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1章 新人杯
8. 極寒舞踏
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新人杯当日。
トーナメント表が配布された。
配られた表に視線を落としたレヴリッツは刮目する。
初戦の相手は、隣人のリオート。彼とは闘いたいと思っていた。
隙のない佇まいと視線。リオートに才能があるかどうかはわからないが、少なくとも強者であることには違いない。
もっとも、勝利だけが目的ではないのだ。
バトルパフォーマーの目的はPPを稼ぐこと。PPとは、視聴者が試合が面白いと感じた際に投げるポイントだ。ポイントを換金することも可能。
要するに投げ銭である。
「さて──行こうか」
闘技場へ続く廊下で、レヴリッツは己を奮い立たせる。
初戦が一番大事だ。ここでの敗北は許されない。
迷いなく入場口へ進み、バトルフィールドへ。
熱気が心地よい。空を飛ぶ無数のドローンが彼の姿を捉えた。
客席で観ている観客は200人程度だろうか。デビューしたばかりのアマチュアの試合だが、新人杯そのものが初めての試みであるため、それなりに注目度は高いらしい。
配信サイト上の視聴者数は10000人ほど。
特別席から見守るCEOのエジェティルをちらりと見て、レヴリッツは眼前を見据える。向こうの入場口から歩いてくるのは、空色の髪の少年。
彼は剣呑な目つきでレヴリッツを睨んだ。
「リオート。君と当たれてよかった」
「レヴリッツか……俺もお前と当たりそうだと薄々感じてたぜ。まあ、相手がFランだからって油断はしないけどな。
お前──強いだろ」
「……へえ。僕が強いかどうかは、闘って確かめればいい」
自身が強者であることを見抜かれ、レヴリッツは少し落胆してしまう。
相手がFランだと舐め腐ってきた所を粉砕するのがおもしろいのだが。
佇まいからして、リオートもまた強者である。威風堂々たる風格、隙のない歩法。そして狂犬のような鋭い視線を湛えながらも、決して油断を晒さぬ戒心。
「悪くない。闘ろう」
「じゃ、始めるか? 俺は……ここで勝たなきゃいけないんでな」
「別にここで負けたっていいだろ。今回負けたら、次は勝つ……殺し合いじゃないんだからそれでいいのさ。僕はそう考えてる。
……ま、勝つのは僕だけど」
「……そうかよ」
二人は握手したのち間合いを取り、準備完了の合図を出す。
バトルパフォーマンスでは、名乗りを上げたら準備完了だ。
「レヴリッツ・シルヴァ」
「……リオート」
──試合開始。
「《魔装》」
「……!」
初手、リオートは己の身体に魔力を纏った。
《魔装》──魔力を全身に宿し、能力を大幅に強化する武装手段。全身の魔力配分を常に意識し続け、かつ相手の動きも捕捉しなければならないため、習得難易度は極めて高い。
この《魔装》を使えなければ、バトルパフォーマンスを勝ち上がることは難しい。強者である証拠とも言えるだろう。
リオートの周辺から立ち昇った歪み……魔力を見て、レヴリッツは口元を吊り上げる。
「ではこちらも。《魔装》」
レヴリッツもまた、当然のように同じ技術を返す。
魔装の質は個人の練度によって異なる。熟練者ならば魔力1%の消費で、初心者の100%消費の抵抗を貫くことも可能。
はたして両者の魔装はどちらの質が高いのか。
「さて……俺と踊れよ、レヴリッツ」
リオートは大規模な術式を展開し、円形のバトルフィールド全体に魔力を波及させていく。
