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3章 猛花薫風事件
7. ただゲームしてるだけ
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レヴリッツがチュートリアルを終えると、移動した先は円形の広場だった。
赤煉瓦で出来た地面、軒を連ねる店の数々。広場の周囲にあるベンチには他のプレイヤーたちが座っており、中央の噴水で雑談している人も見て取れた。
配信者専用のサーバーで活動しているので、視聴者が話しかけてくる心配はない。
辺りをしきりに見渡すレヴリッツの下に、ヨミとリオートが歩いて来た。
「レヴー! こっちこっち!」
「お前……コメントで見たけど、案内人を煽ってキレられたんだって?」
「別に煽ってないよ。僕なら牙狼なんて余裕で倒せるって言っただけ」
「人はそれを煽りと呼ぶんだぜ……」
「まあそんなことより。早く冒険に出ようじゃないか」
……とは言ったものの、どうすればいいのかわからない。
この広場では他のプレイヤーと雑談したり、情報交換ができるそうなので、とりあえず聞いてみることにした。
レヴリッツが尋ねたのは、ベンチに座っている甲冑に身を包んだ人。現実でこんな格好をする人はバトルパフォーマーくらいだが、このゲームでは珍しくない装備らしい。
「あの、すみません」
「うん? どうした?」
「このゲーム始めたばっかりなんですけど、どこから異世界に潜れるんですか?」
「ああ、初心者か……異世界の門は北側にあるよ。西側が武具や道具の販売所、東側がプレイヤー同士の交流所。ここの南広場は……特に何もない。雑談場所だ」
「なるほど、ありがとうございます!」
必要な情報を聞いたレヴリッツは、そそくさと甲冑の人から離れる。ここは配信者専用サーバー。相手も配信している可能性があるので、長話は迷惑になる。
遠くでコメントと会話しているリオートとヨミの下へ帰り、広場の地形を説明。
「北へ」
「えっと、レヴ……まずは装備とか道具とか買った方がいいんじゃない? チュートリアル終えた段階で、お金とかもらったでしょ?」
「え、僕は貰ってないけど」
「「え゛」」
レヴリッツは自分の所持金を確認してみるが、そこには迫真の「0」が記されていた。
二人の話を聞く限り、チュートリアル終了時点で500N(Nはお金の単位)が貰えたらしい。視聴者のコメントを見ると、他のストリーマーも最初に500N受け取っていると言う。
「……やっぱり案内人を煽ったのが悪いんじゃねえか?」
「べ、別に僕は装備とかなくても戦えるし……武器は木の枝でいいし……」
「大丈夫だよレヴ! 私のお金ぜんぶ使っていいからね!!」
「おいヨミ!? レヴリッツなんかに金を渡すな! 碌なことにならねえぞ……」
開始早々、状況が混沌としてきている。
これぞOath、という感じで大変結構なのだが……グダるのはよろしくない。早く戦闘パートを始めないと視聴者から「さっさと進めろ」と叩かれてしまう。
別に叩かれたところでレヴリッツは気にしないのだが。
「まあ、異世界からはいつでも離脱できるんだろ? それなら行ってみてからでも遅くはない。買い物の前に、このゲームの本質を体感してこよう」
「そうだね。よし、行こー!」
レヴリッツとヨミは北へ駆け出して行く。
リオートは二人の背を見つめて、嘆息しながら後を追い出した。ここにペリシュッシュ先輩がいたら……少しはマシな状況になっていただろうか。
「いや」
たぶん二倍増しでカオスになっている。
辿り着いた先には、見上げるほど巨大な扉が鎮座していた。
石灰色の門扉に水色の複雑な紋様が刻まれている。この扉を開くと異世界に繋がるらしい。
門の周囲には武装した他プレイヤーが集っており、初期装備のレヴリッツたちが場違いに感じられる。なんだか居心地が悪いので、さっさと門の中へ入ってしまおう。
「なあレヴリッツ。俺のコメントではまだ異世界に行くなと猛反対されてるんだが。そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
