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3章 猛花薫風事件
20. ペリペリマジック総集編
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熱い。
ひたすらに暑く、熱い。
バトルターミナル、中央闘技場。
ペリシュッシュ・メフリオンは舞台へと続く通路で息を呑んでいた。
「いやちょっと……あの、視聴者多くないですか?」
協会の公式チャンネルでは、『ペリシュッシュ・メフリオン昇格戦』として配信が行われている。昇格戦はバトルパフォーマーにとって一世一代の大舞台。業界では最も衆目を集めるイベントだ。
公式チャンネルで配信されることもあって、視聴者が多く集まる。今回はアマチュア界の大物が昇格するということもあり、とりわけ視聴者が多かった。闘技場にも席の空白がないほどの注目度だ。
合計で約十三万人。
これほどの大人数を前にしてのパフォーマンス……緊張は並々ならぬものだ。
だが──
「やりますよ私は(震え声)」
そう、やるしかないのだ。
進路しか彼女には見えていない。
『皆さま、お待たせいたしました!
これよりペリシュッシュ・メフリオンのプロ級昇格戦を開始いたします!』
通路の先からアナウンスが響き渡る。
ああ、もうすぐ……闘いが始まる。準備は十全に整えた。
声援も十分に受け取った。
方針を転換してから人気は少し落ちたけど、努力して盛り返す。アンチスレにも自演で擁護を書き込んだ。あらぬことを書き込んだ輩には情報開示を請求した。
やるべきことは……全部やった。
『それでは挑戦者の入場です!
東側、ペリシュッシュ・メフリオンー!』
名前が呼ばれた。足を踏み出す。
通路に吹き抜ける熱風を肩で切り、舞台へ飛び込む。銀色の髪を靡かせて、正面を見据えて歩みを進めた。
一気に視界が開ける。眩い白光と共に、巨大なバトルフィールドが姿を見せた。
ペリは中央まで進みながらぐるりと周囲を見渡す。天空に浮かぶドローンの隙間から、Oathの面々と……隣に座るエリフテルが顔を覗かせた。
大丈夫、おねえちゃんは勝つ。視線で訴えた彼女は、正面に向き直る。
『続きまして、試験官の入場です!
西側──』
試験官は、今この瞬間まで知らされていない。
はたして誰を相手にするのか。誰が相手でも、
『──イオ・スコスコピィ!』
「…………」
誰が相手でも、勝つ。
ペリの正面から姿を現したのは、セミロングの茶髪を揺らす少女。彼女はゆったりとした足取りで舞台の中央へ上がって来る。
誰がこんな悪趣味な対戦カードを組んだのか。眼前に立ったイオは……かつてペリと同じチームを組んでいた友人だ。
「……イオ」
「ペリシュ、おいすー。なんか草だよね、これ。なんでウチとアンタが当たるのかって……ウチも昨日、めちゃ悩んだんだけどさ。逆によかったかなって」
「よかった?」
「そ。ウチさ、プロになってから一年間、ペリシュの配信とかパフォーマンス見てないんよね。なんでアンタがプロへの昇格を拒んでいたのか、なんで今になって昇格しようとしたのか……アンタがどれだけ成長したのか……見せてよ、ね?」
成長。そう呼べるほどの伸びが、イオと別れてからの期間であったのか。
実力的にはパフォーマンスをサボっていたぶん、落ちているかもしれない。しかし決定的に変わった点がペリにはある。
「私、強くなったよ。鋼通り越してダイヤモンドメンタルになったと思う。何万人もの視聴者を前にしたプレッシャーも、アンチの罵倒も、キモい奴の粘着ストーキングも、全部無視できるくらい。
昔のひたむきで真面目な私はもういないけど……変わった私を見て!」