レヴリッツはそれを妨害しない。本気の戦闘ならもちろん妨害するが、これはパフォーマンス。相手が派手な技を使ってくれるなら万歳だ。リオートもそれを理解して隙を晒しているのだろう。
「一片氷心──《極寒舞踏》!」
冷気が満ちる。足元に張り巡らされたのは氷の板。
バトルフィールドの足場全てが、つるつるとしたスケートリンクのようになった。
「へえ、氷属性の精霊術か。おもしろい舞台だ」
レヴリッツは足場の感触を確かめながら笑う。
精霊術。精霊の加護を受け、圧倒的な力を行使する術。精霊はほとんどが四字熟語の二つ名を持っているので、【一片氷心】というのも二つ名だろう。
魔術とは違い、少ない魔力で莫大な結果を得ることができるのが精霊術だ。
「【一片氷心】の二つ名を持つ精霊と契約する人間。それが俺の正体だ。
……精霊術師は極めて人口が少ない。正直、好奇の目で見られるからあんまり精霊術は使いたくないんだがな……」
「いいじゃないか、精霊術。世界から愛されている証拠だ。精霊から加護を受けられるのは、すばらしい心の持ち主だけだって聞くし。
それに、僕は精霊術師と闘うのは初めてなんだ。どんな攻撃を使ってくるのか楽しみだよ」
「あー……なんか不公平だな? 俺はお前のこと、事前に分析してるぞ。配信で雷属性の技を使うとか、竜殺しの剣術を使うとか言ってたのを聞いてな。なのに、お前は俺の初見の攻撃を受けることになる。
……俺の技も少し公開した方が平等か?」
レヴリッツが配信で自分の戦術を話したのは、意図的な行為だ。むしろ対戦相手にレヴリッツの戦法を分析してきて欲しかったまである。
「いや、初見の楽しみを奪うようなことは止めてくれ。僕は対戦相手の事前分析とか一切しないし、なんなら不利な状況下の方が燃えるんだ。
……さあ、踊ろうか」
口上を切り上げ、両者は間合いを詰める。
地を蹴ったレヴリッツの身体は、くるりと半回転。氷上での戦いは初めてだ。
どこか慣性が狂った感覚を彼は学習しつつ、リオートの氷剣を受け止める。
眼前から氷剣が迫ったかと思うと華麗に刃を斬り返される。瞬く間に走ったリオートの剣閃を受け流し、レヴリッツはトリプルアクセルを決めながら距離を取る。
「おおっ……! 今のトリプルアクセル綺麗じゃなかったか?」
「お、おう……一片氷心──《霜柱》」
次なる精霊術が発動。
後退した矢先、地面の氷が変形してレヴリッツに迫る。氷の枷が彼を拘束しようと追い縋った。
「龍狩──《烈雷》」
雷と氷の相克。レヴリッツが下方へ向けて放った雷が烈火の如く迸り、氷の枷を消し飛ばす。
レヴリッツが放ったのは、竜の飛翔を堕とすための雷撃。それを自らに迫る氷を撃墜させるように応用した。
同時にリオートも動いていた。レヴリッツが着地する瞬間、滑りと共に不安定な姿勢に。そこを突いて剣を振り抜く。
レヴリッツ、斜刀。
氷上に着地しながらも重心を崩さず、技量に満ちた受け流し。
流されたリオートの氷刃は弧を描き空を切る。反撃に振り抜かれたレヴリッツの一閃。リオートは異様に低い姿勢からの斬撃を紙一重で回避し、滑りつつ後退。
「……大した対応力だ。こりゃ長物の氷武器を作っても無意味だな。それに、氷上での戦いへの適応力も異常だな」
「お褒めに与り光栄だ。……まあ、僕は色々と変わった訓練をしてるからね。水中での戦闘とか、無重力での戦闘とか、変な場所で戦うのは慣れてるんだ。次は四回転ジャンプを決めてもよろしい?」
「俺だってできるぜ、それ」
リオートは飛び上がり、くるりくるりと回転しながらレヴリッツの懐へ飛び込んだ。
彼の手には二つの氷の長剣。レヴリッツは後退するのではなく、敢えて前方へ飛び込む。円の軌跡が四回転、レヴリッツを斬ることなく空振る。
