忘れじの契約~祖国に見捨てられた最強剣士、追放されたので外国でバトル系配信者を始めます~

朝露ココア

文字の大きさ
35 / 105
3章 猛花薫風事件

2. 仕事

しおりを挟む
 「一片氷心──《氷の世界アイシクルフォール》!」

 相手のコートに氷柱が出現し、ボールが縦横無尽に飛ぶ。氷柱の影によって作られた完全な死角。
 リオートの打ち込んだ剛速球に相手は反応できず、得点が入る。

 「さすがリオート! 僕も負けてられないな!」

 レヴリッツとリオートは『テニヌ』というスポーツをして遊んでいた。
 ラケットで玉を打ち、相手のコートに着弾させて得点を狙う競技である。空中浮遊したままラリーを続けたり、物理的に分身したり……この『テニヌ』という競技には非常に高度な戦闘技術も求められる。
 バトルパフォーマーの中では人気のスポーツだ。

 奮戦する二人の様子を、ヨミとペリがのんびりと観戦していた。

 「リオートはまさに王子様って感じの趣味が多いですよね。ピアノとか、フェンシングとか、テニヌとか……シュッシュセンパイの趣味は何ですか?」

 「うーん……私の趣味は配信でしょうか。そもそも配信ばかりやっていると、趣味なんてものがなくなるんですよね。ゲームとか雑談ばっかりして、外に出る時間がめっきりなくなります。ヨミさんのご趣味は?」

 「私はやっぱりお絵描きです! お絵描きだけじゃなくて、音楽とか映像編集とか……クリエイティブなものは全部好きですよ」

 「ほー。じゃあ、今度動画のサムネ描いてもらってもいいです? もちろんお金は出すので。
 ……あっ、でも今金欠だった」

 最近、諸事情もあってペリの懐具合は寂しい。
 レヴリッツから貰ったVIPカードも売却しようか悩んでいるくらいだ。青葉杯の優勝賞金はすでに溶け、再び極貧生活が戻りつつあった。

 「シュッシュセンパイ……苦しいですよね。私も何か力になれればなあ……」

 「ははは……ヨミさんは私がなぜ金欠に陥っているのかわかりますか? 新作のマイクを片っ端から買っているせいなのです。毎回配信の音質が変わっているのも、マイクを変えまくっているからで……」

 「本当ですか? 実は違う理由でお金がないんじゃないですか?」

 ヨミの一言に、ペリは肩をビクリと震わせる。
 彼女の真紅の双眸はペリの本質を見抜いているような気がした。ペリは知らないが、ヨミは人の感情の流れがある程度わかるのだ。今この瞬間、ペリが嘘を吐いていることもわかっていた。

 たしかにマイクの買い替えは金欠理由の一つではあるが、それだけで生活が困窮するほどではない。
 ペリは隠すように慌てて話題を転換する。

 「スーッ……そ、そういえば『Rise of seven』の反響は見ましたか?」

 『Rise of seven』は、青葉杯の後にペリとヨミが作った新曲MV。
 歌唱はOathの四人で行った。

 「うん、見ました! 再生数は……今のところ六十万回……!
 これもシュッシュセンパイのおかげですね」

 Oathが初めて出したMVは青葉杯を優勝したこともあり、それなりの伸びを見せていた。
 アマチュアチームが出す曲は十万再生いけばいい方だが、人気者のペリの出演と優勝という事実が重なり、再生数の伸びがみられる。

 「いえ、私が出たから伸びたわけではありませんよ。曲に乗せられた想いが視聴者の皆さんに伝わったのでしょう。
 想いを乗せて作った曲に貴賤はありません。だから……再生数が回ったっていう事は、私たちの想いが視聴者を刺激したって事なんじゃないかな?」

 「なるほどー……よかったですね!!」

 Oathの初MVについて語っていると、運動場に係員の制服を着た人が入って来た。

 「ペリシュッシュ・メフリオン! 及びレヴリッツ・シルヴァはいるか!」

 レヴリッツはテニヌを止め、ペリと共に係員の元へ向かう。

 「アイムレヴリッツ。シーイズペリシュッシュ。何か僕たちにご用ですか?」

 「理事長がお呼びだ。理事長室まで来てくれ」

 「え……? また私なんかやっちゃいました?」

 「用件は理事長から直接聞いてくれ。私も事の仔細は知らない」

 ペリは特に呼ばれるような心当たりがなかった。配信で過激な発言をした覚えはないが、もしかしたら無意識の内にしていてお叱りを受けるのだろうか。
 一方でレヴリッツは理事長とそれなりに面識があるので、どうせくだらない用事だろうと高を括っていた。