他人の言に耳を傾ける性格ならば、レヴリッツはとうの昔に死んでいる。
「ねえレヴ。探索って四人で行くのが基本らしいけど、三人で大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない」
四人が探索構成の上限人数であり、基本の人数だ。人数不足はすなわち戦闘力の不足を意味することになる。
しかし、今回はあくまで様子見。とりあえず行ってみるのが吉。
不安げな他二名を強引に引っ張り、レヴリッツは大扉を開け放った。
「突撃ー!」
ー----
意識がふわっと飛び、視界が眩い光に閉ざされる。
再び瞳を開いた時、三人は森の中に居た。鬱蒼と茂る木々の合間から光が射しこみ、小鳥が囀る音が聞こえる。耳を澄ませば木の葉が擦れ合う音色。
これが仮想空間だというのだから凄いものだ。
レヴリッツは足先で腐葉土の感触を確かめながら歩き回ってみた。肉体の動かし方はまったくリアルと変わらない。これなら現実と同じ戦い方ができそうだ。
遮蔽物が多い森の中、どこから魔物が飛び出すかわからない。戦略戦の森林地帯のように警戒しなければ。
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~」
「レヴリッツ、あまり先に行くなよ。
……視聴者の反応を見る限り、第1階層で森マップを引くのは珍しくないようだな。初見で何層まで進めるか……」
Intense Flashというゲームにおいて、異世界探索の最高記録は43階層。
バトルパフォーマーの実力で階級分けするならば、アマチュア級が10階層、プロ級が15階層、マスター級が30階層を目標としたいところ。
もっとも、今回のレヴリッツたちは碌に準備をしていないので第1階層すら突破できるか怪しい。
リオートが警戒しつつ周囲を見渡していると、レヴリッツがふと声を漏らした。
「……あれ、ヨミは?」
「ん?」
そういえば一人足りない。
この森に転移してきた直後はいたはずのヨミがいない。
「ヨミはよく迷子になるからなあ。GPSもこのゲームの中じゃ使えないし、どうしたもんかな」
「なんで一歩も動いてないのに迷子になってんだよ……」
リオートが頭を抱えていると、付近の茂みがガサリと動いた。
「……ん? ヨミ、そこにいたのか……っ!?」
不用心に茂みへ接近したリオートへ、小さな影が突進。思わず目を閉じて衝撃を覚悟した彼だったが、咄嗟に動いたレヴリッツに救われることになる。
茂みを動かした犯人……レッサーパンダのような小さな魔物の爪を、レヴリッツが片腕で受け止めていた。
「あれ、攻撃されたのに全く痛くないな……ゲームだからか」
魔物の鋭利な爪に抉られた指先を呑気に眺めるレヴリッツ。リオートは慌てて氷剣を作り出し、魔物を貫く。
致命の一撃を受けた魔物は黒い塵となって消えていった。
「ビビったぜ……第1階層は敵が弱いとはいえ、油断は禁物だな。お前のお陰で助かった」
「うん、僕も危機感が欠如してたみたいだ。他の人の配信で見てるのと、こうして実際に戦場に立ってみるのはかなり違うね。
……で、ヨミはどこに?」
レヴリッツは行方不明になったヨミを探し始める。
彼女の気配を追えば見つかるはずだ。
「こっちだ」
木々の合間を縫って先陣を切る彼に、リオートが走って追従する。先程のように、魔物がいつ飛び出してくるかわからない。警戒心をマックスまで引き上げ、レヴリッツについて行った。
しばらく進むと、森が開けた。
光量が一気に増して川べりに出ると同時、レヴリッツが立ち止まる。
「レヴリッツ、どうした?」
「あれ……」
彼は呆然と川の先を指さす。つられて向こうを見たリオートの視界には、とんでもない光景が映っていたのだ。
「レヴー! たーすーけーてー!!」
──歩くキノコにヨミが連れ去られていた。
キノコに手足が生えた魔物が、ヨミを担いで遠くへ行進している。アレも魔物……なのだろうか。
「お、おい!? レヴリッツ、ヨミが連れ去られるぞ!? 早く助けに行こう!」
