忘れじの契約~祖国に見捨てられた最強剣士、追放されたので外国でバトル系配信者を始めます~

朝露ココア

文字の大きさ
44 / 105
3章 猛花薫風事件

11. 造花の誓い

しおりを挟む
 ペリが病院に赴く前日のこと。
 ヨミとのコラボ配信を終え、二人は共にテーブルを囲んでいた。

 ヨミの部屋には無数のビール缶が転がっていた。ヨミは酒を飲まないので、全てペリが飲み干した物である。
 初コラボの夜、二人は部屋でくだらない雑談に耽っていた。

 「……でね、案件先でコラボ予定だったパフォーマーが炎上して! 私の案件がなくなったんですよおおおおおおおおお! と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛! 私のせいじゃないのに!!
 ……炎上の理由が職業差別っていうかなり触れづらいものだったんですよね」

 ペリは顔を真っ赤にして愚痴マシンガンを連射していた。
 先輩の愚痴を受け続けるヨミは、笑顔でうんうんと頷く。バトルパフォーマーの世知辛さがペリの言葉には凝縮されており、筆舌に尽くしがたい苦悶が垣間見える。

 「たしかに……投げ銭もありがたいですけど、利益の大半を占めるのは案件とかグッズですもんね。案件が消えたらショックです。私はまだ案件とか来たことないけど、シュッシュセンパイくらいの大物になるといっぱい来るんですよね?」

 「いやーそうでもないっすよ。そもそもアマチュア級パフォーマーに案件を出す企業なんて、そこまで大きくないですし。報酬の額もそんなに大きくないです。ほとんどの案件はマスター級の奴らが独占してやがりますよ。
 あと素行も大事ですペリ。クリーン(笑)路線だと案件がたくさん来るみたいですけど、私のところには来ません。一応クリーンな感じ出してるんですけど。……なんでしょうかね、性格の悪さを見透かされてるんですかね」

 「そうですねー……大丈夫ですよ! レヴの方が性格悪いですから!」

 アルコールに毒されて朦朧とする意識の中、ペリの鼓膜を叩いた言葉。
 曰く、ペリよりもレヴリッツの方が性格が悪いという。自分の性根がクソみたいに腐っていることを自覚している手前、彼女はヨミの言葉が信じられない。

 「レヴリッツくんって性格悪いんですか? ウザいけど悪くはないと思います。まあ、ヨミさんの方が付き合い長いんで……私はにわかですね」

 「レヴの本性は悪なのです。クズじゃないけど、優しくもない……根っからの悪人です。でも、レヴの悪は人を導く悪ですから。困っている人がいたら、気まぐれにその人を助けてくれるのですよ。関わった人が前へ進めるように、しっかりと責任を持ってくれます。
 今、シュッシュセンパイが苦しんでいるなら……レヴもレヴなりに助けてくれているはずです。私たちがこうして飲んでいる瞬間も、レヴは陰で動いているでしょう」

 酔っているせいか、ペリはヨミの言葉が解せない。いや、たぶん素面でも理解できないだろう。

 「はぇーすっごい。私が寝てる間に、レヴリッツくんがぜんぶ解決してくれたらいいんですけぉ……う゛」

 「だからどうか、忘れないでくださいね。あの人は……」

 ー----

 破られるはずのない虚構が破られ、レヴハルトの思考は閉ざされた。
 ペリシュッシュは確かに自分を「レヴリッツ」と呼んだのだ。自らの偽装に一切の瑕疵かしはなく、立ち振る舞いは欺瞞ぎまんに満ちていた。
 今、ここに立つ大罪人が……どうしてレヴリッツだと看破できるだろうか。

 「……聞き覚えのない名前だ」

 苦し紛れに彼は白を切る。
 依然としてペリシュッシュの震えは収まらない。彼女の正面には、首元に手を当てた悪魔の少年が佇んでいる。目の前の少年が為したとされている・・・・・悪事を知っているからこそ、恐怖するのだ。
 彼が外国のシロハで手にかけた人数は20名以上。国の英雄すらも殺した極悪人としてシロハ国では誹りを受け……死刑に等しい生存不可地への追放刑となった。

 「い、今……私の妹に、エリフに……接触するとしたら……レヴリッツくんしかいません。私は、あなたのことをよく知りませんけど……前へ進むために助けてくれることは、知っています」

 「はぁ……俺はレヴハルト・シルバミネ。名も知らない少女よ、君が知っての通り……俺はシロハ国の追放刑囚。これ以上関わると、君を斬るよ。目障りだから」

 レヴハルトはわずかな殺気をペリシュッシュにぶつけ、入り口から退かそうとする。常人を追い払うには十分すぎる気て。
 だが、ペリシュッシュは退かなかった。蒼の瞳がレヴハルトを捉える。まだ身体の震えは収まっていない。何が彼女をその場に縫い留めるのか、恐怖で動けないわけではない。

 「では、レヴハルト・シルバミネさん。
 あなたは……エリフの傍で何をしていたのですか?」

 「……この刀で彼女を殺そうとしていた」

 「さっき言っていたことと矛盾しているじゃないですか。さっき……レヴハルトさんは、「何もする気はない」と言った。
 あなたは……私の妹を……す、救おうとしていたんですよね」

 その事実は認められない。
 他人を救うなど反吐が出る。誰かのために生きるなど、救いをもたらすなど。レヴハルトの人生には射し込まない因果だ。

 「憶測、虚妄、空想。阿保らしいね。俺をどこかの誰かに重ねて、仕舞いには下らない妄言を吐くとは。
 いいか、もう一度言う。そこを退け。さもなくば赤い花をこの病室に飾ることになる」

