忘れじの契約~祖国に見捨てられた最強剣士、追放されたので外国でバトル系配信者を始めます~

朝露ココア

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1章 新人杯

9. ルール違反じゃないんよな、それ

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 氷上、一瞬に舞った斬閃は数えきれない。
 リオートの氷剣が弧を描き、レヴリッツの受け流しが空を舞う。あまりに速い。デビューしたてのバトルパフォーマーの勝負とは思えない、熟達した攻防が続く。

 「一片氷心──《乱氷》!」

 「僕の攻撃が通らない……」

 氷の斬撃をひねるようにして往なしたレヴリッツは、一歩下がって雷撃を放つ。しかし、リオートが展開した絶縁性の氷盾に阻まれてしまう。
 レヴリッツは自らの斬撃が弾かれることを不思議に思い、抗議する。

 「だめだめ、これ反則だよコイツ! ずるだよこれ! 試合中やっちゃいけないんだよこれ! 魔術刻印使ってる! アイテム使ってる!
 リオート正気か!? まじルール違反だよ! ルール違反なんよな、それ」

 「なに言ってんだお前。相手を事前に分析して対策アイテムを持ち込むのは、当たり前の行為だろ。養成所で習わなかったか?」

 「えっ……うーん。養成所の講義はほとんど寝てたからわかんないや。まあ、ルール違反じゃないなら許すわ」

 魔術刻印。
 リオートは事前にレヴリッツを研究し、雷属性を無効化する刻印を腕に装着していた。相手を事前に分析し、対策アイテムを持ち込むことはルール違反ではない。
 同様に真下に広がる氷針の床にも、雷を防ぐように絶縁性が施されていた。

 レヴリッツはリオートの果敢な攻めに、徐々に淵へと追い詰められていく。このまま攻撃を受け続ければ、彼は足を滑らせて落ち、針の餌食となろう。
 いつ攻防に終止符を打つべきか……レヴリッツは逡巡しゅんじゅんする。

 (どのくらいで勝負に出るか……それが問題だ。視聴者目線では、このまま激しい攻防が続いても面白いだろうが……そのうち飽きがくるだろう。
 一度、こちら側が危機に陥ってから打開する……そして逆転だ。うん、これでいこう)

 シナリオは完成した。
 レヴリッツはこのまま攻撃を受け続け、氷針が広がるバトルフィールドの下層へ落下することにした。そして危機的状況を脱してからの逆転……この展開が一番盛り上がる。

 決断を下した直後、リオートの斬撃が眼前へ迫る。

 「おおっと……!」

 「終わりだ、レヴリッツ!」

 「くそっ……!」

 敢えて隙を晒し、身体を大きくひねる。
 リオートが相手の隙を見逃すはずがない。
 彼はありったけの魔力を籠め、巨大な氷槌を生成。レヴリッツの正面から叩き込んだ。劣勢の状態へと放たれた無慈悲なる追撃。

 視聴者の誰もが決着を悟った。
 レヴリッツの身体は大きく彼方へ吹き飛ばされ、針の床へと落下していく。もはや復帰は不可能。

 「……」

 リオートもまた決着を察して魔装を解除する。
 じきにセーフティ装置が作動し、試合終了のベルが鳴るはずだ。彼は下層を確認すらせず、その場に毅然として立つ。

 「…………」

 ──しかし、一向にベルは鳴らない。

 閑散とした観客席の一角から、どよめきが上がる。
 何かが弾けるような轟音。おそらくレヴリッツが最後の抵抗で雷を放ったのだろう。しかし氷は雷を通さない。

 シュウウ……と、耳障りのよい音が響き渡る。
 違和感を抱いたリオートは、いよいよ下層を見下ろして様子を確認し始める。
 視線の先……下方には異様な光景が広がっていた。


 「リオート……君は一つ、分析し損ねた要因がある」

 燃えている。
 地上の氷針が、ことごとくレヴリッツの刀に宿された『炎』に焼き尽くされていた。

 リオートは狼狽する。思考がクラッシュしてしまう。
 本来、人が扱える属性は一つの属性のみ。レヴリッツは雷属性を扱えるが、炎属性は扱えないはず。

 「なん、だ……? 何を見落とした? 
  刀は何の変哲もない鉄刀、魔道具だって仕込んでいる素振りはなかった……!」

 「衣服だよ。よく観察してみるといい」

 レヴリッツは自らの着流しをひらひらと持ち上げる。
 氷上から目を細めて布地を凝視するリオートは、違和感に気づく。

 「ちぐはぐだ……まるで縫い合わせたように……」

 レヴリッツの着物の内側には、ところどころ妙な色の布地が混ざっており、その周囲には縫い付けたような痕跡があった。

 「──火鼠の毛皮。
 わずかな種火を拡散し、業火の如く爆発させる布地だ。落下する最中、僕は着物の一部を切り離し……そこに落雷させた。たちまち火種は拡散し、氷を焼き払う。僕は雷属性しか放てないが、火属性だって扱えるんだぜ」

 リオートの思考は空白に呑まれる。己の観察不足だ。

 いや、そもそも相手のレヴリッツは事前の分析なんてしていなかった。これほど丹念に調べ上げた自分が、何も調べていない相手に負ける。
 それは即ち、圧倒的な力の差を示し……

 「さて、次は君が空中でもがく番だ。
 ──落ちろ、極寒舞踏スケートリンク

 レヴリッツが凄まじい勢いで斬撃を飛ばす。一振りで、六つ。
 斬撃は上層の氷板を支えていた魔力柱を焼き捨て、崩壊を招く。
 六方から迫る炎と、融解して崩れ落ちる足場。リオートは自分を襲った浮遊感に抗いながら剣を構える。

