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3章 猛花薫風事件
20. ペリペリマジック総集編
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熱い。
ひたすらに暑く、熱い。
バトルターミナル、中央闘技場。
ペリシュッシュ・メフリオンは舞台へと続く通路で息を呑んでいた。
「いやちょっと……あの、視聴者多くないですか?」
協会の公式チャンネルでは、『ペリシュッシュ・メフリオン昇格戦』として配信が行われている。昇格戦はバトルパフォーマーにとって一世一代の大舞台。業界では最も衆目を集めるイベントだ。
公式チャンネルで配信されることもあって、視聴者が多く集まる。今回はアマチュア界の大物が昇格するということもあり、とりわけ視聴者が多かった。闘技場にも席の空白がないほどの注目度だ。
合計で約十三万人。
これほどの大人数を前にしてのパフォーマンス……緊張は並々ならぬものだ。
だが──
「やりますよ私は(震え声)」
そう、やるしかないのだ。
進路しか彼女には見えていない。
『皆さま、お待たせいたしました!
これよりペリシュッシュ・メフリオンのプロ級昇格戦を開始いたします!』
通路の先からアナウンスが響き渡る。
ああ、もうすぐ……闘いが始まる。準備は十全に整えた。
声援も十分に受け取った。
方針を転換してから人気は少し落ちたけど、努力して盛り返す。アンチスレにも自演で擁護を書き込んだ。あらぬことを書き込んだ輩には情報開示を請求した。
やるべきことは……全部やった。
『それでは挑戦者の入場です!
東側、ペリシュッシュ・メフリオンー!』
名前が呼ばれた。足を踏み出す。
通路に吹き抜ける熱風を肩で切り、舞台へ飛び込む。銀色の髪を靡かせて、正面を見据えて歩みを進めた。
一気に視界が開ける。眩い白光と共に、巨大なバトルフィールドが姿を見せた。
ペリは中央まで進みながらぐるりと周囲を見渡す。天空に浮かぶドローンの隙間から、Oathの面々と……隣に座るエリフテルが顔を覗かせた。
大丈夫、おねえちゃんは勝つ。視線で訴えた彼女は、正面に向き直る。
『続きまして、試験官の入場です!
西側──』
試験官は、今この瞬間まで知らされていない。
はたして誰を相手にするのか。誰が相手でも、
『──イオ・スコスコピィ!』
「…………」
誰が相手でも、勝つ。
ペリの正面から姿を現したのは、セミロングの茶髪を揺らす少女。彼女はゆったりとした足取りで舞台の中央へ上がって来る。
誰がこんな悪趣味な対戦カードを組んだのか。眼前に立ったイオは……かつてペリと同じチームを組んでいた友人だ。
「……イオ」
「ペリシュ、おいすー。なんか草だよね、これ。なんでウチとアンタが当たるのかって……ウチも昨日、めちゃ悩んだんだけどさ。逆によかったかなって」
「よかった?」
「そ。ウチさ、プロになってから一年間、ペリシュの配信とかパフォーマンス見てないんよね。なんでアンタがプロへの昇格を拒んでいたのか、なんで今になって昇格しようとしたのか……アンタがどれだけ成長したのか……見せてよ、ね?」
成長。そう呼べるほどの伸びが、イオと別れてからの期間であったのか。
実力的にはパフォーマンスをサボっていたぶん、落ちているかもしれない。しかし決定的に変わった点がペリにはある。
「私、強くなったよ。鋼通り越してダイヤモンドメンタルになったと思う。何万人もの視聴者を前にしたプレッシャーも、アンチの罵倒も、キモい奴の粘着ストーキングも、全部無視できるくらい。
昔のひたむきで真面目な私はもういないけど……変わった私を見て!」