リオートの斬撃を掻い潜り、レヴリッツは刀を横一文字に振り抜く。
「龍狩──《翼堕》」
前傾姿勢からの、凄まじい威力を秘めた一閃。
銀の死線がリオートの至近距離で鈍く光る。まるで後退を防ぐかのように中空に斬撃が生じ、無理な体勢での防御を余儀なくされてしまう。
「ッ……!」
リオートは咄嗟に自身の周囲に氷盾を展開し、威力を減衰。
衝撃でかなりの距離を吹き飛ばされたものの、なんとかセーフティ装置は作動させずに済んだ。
「ばっか強え。本当にFランかよ、お前? 大振りの竜殺し剣術じゃなけりゃ、俺が負けてたぞ」
「ああ、たしかに僕の剣術は、竜の巨躯を狩るために大振りになってしまうけど……それで人間を相手にできないわけじゃない」
「クソ……その実力なら、どんな技だろうが当ててくる。厄介だな……」
威力は高いが、命中に重きは置いていない。それが竜殺し剣術の特徴であった。
巨躯の竜を相手にするには命中率など気にせず、ひたすら高威力の攻撃を当てればいい。ただし、レヴリッツはそれでも精度を高めて当ててくる。
「──仕方ない。奥の手を使うぜ」
「お? まだ何かあるのか!?」
目を輝かせる相手に辟易しつつ、リオートはさらに魔力を展開させる。
戦場を駆け巡る中で、彼は魔力の塔を設置していた。設置された魔力はレヴリッツも気づいていたが、特に何も言及することなく試合を続けていた。
「お、おお?」
ゴゴゴ……とくぐもった音が響く。同時に足元が震撼。
──氷床が、浮いている。
リオートが戦いの最中に設置した魔力塔が氷を貫き、地面と氷の床を乖離させていく。
「さて……展開しろ」
莫大な魔力拡散。リオートから発せられた冷気が、地上に満ちる。
再び地上に氷が展開され、次々と隆起。空へ浮かんだスケートリンクの遥か下方に、氷針の牢獄が出来上がった。
観客はみな驚いたように顔を上げ、上空の二人を見上げる。
ドローンも高度を上げ、より高くからライブを映し出す。
「なんだこれは……」
レヴリッツは唖然として、浮かんだスケートリンクから地上を見下ろした。下方ではきめ細かい氷針が、陽光を受けて煌めいている。落ちれば間違いなく致命に至り、セーフティ装置が作動するだろう。
「あの針には絶縁性の魔導強化を施してある、つまり、お前の操る雷属性の攻撃じゃ壊せない。落ちれば最後、試合終了だ。もっとも……術者の俺は落ちても針を退かせることができるがな」
上空衛星から試合を眺める視聴者たちは、思わぬ大規模なギミックに騒然とする。
そして対決する二人に次々とPPが投げられた。
「……おもしろい! それでこそバトルパフォーマーだ!
よし、リオート……激しく踊るぞ、ついてこい!」
「……激しいのは構わないが、華麗に踊れよ。その足、踏み抜いてやる」
二人の極寒舞踏は烈度を上げていく。
*****
【バトルパフォーマー】BP新人スレ Part54【新人杯】
643:名無しさん ID:hk3rhyh8k
【悲報】初戦、リオートVSエビ
644:名無しさん ID:vCujo5RtZ
エビどりゃあああああwwwwwww
646:名無しさん ID:LQyuz9XW4
VIP対決どりゃああああああああ!!
公開処刑では?🤔
647:名無しさん ID:fIe8p2tPB
作為的なものを感じる
運営……「やった」な?😎
649:名無しさん ID:L4s4muiOH
始まったぞ
653:名無しさん ID:UHjmso6Eo
(三・¥・三)「勝つのは僕だけど」wwww
654:名無しさん ID:r7uOZWbVU
初手魔装とかリオート容赦なくて草なんだ🤗
655:名無しさん ID:9XFp2iH2u
え、エビも魔装使えんの?