 より一層強い殺気を放ち、レヴハルトは刀を金打きんちょうする。
 ペリシュッシュの背筋にすさまじい悪寒が駆けた。目の前の少年は怪物だ。そう錯覚させられるほどに恐ろしい。
 しかし、ヨミとの会話が彼女の頭の片隅には残っていた。

 『あの人は……演じているだけなんです。バトルパフォーマーとしての姿も、悪人としての姿も、ぜんぶ仮面ですから。表面だけの嘘に騙されないでくださいね』

 酒に溺れた意識の中で、最後に聞き取った言葉。
 今、この瞬間に。

 彼女はレヴハルトに誰よりも寄り添ってきた少女の言葉を思い出した。

 「──別に嘘つきでもいいんですよ。
 本物の花より、造花の方が綺麗なこともありますし」

 ペリシュッシュは取り落とした花束を拾い上げる。
 束ねられた花は造花。

 「造花だって遠目に見れば美しい。レヴハルトさんがレヴリッツくんとして振る舞っている間も、美しいパフォーマンスを魅せてくれます。
 あなたの行為が本心にらないものだとしても……いいじゃないですか。だって、あなたは誰かを表面上でも助ける行為をしているんですから」

 いつしか震えは止まっていた。
 レヴハルトの前から退くことなく、彼女は前へ進む。そしてレヴハルトを見上げ、花束を押しつけた。

 「この際、あなたがレヴハルトでもレヴリッツでも、どっちでもいいのです。
 『私を助けてくれる人』……それでいい。知っていますよ。あなたは気まずさや後ろめたさを感じた時、首に右手を当てるのです。今のあなたのように」

 「っ……!」

 図星を突かれた。
 今この瞬間、ペリシュッシュに指摘されるまで気づかなかった癖だ。
 しかし過去の自分を見つめ直せば、当たり前のように想起できてしまう。彼女の言う通り、レヴハルトには特定の瞬間に首へ右手を当てる癖があった。レヴリッツとして振る舞う時にも自然と行っていた動作だ。

 もう言い逃れは不可能だろうか。
 だとすれば、ペリシュッシュを口封じに殺すしかない。なまじ彼女が聡明で勇気に満ちているばかりに、レヴハルトは彼女を抹消しなければならなかった。

 「……ペリ先輩」

 「はい」

 「あなたを殺します」

 接近したペリシュッシュを引き寄せ、黒ヶ峰の刃を首元に当てる。
 首元に死を運ぶ刃の冷たさを感じながらも、彼女が吐く言葉は変わらない。

 ただ一つ、願いを。

 「わかりました。でも、お願いしてもいいですか?
 どうか……妹を助けてください。もう、頼れる人が……いないんです」

 「…………」

 強い意志を湛えた瞳で、ペリシュッシュはレヴハルトを見つめた。
 紅と蒼の瞳が至近距離で交差する。

 どうしてここまで愚かになれるのか。レヴハルトには理解できない生き方だ。
 だが、彼自身も自覚していなかった。自分もまた他人を助ける生き方を選んでしまっていると。

 無意識の自己嫌悪。彼も気づかぬ深奥で、二人は酷似する本性を持っていたのだ。
 あまりの愚かしさに首を斬りたくなる。誰かのために自分を犠牲にするなど、それはかえって自己保身に見えてしまう。

 だがレヴハルトは記憶のどこかで「自己犠牲の人々」を知っていた。その人々と何処で出会ったのか、どんな人だったのかは思い出せないが、たしかに知っているのだ。

 この女の首を、斬ればいい。斬ってしまえば楽になれる。
 ──首を、

 「……チッ」

 憤懣ふんまんと共に、ペリシュッシュの身体を離す。
 黒ヶ峰をそっと降ろして彼は柄を握り締めた。

 「エリフテル・メフリオンの解呪に協力する代償として、誓ってもらおう」

 「……はい。何なりと」

 「レヴリッツ・シルヴァの正体を誰にも明かさないこと。レヴハルト・シルバミネが生きていることを誰にも口外しないこと。これが条件だ」

 人間の心など信用できない。
 レヴハルトの価値観を形成する大前提。人間は自らの利益のためならば喜々として他人を売り、拷問を受ければ容易く情報を吐く。
 そんな人間の心など、信ずるに値しない。

 それでも彼が契約を強要してしまったのは……どうしてなのだろうか。

 「ふふっ……言われなくてもわかっていますよ。あなたはこれからも大切なチームの仲間で、友達です。
 だから……これからもあなたの傍にいさせてもらえませんか?」

 「……気持ち悪いな」

 レヴハルトは悪態を吐いたが、ペリシュッシュを殺さないことが肯定の意を示している。ようやく彼女はヨミの言葉の本質を理解できたのだ。

 彼女は花束をそっとエリフテルへ捧げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】 それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。 剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず… 盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず… 攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず… 回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず… 弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず… そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという… これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。 剣で攻撃をすれば勇者より強く… 盾を持てばタンクより役に立ち… 攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが… それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。 Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに… 魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし… 補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に… 怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。 そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが… テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので… 追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。 そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが… 果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか? 9月21日 HOTランキング2位になりました。 皆様、応援有り難う御座います! 同日、夜21時49分… HOTランキングで1位になりました! 感無量です、皆様有り難う御座います♪

【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。

夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!

防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました

黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった! これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...