「お、なんかすごいやる気じゃん? 久々に見たよ、アンタのそんな顔。
──イオ・スコスコピィ」
イオは一歩下がって、名乗りを上げる。
名乗り返せば試合の始まり。
ペリは念入りにパフォーマンス準備が整っていることを確認し、言葉を紡ぐ。
観客の熱狂の後、わずかに沈黙が流れた。
「ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! はたしてペリシュッシュ・メフリオンは昇格を迎えることができるのか……
──試合開始です!』
盛大なフラッシュと共に、試合の開始が宣言される……はずだった。
ドローンの光が七色に輝き、巨大なモニターに中継が映され、ジェットスモークが上がる……それが昇格戦ならではの豪華な演出のはずだったのだ。
『おっと、これは……どういうことでしょうか!?』
だが、今回は違う。
試合開始と同時に全ての電源が落ちた。客席に闇が落ち、一気に視界が閉ざされる。ただ響くのはドローンの飛空音、そして観客のどよめき。
時刻は夜。陽光もなく、これでは何も見えない。
「レヴ、これなに……?」
観客席で観戦していたヨミが隣のレヴリッツに尋ねる。
「ペリ先輩のジャミング魔術だよ。ドローンがまだ飛んでいるし、モニターも暗闇を映してるだけで機能はしているから、電力を断っているわけじゃない。魔道具によって誘発された……光を吸収し、歪曲させる暗幕だろう」
相変わらずぶっ飛んだことをする先輩だ。
レヴリッツは心中で呆れながら時を待った。
ぱんぱかぱっぱっぱーん!!!!!!!!!!
やがて間の抜けた爆音ファンファーレと共に、スポットライトが舞台の一点に当てられる。
「皆さま、本日はご観覧いただき、誠にありがとうございます!
さてさて、ペリシュッシュ・メフリオンがお送りするマジックショーの開催です!」
中空に立つペリを、観客たちは呆然として見上げていた。まさに絶句そのもの。
彼女を浮かせる糸や魔力は見当たらない。
「これより披露させていただきますのは……『ペリペリマジック総集編』でございます!
こちらのマジック、助手くんの力がどうしても必要でして……
おっ、そちらの可愛らしいお嬢さん! お力添えをお願いしても?」
もう一人、スポットライトを浴びた存在。
舞台に立つイオは眩い光を浴びて首を傾げた。
「え、なんこれ……草。ねえペリシュ、アンタってこんな人だっけ?」
「ありがとうございます! どうやら協力していただけるようですね!」
「え、マジ頭だいじょぶそ? この一年で何があったん?
前のアンタは普通に魔術師してたよね。奇術師にクラスチェンジ? てか話聞け」
とてもじゃないが真剣勝負とは思えない入り。
これがペリのアイデンティティ。人の話を聞かないのもアイデンティティ。
ライトを浴びながら、イオはただ武器のチャクラムを構えていた。
これ、攻撃してもええんかな。バトルパフォーマンスなら相手の魅せ場は邪魔しちゃダメだ。
「さあさあ、一応こちらの演目……バトルパフォーマンスの最中に披露しております。
勝敗は肝心要の分岐点。私も勝たなければなりません……が!」
パンパンパン、と客席を照らす光が灯されてゆく。
まだ暗いが、向かい合う二人を映像で撮影できる程度には明るくなった。観客も問題なく観戦できる。
ペリはふわふわと地面に着地し──同時、謎の箱が天空より降り注いだ。
「……!」
奇襲を警戒したイオだが、箱から何も出て来る気配はなし。
手足を畳んで一人だけ入れるかどうかと言ったサイズの赤い箱。
続いて、新たな物体が天から降ってきた。
合計五本、幅広の剣。
「え、なんこれ」
「これより私は……この箱の中に入ります! お嬢様にはそちらの剣を箱に刺していただこうと思うのです……!
