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2章 氷王青葉杯
16. 真白の悪魔
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本性を現したレヴリッツ……否、レヴハルト・シルバミネ。
彼を前にしてガフティマは一切の思考・行動を放棄せざるを得なかった。
圧倒的な殺意が心臓を握り潰し、神経の全てが混乱の中にある。
「来い、『黒ヶ峰』」
中空よりレヴハルトが取り出したるは、漆黒と純白の二刀。
生と死を司る秘刀──【黒ヶ峰】
この刀こそレヴハルトを縛る呪いにして、存在意義である。
「…………ッ」
逃げなければならない。
どうしようもない焦燥と畏怖が、ガフティマの心を染め上げる。だが高鳴る鼓動の警鐘に従わず、彼の足は動かなかった。
レヴリッツは怯えるガフティマの心情など考慮せず、『殺し合い』を継続する。
「今から君を斬るよ。死にたくないなら、魔装は全力で防御展開しておけ。
昔、俺が暗殺を依頼された政治家がいたんだ。彼は「セーフティ装置があるからお前の刀などでは死なん」……って調子に乗ってたけど、僕の刀はセーフティ装置の防御も斬ってしまうのでね。その政治家は呆気なく首を斬られて死んだ。
君もそんな醜態は晒したくないだろう?」
レヴハルトがわずかに殺意を緩め、ガフティマの拘束を解く。
逃走を許可したわけではない。魔装の防御展開だけを許可したのだ。それがわからぬほどガフティマも愚鈍ではない。
彼は過呼吸の中で魔力を練り、何とか魔力を身に纏う。
今、目の前の少年に逆らえば殺される。
決して不機嫌にしてはならない。決して逆らってはならない。
「それが限界? オーケー、じゃあ斬ってみようか」
「ひっ……」
再び殺気が蔓延る。
刃を黒く鈍らせて。
「……奉るは赤き桜花、鉄火と柔草織り交ざらん。
シルバミネ第三秘奥──」
釘付けになっていたレヴハルトの姿が、ガフティマの視界から消えた。
消滅。超常現象、奇々怪々。其は天上のまやかしに非ず、ただ偏に雷神の意志が如き疾風なり。大気、重力、万象不変は何するものぞ。
──《寸鉄殺》
刹那。
ガフティマの首元に致死ダメージが入り、セーフティ装置が作動。しかしセーフティ装置の無敵に近い結界すらも破り、刀は彼の巨体を斬り刻む。
「ぁ……殺さ、ないで……」
ガフティマは最後の力を振り絞って、懇願の声を吐き出した。
そして無様に倒れる。
魅せるための刃ではなく、殺すための刃。レヴハルトは殺意の刀を引き抜いたのだ。かくして『殺し合い』は幕を閉じた。わずか一秒にも満たない戦いであった。
「よかった、まだ生きてるみたいだね。俺もせっかく一般人に転生したのに、殺しなんてしたくないからさ。君が生きててよかったよ。心は死んでしまったみたいだけど、生きていればやり直せるさ」
レヴハルトは微笑を浮かべ、ガフティマの抵抗に対して賛辞を送る。
もうこれの心は使い物にならない。
彼は再び偽装を纏い、レヴリッツへと舞い戻る。
地面で伏すガフティマなど気にも留めず、次なる戦場へ向かって走り出した。
「よーし、ガフティマ撃破! いやあ、やっぱり僕が負けるわけないんだよね!
さて、次はどこの援護に向かおうかな……? このまま相手のタワーを目指してもいいが、リオートの戦場に向かうのもアリか……」
すっかり殺し合いの出来事など忘れてしまった。
彼の頭の中では、とうにガフティマは死んだ人間なのだ。
覚えておく必要すらない。
善の心は一片もなく、本性は悪辣に。
大罪人、極悪人と糾弾され、果てには祖国より追放された剣士。
レヴハルトは仮面を被って生き続ける。
ー----
両者が名乗ったと同時、ケビンが動き出す。
凄まじい速度の剣閃。袈裟懸けからの、斬り返し。リオートはケビンの攻撃を咄嗟に生成した氷の盾で防ぐ。
しかし、すでに背後へと回り込んだケビンの掌底打ちによって吹き飛ばされる。
(速い……! 速度特化ってわけでもなくて、攻撃力もある! だが、俺の役目は時間を稼ぐこと……まだ終われない!)
