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3章 猛花薫風事件

3. 第一回 ドラゴン狩り講座! 準備編

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 『【レヴリッツ・シルヴァ/実況】第一回 ドラゴン狩り講座! 準備編』

 「…………」

 〔きたああああああ〕
 〔竜殺しです、か〕
 〔動物愛護団体に通報しときました!🐒〕
 〔(三・¥・三)_U~~
 (三・¥・三)_U~~
 (三・¥・三)_U~~ レヴ粒子砲〕
 〔なんとか言えよ変態〕

 車に揺られながら、レヴリッツは配信を開始する。まもなく目的地……呪竜が出現したと報告されている山岳地帯に到着する頃合い。
 ペリの提案により、今回の任務を配信してみることにしたのだ。竜狩りを配信する人など滅多にいない。新規性を武器にして視聴者を獲得しようという寸法だ。

 まずは呪竜との戦闘配信を行う前に、誘導も兼ねて準備枠を取る。視聴者に今回戦う呪竜についての知識などを啓蒙したい。

 「みなさん初めまして。えー今回から、竜狩りの実況戦闘を始めさせてもらいます、レヴリッツというものです。
 第一回ドラゴン狩り講座。今回の相手は、えー……呪竜です」

 〔火竜しか知らない〕
 〔呪竜って強いんか?〕
 〔もう草〕
 〔なんか声がいつもよりネッチョリしてる〕

 「さて、みなさんは……竜種についてどれくらいの知識を持っていますか? 僕は竜殺しでしたから、彼らに関する知識は深く、また敬意を持っています……」

 レヴリッツは瞳を閉じて淡々と語り続ける。
 ちなみに撮影者はペリである。

 〔中身変わった?〕
 〔なんか博識ぶってら〕
 〔(三・¥・三)(三・¥・三)(三・¥・三)〕
 〔wwwwwwww〕

 「相手は竜という生命種の頂点なのに対して、こちらは人という弱者です。まあ、普段僕は竜に対して勝率8割保ってるんですけど」

 〔すっご〕
 〔2割で死亡定期〕
 〔8割を引き続ける男〕
 〔『ペリペリちゃんねる』いくわ〕

 (うわ……レヴリッツくんの配信、前よりも荒らしが増えてる……しかも私のチャンネルに誘導されてるし。まあ人気配信者は荒れるって言うし。人気……?)

 ペリは撮影しつつ、コメント欄を見て辟易へきえきする。
 なぜかレヴリッツの配信は荒らしが多いのだ。やはり変人のパフォーマーには、変人の視聴者が集まるのだろうか。
 ペリの視聴者にも厄介な勢力が多く、こうして他のパフォーマーに迷惑をかけてしまうこともある。

 「今回討伐する呪竜は……一言で言えば、「知性」です。呪竜は他竜種に比べて知性が高い。縄張りを脅かす他生命体への威嚇思念を呪力に変えますから、それなりの情動を備えているのです。
 呪竜の知能を人間に換算するとね、えーっと……何やったっけ……あ~ん……忘れて……しまいましたぁ」

 〔七歳児じゃなかったっけ?〕
 〔たぶん俺よりは賢いよ〕
 〔なんで今日は敬語なんですか?講師気取りですか?〕
 〔レヴ君おはよう!今日もきもいね〕

 「人という……か弱き存在が、呪竜へ立ち向かうために必要なモノは何か?
 それは「一対多の法則」。人間とは、群れをなし、支え合って生きてゆく生物です。つまり人間の叡智の結晶が、孤高の竜を殺すのです。
 我々人類は、竜に勝たねばならないッ……!」

 なんだかレヴリッツの様子がおかしい。
 普段使わない敬語を使っているし、どこかテンションが狂っている。普段の配信とは違う彼の様子に、ペリは困惑しながら撮影していた。

 レヴリッツをよく観察してみると、時折チラチラとアナリティクスを見ている。

 (なるほど……今日は同接がいつもの二倍くらいあるから、テンションが上がっていると)

 物珍しい企画をやっているので、様子見で来ている視聴者が多いのだろう。
 配信者ならば誰もが味わう感覚。高い同時接続による興奮である。

 ペリだって何度も味わったことがある感覚だ。しかし今のレヴリッツは、相当に気味が悪い。

 「僕は今回、確実に竜を狩るために秘策を用意しました。
 それは『反射ハメ』。詳細は実戦で見てもらうとして……今回の討伐任務には、『流血抑制』のオプションが追加されています。要するに、呪竜の血液は貴重なので可能な限り出血させずに倒せ……ということですね。
 ちなみに余裕です。そう、レヴリッツ・シルヴァならね」