ああ、なんということでしょう! 私は剣に串刺しにされ、輝かしい勝利を失ってしまうでしょう!」
「すげえ……まるで闘ってる気がしない。やるじゃん、ウチも立ってるの疲れてきたレベル。もしかして嫌がらせしてる?」
相変わらず話を聞かないペリ。彼女は箱へ接近し、蓋を開けて中をカメラに見せつけた。
この通り、中には何の仕掛けもない。
「ご覧のとおり、中には何もございません!
じゃ、入るんで。あとよろしく」
ペリは淡々と言い放ち、手足を折り曲げて箱へ突っ込んでいった。
バタンと蓋が勢いよく閉められる。後に残ったのは静寂のみ。
「やば。え、あのさ……一応ウチもプロだけどさ、こんな状況になったことないんよね。何万人の前で行動を丸投げされるウチの身にもなってくんない?
なあなあ、ペリシュー?」
箱に声を投げかけるも応答はない。
イオはこの奇術師が恐ろしかった。アマチュアとして同じチームで活動していた頃は、常に万全を期すチームの軍師役だったと言うのに……こんな無様な女へ進化(?)してしまったのだ。
ペリの人となりを知るぺリスナーからすれば、日常茶飯事の光景。しかし昇格戦は「お客様」が多い。長らくペリと疎遠になっていたイオも「お客様」だ。
彼女の珍奇な行動に、視聴者の多くは呆然として押し黙った。
「ま、まあ……やったるよ。うん……」
イオは剣を地面から引き抜き、警戒まじりに箱へ歩み寄る。
周囲に罠の魔力気配はない。爆発などの奇襲に備え、魔装を展開しておく。
「それじゃ、いきまーす。いっぽんめー」
視聴者にゆるりと宣言して、一本目の剣を箱に思いっきり突き刺した。
客席から悲鳴、どよめきが上がる。イオの感触では何かに剣が触れた気はしない。
剣は箱の真ん中にぶっ刺さっており、避けるのは難しそうだ。マジックということもあり、種や仕掛けがあるのだろう。
仮に剣がペリに触れたとしてもセーフティ装置が作動する。
イオは安心して二本目、三本目、四本目と剣を次々刺していった。
「おーすげ。右、左、真ん中、下……いろんなとこ刺したけど、ペリシュだいじょぶそ。
んじゃ、最後の剣ぶっ刺すよー」
剣を刺すほどに観客も慣れたのか、どよめきも小さくなっていく。
そろそろ展開を変えたいところ。イオは手早く剣を手に取り、箱のまだ空いてる部分に狙いを定めて突き出した。
「そいやー。うん、相変わらず何も起こんなくて草。
まあ、この箱開けてみればわかるんかな? じゃ、いくよ」
いつまで茶番は続くのか、はたまたパフォーマンス終了までずっとこんな調子なのか。
まあいいかと、イオは慎重に箱の蓋を開けた。中に人影はない。
瞬間、無数の光が溢れ出す。
七色の燐光が箱より飛び出し……天へ向かって高く射出された。流れ星のように煌めく光は天空にて爆ぜ、大きな花を描く。
立ち昇った光を観客たちは目を輝かせて凝視し、感嘆の声を上げた。
「す、すごい……花火だ!」
「きれい……」
「すごい演出だな!」
色とりどりの火花が弾け、輝き、拡散して空を覆う。
ほとんどの視聴者・観客は綺麗な光景に目を輝かせて興奮していた。しかし、実際に戦場に立つイオは違う感情を抱く。
「あー……マジかこれ。やばすぎて草」
普通の花火は、拡散して空に散っていくものだ。しかし視界に広がる花火はどうだろうか。
爆発した後も天空に渦巻き、次々と連鎖しているのだ。七色の光帯はさながら天女の羽衣。しからば羽衣を纏う天女が必要だ。
花火が全て爆散し、一つの帯となった後。
天空に花吹雪と共に舞い降りた奇術師。彼女は光を纏い、カメラに向かってウインクする。
「以上、『パンドラの箱マジック』でした! 箱から飛び出したのは美しい花火と、勝利への架け橋……!