657:皇帝 ID:Ms0NaRe9k
エビ、魔装いけます
658:名無しさん ID:kjyLJTu2O
精霊術どりゃあああああ
659:名無しさん ID:45whsQTrB
精霊術師とかクソレアキャラやん
俺も精霊に選ばれれば人生楽勝だったのになあ
661:名無しさん ID:Y8r4gYbHj
バトルフィールド凍ったああああああああ
663:名無しさん ID:gW6gnXiMx
戦場ヒエヒエでワロタ
どりゃあああああああああ
664:名無しさん ID:Un2AgWhSd
あの
動き速すぎます🤗
どっちも目で追えません😜
666:名無しさん ID:nGnfZvDm4
レヴリッツ余裕そうじゃん
もしかしてワンチャンある?
667:名無しさん ID:eDxcgSGt4
ふざけてエビに賭けた金が大金になって返ってくるかもしれないんだ🤗
勝ってくれ😍
669:名無しさん ID:ItmvuQC2Z
これはドラゴンスレイヤー
671:名無しさん ID:W6vTnPm5v
お?まだなんかあるっぽい
673:名無しさん ID:QLf3Sekh2
俺のエビが勝つなんて許せないよ🥺
リオートくん…そいつ粉々にして🤗
674:名無しさん ID:ksTG2DgOG
え?ごめん何が起こってるか分かる奴いる?
676:名無しさん ID:cT8R8opqJ
カメラぐっちゃぐちゃw
ドローン引けよ無能運営
677:名無しさん ID:9Z4unLC32
戦場浮かせるとかバケモンやんwwww
678:名無しさん ID:k28nqXWFB
うおおおおおおお!!!
リオート最強!!リオート最強!!どりゃどりゃりゃwww
680:名無しさん ID:R8TDNk9O2
どりゃあああああああああああ!
682:名無しさん ID:6PdcwG4TW
リオート「激しいのは良いが、華麗に踊れよ♂」
683:名無しさん ID:KyXM9Jkao
踊る!?
レヴリオあります😏
684:名無しさん ID:LXp4DsmRF
PPめっちゃ投げられてて草
トーナメント表が配布された。
配られた表に視線を落としたレヴリッツは刮目する。
初戦の相手は、隣人のリオート。彼とは闘いたいと思っていた。
隙のない佇まいと視線。リオートに才能があるかどうかはわからないが、少なくとも強者であることには違いない。
もっとも、勝利だけが目的ではないのだ。
バトルパフォーマーの目的はPPを稼ぐこと。PPとは、視聴者が試合が面白いと感じた際に投げるポイントだ。ポイントを換金することも可能。
要するに投げ銭である。
「さて──行こうか」
闘技場へ続く廊下で、レヴリッツは己を奮い立たせる。
初戦が一番大事だ。ここでの敗北は許されない。
迷いなく入場口へ進み、バトルフィールドへ。
熱気が心地よい。空を飛ぶ無数のドローンが彼の姿を捉えた。
客席で観ている観客は200人程度だろうか。デビューしたばかりのアマチュアの試合だが、新人杯そのものが初めての試みであるため、それなりに注目度は高いらしい。
配信サイト上の視聴者数は10000人ほど。
特別席から見守るCEOのエジェティルをちらりと見て、レヴリッツは眼前を見据える。向こうの入場口から歩いてくるのは、空色の髪の少年。
彼は剣呑な目つきでレヴリッツを睨んだ。
「リオート。君と当たれてよかった」
「レヴリッツか……俺もお前と当たりそうだと薄々感じてたぜ。まあ、相手がFランだからって油断はしないけどな。
お前──強いだろ」
「……へえ。僕が強いかどうかは、闘って確かめればいい」
自身が強者であることを見抜かれ、レヴリッツは少し落胆してしまう。
相手がFランだと舐め腐ってきた所を粉砕するのがおもしろいのだが。
佇まいからして、リオートもまた強者である。威風堂々たる風格、隙のない歩法。そして狂犬のような鋭い視線を湛えながらも、決して油断を晒さぬ戒心。