「お、なんかすごいやる気じゃん? 久々に見たよ、アンタのそんな顔。
──イオ・スコスコピィ」
イオは一歩下がって、名乗りを上げる。
名乗り返せば試合の始まり。
ペリは念入りにパフォーマンス準備が整っていることを確認し、言葉を紡ぐ。
観客の熱狂の後、わずかに沈黙が流れた。
「ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! はたしてペリシュッシュ・メフリオンは昇格を迎えることができるのか……
──試合開始です!』
盛大なフラッシュと共に、試合の開始が宣言される……はずだった。
ドローンの光が七色に輝き、巨大なモニターに中継が映され、ジェットスモークが上がる……それが昇格戦ならではの豪華な演出のはずだったのだ。
『おっと、これは……どういうことでしょうか!?』
だが、今回は違う。
試合開始と同時に全ての電源が落ちた。客席に闇が落ち、一気に視界が閉ざされる。ただ響くのはドローンの飛空音、そして観客のどよめき。
時刻は夜。陽光もなく、これでは何も見えない。
「レヴ、これなに……?」
観客席で観戦していたヨミが隣のレヴリッツに尋ねる。
「ペリ先輩のジャミング魔術だよ。ドローンがまだ飛んでいるし、モニターも暗闇を映してるだけで機能はしているから、電力を断っているわけじゃない。魔道具によって誘発された……光を吸収し、歪曲させる暗幕だろう」
相変わらずぶっ飛んだことをする先輩だ。
レヴリッツは心中で呆れながら時を待った。
ぱんぱかぱっぱっぱーん!!!!!!!!!!
やがて間の抜けた爆音ファンファーレと共に、スポットライトが舞台の一点に当てられる。
「皆さま、本日はご観覧いただき、誠にありがとうございます!
さてさて、ペリシュッシュ・メフリオンがお送りするマジックショーの開催です!」
中空に立つペリを、観客たちは呆然として見上げていた。まさに絶句そのもの。
彼女を浮かせる糸や魔力は見当たらない。
「これより披露させていただきますのは……『ペリペリマジック総集編』でございます!
こちらのマジック、助手くんの力がどうしても必要でして……
おっ、そちらの可愛らしいお嬢さん! お力添えをお願いしても?」
もう一人、スポットライトを浴びた存在。
舞台に立つイオは眩い光を浴びて首を傾げた。
「え、なんこれ……草。ねえペリシュ、アンタってこんな人だっけ?」
「ありがとうございます! どうやら協力していただけるようですね!」
「え、マジ頭だいじょぶそ? この一年で何があったん?
前のアンタは普通に魔術師してたよね。奇術師にクラスチェンジ? てか話聞け」
とてもじゃないが真剣勝負とは思えない入り。
これがペリのアイデンティティ。人の話を聞かないのもアイデンティティ。
ライトを浴びながら、イオはただ武器のチャクラムを構えていた。
これ、攻撃してもええんかな。バトルパフォーマンスなら相手の魅せ場は邪魔しちゃダメだ。
「さあさあ、一応こちらの演目……バトルパフォーマンスの最中に披露しております。
勝敗は肝心要の分岐点。私も勝たなければなりません……が!」
パンパンパン、と客席を照らす光が灯されてゆく。
まだ暗いが、向かい合う二人を映像で撮影できる程度には明るくなった。観客も問題なく観戦できる。
ペリはふわふわと地面に着地し──同時、謎の箱が天空より降り注いだ。
「……!」
奇襲を警戒したイオだが、箱から何も出て来る気配はなし。
手足を畳んで一人だけ入れるかどうかと言ったサイズの赤い箱。
続いて、新たな物体が天から降ってきた。
合計五本、幅広の剣。
「え、なんこれ」
「これより私は……この箱の中に入ります! お嬢様にはそちらの剣を箱に刺していただこうと思うのです……!
