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御子誕生編
ロッソ先生の今後
「少々実家がごたごたしてね。私が実家を継がないといけなくなったんだ」
ロッソ先生は苦笑しながらそう教えてくれた。
「実家って……アルトモント子爵家、ですか?」
「ああ。今まで距離を置いていたんだが、跡を継ぐ者が私以外いなくなってね」
「それは……なんて言ったらいいのか……」
複雑な顔をしてそううやむやに返すと、ロッソ先生は肩を竦めた。
「正直私も複雑な気持ちだが、リコル先生に頼まれていた以上、学園を離れることを君にだけは伝えないといけないなと思ってね。とはいえ、まだあとひと月ほどはいるんだけれども。後任が来てから引き継いで離れることになる」
「それは、ありがとうございます」
いきなりいなくなるよりはこうして声掛けしてもらえる方が助かるけれども。
……冤罪かけられて家を出てきたのに戻るってことは、お兄さんとかいなくなったってことなのかな。
まあでも、ロッソ先生が今一番尊敬しているのがブルーノ君だって言ってたから、ロッソ先生自体はあの一連の事件に関与していたとは思えないけど……
「ってことは、アルトモント子爵ご本人かお兄さんが……」
思わず口に出してしまって、ハッと手で押さえる。
もしかして王宮のアレコレに関与していて捕まってしまってロッソ先生が戻らないといけなくなったとか。まさかね。
ロッソ先生はスッと目を細めて俺を見てから、表情を苦笑に変えた。
「そうなんだ。兄は昔から身体が弱くてね。それでも何とか健康になったからと父から後継に指名されたんだが、また難しい状況になってしまってね……」
その難しい状況とは、お兄さんたちが捕まったとかそういうことじゃないよね⁉
ハラハラしながら無難にそうなんですねと応える。
「その、頑張ってください……」
笑みを取り繕ってそう答えると、ロッソ先生も笑みを浮かべて頷いた。
「ロッソ先生の代わりに、新しい養護教諭を入れる予定ではあったんだが、リコル先生が戻るまでの短期間となると難しくてね、リコル先生も王宮所属になることになることを君に伝えたかったんだ」
「リコル先生が王宮所属……」
そっちもまた初耳で、俺は目を見開いてリコル先生に視線を向けた。
リコル先生は穏やかな表情で頷いた。
「臨時で宮廷医の手伝いをして、そちらにやりがいを感じてしまいまして。アルバ君のことも気がかりですが、君にはブルーノ所長もオルシス君もついているので、もう大丈夫だと思いました。私は今やりたいことを精一杯やりたく思います」
「リコル先生は大出世なんだよ。できれば応援してあげて欲しい」
学園長が誇らしげに手を叩く。たしかに、学園の養護教諭から宮廷医になるのは大出世だね。
ステファノ殿下の専属になるのなら、リコル先生なら信頼しかないから俺としても超安心なんだよね。
「はい! もちろんです! ぜひ頑張ってください! 僕が卒業したら今度は王宮でよろしくお願いしますね!」
俺も王宮就職は決定しているので!
ぐっと手を握り締めてエールを送ると、リコル先生は本当に嬉しそうに微笑んだ。ラオネン病に並々ならぬ想いのあるリコル先生は、きっと殿下が今も心配でしょうがないんだと思う。
俺はもう完治したから、次は殿下をサポートして欲しい。あんなにお小さいのに本当に大変そうだから。
「そうでしたね、アルバ君はもう王宮で働くことは決まっていましたね」
「ああ、魔術陣技師か……君は素晴らしいな。私も出来る限り最善を尽くさなければね」
「はい。ロッソ先生も頑張ってください!」
ロッソ先生が家を継げるってことは、先生自体は関与してないってことだもんね。だったら応援しかないよね。
話がまとまったところで、三人で学園長室を辞した。
廊下に出たところで、ロッソ先生がそっと声を潜めた。
「……近いうちに、サリエンテ公爵家に挨拶に行きたいんだが、大丈夫だろうか」
「あ……はい。義父に予定を聞いておきます。保健室にお伝えしに行きますね」
俺の返事に、ロッソ先生は一瞬だけホッとしたように目元を緩ませ、すぐにいつもの顔に戻った。
「ありがとう。では、授業を頑張りなさい」
「はい」
去っていく背中を見送っていると、後ろに立っていたリコル先生が俺の肩に手を置いた。
「今日は、一緒の馬車に乗ってもいいですか?」
「あっ、今日はうちに来るんですか? もちろん大歓迎です! フレッド君が一緒なんですけど!」
「狭くして申し訳ないですけどね。私も今日は一日保健室にいて、ロッソ先生と打ち合わせです」
「なるほど。頑張ってください……色々と、聞きたいことはあるんですが」
「ええ。それは、後程」
ではね、とリコル先生も階段の方に向かっていったので、俺も遅ればせながら教室に向かうことにした。