「悪くない。闘ろう」
「じゃ、始めるか? 俺は……ここで勝たなきゃいけないんでな」
「別にここで負けたっていいだろ。今回負けたら、次は勝つ……殺し合いじゃないんだからそれでいいのさ。僕はそう考えてる。
……ま、勝つのは僕だけど」
「……そうかよ」
二人は握手したのち間合いを取り、準備完了の合図を出す。
バトルパフォーマンスでは、名乗りを上げたら準備完了だ。
「レヴリッツ・シルヴァ」
「……リオート」
──試合開始。
「《魔装》」
「……!」
初手、リオートは己の身体に魔力を纏った。
《魔装》──魔力を全身に宿し、能力を大幅に強化する武装手段。全身の魔力配分を常に意識し続け、かつ相手の動きも捕捉しなければならないため、習得難易度は極めて高い。
この《魔装》を使えなければ、バトルパフォーマンスを勝ち上がることは難しい。強者である証拠とも言えるだろう。
リオートの周辺から立ち昇った歪み……魔力を見て、レヴリッツは口元を吊り上げる。
「ではこちらも。《魔装》」
レヴリッツもまた、当然のように同じ技術を返す。
魔装の質は個人の練度によって異なる。熟練者ならば魔力1%の消費で、初心者の100%消費の抵抗を貫くことも可能。
はたして両者の魔装はどちらの質が高いのか。
「さて……俺と踊れよ、レヴリッツ」
リオートは大規模な術式を展開し、円形のバトルフィールド全体に魔力を波及させていく。
レヴリッツはそれを妨害しない。本気の戦闘ならもちろん妨害するが、これはパフォーマンス。相手が派手な技を使ってくれるなら万歳だ。リオートもそれを理解して隙を晒しているのだろう。
「一片氷心──《極寒舞踏》!」
冷気が満ちる。足元に張り巡らされたのは氷の板。
バトルフィールドの足場全てが、つるつるとしたスケートリンクのようになった。
「へえ、氷属性の精霊術か。おもしろい舞台だ」
レヴリッツは足場の感触を確かめながら笑う。
精霊術。精霊の加護を受け、圧倒的な力を行使する術。精霊はほとんどが四字熟語の二つ名を持っているので、【一片氷心】というのも二つ名だろう。
魔術とは違い、少ない魔力で莫大な結果を得ることができるのが精霊術だ。
「【一片氷心】の二つ名を持つ精霊と契約する人間。それが俺の正体だ。
……精霊術師は極めて人口が少ない。正直、好奇の目で見られるからあんまり精霊術は使いたくないんだがな……」
「いいじゃないか、精霊術。世界から愛されている証拠だ。精霊から加護を受けられるのは、すばらしい心の持ち主だけだって聞くし。
それに、僕は精霊術師と闘うのは初めてなんだ。どんな攻撃を使ってくるのか楽しみだよ」
「あー……なんか不公平だな? 俺はお前のこと、事前に分析してるぞ。配信で雷属性の技を使うとか、竜殺しの剣術を使うとか言ってたのを聞いてな。なのに、お前は俺の初見の攻撃を受けることになる。
……俺の技も少し公開した方が平等か?」
レヴリッツが配信で自分の戦術を話したのは、意図的な行為だ。むしろ対戦相手にレヴリッツの戦法を分析してきて欲しかったまである。
「いや、初見の楽しみを奪うようなことは止めてくれ。僕は対戦相手の事前分析とか一切しないし、なんなら不利な状況下の方が燃えるんだ。
……さあ、踊ろうか」
口上を切り上げ、両者は間合いを詰める。
地を蹴ったレヴリッツの身体は、くるりと半回転。氷上での戦いは初めてだ。
どこか慣性が狂った感覚を彼は学習しつつ、リオートの氷剣を受け止める。
眼前から氷剣が迫ったかと思うと華麗に刃を斬り返される。瞬く間に走ったリオートの剣閃を受け流し、レヴリッツはトリプルアクセルを決めながら距離を取る。
「おおっ……! 今のトリプルアクセル綺麗じゃなかったか?」
「お、おう……一片氷心──《霜柱》」
次なる精霊術が発動。
後退した矢先、地面の氷が変形してレヴリッツに迫る。氷の枷が彼を拘束しようと追い縋った。