「一片氷心……《霜走》!」
まずは相手の速度をどうにかする。
周囲一帯に霜が降り、冷気が魔手となってケビンへと迫る。動きを拘束する氷の枷。
しかし、ケビンは格段に場慣れしている。
ここで機転を利かせるのが元プロの実力だ。
魔装で冷気を遮断したケビンは、そのまま魔力を四方に展開。天地の間を魔力が縫いつけ、一種の結界が構築されていく。
リオートは広がってゆく魔力を見て目を見開いた。
「これは、まさか……!」
「魅せてやるよ、俺の全力をな。
リオート……手前の道を塞ぐために、手前の夢を手折るために。
俺の独壇場を披露する」
人の夢を潰すからには、重大な責任が伴う。
夢を諦めさせるに足る圧倒的な絶望と、一切の躊躇なくバトルフィールドを去れる実力の差を。
かつてケビンが目指した高み、リオートが目指そうとしている高み。
プロ級パフォーマー、全身全霊の舞台を。
「その壁は超えられない──《警告舞台》」
屈辱、悔恨、失意。
遍く「人生の壁」を模った舞台が顕現する。
リオートとケビンを取り巻くように展開された無数の壁、壁、壁。
森林地帯は一瞬にして円形の戦場へ変形。魔力により盛り上がった地面は石畳へ変わり、高い壁が全方位に、かつ無作為に生成された。
「これが俺の独壇場。
リオートッ! 全身全霊を以て、手前を打ち砕く!」
こと独壇場において、創立者は圧倒的な有利を誇る。
視聴者の誰もが悟った。この勝負はケビンの勝ちだと。
だが、自分が負けることなどリオートはとうにわかりきっていた。
これが最後の勝負で、どれだけ無様な敗北を晒しても構わないのだと。彼は負の覚悟を抱いて進み出る。
「……お前は凄いよ」
本心からの称賛を送り、再び氷剣を生成。
リオートの踏み出しと共に冷気が迸った。
真正面から斬撃を飛ばす。数多の修練の果てに繰り出される、リオートの全力。
銀色の剣閃が走り、一拍遅れて衝撃音が響く。
「届かない」
「……!」
リオートは驚きに目を見開く。
氷剣は突如とした現れた灰色の壁に阻まれ、重い衝撃が腕を伝う。
背後に迫る剣気を察知したリオート。
怪我を承知で身体を強引に動かし、その場から飛び退く。先程まで彼が立っていた空間に鮮やかな銀閃が走っていた。
「瞬間移動……?」
「俺の『警告舞台』の中では、壁を生み出した地点に転移が可能。種明かしをしてやるのは情けだ」
「クソ……バケモンかよ……」
ケビンは間違いなく格上。
しかし、ここまでの強者が相手とは……リオートは自分の不運を呪った。だが、簡単に負けるわけにはいかない。
これはチーム戦だ。自分の足掻きが勝利へつながるかもしれないのだから。
「一片氷心──《極寒舞踏》!」
相手が転移できるのならば、広範囲の技を。あらゆる距離に対応できるのが精霊術の強みである。
二人を取り囲むように、無数の氷の武器が浮かび上がる。
剣、槍、斧、槌。多種多様な氷製の武器がケビンを逃がすまいと、全方位から彼をマークする。
「頭が回るじゃねえか。ならば……真正面から、全て斬り伏せてやろう!」
一斉に武器が射出される。同時、リオートもケビンへ急接近。
スケートリンクを滑るように華麗に舞う。
「はああぁっ!」
「ぬおおおっ!」
鉄刃と氷刃が激しく衝突。
アマチュアのリオートと、元プロのケビン。力は平等ではない。
互いの刃を打ち合わせ、リオートの腕は限界まで追い詰められる。破裂しそうな筋肉。力押しされ、石畳に強引に踵を叩きつけて周囲の武器を引き寄せた。
