異世界忍者活劇 †影一族の伝説†

錯羅

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第壱章 影一族

第玖話 七人衆の集結

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 翌日の正午近く、朧はようやく小山城に到着した。立って歩くこともままならぬ程に消耗し、息も絶えだえだった。数親討ち死にの報せを受けてからの菊川の動きは早かった。その日のうちに軍勢をまとめ上げ、退却を始めた。

「戦功をあげぬうちに退却して、山名様に処罰されるのではないか?」

 そう諌める部下もいたが、菊川は意に介さない。

「ふん、負ければ更に厳しい処罰を受けることになる。負ける戦をする位なら退く。」

 菊川は愚将ではない。部下の負け戦を前に激昂し、不用意な反撃を試る愚を犯さなかった。

 片手を失う重傷を負った朧は、絶対安静が必要な状況出会ったが、そんな処遇を受ける暇などなく、荷車に縛り付けられ、荷物同然に移送された。生きるか死ぬかは、当人の体力と気力次第という酷い扱いだ。そこまで気を配っていられない程、菊川は退却を急いだのだった。



 小山城。
 菊川が退去した城に、花菱は約10年ぶりに帰還した。当主の座に返り咲いた乱馬は、残った家臣のまとめ上げに尽力した。叔父数親の治世の間に、有能な部下のかなりを失っていた。特に武官の散逸がひどい。戦国の世のため、腕に覚えのあるものは引く手あまたである。数親がクーデターで当主となってからは、主君に対し忠義を尽くす理由もなくなり、武官たちは中津東よりも条件の良い国を求めて、旅立ってしまったのだ。だが、乱馬は大人しく自国の防備を固めている気はなかった。

 その日、天守の広間に七人の人間が集った。一人は、中津東の新当主・花菱乱馬。残りの六人は、それぞれ異様な風貌をした者たちである。侍というにはあくの強すぎる面々だ。そう、彼らこそは、燻隠れの雄、影一族の七人衆である。

 花菱乱馬。言わずと知れた中津東の当主である。代々、燻隠れの里で修業を積むしきたりとなっていた花菱家だが、影一族の七人衆に選ばれた武辺者は彼が初めてである。

 雷堂光。竜ヶ崎軍の尖兵 玉川六郎の部隊と、乱馬の伯父 花菱数親の軍勢をただ一人で打ち破り、その実力を見せつけた火遁使いの忍者。七人衆の中で最も残忍な性格といわれているが、一度任務を授かれば、完遂するまでは決して寝返ることはないといわれる律義者でもある。

 慈電じでんますらお。巨大な体躯を誇る七人衆最大の巨人。隠行、遁走を特徴とする忍の任務を果たしてこの巨体で話しうるのかと疑いたくなるが、これまで数々の任務で失敗をしたことはない。雷堂と師を同じくする同門である。

 介肋すけろく八十八やそはち。頬骨が出っ張り、瞳の浮き出たその顔は骸骨を彷彿とさせる不気味な姿である。影一族の中でも誰もこの男が誰に弟子入りして技を磨いたのか知る者はいない。その術も独特であり、他の忍と全く異なる技術体系を持つ。陰湿な性格で周囲のものと交流することが滅多にないが、暗殺術は折り紙付きだ。

 萌香もえかあづみ。栗色でサラサラの直毛を後ろでくくって流す細身の美丈夫。色素の薄いその風体は、まるで女のようだが、線の細い体躯は萌香の一族の血筋である。影一族の中でも有数の水遁術の使い手といわれている。

 唐須からす。常に覆面を被り、言葉を喋らない男である。すべてが謎に包まれており、この男がこれまでにどのような任務を果たしてきたかも知る者はほとんどいない。

 黒薔薇くろばら憑魔ひょうま。七人衆の筆頭忍者。「忍術を終わらせた男」とまで呼ばれている。心・技・体いずれにおいても、群を抜いた実力を誇り、燻隠れの忍衆を牛耳っている。

 そして、燻隠れの里の当主、御子柴みこしば龍命りゅうめい。見た目はさえない小柄な老翁だが、かつては七人衆のカリスマであった。今はその座を黒薔薇憑魔に譲り、隠居の身であるが、燻隠れの里では強固な統率力を発揮している。領主としては今も現役だ。


 一同を見渡し、乱馬が口を開いた。

「七人衆の末席である拙者の呼びかけに応じ、このように集まっていただき感謝する。今日、ここに集まっていただいたのは、中津東の当主としてのたっての頼みじゃ。

 一部の世の者たちは、戦国の世はもうすぐ終わる。竜ヶ崎鬼定が天下を統一すると申しておる。だが、拙者はこのままこの乱世を竜ヶ崎に収めさせとうはない。なぜなら、我ら影一族の力、未だ世に発揮させておらぬ。

 我らの術は、この世界をひっくり返しうるものぞ。ここで、この乱世で技を振るうために我らは日夜修業を積んできたのではないか?俺は、この東の果てから、竜ヶ崎一門に戦いを挑む。当主の私からの頼みだ。・・・俺に力を貸してくれ。」

「・・・報酬はどうするおつもりかな?」

 真っ先に燻隠れの当主、御子柴が口を開いた。

「望むものを。我らが勝つ限り、与える報酬には妥協せん。」
「ふっ、ばかげた話だ。要は出世払いということであろう?」

 そう突っ込んだのは、雷堂であった。花菱の口が真一文字に結ばれた。裕福ではない中津東の国にとって、報酬の多寡は最大の弱点だ。

「だが、お前の挑む戦に浪漫をもとむなら、これほど美味しい話はない。」
「・・・・」
「乗ってやる。報酬は、お前が財を握ってから交渉させてもらう。ゆめゆめ値切ろうなどと考えるなよ。」
「ああ、もちろんだ。」

 雷堂は、一度仕えた主に対し決して裏切らない。雷堂の参戦は心強い。

「弟弟子が出るというならば、付き合わねばな。」

 次に口を開いたのは、巨漢の忍、慈電ますらおだった。雷堂、慈電は、燻隠れの里の長、御子柴龍命が現役のころより、仕えていた叩き上げの弟子である。俊足の雷堂、剛力の慈電と称され、任務では阿吽の呼吸といわれている。

「かたじけない。ますらお殿。」

「まあ。皆、自由に心を決めればよかろう。影一族としては、お主の家とは深い縁があるが、お主の国に我が一族が総出で肩入れをするほどの義理はない。じゃが、お主の言う通り我らの技、発揮せぬうちに天下泰平が訪れるのは、至極つまらぬことではあるがな。
 話は分かった。儂はぬ。皆よ、乱馬に加担するか否か、各々が自由に決めたらよい。」

 それだけ言うと、御子柴は残りのものの返事を待たずに姿をくらました。
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