さてさて、準備は整いました。次なる演目へ向かいましょう!」
ペリが纏った七色の帯は、魔力を纏って力へ変える『魔装』の完成系……
──《空装》
イオが咄嗟に箱の中を凝視してみると、底には不可思議な紋様が刻まれていた。魔術には疎い彼女だが、一つ理解できることがあった。
ペリはこの刻印を用いて魔力の流れを急加速させ、箱の中で魔装を完全構築したのだ。剣をどうやって回避したのかは不明だが……厄介なことになった。
イオは相手の準備を完全に整えさせてしまったのだ。
「ふざけてるように見えて、アンタ中々ずる賢いね。……ああ、そかそか。
真面目さ捨てて、ずるさを手に入れたんだ。おまけに視聴者も楽しませられる演出付き。ペリシュ、おもろいこと考えるなあ……」
「ふふふ。やっぱりバトルパフォーマンスは視聴者を楽しませることが一番なので。もちろんイオも、私と組んでた時より成長してますよね?
……さあ、それでは次の演目です!
お待たせしました、これよりお見せするは……『バトルマジック』! ここから私、逃げも隠れもいたしません。正面切っての闘いの中でマジックの数々を披露しましょう!」
ペリは堂々の宣言をして、ゆっくりと地面に降りた。喝采が巻き起こる。
彼女の周囲に渦巻くは、この上なく凝縮された魔力の帯──《空装》。この難敵をどう攻略するか……イオは思案しながらも不敵に笑う。
「おっけー。ウチ、本気出すから。言っとくけどウチの本気は……怖いよ?」
「ふふふ……構いませんとも。本気を上回ってこそのバトルパフォーマンス!
さあ、華麗に踊りましょう!」
これより幕を開けるは大奇術の舞台。
魔術と奇術織り交ざる、熱き戦場。
両者は高揚に笑い合い、舞台に踊る。
ひたすらに暑く、熱い。
バトルターミナル、中央闘技場。
ペリシュッシュ・メフリオンは舞台へと続く通路で息を呑んでいた。
「いやちょっと……あの、視聴者多くないですか?」
協会の公式チャンネルでは、『ペリシュッシュ・メフリオン昇格戦』として配信が行われている。昇格戦はバトルパフォーマーにとって一世一代の大舞台。業界では最も衆目を集めるイベントだ。
公式チャンネルで配信されることもあって、視聴者が多く集まる。今回はアマチュア界の大物が昇格するということもあり、とりわけ視聴者が多かった。闘技場にも席の空白がないほどの注目度だ。
合計で約十三万人。
これほどの大人数を前にしてのパフォーマンス……緊張は並々ならぬものだ。
だが──
「やりますよ私は(震え声)」
そう、やるしかないのだ。
進路しか彼女には見えていない。
『皆さま、お待たせいたしました!
これよりペリシュッシュ・メフリオンのプロ級昇格戦を開始いたします!』
通路の先からアナウンスが響き渡る。
ああ、もうすぐ……闘いが始まる。準備は十全に整えた。
声援も十分に受け取った。
方針を転換してから人気は少し落ちたけど、努力して盛り返す。アンチスレにも自演で擁護を書き込んだ。あらぬことを書き込んだ輩には情報開示を請求した。
やるべきことは……全部やった。
『それでは挑戦者の入場です!
東側、ペリシュッシュ・メフリオンー!』
名前が呼ばれた。足を踏み出す。
通路に吹き抜ける熱風を肩で切り、舞台へ飛び込む。銀色の髪を靡かせて、正面を見据えて歩みを進めた。
一気に視界が開ける。眩い白光と共に、巨大なバトルフィールドが姿を見せた。
ペリは中央まで進みながらぐるりと周囲を見渡す。天空に浮かぶドローンの隙間から、Oathの面々と……隣に座るエリフテルが顔を覗かせた。
大丈夫、おねえちゃんは勝つ。視線で訴えた彼女は、正面に向き直る。
『続きまして、試験官の入場です!