「龍狩──《烈雷》」
雷と氷の相克。レヴリッツが下方へ向けて放った雷が烈火の如く迸り、氷の枷を消し飛ばす。
レヴリッツが放ったのは、竜の飛翔を堕とすための雷撃。それを自らに迫る氷を撃墜させるように応用した。
同時にリオートも動いていた。レヴリッツが着地する瞬間、滑りと共に不安定な姿勢に。そこを突いて剣を振り抜く。
レヴリッツ、斜刀。
氷上に着地しながらも重心を崩さず、技量に満ちた受け流し。
流されたリオートの氷刃は弧を描き空を切る。反撃に振り抜かれたレヴリッツの一閃。リオートは異様に低い姿勢からの斬撃を紙一重で回避し、滑りつつ後退。
「……大した対応力だ。こりゃ長物の氷武器を作っても無意味だな。それに、氷上での戦いへの適応力も異常だな」
「お褒めに与り光栄だ。……まあ、僕は色々と変わった訓練をしてるからね。水中での戦闘とか、無重力での戦闘とか、変な場所で戦うのは慣れてるんだ。次は四回転ジャンプを決めてもよろしい?」
「俺だってできるぜ、それ」
リオートは飛び上がり、くるりくるりと回転しながらレヴリッツの懐へ飛び込んだ。
彼の手には二つの氷の長剣。レヴリッツは後退するのではなく、敢えて前方へ飛び込む。円の軌跡が四回転、レヴリッツを斬ることなく空振る。
リオートの斬撃を掻い潜り、レヴリッツは刀を横一文字に振り抜く。
「龍狩──《翼堕》」
前傾姿勢からの、凄まじい威力を秘めた一閃。
銀の死線がリオートの至近距離で鈍く光る。まるで後退を防ぐかのように中空に斬撃が生じ、無理な体勢での防御を余儀なくされてしまう。
「ッ……!」
リオートは咄嗟に自身の周囲に氷盾を展開し、威力を減衰。
衝撃でかなりの距離を吹き飛ばされたものの、なんとかセーフティ装置は作動させずに済んだ。
「ばっか強え。本当にFランかよ、お前? 大振りの竜殺し剣術じゃなけりゃ、俺が負けてたぞ」
「ああ、たしかに僕の剣術は、竜の巨躯を狩るために大振りになってしまうけど……それで人間を相手にできないわけじゃない」
「クソ……その実力なら、どんな技だろうが当ててくる。厄介だな……」
威力は高いが、命中に重きは置いていない。それが竜殺し剣術の特徴であった。
巨躯の竜を相手にするには命中率など気にせず、ひたすら高威力の攻撃を当てればいい。ただし、レヴリッツはそれでも精度を高めて当ててくる。
「──仕方ない。奥の手を使うぜ」
「お? まだ何かあるのか!?」
目を輝かせる相手に辟易しつつ、リオートはさらに魔力を展開させる。
戦場を駆け巡る中で、彼は魔力の塔を設置していた。設置された魔力はレヴリッツも気づいていたが、特に何も言及することなく試合を続けていた。
「お、おお?」
ゴゴゴ……とくぐもった音が響く。同時に足元が震撼。
──氷床が、浮いている。
リオートが戦いの最中に設置した魔力塔が氷を貫き、地面と氷の床を乖離させていく。
「さて……展開しろ」
莫大な魔力拡散。リオートから発せられた冷気が、地上に満ちる。
再び地上に氷が展開され、次々と隆起。空へ浮かんだスケートリンクの遥か下方に、氷針の牢獄が出来上がった。
観客はみな驚いたように顔を上げ、上空の二人を見上げる。
ドローンも高度を上げ、より高くからライブを映し出す。
「なんだこれは……」
レヴリッツは唖然として、浮かんだスケートリンクから地上を見下ろした。下方ではきめ細かい氷針が、陽光を受けて煌めいている。落ちれば間違いなく致命に至り、セーフティ装置が作動するだろう。
「あの針には絶縁性の魔導強化を施してある、つまり、お前の操る雷属性の攻撃じゃ壊せない。落ちれば最後、試合終了だ。もっとも……術者の俺は落ちても針を退かせることができるがな」
上空衛星から試合を眺める視聴者たちは、思わぬ大規模なギミックに騒然とする。
そして対決する二人に次々とPPが投げられた。
「……おもしろい! それでこそバトルパフォーマーだ!