ああ、なんということでしょう! 私は剣に串刺しにされ、輝かしい勝利を失ってしまうでしょう!」
「すげえ……まるで闘ってる気がしない。やるじゃん、ウチも立ってるの疲れてきたレベル。もしかして嫌がらせしてる?」
相変わらず話を聞かないペリ。彼女は箱へ接近し、蓋を開けて中をカメラに見せつけた。
この通り、中には何の仕掛けもない。
「ご覧のとおり、中には何もございません!
じゃ、入るんで。あとよろしく」
ペリは淡々と言い放ち、手足を折り曲げて箱へ突っ込んでいった。
バタンと蓋が勢いよく閉められる。後に残ったのは静寂のみ。
「やば。え、あのさ……一応ウチもプロだけどさ、こんな状況になったことないんよね。何万人の前で行動を丸投げされるウチの身にもなってくんない?
なあなあ、ペリシュー?」
箱に声を投げかけるも応答はない。
イオはこの奇術師が恐ろしかった。アマチュアとして同じチームで活動していた頃は、常に万全を期すチームの軍師役だったと言うのに……こんな無様な女へ進化(?)してしまったのだ。
ペリの人となりを知るぺリスナーからすれば、日常茶飯事の光景。しかし昇格戦は「お客様」が多い。長らくペリと疎遠になっていたイオも「お客様」だ。
彼女の珍奇な行動に、視聴者の多くは呆然として押し黙った。
「ま、まあ……やったるよ。うん……」
イオは剣を地面から引き抜き、警戒まじりに箱へ歩み寄る。
周囲に罠の魔力気配はない。爆発などの奇襲に備え、魔装を展開しておく。
「それじゃ、いきまーす。いっぽんめー」
視聴者にゆるりと宣言して、一本目の剣を箱に思いっきり突き刺した。
客席から悲鳴、どよめきが上がる。イオの感触では何かに剣が触れた気はしない。
剣は箱の真ん中にぶっ刺さっており、避けるのは難しそうだ。マジックということもあり、種や仕掛けがあるのだろう。
仮に剣がペリに触れたとしてもセーフティ装置が作動する。
イオは安心して二本目、三本目、四本目と剣を次々刺していった。
「おーすげ。右、左、真ん中、下……いろんなとこ刺したけど、ペリシュだいじょぶそ。
んじゃ、最後の剣ぶっ刺すよー」
剣を刺すほどに観客も慣れたのか、どよめきも小さくなっていく。
そろそろ展開を変えたいところ。イオは手早く剣を手に取り、箱のまだ空いてる部分に狙いを定めて突き出した。
「そいやー。うん、相変わらず何も起こんなくて草。
まあ、この箱開けてみればわかるんかな? じゃ、いくよ」
いつまで茶番は続くのか、はたまたパフォーマンス終了までずっとこんな調子なのか。
まあいいかと、イオは慎重に箱の蓋を開けた。中に人影はない。
瞬間、無数の光が溢れ出す。
七色の燐光が箱より飛び出し……天へ向かって高く射出された。流れ星のように煌めく光は天空にて爆ぜ、大きな花を描く。
立ち昇った光を観客たちは目を輝かせて凝視し、感嘆の声を上げた。
「す、すごい……花火だ!」
「きれい……」
「すごい演出だな!」
色とりどりの火花が弾け、輝き、拡散して空を覆う。
ほとんどの視聴者・観客は綺麗な光景に目を輝かせて興奮していた。しかし、実際に戦場に立つイオは違う感情を抱く。
「あー……マジかこれ。やばすぎて草」
普通の花火は、拡散して空に散っていくものだ。しかし視界に広がる花火はどうだろうか。
爆発した後も天空に渦巻き、次々と連鎖しているのだ。七色の光帯はさながら天女の羽衣。しからば羽衣を纏う天女が必要だ。
花火が全て爆散し、一つの帯となった後。
天空に花吹雪と共に舞い降りた奇術師。彼女は光を纏い、カメラに向かってウインクする。
「以上、『パンドラの箱マジック』でした! 箱から飛び出したのは美しい花火と、勝利への架け橋……!