ロッソ先生は苦笑しながらそう教えてくれた。
「実家って……アルトモント子爵家、ですか?」
「ああ。今まで距離を置いていたんだが、跡を継ぐ者が私以外いなくなってね」
「それは……なんて言ったらいいのか……」
複雑な顔をしてそううやむやに返すと、ロッソ先生は肩を竦めた。
「正直私も複雑な気持ちだが、リコル先生に頼まれていた以上、学園を離れることを君にだけは伝えないといけないなと思ってね。とはいえ、まだあとひと月ほどはいるんだけれども。後任が来てから引き継いで離れることになる」
「それは、ありがとうございます」
いきなりいなくなるよりはこうして声掛けしてもらえる方が助かるけれども。
……冤罪かけられて家を出てきたのに戻るってことは、お兄さんとかいなくなったってことなのかな。
まあでも、ロッソ先生が今一番尊敬しているのがブルーノ君だって言ってたから、ロッソ先生自体はあの一連の事件に関与していたとは思えないけど……
「ってことは、アルトモント子爵ご本人かお兄さんが……」
思わず口に出してしまって、ハッと手で押さえる。
もしかして王宮のアレコレに関与していて捕まってしまってロッソ先生が戻らないといけなくなったとか。まさかね。
ロッソ先生はスッと目を細めて俺を見てから、表情を苦笑に変えた。
「そうなんだ。兄は昔から身体が弱くてね。それでも何とか健康になったからと父から後継に指名されたんだが、また難しい状況になってしまってね……」
その難しい状況とは、お兄さんたちが捕まったとかそういうことじゃないよね⁉
ハラハラしながら無難にそうなんですねと応える。
「その、頑張ってください……」
笑みを取り繕ってそう答えると、ロッソ先生も笑みを浮かべて頷いた。
「ロッソ先生の代わりに、新しい養護教諭を入れる予定ではあったんだが、リコル先生が戻るまでの短期間となると難しくてね、リコル先生も王宮所属になることになることを君に伝えたかったんだ」
「リコル先生が王宮所属……」
そっちもまた初耳で、俺は目を見開いてリコル先生に視線を向けた。
リコル先生は穏やかな表情で頷いた。
「臨時で宮廷医の手伝いをして、そちらにやりがいを感じてしまいまして。アルバ君のことも気がかりですが、君にはブルーノ所長もオルシス君もついているので、もう大丈夫だと思いました。私は今やりたいことを精一杯やりたく思います」
「リコル先生は大出世なんだよ。できれば応援してあげて欲しい」
学園長が誇らしげに手を叩く。たしかに、学園の養護教諭から宮廷医になるのは大出世だね。
ステファノ殿下の専属になるのなら、リコル先生なら信頼しかないから俺としても超安心なんだよね。
「はい! もちろんです! ぜひ頑張ってください! 僕が卒業したら今度は王宮でよろしくお願いしますね!」
俺も王宮就職は決定しているので!
ぐっと手を握り締めてエールを送ると、リコル先生は本当に嬉しそうに微笑んだ。ラオネン病に並々ならぬ想いのあるリコル先生は、きっと殿下が今も心配でしょうがないんだと思う。
俺はもう完治したから、次は殿下をサポートして欲しい。あんなにお小さいのに本当に大変そうだから。
「そうでしたね、アルバ君はもう王宮で働くことは決まっていましたね」
「ああ、魔術陣技師か……君は素晴らしいな。私も出来る限り最善を尽くさなければね」
「はい。ロッソ先生も頑張ってください!」
ロッソ先生が家を継げるってことは、先生自体は関与してないってことだもんね。だったら応援しかないよね。
話がまとまったところで、三人で学園長室を辞した。
廊下に出たところで、ロッソ先生がそっと声を潜めた。
「……近いうちに、サリエンテ公爵家に挨拶に行きたいんだが、大丈夫だろうか」
「あ……はい。義父に予定を聞いておきます。保健室にお伝えしに行きますね」
俺の返事に、ロッソ先生は一瞬だけホッとしたように目元を緩ませ、すぐにいつもの顔に戻った。
「ありがとう。では、授業を頑張りなさい」
「はい」
去っていく背中を見送っていると、後ろに立っていたリコル先生が俺の肩に手を置いた。
「今日は、一緒の馬車に乗ってもいいですか?」
「あっ、今日はうちに来るんですか? もちろん大歓迎です! フレッド君が一緒なんですけど!」
「狭くして申し訳ないですけどね。私も今日は一日保健室にいて、ロッソ先生と打ち合わせです」
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ではね、とリコル先生も階段の方に向かっていったので、俺も遅ればせながら教室に向かうことにした。
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