周囲から飛来する氷の武器を、ケビンは飛び、回り、蹴り上げ打ち砕く。
隙を突いて斬り込むリオートの斬撃は彼の顔と左肩を掠め、一矢報いる。
「チッ……!」
「一片氷心、《氷柱乱舞》!」
リオートは攻撃の手を緩めない。
ここで攻めきれなければ優位はなく、魔力の欠乏など考慮する余地もない。
常に全霊の魔力を注ぎ込んで技のラッシュを決める。
氷柱の剣が八刃舞う。
ケビンは捌き続け、捌き続け──そして、勝負を終わりへと導く。
それは砂海から一粒の砂を掬い上げるがごとく、森の中から一本の木を見つけるがごとく、わずかな隙であった。
一瞬の好機を掴む者こそが真のパフォーマーである。ましてやケビンとリオートの力量差では、状況を覆すなど容易なことであった。
「ここだッ!」
一瞬、氷の包囲が解けた瞬間にケビンは転移する。
そしてリオートの死角へと回り……
「ぬうんっ!」
渾身の一振りを放った。
凄まじい衝撃と共に、斬撃がリオートに直撃。
氷上を舞台としていた彼は転倒し、どこまでも転がっていく。やがて氷のリンクから弾き出された時、やっと彼は静止した。
「ク、ソ……俺は……やっぱり……」
虫の息。
もはや彼に残された体力も、魔力もほとんどない。
父はさぞリオートの姿を無様に見ていることだろう。
地に倒れ、動くことすらままならない自分の姿が、視聴者に嫌というほど見られている。
ケビンは彼の傍へ歩み寄り、剣を突きつけた。
「立てるのか、立てねぇのか。いや……立ち上がるのか、立ち上がらねぇのか!
手前の答えを聞かせろ、リオートッ!」
これはパフォーマンスである。
たとえ満身創痍のリオートが立ったとしても、ケビンには敵わない。しかし、ここで彼が立てば視聴者が盛り上がり、ケビン側も高得点が狙える。
そして何より、この行動はケビンなりの審判を示した。
この闘いを最後にしてもいいのか……と。
この剣閃は、バトルパフォーマンス人生の最後を飾るに相応しかったのかと。
リオートは地に伏したまま、血反吐と涙を流した。
ー----
レヴリッツは独壇場の外側から、両者の決闘を眺めていた。
数多の壁が林立した円形舞台の中、両者の鍔迫り合いの音が響く。心地よい鋼と氷が打ち合う音。
彼は高木の上で、瞳を閉じて耳を澄ましていた。視聴者からは「何やってんねん」と突っ込まれていることだろう。
さて介入すべきか。答えは否。
「ふむ……」
リオートはバトルパフォーマー道を究める為に、レヴリッツは人を殺める為に。
強さを各々求めたのだ。
目的は違えども、彼らには共通する壁があった。
──才能がない。
かつてのレヴリッツは、まさしく無能だった。父にも呆れられ、兄にすら劣っていたほどの無才。
一切の才覚を見出せず、惰性で師から殺しを学んでいた彼を支えたのは……とある少女との『契約』。
バトルパフォーマーとなって、マスター級に手を伸ばして、真正面のルートから彼女を殺しに行くのだ。
ただ、あの日の約束を果たしたい。ソラフィアートを──したい。
その願いだけが彼の魂を研ぎ澄ました。
才能がないのならば、誰よりも努力を。どんな外道な手でも、どんな逸脱した手でも、強くなれればそれで構わない。
脈動する渇望を心臓へ埋め込み、沸騰する劣等を血液へ流し込んだ。
結果として出来上がったのが、彼という化物だったのだ。
「で、君は」
化け物になるのか?
リオートにも外道を歩ませるのか?
過酷極まりない、畜生道へと突き落とすのか?
