異世界忍者活劇 †影一族の伝説†

錯羅

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第弐章 西伐の狼煙

第廿話 奇襲

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 小山城の奥座敷で花菱乱馬は、政務にあたっていた。曲がりなりにも家臣団をまとめ上げた花菱は、次の段階として兵の訓練に力を入れている。とはいえ現状は、自国を守り抜くこともままならない状態である。

 隣国には、久遠浜くおんがはま楽土らくどという国があるが、今やいずれの国も竜ヶ崎率いる降魔の国に帰順してしまっている。いずれの領主も、国力を消耗することを嫌って、積極的にこちらに攻め寄せてくることはない。しかし、ひとたび竜ヶ崎の軍勢が遠征するとなれば、惜しみなく支援し、忠誠をアピールするのだ。

 先の菊川次郎右衛門の東征の時、菊川は久遠浜に陣を敷いたが、領主の長瀬小五郎は彼に平身低頭の姿勢でへりくだった。菊川は領主の居城を我が家のように使い、気の向くままに出入りし、馳走を楽しみながら、采配を振るったのだ。風の噂では、一部の長瀬の家臣団は、屈辱に涙を流したという。

 花菱は、そのような周辺の諸国のように降魔に屈する気はない。だが、砦を築き、兵を鍛え、防備を行き渡らせなければ、国を守り切ることはできない。一騎当千の影の七人衆を仲間に加えたとしても、それは変わらない。

 そんな花菱だが、最近は心なしかソワソワしている雰囲気がある。先日、萌香あづみを通して、燕女のふみを手にしてからそんな状態が続いている。実は昨日、東塩津の船着き場に端島からの船が着いたという知らせがあった。机上に山と積まれた書類に目を通しつつも、どこか物思いにふけっているように見えなくもない。

「あ。」

 傍らにいた萌香が、彼にしては間抜けな声を出した。

ゴス──

 と同時に、花菱の顔面が机に激突した。何者かが背後から突然手刀を振り下ろしたのだ。花菱が身構えて振り返る。

「何奴!」
「燕女ですよ!」
「・・・」
「プ」

 数秒間の沈黙ののち、萌香が思わず噴き出した。

「こ、こらお前、この俺の頭に一撃くれるとはどういうつもりだ。俺ぁ、中津東の殿さまだぜ?」
「ふふん、ごめんなさい。影一族の七人衆のわりには、後姿が隙だらけに見えたから、ついやっちゃった★」
「何おぉ」
「御屋形様!」

 とかやっていると、近習が声をかけてきた。

「何だ!」
「那須野燕女と名乗る女が、御屋形様にお目通りを請うておりますが、いかがいたしましょうか。」
「燕女はあたしだよ。」
「へ・・・?」

 近習の目が点になった。彼はついさっき、城の玄関で燕女一行と面会し、すぐに花菱に取り次ぎに来たところだったのだが。

「待ちくたびれて、こっそり入っちゃいました。あんたんとこの城、警備がザルよね。あたしが侵入者だったらどうするのよ。」
「よく言うぜ。十分侵入者じゃねぇか。」
「・・・で、あの、お通ししてよいので?お連れの方もいらっしゃいますが。」

 狼狽しながら問う近習に、花菱は燕女の連れを通させた。



「に、兄さま。やっと会えましたぁ。」
「こ、これ、離れなさい。みっともないですよ、あずさ!」

 奥座敷に通されたとたん、あずさが兄のあづみに駆け寄って抱き着いた。たしなめつつも兄のあづみも目尻が垂れて嬉しそうだ。

 昨晩は、大人顔負けの立ち回りを見せたあずさだが、幼い頃から(今も幼いが)大のお兄ちゃん子で、忍術の修業以外では、兄には散々甘やかされて育った。あづみが中津東へ渡ってから、寂しさに耐えかね、兄に会いたい一心で燕女についてきたのだが、この振る舞いはいかがなものか。

 麗しき兄妹愛と言いたいところなのだが、互いに抱き締め合い頬を擦りつけ合って、再会を喜ぶさまを見せつけられ、周囲は若干引き気味だ。

「あ、・・・なあ、あづみよ。皆もおるし、ほどほどにな。」

 かすれ気味の声で、花菱がたしなめた。

「ああ、失礼。どうです、可愛いでしょう。うちの自慢の妹です。」

 いつもクールで感情をあらわにすることがないあづみに、ややドヤ顔でそう言われ、一同は返答に詰まる。(きょ、兄妹が仲が良いのは結構なんだが・・・大丈夫か?大丈夫なんだろうな??)



 一通りの再会のあいさつなどを終え、燕女が昨夜のことを花菱と萌香に報告する。話の途中で内容が重要であると判断した花菱は、雷堂と慈電を呼び寄せ、同席させた。(介肋すけろくは行方が分からず不参加。)

「残念ながら、敵方の目眩ましに翻弄され、遁走されてしまいました。数で上回っておりながら、このような結果となり、大変申し訳ありませぬ。」

 悔しさをにじませ、未来がその状況説明を締めた。

「・・・兄者よ、どう思う?」

 雷堂が慈電に振った。本物の兄ではないが、彼は兄弟子の慈電を「兄者」と呼んでいる。

「三人連れの忍。相当の連携戦術の手練れ。となれば、鍔隠れの忍衆であろうな。」
「なるほど、侮れぬな、菊川め。次の手をすでに打っておるか。」

 渋い顔をして花菱は思案する。

「その者らの一人が「お蝶」という名を呼んだのですね。ならば、恐らく彼らは猪鹿蝶にござりましょう。最近、鍔隠れの中で台頭してきた三人衆で、そういう者を聞いたことがあります。」

 国外の情報に明るい萌香あづみがそう分析した。

 なるほど、向うはやる気だ。ならばやるしかない。こちらから軍勢をもって仕掛けることは今はまだ無理だが、降りかかる火の粉は、払うのみ。そう花菱が心積もりした時だった。

ズドン──

 城の外で大きな爆発音がさく裂した。
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