西側──』
試験官は、今この瞬間まで知らされていない。
はたして誰を相手にするのか。誰が相手でも、
『──イオ・スコスコピィ!』
「…………」
誰が相手でも、勝つ。
ペリの正面から姿を現したのは、セミロングの茶髪を揺らす少女。彼女はゆったりとした足取りで舞台の中央へ上がって来る。
誰がこんな悪趣味な対戦カードを組んだのか。眼前に立ったイオは……かつてペリと同じチームを組んでいた友人だ。
「……イオ」
「ペリシュ、おいすー。なんか草だよね、これ。なんでウチとアンタが当たるのかって……ウチも昨日、めちゃ悩んだんだけどさ。逆によかったかなって」
「よかった?」
「そ。ウチさ、プロになってから一年間、ペリシュの配信とかパフォーマンス見てないんよね。なんでアンタがプロへの昇格を拒んでいたのか、なんで今になって昇格しようとしたのか……アンタがどれだけ成長したのか……見せてよ、ね?」
成長。そう呼べるほどの伸びが、イオと別れてからの期間であったのか。
実力的にはパフォーマンスをサボっていたぶん、落ちているかもしれない。しかし決定的に変わった点がペリにはある。
「私、強くなったよ。鋼通り越してダイヤモンドメンタルになったと思う。何万人もの視聴者を前にしたプレッシャーも、アンチの罵倒も、キモい奴の粘着ストーキングも、全部無視できるくらい。
昔のひたむきで真面目な私はもういないけど……変わった私を見て!」
「お、なんかすごいやる気じゃん? 久々に見たよ、アンタのそんな顔。
──イオ・スコスコピィ」
イオは一歩下がって、名乗りを上げる。
名乗り返せば試合の始まり。
ペリは念入りにパフォーマンス準備が整っていることを確認し、言葉を紡ぐ。
観客の熱狂の後、わずかに沈黙が流れた。
「ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! はたしてペリシュッシュ・メフリオンは昇格を迎えることができるのか……
──試合開始です!』
盛大なフラッシュと共に、試合の開始が宣言される……はずだった。
ドローンの光が七色に輝き、巨大なモニターに中継が映され、ジェットスモークが上がる……それが昇格戦ならではの豪華な演出のはずだったのだ。
『おっと、これは……どういうことでしょうか!?』
だが、今回は違う。
試合開始と同時に全ての電源が落ちた。客席に闇が落ち、一気に視界が閉ざされる。ただ響くのはドローンの飛空音、そして観客のどよめき。
時刻は夜。陽光もなく、これでは何も見えない。
「レヴ、これなに……?」
観客席で観戦していたヨミが隣のレヴリッツに尋ねる。
「ペリ先輩のジャミング魔術だよ。ドローンがまだ飛んでいるし、モニターも暗闇を映してるだけで機能はしているから、電力を断っているわけじゃない。魔道具によって誘発された……光を吸収し、歪曲させる暗幕だろう」
相変わらずぶっ飛んだことをする先輩だ。
レヴリッツは心中で呆れながら時を待った。
ぱんぱかぱっぱっぱーん!!!!!!!!!!
やがて間の抜けた爆音ファンファーレと共に、スポットライトが舞台の一点に当てられる。
「皆さま、本日はご観覧いただき、誠にありがとうございます!
さてさて、ペリシュッシュ・メフリオンがお送りするマジックショーの開催です!」
中空に立つペリを、観客たちは呆然として見上げていた。まさに絶句そのもの。
彼女を浮かせる糸や魔力は見当たらない。
「これより披露させていただきますのは……『ペリペリマジック総集編』でございます!