さてさて、準備は整いました。次なる演目へ向かいましょう!」
ペリが纏った七色の帯は、魔力を纏って力へ変える『魔装』の完成系……
──《空装》
イオが咄嗟に箱の中を凝視してみると、底には不可思議な紋様が刻まれていた。魔術には疎い彼女だが、一つ理解できることがあった。
ペリはこの刻印を用いて魔力の流れを急加速させ、箱の中で魔装を完全構築したのだ。剣をどうやって回避したのかは不明だが……厄介なことになった。
イオは相手の準備を完全に整えさせてしまったのだ。
「ふざけてるように見えて、アンタ中々ずる賢いね。……ああ、そかそか。
真面目さ捨てて、ずるさを手に入れたんだ。おまけに視聴者も楽しませられる演出付き。ペリシュ、おもろいこと考えるなあ……」
「ふふふ。やっぱりバトルパフォーマンスは視聴者を楽しませることが一番なので。もちろんイオも、私と組んでた時より成長してますよね?
……さあ、それでは次の演目です!
お待たせしました、これよりお見せするは……『バトルマジック』! ここから私、逃げも隠れもいたしません。正面切っての闘いの中でマジックの数々を披露しましょう!」
ペリは堂々の宣言をして、ゆっくりと地面に降りた。喝采が巻き起こる。
彼女の周囲に渦巻くは、この上なく凝縮された魔力の帯──《空装》。この難敵をどう攻略するか……イオは思案しながらも不敵に笑う。
「おっけー。ウチ、本気出すから。言っとくけどウチの本気は……怖いよ?」
「ふふふ……構いませんとも。本気を上回ってこそのバトルパフォーマンス!
さあ、華麗に踊りましょう!」
これより幕を開けるは大奇術の舞台。
魔術と奇術織り交ざる、熱き戦場。
両者は高揚に笑い合い、舞台に踊る。
ひたすらに暑く、熱い。
バトルターミナル、中央闘技場。
ペリシュッシュ・メフリオンは舞台へと続く通路で息を呑んでいた。
「いやちょっと……あの、視聴者多くないですか?」
協会の公式チャンネルでは、『ペリシュッシュ・メフリオン昇格戦』として配信が行われている。昇格戦はバトルパフォーマーにとって一世一代の大舞台。業界では最も衆目を集めるイベントだ。
公式チャンネルで配信されることもあって、視聴者が多く集まる。今回はアマチュア界の大物が昇格するということもあり、とりわけ視聴者が多かった。闘技場にも席の空白がないほどの注目度だ。
合計で約十三万人。
これほどの大人数を前にしてのパフォーマンス……緊張は並々ならぬものだ。
だが──
「やりますよ私は(震え声)」
そう、やるしかないのだ。
進路しか彼女には見えていない。
『皆さま、お待たせいたしました!
これよりペリシュッシュ・メフリオンのプロ級昇格戦を開始いたします!』
通路の先からアナウンスが響き渡る。
ああ、もうすぐ……闘いが始まる。準備は十全に整えた。
声援も十分に受け取った。
方針を転換してから人気は少し落ちたけど、努力して盛り返す。アンチスレにも自演で擁護を書き込んだ。あらぬことを書き込んだ輩には情報開示を請求した。
やるべきことは……全部やった。
『それでは挑戦者の入場です!
東側、ペリシュッシュ・メフリオンー!』
名前が呼ばれた。足を踏み出す。
通路に吹き抜ける熱風を肩で切り、舞台へ飛び込む。銀色の髪を靡かせて、正面を見据えて歩みを進めた。
一気に視界が開ける。眩い白光と共に、巨大なバトルフィールドが姿を見せた。
ペリは中央まで進みながらぐるりと周囲を見渡す。天空に浮かぶドローンの隙間から、Oathの面々と……隣に座るエリフテルが顔を覗かせた。
大丈夫、おねえちゃんは勝つ。視線で訴えた彼女は、正面に向き直る。
『続きまして、試験官の入場です!