駆け出そうとしたリオートの腕を、レヴリッツが強く掴む。
「あのまま観察してよう。おもしろいから」
「」
絶句。
この男……レヴリッツ・シルヴァは仲間を何だと思っているのか。リオートは彼の神経を疑った。
いやしかし、これはゲーム。配信者として最優先すべきは、面白さなのかもしれない。このままヨミを放置した方が面白くなりそうだ。
「……そう、だな。俺に足りないのは……仲間を犠牲にする覚悟、なのかもしれない」
「草」
「レーヴー!? リオートー!!」
どんどんヨミと歩くキノコが遠ざかってゆく。
そもそも、レヴリッツはヨミがあの魔物を倒せることなど知っているのだ。それでもヨミが全力で抵抗しないということは、本人もネタで楽しんでいるということ。
リオートだけは深刻そうに渋面しているが。
「そういえば、魔物って食えるんかな」
「何……?」
「ヨミー! その歩くキノコ、炎で焼いてみてー!」
キノコにホールドされながらも指令を受け取ったヨミは、即座にレヴリッツの意図を悟る。そろそろキノコに連行される遊びを止めろ、と言われているのだ。
彼女は若干の名残惜しさを覚えつつも能力で自分を抱えるキノコを燃やす。
「ごめんねえ……めらめら」
やはりキノコだけあってよく燃える。白い胴体から手足、そして真っ赤な傘の部分まで明々と。
燃えるキノコを見てレヴリッツがものすごい勢いで疾走してくる。
「よし、食べてみよう!」
「え!? 魔物って食べられないよ!?」
「なぜ食べたことがないのにわかるんだい? このキノコは美味しそうだよ」
躊躇せずに焦げたキノコの胴体にかぶりつくレヴリッツ。ヨミとリオートが止める暇もなかった。
キノコを口に含むと同時、レヴリッツは首を傾げる。
──味がない。いくら咀嚼しても何も刺激がなく、まるで空気を食んでいるかのよう。それどころか質量すらも口内に感じないのだ。
ごくりとキノコを嚥下して、彼は溜息をつく。
「やれやれ……無味だよ。これじゃあ栄養価もないだろうな。
所詮はゲームってことk……お゛ぇ゛ぇぇえ゛っっ゛!!!」
瞬間、レヴリッツが倒れて死亡状態のステータスになる。
周囲には七色のゲロが飛び散っていた。
赤煉瓦で出来た地面、軒を連ねる店の数々。広場の周囲にあるベンチには他のプレイヤーたちが座っており、中央の噴水で雑談している人も見て取れた。
配信者専用のサーバーで活動しているので、視聴者が話しかけてくる心配はない。
辺りをしきりに見渡すレヴリッツの下に、ヨミとリオートが歩いて来た。
「レヴー! こっちこっち!」
「お前……コメントで見たけど、案内人を煽ってキレられたんだって?」
「別に煽ってないよ。僕なら牙狼なんて余裕で倒せるって言っただけ」
「人はそれを煽りと呼ぶんだぜ……」
「まあそんなことより。早く冒険に出ようじゃないか」
……とは言ったものの、どうすればいいのかわからない。
この広場では他のプレイヤーと雑談したり、情報交換ができるそうなので、とりあえず聞いてみることにした。
レヴリッツが尋ねたのは、ベンチに座っている甲冑に身を包んだ人。現実でこんな格好をする人はバトルパフォーマーくらいだが、このゲームでは珍しくない装備らしい。
「あの、すみません」
「うん? どうした?」
「このゲーム始めたばっかりなんですけど、どこから異世界に潜れるんですか?」
「ああ、初心者か……異世界の門は北側にあるよ。西側が武具や道具の販売所、東側がプレイヤー同士の交流所。ここの南広場は……特に何もない。雑談場所だ」
「なるほど、ありがとうございます!」
必要な情報を聞いたレヴリッツは、そそくさと甲冑の人から離れる。ここは配信者専用サーバー。相手も配信している可能性があるので、長話は迷惑になる。
遠くでコメントと会話しているリオートとヨミの下へ帰り、広場の地形を説明。
「北へ」
「えっと、レヴ……まずは装備とか道具とか買った方がいいんじゃない? チュートリアル終えた段階で、お金とかもらったでしょ?」
「え、僕は貰ってないけど」
「「え゛」」