 レヴリッツは好機を逃さない。雷の如き速さで放った銀閃。
 気がつけば刃光じんこうがリオートの眼前にあった。これがレヴリッツの本気の速度……いや、まだ本気ではないのかもしれない。

 「フィニッシュだ」

 ──《疾風迅雷》

 目にも止まらぬ速度で振り抜かれた軌跡がリオートを裂く。
 明滅する視界の中で、リオートは為す術もなく重力に従って落ち……



 ──試合終了

 セーフティ装置が作動し、アラームが鳴る。
 倒れ伏すリオートの目に映ったのは、納刀して決めポーズを取るレヴリッツの姿だった。

 彼は歓声を浴びた後、リオートへ手を伸ばす。
 まるで陽光を受けたことがないように白い手だ。リオートは手を取るかどうか悩んだが、レヴリッツは勝つべくして勝ったのだ。そこに異論はない。

 故に、手を取って立ち上がる。

 「楽しかったよ。また闘おう」

 「……次は俺が勝つ」

 「いいや、次も僕が勝つ」

 彼らは短く言葉を交わし、手打ちしてバトルフィールドを去った。

 ー----

 「レヴ、おめでとー! 決勝進出だね!」

 レヴリッツの快進撃は止まらず、その後も二勝を重ねて決勝進出となった。
 勝負を終えるや否や、ヨミがレヴリッツの下へ駆け寄ってくる。

 彼女はペットボトルをレヴリッツに渡し、自分のことのように嬉しそうに飛び跳ねた。

 「まあ僕なら優勝余裕だし。安心して決勝も観ておけよ」

 彼の身体には、未だ闘いの余熱が残っている。ここまでの闘いは全て良好なパフォーマンスができた。
 ただし、彼が思い描くような至高のパフォーマンスにはまだまだ届かない。

 誰よりも視聴者を沸かせ、誰よりも栄光ある闘いの道を歩む。
 それこそ、彼女のように──

 「よおレヴリッツ。お疲れさん」

 「ああ、初戦で僕に負けたリオート君じゃん」

 「うるせえな、性格わりいぞ。せっかくお前を激励しようと思ったのに」

 「冗談だよ。敗北は勝利への最大の近道だからね。次は君に負けるんじゃないかと僕も恐れている。激励は素直に受け取っておくよ。
 ……で、次は決勝か」

 相手は誰だろうか……とレヴリッツは思いながらも、薄々気がついていた。
 しかし相手の正体を調べようとはしない。初見の相手は楽しみに取っておくのだ。

 ただし……次の試合は楽しめるかどうかわからない。

 「レヴは相手の情報を知りたがらないけど……ひとつだけ言っておくね。次の相手は相手を瞬殺し続けてる人だよ」

 ヨミの言葉を聞き、レヴリッツの疑念が確信に変わる。
 先日話しかけてきたカガリとかいう少女だろう。

 「ふーん……逆に僕が瞬殺してやろうかな。いや、それは駄目だ。そんなんじゃ視聴者を満足はさせられないだろう」

 「うん。次の相手の人……技術評価が高くても、PPの稼ぎは全然だめみたい。だって、観ててもすぐに終わるから楽しくないもん」

 「安心しろよ。決勝では僕が意地でも長引かせてやるから」

 彼はそう告げて笑い、次の試合のバイタル調整に移った。

 *****



 【バトルパフォーマー】BP新人スレ Part58【新人杯】

 211:名無しさん ID:3Tz5qorBo    
 お前らエビにごめんなさいは?

 212:名無しさん ID:wmZ3T6XaW
 >>211
 Fランのくせに勝ってんじゃねえよ😡

 213:名無しさん ID:E5agvpY79
 決勝レヴリッツ対カガリか
 なんかわからん試合だな

 215:名無しさん ID:E5agvpY79
 カガリはバトル一瞬で終わらせるし配信もやる気ないから嫌い😤
 エビに勝って欲しい🤗

 216:名無しさん ID:Zprio9aJT
 (三・¥・三)「お前ネットで僕の悪口言ったよな?」

 218:名無しさん ID:ATz9vxTX2
 カガリpp2000しか投げられてなくて草
 視聴者も投げるタイミング無さ過ぎて困ってるやん

 219:名無しさん ID:kTee3Nirp
 >>218
 この稼ぎじゃ生活していけないよー🤣

 221:名無しさん ID:KyuT4jWeL
 お前ら「レヴリッツはFラン! VIPの価値なし! 初戦敗退!」

 あの



 決勝進出です・・・

 222:名無しさん ID:xcf4fKFd3
 エビもカガリたそに瞬殺されそう
 あれって初手で視覚奪ってるのか?

 225:名無しさん ID:jQh63Spvf
 >>222
 俺の見立てによると視覚だけじゃなくて聴覚も奪ってるな😎
 BPでやっていい戦法じゃないんだ🤗

 カガリ、お前船下りろ

 226:名無しさん ID:9xjXMY2tH
 煽り合いも剣戟もやらずに
 参加するのが公式大会ってありえんわ

 228:名無しさん ID:DK4xEfwsR
 視覚聴覚奪われても戦えるとか天井とアレくらいだろ
 (* 天井……グローリー級『天上麗華』ソラフィアート・クラーラクト
  *アレ(例のアレ)……マスター級『闘技皇帝』レイノルド・アレーヌ)
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