西側──』
試験官は、今この瞬間まで知らされていない。
はたして誰を相手にするのか。誰が相手でも、
『──イオ・スコスコピィ!』
「…………」
誰が相手でも、勝つ。
ペリの正面から姿を現したのは、セミロングの茶髪を揺らす少女。彼女はゆったりとした足取りで舞台の中央へ上がって来る。
誰がこんな悪趣味な対戦カードを組んだのか。眼前に立ったイオは……かつてペリと同じチームを組んでいた友人だ。
「……イオ」
「ペリシュ、おいすー。なんか草だよね、これ。なんでウチとアンタが当たるのかって……ウチも昨日、めちゃ悩んだんだけどさ。逆によかったかなって」
「よかった?」
「そ。ウチさ、プロになってから一年間、ペリシュの配信とかパフォーマンス見てないんよね。なんでアンタがプロへの昇格を拒んでいたのか、なんで今になって昇格しようとしたのか……アンタがどれだけ成長したのか……見せてよ、ね?」
成長。そう呼べるほどの伸びが、イオと別れてからの期間であったのか。
実力的にはパフォーマンスをサボっていたぶん、落ちているかもしれない。しかし決定的に変わった点がペリにはある。
「私、強くなったよ。鋼通り越してダイヤモンドメンタルになったと思う。何万人もの視聴者を前にしたプレッシャーも、アンチの罵倒も、キモい奴の粘着ストーキングも、全部無視できるくらい。
昔のひたむきで真面目な私はもういないけど……変わった私を見て!」
「お、なんかすごいやる気じゃん? 久々に見たよ、アンタのそんな顔。
──イオ・スコスコピィ」
イオは一歩下がって、名乗りを上げる。
名乗り返せば試合の始まり。
ペリは念入りにパフォーマンス準備が整っていることを確認し、言葉を紡ぐ。
観客の熱狂の後、わずかに沈黙が流れた。
「ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! はたしてペリシュッシュ・メフリオンは昇格を迎えることができるのか……
──試合開始です!』
盛大なフラッシュと共に、試合の開始が宣言される……はずだった。
ドローンの光が七色に輝き、巨大なモニターに中継が映され、ジェットスモークが上がる……それが昇格戦ならではの豪華な演出のはずだったのだ。
『おっと、これは……どういうことでしょうか!?』
だが、今回は違う。
試合開始と同時に全ての電源が落ちた。客席に闇が落ち、一気に視界が閉ざされる。ただ響くのはドローンの飛空音、そして観客のどよめき。
時刻は夜。陽光もなく、これでは何も見えない。
「レヴ、これなに……?」
観客席で観戦していたヨミが隣のレヴリッツに尋ねる。
「ペリ先輩のジャミング魔術だよ。ドローンがまだ飛んでいるし、モニターも暗闇を映してるだけで機能はしているから、電力を断っているわけじゃない。魔道具によって誘発された……光を吸収し、歪曲させる暗幕だろう」
相変わらずぶっ飛んだことをする先輩だ。
レヴリッツは心中で呆れながら時を待った。
ぱんぱかぱっぱっぱーん!!!!!!!!!!
やがて間の抜けた爆音ファンファーレと共に、スポットライトが舞台の一点に当てられる。
「皆さま、本日はご観覧いただき、誠にありがとうございます!
さてさて、ペリシュッシュ・メフリオンがお送りするマジックショーの開催です!」
中空に立つペリを、観客たちは呆然として見上げていた。まさに絶句そのもの。
彼女を浮かせる糸や魔力は見当たらない。
「これより披露させていただきますのは……『ペリペリマジック総集編』でございます!