別に、そんな無理を強いる必要はない。
何故なら、レヴリッツはそこまでの関心を他人に抱かないからだ。強さを求める過程はいくらでもある。レヴリッツのように無理な才覚の矯正も、過酷な環境で錬磨される必要もなく……リオートは強くなることができる。
だが、あの王子様は自分が強くなれることを知らなかった。
『お前は本音言うしかできないんじゃない?』
ふと、以前の配信のコメントがフラッシュバックした。
悩める友へどう接すればいいのか……そんな雑談テーマだったはず。
そう。結局、それしかないのだろう。
本音を……言ってやれ。
彼が物思いに耽りつつ闘いを眺めていると──やがてリオートが倒れた。
彼を前にしてガフティマは一切の思考・行動を放棄せざるを得なかった。
圧倒的な殺意が心臓を握り潰し、神経の全てが混乱の中にある。
「来い、『黒ヶ峰』」
中空よりレヴハルトが取り出したるは、漆黒と純白の二刀。
生と死を司る秘刀──【黒ヶ峰】
この刀こそレヴハルトを縛る呪いにして、存在意義である。
「…………ッ」
逃げなければならない。
どうしようもない焦燥と畏怖が、ガフティマの心を染め上げる。だが高鳴る鼓動の警鐘に従わず、彼の足は動かなかった。
レヴリッツは怯えるガフティマの心情など考慮せず、『殺し合い』を継続する。
「今から君を斬るよ。死にたくないなら、魔装は全力で防御展開しておけ。
昔、俺が暗殺を依頼された政治家がいたんだ。彼は「セーフティ装置があるからお前の刀などでは死なん」……って調子に乗ってたけど、僕の刀はセーフティ装置の防御も斬ってしまうのでね。その政治家は呆気なく首を斬られて死んだ。
君もそんな醜態は晒したくないだろう?」
レヴハルトがわずかに殺意を緩め、ガフティマの拘束を解く。
逃走を許可したわけではない。魔装の防御展開だけを許可したのだ。それがわからぬほどガフティマも愚鈍ではない。
彼は過呼吸の中で魔力を練り、何とか魔力を身に纏う。
今、目の前の少年に逆らえば殺される。
決して不機嫌にしてはならない。決して逆らってはならない。
「それが限界? オーケー、じゃあ斬ってみようか」
「ひっ……」
再び殺気が蔓延る。
刃を黒く鈍らせて。
「……奉るは赤き桜花、鉄火と柔草織り交ざらん。
シルバミネ第三秘奥──」
釘付けになっていたレヴハルトの姿が、ガフティマの視界から消えた。
消滅。超常現象、奇々怪々。其は天上のまやかしに非ず、ただ偏に雷神の意志が如き疾風なり。大気、重力、万象不変は何するものぞ。
──《寸鉄殺》
刹那。
ガフティマの首元に致死ダメージが入り、セーフティ装置が作動。しかしセーフティ装置の無敵に近い結界すらも破り、刀は彼の巨体を斬り刻む。
「ぁ……殺さ、ないで……」
ガフティマは最後の力を振り絞って、懇願の声を吐き出した。
そして無様に倒れる。
魅せるための刃ではなく、殺すための刃。レヴハルトは殺意の刀を引き抜いたのだ。かくして『殺し合い』は幕を閉じた。わずか一秒にも満たない戦いであった。
「よかった、まだ生きてるみたいだね。俺もせっかく一般人に転生したのに、殺しなんてしたくないからさ。君が生きててよかったよ。心は死んでしまったみたいだけど、生きていればやり直せるさ」
レヴハルトは微笑を浮かべ、ガフティマの抵抗に対して賛辞を送る。
もうこれの心は使い物にならない。
彼は再び偽装を纏い、レヴリッツへと舞い戻る。
地面で伏すガフティマなど気にも留めず、次なる戦場へ向かって走り出した。
「よーし、ガフティマ撃破! いやあ、やっぱり僕が負けるわけないんだよね!
さて、次はどこの援護に向かおうかな……? このまま相手のタワーを目指してもいいが、リオートの戦場に向かうのもアリか……」
すっかり殺し合いの出来事など忘れてしまった。
彼の頭の中では、とうにガフティマは死んだ人間なのだ。
覚えておく必要すらない。
善の心は一片もなく、本性は悪辣に。
大罪人、極悪人と糾弾され、果てには祖国より追放された剣士。
レヴハルトは仮面を被って生き続ける。
ー----
両者が名乗ったと同時、ケビンが動き出す。
凄まじい速度の剣閃。袈裟懸けからの、斬り返し。リオートはケビンの攻撃を咄嗟に生成した氷の盾で防ぐ。
しかし、すでに背後へと回り込んだケビンの掌底打ちによって吹き飛ばされる。
(速い……! 速度特化ってわけでもなくて、攻撃力もある! だが、俺の役目は時間を稼ぐこと……まだ終われない!)