こちらのマジック、助手くんの力がどうしても必要でして……
おっ、そちらの可愛らしいお嬢さん! お力添えをお願いしても?」
もう一人、スポットライトを浴びた存在。
舞台に立つイオは眩い光を浴びて首を傾げた。
「え、なんこれ……草。ねえペリシュ、アンタってこんな人だっけ?」
「ありがとうございます! どうやら協力していただけるようですね!」
「え、マジ頭だいじょぶそ? この一年で何があったん?
前のアンタは普通に魔術師してたよね。奇術師にクラスチェンジ? てか話聞け」
とてもじゃないが真剣勝負とは思えない入り。
これがペリのアイデンティティ。人の話を聞かないのもアイデンティティ。
ライトを浴びながら、イオはただ武器のチャクラムを構えていた。
これ、攻撃してもええんかな。バトルパフォーマンスなら相手の魅せ場は邪魔しちゃダメだ。
「さあさあ、一応こちらの演目……バトルパフォーマンスの最中に披露しております。
勝敗は肝心要の分岐点。私も勝たなければなりません……が!」
パンパンパン、と客席を照らす光が灯されてゆく。
まだ暗いが、向かい合う二人を映像で撮影できる程度には明るくなった。観客も問題なく観戦できる。
ペリはふわふわと地面に着地し──同時、謎の箱が天空より降り注いだ。
「……!」
奇襲を警戒したイオだが、箱から何も出て来る気配はなし。
手足を畳んで一人だけ入れるかどうかと言ったサイズの赤い箱。
続いて、新たな物体が天から降ってきた。
合計五本、幅広の剣。
「え、なんこれ」
「これより私は……この箱の中に入ります! お嬢様にはそちらの剣を箱に刺していただこうと思うのです……!
ああ、なんということでしょう! 私は剣に串刺しにされ、輝かしい勝利を失ってしまうでしょう!」
「すげえ……まるで闘ってる気がしない。やるじゃん、ウチも立ってるの疲れてきたレベル。もしかして嫌がらせしてる?」
相変わらず話を聞かないペリ。彼女は箱へ接近し、蓋を開けて中をカメラに見せつけた。
この通り、中には何の仕掛けもない。
「ご覧のとおり、中には何もございません!
じゃ、入るんで。あとよろしく」
ペリは淡々と言い放ち、手足を折り曲げて箱へ突っ込んでいった。
バタンと蓋が勢いよく閉められる。後に残ったのは静寂のみ。
「やば。え、あのさ……一応ウチもプロだけどさ、こんな状況になったことないんよね。何万人の前で行動を丸投げされるウチの身にもなってくんない?
なあなあ、ペリシュー?」
箱に声を投げかけるも応答はない。
イオはこの奇術師が恐ろしかった。アマチュアとして同じチームで活動していた頃は、常に万全を期すチームの軍師役だったと言うのに……こんな無様な女へ進化(?)してしまったのだ。
ペリの人となりを知るぺリスナーからすれば、日常茶飯事の光景。しかし昇格戦は「お客様」が多い。長らくペリと疎遠になっていたイオも「お客様」だ。
彼女の珍奇な行動に、視聴者の多くは呆然として押し黙った。
「ま、まあ……やったるよ。うん……」
イオは剣を地面から引き抜き、警戒まじりに箱へ歩み寄る。
周囲に罠の魔力気配はない。爆発などの奇襲に備え、魔装を展開しておく。
「それじゃ、いきまーす。いっぽんめー」
視聴者にゆるりと宣言して、一本目の剣を箱に思いっきり突き刺した。
客席から悲鳴、どよめきが上がる。イオの感触では何かに剣が触れた気はしない。
剣は箱の真ん中にぶっ刺さっており、避けるのは難しそうだ。マジックということもあり、種や仕掛けがあるのだろう。
仮に剣がペリに触れたとしてもセーフティ装置が作動する。
イオは安心して二本目、三本目、四本目と剣を次々刺していった。
「おーすげ。右、左、真ん中、下……いろんなとこ刺したけど、ペリシュだいじょぶそ。
んじゃ、最後の剣ぶっ刺すよー」
剣を刺すほどに観客も慣れたのか、どよめきも小さくなっていく。
そろそろ展開を変えたいところ。イオは手早く剣を手に取り、箱のまだ空いてる部分に狙いを定めて突き出した。
「そいやー。うん、相変わらず何も起こんなくて草。
まあ、この箱開けてみればわかるんかな? じゃ、いくよ」
いつまで茶番は続くのか、はたまたパフォーマンス終了までずっとこんな調子なのか。