こちらのマジック、助手くんの力がどうしても必要でして……
おっ、そちらの可愛らしいお嬢さん! お力添えをお願いしても?」
もう一人、スポットライトを浴びた存在。
舞台に立つイオは眩い光を浴びて首を傾げた。
「え、なんこれ……草。ねえペリシュ、アンタってこんな人だっけ?」
「ありがとうございます! どうやら協力していただけるようですね!」
「え、マジ頭だいじょぶそ? この一年で何があったん?
前のアンタは普通に魔術師してたよね。奇術師にクラスチェンジ? てか話聞け」
とてもじゃないが真剣勝負とは思えない入り。
これがペリのアイデンティティ。人の話を聞かないのもアイデンティティ。
ライトを浴びながら、イオはただ武器のチャクラムを構えていた。
これ、攻撃してもええんかな。バトルパフォーマンスなら相手の魅せ場は邪魔しちゃダメだ。
「さあさあ、一応こちらの演目……バトルパフォーマンスの最中に披露しております。
勝敗は肝心要の分岐点。私も勝たなければなりません……が!」
パンパンパン、と客席を照らす光が灯されてゆく。
まだ暗いが、向かい合う二人を映像で撮影できる程度には明るくなった。観客も問題なく観戦できる。
ペリはふわふわと地面に着地し──同時、謎の箱が天空より降り注いだ。
「……!」
奇襲を警戒したイオだが、箱から何も出て来る気配はなし。
手足を畳んで一人だけ入れるかどうかと言ったサイズの赤い箱。
続いて、新たな物体が天から降ってきた。
合計五本、幅広の剣。
「え、なんこれ」
「これより私は……この箱の中に入ります! お嬢様にはそちらの剣を箱に刺していただこうと思うのです……!
ああ、なんということでしょう! 私は剣に串刺しにされ、輝かしい勝利を失ってしまうでしょう!」
「すげえ……まるで闘ってる気がしない。やるじゃん、ウチも立ってるの疲れてきたレベル。もしかして嫌がらせしてる?」
相変わらず話を聞かないペリ。彼女は箱へ接近し、蓋を開けて中をカメラに見せつけた。
この通り、中には何の仕掛けもない。
「ご覧のとおり、中には何もございません!
じゃ、入るんで。あとよろしく」
ペリは淡々と言い放ち、手足を折り曲げて箱へ突っ込んでいった。
バタンと蓋が勢いよく閉められる。後に残ったのは静寂のみ。
「やば。え、あのさ……一応ウチもプロだけどさ、こんな状況になったことないんよね。何万人の前で行動を丸投げされるウチの身にもなってくんない?
なあなあ、ペリシュー?」
箱に声を投げかけるも応答はない。
イオはこの奇術師が恐ろしかった。アマチュアとして同じチームで活動していた頃は、常に万全を期すチームの軍師役だったと言うのに……こんな無様な女へ進化(?)してしまったのだ。
ペリの人となりを知るぺリスナーからすれば、日常茶飯事の光景。しかし昇格戦は「お客様」が多い。長らくペリと疎遠になっていたイオも「お客様」だ。
彼女の珍奇な行動に、視聴者の多くは呆然として押し黙った。
「ま、まあ……やったるよ。うん……」
イオは剣を地面から引き抜き、警戒まじりに箱へ歩み寄る。
周囲に罠の魔力気配はない。爆発などの奇襲に備え、魔装を展開しておく。
「それじゃ、いきまーす。いっぽんめー」
視聴者にゆるりと宣言して、一本目の剣を箱に思いっきり突き刺した。
客席から悲鳴、どよめきが上がる。イオの感触では何かに剣が触れた気はしない。
剣は箱の真ん中にぶっ刺さっており、避けるのは難しそうだ。マジックということもあり、種や仕掛けがあるのだろう。
仮に剣がペリに触れたとしてもセーフティ装置が作動する。
イオは安心して二本目、三本目、四本目と剣を次々刺していった。
「おーすげ。右、左、真ん中、下……いろんなとこ刺したけど、ペリシュだいじょぶそ。
んじゃ、最後の剣ぶっ刺すよー」
剣を刺すほどに観客も慣れたのか、どよめきも小さくなっていく。
そろそろ展開を変えたいところ。イオは手早く剣を手に取り、箱のまだ空いてる部分に狙いを定めて突き出した。
「そいやー。うん、相変わらず何も起こんなくて草。
まあ、この箱開けてみればわかるんかな? じゃ、いくよ」
いつまで茶番は続くのか、はたまたパフォーマンス終了までずっとこんな調子なのか。
まあいいかと、イオは慎重に箱の蓋を開けた。中に人影はない。
瞬間、無数の光が溢れ出す。
七色の燐光が箱より飛び出し……天へ向かって高く射出された。流れ星のように煌めく光は天空にて爆ぜ、大きな花を描く。
立ち昇った光を観客たちは目を輝かせて凝視し、感嘆の声を上げた。
「す、すごい……花火だ!」
「きれい……」
「すごい演出だな!」
色とりどりの火花が弾け、輝き、拡散して空を覆う。
ほとんどの視聴者・観客は綺麗な光景に目を輝かせて興奮していた。しかし、実際に戦場に立つイオは違う感情を抱く。
「あー……マジかこれ。やばすぎて草」
普通の花火は、拡散して空に散っていくものだ。しかし視界に広がる花火はどうだろうか。