「一片氷心……《霜走》!」
まずは相手の速度をどうにかする。
周囲一帯に霜が降り、冷気が魔手となってケビンへと迫る。動きを拘束する氷の枷。
しかし、ケビンは格段に場慣れしている。
ここで機転を利かせるのが元プロの実力だ。
魔装で冷気を遮断したケビンは、そのまま魔力を四方に展開。天地の間を魔力が縫いつけ、一種の結界が構築されていく。
リオートは広がってゆく魔力を見て目を見開いた。
「これは、まさか……!」
「魅せてやるよ、俺の全力をな。
リオート……手前の道を塞ぐために、手前の夢を手折るために。
俺の独壇場を披露する」
人の夢を潰すからには、重大な責任が伴う。
夢を諦めさせるに足る圧倒的な絶望と、一切の躊躇なくバトルフィールドを去れる実力の差を。
かつてケビンが目指した高み、リオートが目指そうとしている高み。
プロ級パフォーマー、全身全霊の舞台を。
「その壁は超えられない──《警告舞台》」
屈辱、悔恨、失意。
遍く「人生の壁」を模った舞台が顕現する。
リオートとケビンを取り巻くように展開された無数の壁、壁、壁。
森林地帯は一瞬にして円形の戦場へ変形。魔力により盛り上がった地面は石畳へ変わり、高い壁が全方位に、かつ無作為に生成された。
「これが俺の独壇場。
リオートッ! 全身全霊を以て、手前を打ち砕く!」
こと独壇場において、創立者は圧倒的な有利を誇る。
視聴者の誰もが悟った。この勝負はケビンの勝ちだと。
だが、自分が負けることなどリオートはとうにわかりきっていた。
これが最後の勝負で、どれだけ無様な敗北を晒しても構わないのだと。彼は負の覚悟を抱いて進み出る。
「……お前は凄いよ」
本心からの称賛を送り、再び氷剣を生成。
リオートの踏み出しと共に冷気が迸った。
真正面から斬撃を飛ばす。数多の修練の果てに繰り出される、リオートの全力。
銀色の剣閃が走り、一拍遅れて衝撃音が響く。
「届かない」
「……!」
リオートは驚きに目を見開く。
氷剣は突如とした現れた灰色の壁に阻まれ、重い衝撃が腕を伝う。
背後に迫る剣気を察知したリオート。
怪我を承知で身体を強引に動かし、その場から飛び退く。先程まで彼が立っていた空間に鮮やかな銀閃が走っていた。
「瞬間移動……?」
「俺の『警告舞台』の中では、壁を生み出した地点に転移が可能。種明かしをしてやるのは情けだ」
「クソ……バケモンかよ……」
ケビンは間違いなく格上。
しかし、ここまでの強者が相手とは……リオートは自分の不運を呪った。だが、簡単に負けるわけにはいかない。
これはチーム戦だ。自分の足掻きが勝利へつながるかもしれないのだから。
「一片氷心──《極寒舞踏》!」
相手が転移できるのならば、広範囲の技を。あらゆる距離に対応できるのが精霊術の強みである。
二人を取り囲むように、無数の氷の武器が浮かび上がる。
剣、槍、斧、槌。多種多様な氷製の武器がケビンを逃がすまいと、全方位から彼をマークする。
「頭が回るじゃねえか。ならば……真正面から、全て斬り伏せてやろう!」
一斉に武器が射出される。同時、リオートもケビンへ急接近。
スケートリンクを滑るように華麗に舞う。
「はああぁっ!」
「ぬおおおっ!」
鉄刃と氷刃が激しく衝突。
アマチュアのリオートと、元プロのケビン。力は平等ではない。
互いの刃を打ち合わせ、リオートの腕は限界まで追い詰められる。破裂しそうな筋肉。力押しされ、石畳に強引に踵を叩きつけて周囲の武器を引き寄せた。
周囲から飛来する氷の武器を、ケビンは飛び、回り、蹴り上げ打ち砕く。
隙を突いて斬り込むリオートの斬撃は彼の顔と左肩を掠め、一矢報いる。
「チッ……!」
「一片氷心、《氷柱乱舞》!」
リオートは攻撃の手を緩めない。
ここで攻めきれなければ優位はなく、魔力の欠乏など考慮する余地もない。
常に全霊の魔力を注ぎ込んで技のラッシュを決める。
氷柱の剣が八刃舞う。
ケビンは捌き続け、捌き続け──そして、勝負を終わりへと導く。
それは砂海から一粒の砂を掬い上げるがごとく、森の中から一本の木を見つけるがごとく、わずかな隙であった。
一瞬の好機を掴む者こそが真のパフォーマーである。ましてやケビンとリオートの力量差では、状況を覆すなど容易なことであった。
「ここだッ!」
一瞬、氷の包囲が解けた瞬間にケビンは転移する。
そしてリオートの死角へと回り……
「ぬうんっ!」
渾身の一振りを放った。
凄まじい衝撃と共に、斬撃がリオートに直撃。
氷上を舞台としていた彼は転倒し、どこまでも転がっていく。やがて氷のリンクから弾き出された時、やっと彼は静止した。
「ク、ソ……俺は……やっぱり……」
虫の息。
もはや彼に残された体力も、魔力もほとんどない。
父はさぞリオートの姿を無様に見ていることだろう。
地に倒れ、動くことすらままならない自分の姿が、視聴者に嫌というほど見られている。
ケビンは彼の傍へ歩み寄り、剣を突きつけた。