 〔竜種の無断狩猟は違法だぞ!ちゃんと許可取ったか??〕
 〔えっど〕
 〔ハメはまずい〕
 〔(三・¥・三・¥・三・¥・三) 〕

 反射ハメとは、俗に言う『呪詛じゅそ返し』を応用したものである。
 呪術師相手によく取られる戦法で、呪術を跳ね返して生まれた隙に攻撃を叩き込み続ける手法だ。

 ペリは竜について詳しくないので、呪詛返しが呪竜にも通用するのかわからない。しかし、敢えて迂遠うえんな手法を使って流血させずに倒すほど、竜種の素材は貴重なのだ。

 その後もレヴリッツは変な調子でダラダラと話し続け、彼らを乗せた車が目的地へ到着する。

 「……というわけで、準備編はここまでとなります。実戦編は三十分後。
 ぜひ、ご視聴になってください。それでは……さようなら」

 配信終了。
 レヴリッツは終了すると同時に、一気に崩れ落ちた。ふにゃふにゃになった彼が車の席に転がる。

 「お疲れ様でした。レヴリッツくん、いつも変ですが……今日は一段と変でしたね。やっぱり視聴者が普段よりも多いからですか?」

 「ああ、それもあるんですけど……なんだか竜狩りがかなり久々な気がするんです。最後に竜を狩ったのは一年半くらい前のことなんですけど、五年ぶりくらいに狩るような……やけにブランクを感じて緊張しています。おかしな話ですよね」

 竜種に負けることはないと絶対的な自信のあるレヴリッツだが、どこか恐怖を感じている。強大な種族と戦うことに対する恐怖など、以前は感じていなかったはずなのだが……対人戦ばかりやっていて感覚が鈍ってしまったのかもしれない。

 「なるほどぉ……それは深刻な問題ペリね。VRゲームとかでもいいので、ドラゴンに触れる機会とか設けてみたらどうでしょうか?」

 「そういえば先輩はローグライク系? って言うんですかね。マップがランダム生成されて、そこで魔物とかと戦うゲームよく配信してましたっけ」

 「はい、現在流行中の『Intense Flash』……VRゲームですね。私が火付け役の第一人者と言っても過言ではありません。レヴリッツくんもやって、どうぞ」

 「対人戦ばかりだと飽きますからね。僕が魔物の棲息する神代に生きていたら、竜殺しではなく魔物殺しになっていたんでしょう。さて、始めますか」

 雑談を切り上げ、レヴリッツは車から出る。
 降り立った大地は、荒涼とした山肌。車から降りたレヴリッツとペリに対して無数の視線が降り注いだ。

 どうやらこの山に陣を張る軍隊のようだ。
 竜種の駆除は極めて危険な作戦となるため、こうして国の軍隊が動くこともある。
 軍の中から、上背がある男が歩み寄って来る。軍服の上からでも窺える引き締まった筋肉、レヴリッツが見上げるほどの偉丈夫。彼は切れ長の目でレヴリッツを凝視する。

 「貴殿がレヴリッツ・シルヴァ殿ですか?」

 「は、はい……サーラ理事長の代理で来ますた。よろしくお願いしましゅ」

 男は頷き、勢いよく左手を胸に当てて敬礼した。

 「私はリンヴァルス国陸軍中将、ゼノムと申します」

 「僕は元竜殺し、今はバトルパフォーマーのレヴリッツ・シルヴァと申します。今回は呪竜の駆除に協力させていただきます」

 「サーラ様のご推薦ならば安心して作戦をお任せできます。よろしくお願いいたします。
 そして、そちらの方は……?」

 ゼノムはレヴリッツの背後でびくびくしているペリを見る。
 彼女はいかつい人間が苦手だ。特にゼノムのように人相が少し悪い人は、一層の苦手意識がある。

 「彼女は僕の先輩。今回は呪竜駆除を配信するので、カメラとして来てもらいました」

 「どうも、ペリシュッシュ・メフリオンでし……」

 「な、なるほど……さすがはバトルパフォーマー。強敵である竜種との戦闘でも配信なされると。一応、動物を殺す行為を配信しますので注意書きはしておいた方がよろしいかと。
 しかし、メフリオン……? どこかで……」

 何か考え込んだゼノムだったが、直後に他の軍人から声をかけられる。

 「中将。設営整いました」

 「ふむ。では、作戦会議を行いましょう。今回は専門家であるレヴリッツ殿の麾下きかに入り、呪竜の駆除を決行します。
 呪竜の駆除だけならば軍部だけでも問題ありませんが、今回は可能な限り個体を傷つけずに素材を確保したいのです。そこで竜殺したるレヴリッツ殿の意見をお聞かせ願いたい」

 「はい、任せてください。僕は竜狩りのプロ……I don't stop dragons.」

 付近のテントに入り、レヴリッツは周囲の軍人たちに呪竜討伐作戦を説明し始めた。
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