よし、リオート……激しく踊るぞ、ついてこい!」
「……激しいのは構わないが、華麗に踊れよ。その足、踏み抜いてやる」
二人の極寒舞踏は烈度を上げていく。
*****
【バトルパフォーマー】BP新人スレ Part54【新人杯】
643:名無しさん ID:hk3rhyh8k
【悲報】初戦、リオートVSエビ
644:名無しさん ID:vCujo5RtZ
エビどりゃあああああwwwwwww
646:名無しさん ID:LQyuz9XW4
VIP対決どりゃああああああああ!!
公開処刑では?🤔
647:名無しさん ID:fIe8p2tPB
作為的なものを感じる
運営……「やった」な?😎
649:名無しさん ID:L4s4muiOH
始まったぞ
653:名無しさん ID:UHjmso6Eo
(三・¥・三)「勝つのは僕だけど」wwww
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初手魔装とかリオート容赦なくて草なんだ🤗
655:名無しさん ID:9XFp2iH2u
え、エビも魔装使えんの?
657:皇帝 ID:Ms0NaRe9k
エビ、魔装いけます
658:名無しさん ID:kjyLJTu2O
精霊術どりゃあああああ
659:名無しさん ID:45whsQTrB
精霊術師とかクソレアキャラやん
俺も精霊に選ばれれば人生楽勝だったのになあ
661:名無しさん ID:Y8r4gYbHj
バトルフィールド凍ったああああああああ
663:名無しさん ID:gW6gnXiMx
戦場ヒエヒエでワロタ
どりゃあああああああああ
664:名無しさん ID:Un2AgWhSd
あの
動き速すぎます🤗
どっちも目で追えません😜
666:名無しさん ID:nGnfZvDm4
レヴリッツ余裕そうじゃん
もしかしてワンチャンある?
667:名無しさん ID:eDxcgSGt4
ふざけてエビに賭けた金が大金になって返ってくるかもしれないんだ🤗
勝ってくれ😍
669:名無しさん ID:ItmvuQC2Z
これはドラゴンスレイヤー
671:名無しさん ID:W6vTnPm5v
お?まだなんかあるっぽい
673:名無しさん ID:QLf3Sekh2
俺のエビが勝つなんて許せないよ🥺
リオートくん…そいつ粉々にして🤗
674:名無しさん ID:ksTG2DgOG
え?ごめん何が起こってるか分かる奴いる?
676:名無しさん ID:cT8R8opqJ
カメラぐっちゃぐちゃw
ドローン引けよ無能運営
677:名無しさん ID:9Z4unLC32
戦場浮かせるとかバケモンやんwwww
678:名無しさん ID:k28nqXWFB
うおおおおおおお!!!
リオート最強!!リオート最強!!どりゃどりゃりゃwww
680:名無しさん ID:R8TDNk9O2
どりゃあああああああああああ!
682:名無しさん ID:6PdcwG4TW
リオート「激しいのは良いが、華麗に踊れよ♂」
683:名無しさん ID:KyXM9Jkao
踊る!?
レヴリオあります😏
684:名無しさん ID:LXp4DsmRF
PPめっちゃ投げられてて草
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彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
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小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
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理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
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