 ー----

 理事長室の椅子には、桃髪の少女がだらしなく座っていた。
 こう見えてもバトルパフォーマンス協会の理事長。
 偉大な功績を持つ権威者である。

 「あ、おつおつ。とりまそこ座ってくれる?」

 言われるがまま、二人は椅子へ腰を下ろす。
 長椅子にとんでもない角度で座っていたサーラ理事長は姿勢を正し、机の上の書類を積み上げて整理した。
 その後、紅い瞳でレヴリッツとペリを見る。

 「まずはペリシュッシュの用件について話そうか。
 ……私たちバトルパフォーマンス協会は、ちょうど一年前にペリシュッシュをプロ級のパフォーマーに推薦した。覚えてるよね?」

 「あー……なるほど、その件ですか」

 「うん。昇格の審査は厳格な基準の下に行われ、審査員側もそれなりの労力を要する。で、あなたは実力・知名度ともにプロ級に相応しい人材だと判断された。
 それにも拘わらず、あなたはこの一年間……昇格試験チャレンジデュアルを受けていない。理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 ペリが審査を通ったというのは、アマチュア界では有名な噂だ。同時に、彼女がいつまでも昇格試験を受けないという噂も有名。
 いつまでもアマチュア級で燻っており、近年は大会への参加やバトルパフォーマンスの披露もほとんどなくなっていた。この間の青葉杯では、レアキャラのペリが出てきて騒ぎになったくらいだ。

 「……それはですねえ……うーん……安定した、収入源のため、ですかねえ……?
 ほら、プロ級に上がって戦績を挙げられないと人気落ちるじゃないですか? そしたら投げ銭PPとかグッズ収入も減るじゃないですか? あと正直、このままバトルパフォーマンスに力を入れずに配信活動を続けた方が……PPも稼げるんじゃ、ないですかねえ……」

 「つまり、あなたは昇格する気はないと?」

 「退所とかは……勘弁してくださいね」

 レヴリッツは横で呆れていた。
 単純に金を稼ぐことが目標なら、普通のストリーマーになればいい。
 研鑽して自分を磨く意志がないのならば、バトルパフォーマーになった意味がないだろう……と。

 もちろん、レヴリッツも本心では昇格だとか金だとかに興味はない。
 約束を果たすためだけにバトルパフォーマーの道を進んでいる。ただ、意欲のない姿勢を視聴者に見せてはいけないという話。ペリは傍目に見てもやる気がないことが明らかだ。

 「……まあ、こちらから首を切ることは契約違反でもしない限りはない。ペリシュッシュが今のスタイルで活動を続けても、特に処罰とかはないよ。
 さて、次はレヴリッツ」

 「あっはい。もしかして僕をプロ級に!?」

 「いやいや……プロを名乗るには、まだ知名度なさすぎ。今回呼んだ理由は……お仕事だよ」

 「……ん」

 お仕事。
 その単語を聞いてしまうと、どうしても後ろ暗い内容を想起してしまう。

 ただし、今はペリが隣にいることを考えると……おそらく殺しの仕事ではないのだろう。バトルパフォーマーに就職してから、彼は殺人に手を染めないと決めているのだ。ガフティマは心を壊す必要があったが、アレは正当防衛だと考えている。

 「内容は?」

 「呪竜の駆除だよ」

 「なるほど、竜殺しですか。それならお安い御用です。お任せください!
 ……しかし僕に竜殺しを任せるとは、ずいぶんと信頼されているようで」

 「本当は私に与えられた仕事なんだけどね。今はちょっと忙しくて」

 忙しいという割に、先程まで怠けていた気がするが。
 ともかく、竜殺しはレヴリッツがバトルパフォーマーとなる前に就いていた職業だ。竜種の駆除となれば手慣れたもの。

 レヴリッツの話を聞いていたペリは首を傾げる。

 「呪竜……? 聞いたことがない種類です」

 「一般的に、竜種は三つに分類されます。持袋じたい目、無鱗目、蛇亜目。ペリ先輩が知ってるのは火竜とか水竜とか、あと邪竜とかの持袋目でしょう。世間一般ではここら辺の種しか認知されていませんから。
 呪竜というのは蛇亜目黒死ネギラ科の竜で、呪術を扱う竜です。呪術と言っても、人間が扱うような規律した術式ではなく、あくまで敵対者に対する威嚇を示す思念を呪いに変化させたものですが。
 呪竜の部位は高値で取引されており、特に血清は解呪の効用があるので非常に高値で取引されていますね」

 「は、はえー……」

 レヴリッツの解説を、ペリは目を点にして聞いていた。
 一流のドラゴンスレイヤーだけあって、竜種への造詣はかなり深いようだ。

 一つ、レヴリッツの解説の中に引っかかるものがあった。ペリはとあるフレーズに気を惹かれ、無理を承知で頼み込んでみる。

 「そのお仕事、私もついて行っていいですか……?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です

たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」 勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。 しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。 一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。 彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。 引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――? ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。 「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」 これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...