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2章 氷王青葉杯

5. 練習開始

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 翌日。
 レヴリッツとヨミは、大会の練習をするために一足早く修練場へ来ていた。

 準備運動をする二人に少し遅れて、ペリが到着する。

 「おはようございます。レヴリッツくん、ヨミさん。お早いですね」

 「シュッシュセンパイ、おはようございます!!」

 「おはようございます。今日は戦略戦ストラテジーの初回練習ですからね。張り切ってます。あとは……リオートがまだ来てないのか」

 「……そういえば、リオートくんは騒ぎになっていますよね。もしかして外に出て来れないんじゃ……?」

 ペリは沈鬱な面持ちで語った。
 昨夜のこと。ケビンがリオートの身分を暴露しやがったのだ。断片的な情報をつぎ合わせたに過ぎなかったが、レヴリッツの推測通りリオートは王子だったらしい。

 情報の出元はインターネットの掲示板。
 何者かがリオートの情報をリークし、それをケビンが取り上げて裏を取った形だ。王族がバトルパフォーマーをやっているのは初めての出来事なので、それなりに話題は広がっている。

 まだ情報が暴露されて半日。ここからますます大事になるかもしれない。
 ペリは彼の身を案じていた。今後の対応が重要になってくる局面だ。

 「私的には、特に反応せず活動を続けるのがいいと思います。今回のように自分に落ち度がない炎上は、無視するのが最善策ですよ。
 下手に反応すると「効いてるwwwww」とか言われてネットのオモチャ化が進むので」

 「うーん……? リオートはこの程度で辟易するメンタルじゃないと思いますけどね、僕は」

 「よくわかってるじゃねえか。ケビンもあの程度の暴露が妨害だと思ってんなら、甘い奴だよ」

 レヴリッツの言葉を肯定するように、修練場に現れたリオート。彼はいつもと変わらぬ表情でそこに立っていた。
 リオートも出自がリークされた事は、今朝起きて初めて知った。

 「俺が王子だから何だってんだよ。王子がバトルパフォーマーをやっちゃいけないいわれはないし、犯罪を犯したわけでもねえ。お前らや俺が気にすることなんてないだろ?」

 彼の言う通りだ。
 界隈はリオートを炎上させていると言うよりも、好奇の目を寄せている。特に後ろめたいことはないし、後ろ指を指されるようなこともないはず。

 最も心配すべき事項は、リオートの祖国ラザの王室に迷惑がかかること。しかし、リオート自身はそれについて言及しない。
 余計な心労をチームメイトには押しつけたくないから。

 「なるほど。まあ、そのうち騒ぎも収まるだろう。とりあえずストラテジーの練習を始めようか」

 ヨミはこれ以上、この話題には触れまいと話を切り替える。

 「はい! ……ちなみにレヴと私は戦略戦ストラテジーをしたことないんだけど、リオートはどう?」

 「俺もやったことない。とりあえずペリ先輩にルールを教わんないとな」

 四人は修練場の隅にある机に移動。
 ペリは立てかけられた電子ボードを引っ張り、その上にサラサラとペンを走らせていく。

 「それではペリ先生の授業を始めます!
 まず、ストラテジーは4対4のチーム戦で行われる競技です。で、注目してほしいのがここ」

 横長の長方形を描いたペリは、両端に円を描いた。

 「このマァル……タワーという場所が両チームの拠点となります。両チームはタワーから闘いを始め、相手のタワーを制圧した時点で勝利なのです。
 そして大事な役職が『指揮官』。指揮官はタワーにいる限り、戦場の全体を俯瞰することができます。指揮官が各チームメイトに指示を出し、戦を勝利へ導く。これが基本的なストラテジーの流れとなります」

 「ペリ先生、質問です! 僕が単騎で無双して相手のタワーを制圧するのはダメですか!?」

 「ダメでぇーす! そもそもバトルフィールドが広いので、相手に散開されたら無双は難しいかと。あと、相手のタワー内に罠などが仕掛けられている可能性もあるので、進むのは慎重に。特にレヴリッツくんは罠にかかって退場しそうですし」
 
