ、一つお願いがあるんだけれど」
「いいですよ。なんでも言ってください」
「聞く前からそんな風に答えたらだめだよアルバ」
「だって兄様のお願いなら否やなんて絶対にありえませんから」

 出来ないことを言われたとしても、何としてでもやり切って見せるよ。
 そう言うと、兄様は俺の顔をそっと覗き込んだ。

「今日は、魔力補充だけじゃなくて、婚約者としてのキスをしてもいい?」  

 囁かれた言葉は脳みそに直撃して、俺の脳みそは瞬時に沸騰した。

「も、も、も、もちろん否やはありません……っが、僕はあのそのキスとかそういうのたぶん下手糞の分類にはいるとおもうので兄様を気持ちよくさせてあげられる自信がなくてですね……その、拙くても、いいのなら」

 顔から湯気を出しながら言い訳じみたことを口にすると、兄様はフワリト慈愛の笑みを浮かべた。
 その顔が俺を大好きだと伝えてきていて、心臓が止まりそうになる。

「僕も、アルバ以外とこういうことをしたことがないから、拙いと思う。二人で上達しよう?」
「……ッ頑張ります……っ」

 ピシッと背筋を伸ばすと、兄様はやっぱり笑いながら、俺の唇にその美しく完成された兄様の唇を重ねた。



 ——婚約者のキスとはとてもいいものだ。

 そんなことを考えながら、俺は朝を迎えた。
 もちろん自分の部屋だ。兄様の部屋になんて泊まったらあの後なし崩し的に兄様を襲ってしまいそうで、腰砕けの状態で自室に戻ってきた。
 キスだけであんなにこう……な気持ちになるなんて兄様はキスが上手すぎる。練習もできないのにあんなに上手いなんて兄様は天才なんじゃないだろうか。
 余韻の残るお花畑な脳みそを落ち着かせながら、俺は制服に袖を通した。
 王宮の騒動はどれだけ続くんだろう。
 そろそろ陛下と妃殿下がステファノ殿下に会いたくて大変なことになるんじゃなかろうか。
 そんなことを思いながらフレッド君とともに馬車に揺られて学園に行く。今はルフト君も落ち着いてきたらしい。あの研究員さんたちの手腕を見て、僕も兄ちゃん達みたいに薬草の勉強をしたいと言って、今まで以上に学習に力を入れ始めたらしい。偉すぎるよ。きっとフレッド君のように優秀な研究員になれるよ。


 学園につくと、俺はロッソ先生に呼び出された。
 保健室ではなくて学園長室に向かうと、学園長とロッソ先生、そしてリコル先生がいた。あれ、王宮の方はもう大丈夫なのかな。
 学園長の横にロッソ先生、そして反対側の二人掛けソファにリコル先生が座っていたので、俺もその横に腰を下ろす。
 淹れたばかりのお茶は、リコル先生が淹れてくれたらしい。ブルーノ君が手掛けている薬草のお茶の香りがふわりと漂った。

「いきなり呼び出してすまないね。アルバ君は体調は大丈夫かな」

 学園長が穏やかな笑顔で聞いてきたので、俺はにこやかに頷いた。

「はい。最近は落ち着いています」

 体調じゃないところはかなりごたごたしているんだけどね。
 とは言えないので、横をちらっと見て、リコル先生の顔を窺う。
 その顔はうっすら疲れが滲んでいるように見えた。
 視線を元に戻すと、ロッソ先生も普段にはない影があるように見えた。こっちも疲れてる? もしかして、王宮での一連に何らかの関与でもしてた? 義父とブルーノ君の両方からロッソ先生の実家の名前が出ちゃったし。
 ドキドキしながら話を待っていると、お茶を一口飲んで口を潤した学園長がカップを置いて、おもむろに話し始めた。

「実はね、ロッソ先生が学園から去ることになってね」
「えっ」

 思わず声を出してしまった。それは、どういう意味の去るなんだろう。
 ロッソ先生は俺の声に、申し訳なさそうな顔になった。

「リコル先生から頼まれていたのに、こんなにも早くここから去ることになってすまないな」
「いえあの……理由を、お伺いしても……?」

 心臓がものすごく跳ねている。このドキドキがリコル先生に聞こえないといいなと思いながら、俺はロッソ先生を見つめた。


 
 
 
 

 
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