レヴリッツは自分の所持金を確認してみるが、そこには迫真の「0」が記されていた。
二人の話を聞く限り、チュートリアル終了時点で500N(Nはお金の単位)が貰えたらしい。視聴者のコメントを見ると、他のストリーマーも最初に500N受け取っていると言う。
「……やっぱり案内人を煽ったのが悪いんじゃねえか?」
「べ、別に僕は装備とかなくても戦えるし……武器は木の枝でいいし……」
「大丈夫だよレヴ! 私のお金ぜんぶ使っていいからね!!」
「おいヨミ!? レヴリッツなんかに金を渡すな! 碌なことにならねえぞ……」
開始早々、状況が混沌としてきている。
これぞOath、という感じで大変結構なのだが……グダるのはよろしくない。早く戦闘パートを始めないと視聴者から「さっさと進めろ」と叩かれてしまう。
別に叩かれたところでレヴリッツは気にしないのだが。
「まあ、異世界からはいつでも離脱できるんだろ? それなら行ってみてからでも遅くはない。買い物の前に、このゲームの本質を体感してこよう」
「そうだね。よし、行こー!」
レヴリッツとヨミは北へ駆け出して行く。
リオートは二人の背を見つめて、嘆息しながら後を追い出した。ここにペリシュッシュ先輩がいたら……少しはマシな状況になっていただろうか。
「いや」
たぶん二倍増しでカオスになっている。
辿り着いた先には、見上げるほど巨大な扉が鎮座していた。
石灰色の門扉に水色の複雑な紋様が刻まれている。この扉を開くと異世界に繋がるらしい。
門の周囲には武装した他プレイヤーが集っており、初期装備のレヴリッツたちが場違いに感じられる。なんだか居心地が悪いので、さっさと門の中へ入ってしまおう。
「なあレヴリッツ。俺のコメントではまだ異世界に行くなと猛反対されてるんだが。そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
他人の言に耳を傾ける性格ならば、レヴリッツはとうの昔に死んでいる。
「ねえレヴ。探索って四人で行くのが基本らしいけど、三人で大丈夫?」
「大丈夫だ、問題ない」
四人が探索構成の上限人数であり、基本の人数だ。人数不足はすなわち戦闘力の不足を意味することになる。
しかし、今回はあくまで様子見。とりあえず行ってみるのが吉。
不安げな他二名を強引に引っ張り、レヴリッツは大扉を開け放った。
「突撃ー!」
ー----
意識がふわっと飛び、視界が眩い光に閉ざされる。
再び瞳を開いた時、三人は森の中に居た。鬱蒼と茂る木々の合間から光が射しこみ、小鳥が囀る音が聞こえる。耳を澄ませば木の葉が擦れ合う音色。
これが仮想空間だというのだから凄いものだ。
レヴリッツは足先で腐葉土の感触を確かめながら歩き回ってみた。肉体の動かし方はまったくリアルと変わらない。これなら現実と同じ戦い方ができそうだ。
遮蔽物が多い森の中、どこから魔物が飛び出すかわからない。戦略戦の森林地帯のように警戒しなければ。
「テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~」
「レヴリッツ、あまり先に行くなよ。
……視聴者の反応を見る限り、第1階層で森マップを引くのは珍しくないようだな。初見で何層まで進めるか……」
Intense Flashというゲームにおいて、異世界探索の最高記録は43階層。
バトルパフォーマーの実力で階級分けするならば、アマチュア級が10階層、プロ級が15階層、マスター級が30階層を目標としたいところ。
もっとも、今回のレヴリッツたちは碌に準備をしていないので第1階層すら突破できるか怪しい。
リオートが警戒しつつ周囲を見渡していると、レヴリッツがふと声を漏らした。
「……あれ、ヨミは?」
「ん?」
そういえば一人足りない。
この森に転移してきた直後はいたはずのヨミがいない。
「ヨミはよく迷子になるからなあ。GPSもこのゲームの中じゃ使えないし、どうしたもんかな」
「なんで一歩も動いてないのに迷子になってんだよ……」
リオートが頭を抱えていると、付近の茂みがガサリと動いた。