まあいいかと、イオは慎重に箱の蓋を開けた。中に人影はない。
瞬間、無数の光が溢れ出す。
七色の燐光が箱より飛び出し……天へ向かって高く射出された。流れ星のように煌めく光は天空にて爆ぜ、大きな花を描く。
立ち昇った光を観客たちは目を輝かせて凝視し、感嘆の声を上げた。
「す、すごい……花火だ!」
「きれい……」
「すごい演出だな!」
色とりどりの火花が弾け、輝き、拡散して空を覆う。
ほとんどの視聴者・観客は綺麗な光景に目を輝かせて興奮していた。しかし、実際に戦場に立つイオは違う感情を抱く。
「あー……マジかこれ。やばすぎて草」
普通の花火は、拡散して空に散っていくものだ。しかし視界に広がる花火はどうだろうか。
爆発した後も天空に渦巻き、次々と連鎖しているのだ。七色の光帯はさながら天女の羽衣。しからば羽衣を纏う天女が必要だ。
花火が全て爆散し、一つの帯となった後。
天空に花吹雪と共に舞い降りた奇術師。彼女は光を纏い、カメラに向かってウインクする。
「以上、『パンドラの箱マジック』でした! 箱から飛び出したのは美しい花火と、勝利への架け橋……!
さてさて、準備は整いました。次なる演目へ向かいましょう!」
ペリが纏った七色の帯は、魔力を纏って力へ変える『魔装』の完成系……
──《空装》
イオが咄嗟に箱の中を凝視してみると、底には不可思議な紋様が刻まれていた。魔術には疎い彼女だが、一つ理解できることがあった。
ペリはこの刻印を用いて魔力の流れを急加速させ、箱の中で魔装を完全構築したのだ。剣をどうやって回避したのかは不明だが……厄介なことになった。
イオは相手の準備を完全に整えさせてしまったのだ。
「ふざけてるように見えて、アンタ中々ずる賢いね。……ああ、そかそか。
真面目さ捨てて、ずるさを手に入れたんだ。おまけに視聴者も楽しませられる演出付き。ペリシュ、おもろいこと考えるなあ……」
「ふふふ。やっぱりバトルパフォーマンスは視聴者を楽しませることが一番なので。もちろんイオも、私と組んでた時より成長してますよね?
……さあ、それでは次の演目です!
お待たせしました、これよりお見せするは……『バトルマジック』! ここから私、逃げも隠れもいたしません。正面切っての闘いの中でマジックの数々を披露しましょう!」
ペリは堂々の宣言をして、ゆっくりと地面に降りた。喝采が巻き起こる。
彼女の周囲に渦巻くは、この上なく凝縮された魔力の帯──《空装》。この難敵をどう攻略するか……イオは思案しながらも不敵に笑う。
「おっけー。ウチ、本気出すから。言っとくけどウチの本気は……怖いよ?」
「ふふふ……構いませんとも。本気を上回ってこそのバトルパフォーマンス!
さあ、華麗に踊りましょう!」
これより幕を開けるは大奇術の舞台。
魔術と奇術織り交ざる、熱き戦場。
両者は高揚に笑い合い、舞台に踊る。
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9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
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【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
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伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
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どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
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エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
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