爆発した後も天空に渦巻き、次々と連鎖しているのだ。七色の光帯はさながら天女の羽衣。しからば羽衣を纏う天女が必要だ。
花火が全て爆散し、一つの帯となった後。
天空に花吹雪と共に舞い降りた奇術師。彼女は光を纏い、カメラに向かってウインクする。
「以上、『パンドラの箱マジック』でした! 箱から飛び出したのは美しい花火と、勝利への架け橋……!
さてさて、準備は整いました。次なる演目へ向かいましょう!」
ペリが纏った七色の帯は、魔力を纏って力へ変える『魔装』の完成系……
──《空装》
イオが咄嗟に箱の中を凝視してみると、底には不可思議な紋様が刻まれていた。魔術には疎い彼女だが、一つ理解できることがあった。
ペリはこの刻印を用いて魔力の流れを急加速させ、箱の中で魔装を完全構築したのだ。剣をどうやって回避したのかは不明だが……厄介なことになった。
イオは相手の準備を完全に整えさせてしまったのだ。
「ふざけてるように見えて、アンタ中々ずる賢いね。……ああ、そかそか。
真面目さ捨てて、ずるさを手に入れたんだ。おまけに視聴者も楽しませられる演出付き。ペリシュ、おもろいこと考えるなあ……」
「ふふふ。やっぱりバトルパフォーマンスは視聴者を楽しませることが一番なので。もちろんイオも、私と組んでた時より成長してますよね?
……さあ、それでは次の演目です!
お待たせしました、これよりお見せするは……『バトルマジック』! ここから私、逃げも隠れもいたしません。正面切っての闘いの中でマジックの数々を披露しましょう!」
ペリは堂々の宣言をして、ゆっくりと地面に降りた。喝采が巻き起こる。
彼女の周囲に渦巻くは、この上なく凝縮された魔力の帯──《空装》。この難敵をどう攻略するか……イオは思案しながらも不敵に笑う。
「おっけー。ウチ、本気出すから。言っとくけどウチの本気は……怖いよ?」
「ふふふ……構いませんとも。本気を上回ってこそのバトルパフォーマンス!
さあ、華麗に踊りましょう!」
これより幕を開けるは大奇術の舞台。
魔術と奇術織り交ざる、熱き戦場。
両者は高揚に笑い合い、舞台に踊る。
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追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です
たまごころ
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「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」
勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。
しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。
一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。
彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。
引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――?
ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。
「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」
これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
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地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
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主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
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無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
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かつて勇者パーティーに所属していたジル。
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無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
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