「……ん? ヨミ、そこにいたのか……っ!?」
不用心に茂みへ接近したリオートへ、小さな影が突進。思わず目を閉じて衝撃を覚悟した彼だったが、咄嗟に動いたレヴリッツに救われることになる。
茂みを動かした犯人……レッサーパンダのような小さな魔物の爪を、レヴリッツが片腕で受け止めていた。
「あれ、攻撃されたのに全く痛くないな……ゲームだからか」
魔物の鋭利な爪に抉られた指先を呑気に眺めるレヴリッツ。リオートは慌てて氷剣を作り出し、魔物を貫く。
致命の一撃を受けた魔物は黒い塵となって消えていった。
「ビビったぜ……第1階層は敵が弱いとはいえ、油断は禁物だな。お前のお陰で助かった」
「うん、僕も危機感が欠如してたみたいだ。他の人の配信で見てるのと、こうして実際に戦場に立ってみるのはかなり違うね。
……で、ヨミはどこに?」
レヴリッツは行方不明になったヨミを探し始める。
彼女の気配を追えば見つかるはずだ。
「こっちだ」
木々の合間を縫って先陣を切る彼に、リオートが走って追従する。先程のように、魔物がいつ飛び出してくるかわからない。警戒心をマックスまで引き上げ、レヴリッツについて行った。
しばらく進むと、森が開けた。
光量が一気に増して川べりに出ると同時、レヴリッツが立ち止まる。
「レヴリッツ、どうした?」
「あれ……」
彼は呆然と川の先を指さす。つられて向こうを見たリオートの視界には、とんでもない光景が映っていたのだ。
「レヴー! たーすーけーてー!!」
──歩くキノコにヨミが連れ去られていた。
キノコに手足が生えた魔物が、ヨミを担いで遠くへ行進している。アレも魔物……なのだろうか。
「お、おい!? レヴリッツ、ヨミが連れ去られるぞ!? 早く助けに行こう!」
駆け出そうとしたリオートの腕を、レヴリッツが強く掴む。
「あのまま観察してよう。おもしろいから」
「」
絶句。
この男……レヴリッツ・シルヴァは仲間を何だと思っているのか。リオートは彼の神経を疑った。
いやしかし、これはゲーム。配信者として最優先すべきは、面白さなのかもしれない。このままヨミを放置した方が面白くなりそうだ。
「……そう、だな。俺に足りないのは……仲間を犠牲にする覚悟、なのかもしれない」
「草」
「レーヴー!? リオートー!!」
どんどんヨミと歩くキノコが遠ざかってゆく。
そもそも、レヴリッツはヨミがあの魔物を倒せることなど知っているのだ。それでもヨミが全力で抵抗しないということは、本人もネタで楽しんでいるということ。
リオートだけは深刻そうに渋面しているが。
「そういえば、魔物って食えるんかな」
「何……?」
「ヨミー! その歩くキノコ、炎で焼いてみてー!」
キノコにホールドされながらも指令を受け取ったヨミは、即座にレヴリッツの意図を悟る。そろそろキノコに連行される遊びを止めろ、と言われているのだ。
彼女は若干の名残惜しさを覚えつつも能力で自分を抱えるキノコを燃やす。
「ごめんねえ……めらめら」
やはりキノコだけあってよく燃える。白い胴体から手足、そして真っ赤な傘の部分まで明々と。
燃えるキノコを見てレヴリッツがものすごい勢いで疾走してくる。
「よし、食べてみよう!」
「え!? 魔物って食べられないよ!?」
「なぜ食べたことがないのにわかるんだい? このキノコは美味しそうだよ」
躊躇せずに焦げたキノコの胴体にかぶりつくレヴリッツ。ヨミとリオートが止める暇もなかった。
キノコを口に含むと同時、レヴリッツは首を傾げる。
──味がない。いくら咀嚼しても何も刺激がなく、まるで空気を食んでいるかのよう。それどころか質量すらも口内に感じないのだ。
ごくりとキノコを嚥下して、彼は溜息をつく。
「やれやれ……無味だよ。これじゃあ栄養価もないだろうな。
所詮はゲームってことk……お゛ぇ゛ぇぇえ゛っっ゛!!!」
瞬間、レヴリッツが倒れて死亡状態のステータスになる。
周囲には七色のゲロが飛び散っていた。
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