 一度退場すると、ストラテジーに復帰することはできない。
 他のメンバーに迷惑をかけないためにも、立ち回りには慎重になる必要がある。

 「百聞は一見に如かず。まずは実戦してみましょう!」

 「……で、相手チームはどこにいるんすか?」

 リオートが質問した瞬間、ペリの動きがピタリと停止する。
 口を半開きにして、彼女は瞳を周囲へ向けた。
 ──相手チームの用意を忘れていました……等と言えるわけもなく。

 「!!! そこの四人!! ストラテジーの練習ですか!?」

 彼女は視界に映ったチームへ咄嗟に声をかける。
 不幸なことに修練場にはその四人しかいなかったので、頭のおかしい連中に絡まれてしまう。
 急にペリから大声で話しかけられた少年は、ビクリと肩を震わせて後退る。

 「な、なんですか貴女は……!? 声量の調整ができないのですか?」

 「あ、すいません。声量の調整はできますペリ。舐めんなよ。
 あと質問にお答え願いたいのですが、ストラテジーの練習をしに来たのでは? もしもそうなら、ぜひ私たちと練習試合をしていただけませんか?」

 「え、ええ……仰る通りですが。練習試合をするチームは選びたいですね……戦略の漏洩は防ぎたいですし。それに……」

 少年はペリの背後を見る。
 かの有名な『FランVIP』レヴリッツに加えて、話題沸騰中のリオート。正直なところ、関わると色々面倒なことになりそうだ。
 配信業を続けていく以上、付き合う相手は慎重に選ばなくてはならない。この人たちは、あまり関わりたくない人種だ。

 少年は自分のチームメンバーと顔を合わせる。
 他のメンバーも首を傾げていた。ただ一人を除いて。

 「別にいいんじゃない? あたしはこいつらと闘うの賛成だよ。いい経験になると思うし」

 「カガリさん……貴女が言うには何かしらの根拠があるのでしょう。お聞かせ願います」

 「え、根拠? いや……そこのレヴリッツにリベンジしたいだけ」

 少年のチームメイト……カガリは前方に視線を送る。彼女はレヴリッツに新人杯の決勝戦で負けてしまった。
 片目をパチパチさせながら、絶妙な表情でウインクするレヴリッツの姿。煽られているようでウザいのでリベンジしたい。カガリは純粋に腹が立っている。

 「嬉しいねカガリ。じゃあ、僕たち『Oath』と勝負するか?
 そこの君は……たしか同期のイクヨリだったね。君とカガリ以外の二人は存じ上げないけど」

 同期の少年……イクヨリは深々と頭を下げる。
 きっちり90度腰を曲げ、両足を揃えて。

 「レヴリッツ・シルヴァさん……新人杯で優勝した貴方のことは存じ上げております。私はイクヨリ・アンソンと申します。
 こちら、チームメイトのカガリさん、ミラーさん、レナさんです。ミラーさんとレナさんは、私たち87期生よりも先輩の方々ですね」

 ミラーは黒いをローブを纏った魔術師らしい男性。
 レナは薄手の道着を着ている女性だ。

 どちらもバトルパフォーマーを続けているだけあり、立ち方に隙がない。
 レヴリッツは彼らを一瞥し、メンバーを紹介し返す。

 「これはどうも。リオート、ヨミは同期だから知ってるよな。こちらはペリシュッシュ・メフリオン先輩。この四人が僕らのチームだ」

 イクヨリの後ろにいる二人の先輩は、さすがにペリのことを知っているようだ。
 滅多に大会には参加しないペリがいることに、先輩のミラーとレナは目を丸くしていた。

 ミラーは勝負を申し込んできたチームを観察し、苦い顔をする。未だに彼は練習試合を行うかどうか悩んでいるようだった。

 「界隈じゃ有名なペリシュッシュ先輩が参加するとは……どうしようか。俺は別に構わないし、カガリちゃんもいいって言ってる。あとはイクヨリ君とレナが許可するかどうかだね」

 「私はいいよ。おもしろそうだし」

 「私もまあ……ええ、先輩のお二人が言うのなら構いません。では『Oath』の皆さん。練習試合を行いましょう。配信はなしでお願いします」

 戦略戦ストラテジーは情報戦だ。
 基本的に練習試合が配信されることはない。戦略や役職など、情報を可能な限り本番まで公開してはいけないことになっている。

 「ありがとうございます。それでは、バトルフィールドに移動しましょう」

 ペリは自信を湛えた表情で、空間拡張衛星を起動した。
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