「立てるのか、立てねぇのか。いや……立ち上がるのか、立ち上がらねぇのか!
手前の答えを聞かせろ、リオートッ!」
これはパフォーマンスである。
たとえ満身創痍のリオートが立ったとしても、ケビンには敵わない。しかし、ここで彼が立てば視聴者が盛り上がり、ケビン側も高得点が狙える。
そして何より、この行動はケビンなりの審判を示した。
この闘いを最後にしてもいいのか……と。
この剣閃は、バトルパフォーマンス人生の最後を飾るに相応しかったのかと。
リオートは地に伏したまま、血反吐と涙を流した。
ー----
レヴリッツは独壇場の外側から、両者の決闘を眺めていた。
数多の壁が林立した円形舞台の中、両者の鍔迫り合いの音が響く。心地よい鋼と氷が打ち合う音。
彼は高木の上で、瞳を閉じて耳を澄ましていた。視聴者からは「何やってんねん」と突っ込まれていることだろう。
さて介入すべきか。答えは否。
「ふむ……」
リオートはバトルパフォーマー道を究める為に、レヴリッツは人を殺める為に。
強さを各々求めたのだ。
目的は違えども、彼らには共通する壁があった。
──才能がない。
かつてのレヴリッツは、まさしく無能だった。父にも呆れられ、兄にすら劣っていたほどの無才。
一切の才覚を見出せず、惰性で師から殺しを学んでいた彼を支えたのは……とある少女との『契約』。
バトルパフォーマーとなって、マスター級に手を伸ばして、真正面のルートから彼女を殺しに行くのだ。
ただ、あの日の約束を果たしたい。ソラフィアートを──したい。
その願いだけが彼の魂を研ぎ澄ました。
才能がないのならば、誰よりも努力を。どんな外道な手でも、どんな逸脱した手でも、強くなれればそれで構わない。
脈動する渇望を心臓へ埋め込み、沸騰する劣等を血液へ流し込んだ。
結果として出来上がったのが、彼という化物だったのだ。
「で、君は」
化け物になるのか?
リオートにも外道を歩ませるのか?
過酷極まりない、畜生道へと突き落とすのか?
別に、そんな無理を強いる必要はない。
何故なら、レヴリッツはそこまでの関心を他人に抱かないからだ。強さを求める過程はいくらでもある。レヴリッツのように無理な才覚の矯正も、過酷な環境で錬磨される必要もなく……リオートは強くなることができる。
だが、あの王子様は自分が強くなれることを知らなかった。
『お前は本音言うしかできないんじゃない?』
ふと、以前の配信のコメントがフラッシュバックした。
悩める友へどう接すればいいのか……そんな雑談テーマだったはず。
そう。結局、それしかないのだろう。
本音を……言ってやれ。
彼が物思いに耽りつつ闘いを眺めていると──やがてリオートが倒れた。
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魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
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地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
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主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
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【カクヨムコン最終選考進出】
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追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
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仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
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「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
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そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
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イラスト 卯月凪沙様より
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