忘れじの契約~祖国に見捨てられた最強剣士、追放されたので外国でバトル系配信者を始めます~

朝露ココア

文字の大きさ
64 / 105
4章 咎人綾錦杯

7. 天界より

しおりを挟む
 早朝の走り込みを終えた後、レヴリッツは朝食をとる。
 ヨミと別れ、彼は特に意味もなく広場の公園へ向かった。紅に染まりつつある落ち葉を踏み締めると、心地よい音が耳朶じりょうを打つ。

 自分たち87期生のデビューから半年近くの時間が経った。
 すでに引退した同期は数多く、時の移ろいと共に変化が訪れようとしている。また、もうすぐデビューする新人も入ってる予定らしい。

 「ふぁ……」

 欠伸をしながら公園を歩く。
 レヴリッツの纏う着物も、寒さに耐えるには少し心許ない季節。多少の肌寒さを覚え、彼は周囲を見渡した。

 紅葉に紛れて、もう一つの赤が木々の合間を縫っていた。
 黒のロングコートを羽織った赤髪の少女は、何やら忙しなく地面を凝視している。動きを見るに、彼女……カガリは地面の足跡と魔力の残滓を調べているらしい。

 「何やってんの?」

 「……ああ、レヴリッツね。悪いけど今はあんたと勝負してる余裕はないわよ」

 カガリは戦闘狂いのレヴリッツに、しきりに付き合ってくれている。
 彼女はアマチュア級の中では相当な実力者で、レヴリッツの稽古相手としても張り合える程度の実力はある。しかしレヴリッツと同じように人気がいまいちなく、昇格はまだ先になりそうだ。

 視聴者に媚びるということが苦手なのだろう。
 根強い固定層はいるが、万人受けしないタイプなのだ。

 「誰か探してるのか?」

 「……いや、ちょっと仕事が来てね。このバトルターミナルのどっかに、外国の大罪人が潜伏してるらしいの。あんたも裏の人間なら知ってるでしょ?
 ──レヴハルト・シルバミネを」

 不意に自分の真名が出たが、レヴリッツは眉ひとつ動かさない。
 カガリはプロの殺し屋だ。不審な様子を見せれば怪しまれる。

 「ああ、知ってるとも。でも、シルバミネ家の異端児は追放刑になって死んだんじゃなかったか?」

 「それがね、生きてたらしいわ。生存確率0%、実質死刑の追放刑を生き延びた怪物……それがレヴハルト。
 まあ、あのエシュバルト・シルバミネの息子なんだからあり得る話よね」

 「なるほどね。レヴハルトがこのバトルターミナルに潜んでいる、と……にわかには信じ難い話だが。僕も一応警戒しておくよ。ああ恐ろしい」

 「うん。でもここら辺にはいないみたい。あんたは心配しなくても大丈夫。これはあたしたちが片づける問題だから」

 あたしたち・・……と言うことは、カガリ以外にもレヴハルトを探っている人物がいる。レヴリッツは思考しながらも、カガリの詰めの甘さに呆れてしまう。
 仮にレヴリッツを信頼していたとしても、赤の他人に情報を漏らすことは殺し屋として情けない。レヴリッツにとってはメリットしかないので、今は彼女の詰めの甘さに感謝しておく。

 「……ん?」

 静かな公園に、誰かが近づいてくる。
 今のレヴリッツは話を聞いて警戒心が高まっていたので、接近してくる気配も早めに察知できた。

 「あの人、君の同業者?」

 木々の合間からカガリはその人物を凝視する。
 アッシュグレーのベストで身を包んだ長髪の男性だ。歳は二十代半ばくらいだろうか。

 彼は虚空に向かって何やらぶつぶつ語りかけていた。

 「いや、違うわね。外配信してるパフォーマーじゃない?
 ……あの人、どっかで見たことあるような」

 しばらく瞑目して記憶を辿っていたカガリ。
 やがて彼女はハッとして手を叩く。

 「あの人、『教授』のミラクだ!」

 「……誰?」

 「あんたね……少しは先輩のこと知っときなさいよ。『教授』はマスター級のパフォーマーよ?
 IQは自称300。歩く百科辞典。『ある産業スパイが処理速度の秘密を探るべくスーパーコンピューターを解体したところ、そろばんを持ったミラクが正座で珠をはじいていた』って話は有名ね。バトルパフォーマーをやる傍ら、世界一の大学で教鞭を取っている大天才……!」

 「IQ300とか絶対嘘だろ。スペックはたしかに凄いけどさ」

 レヴリッツはプロ級とマスター級の配信やパフォーマンスを観ていない。
 同じアマチュア級のパフォーマーは切り抜きを見たりして勉強しているが、上の階級は見ない。それが彼のポリシーだったから。

 「でも、なんでマスター級のパフォーマーが第一拠点ファーストリージョンにいるんだ? しかもこんな辺鄙へんぴな公園に」

 「あたしに聞かれても困る。ちょっと絡みに行きなさいよ」

 「はぁ? なんで僕が……しかもあの人、配信中っぽいし。アマチュアの木っ端パフォーマーが配信に出たら燃やされるだろ」

 言い合う二人をよそに、ミラクはゆっくりと公園を歩いていた。
 紅葉を眺め、深呼吸をし、時に花の香りを嗅ぎ。

 彼は景色を満喫し……そして二人の声に顔を上げ、そちらへ向かって行く。

 「君たち。ここで何をしているのかね?
 ……いや失敬。逢瀬おうせの邪魔立て、無粋か。風情ふぜいを解せぬ小生をどうか許してくれ」

 どうやらミラクは二人がデートしていると思い込んでいるらしい。彼の奇妙な口調に若干驚いたレヴリッツだが、とりあえず炎上回避で弁明しておく。

 「ああいや、僕たちはそんな関係じゃなくて……マスター級の方をお見かけして、驚いていただけです。どうしてマスター級の方がここにいるんですか?」

 「ふむ。郷愁の念に駆られて、しばしの足任せを。よく魍魎さいこぱすなどと誹りを受ける私にも、旧懐きゅうかいの想いは在るのでね。
 ここはかつて小生がライブを奏でた地。今から三年前の事になるか」

 (この人、言い回しめんどくせぇ……)

 一々言葉を解することに思考が必要だ。レヴリッツは思わず顔をしかめる。
 つまり、彼……ミラクはアマチュア時代に勤しんだ第一拠点ファーストリージョンを散策していたらしい。

 「ご両名。私の配信のコメントを見るに……新人杯という新興大会の、優勝者と準優勝者らしいが。
 Thupek hana実力のほどが ca-ru reginusyu気になるね。」

 「……あたしは強いですよ。まあ、そこのエビも強いですけど。
 でも昇格の声はかからないんですよねー」

 「なるほど。はかるに練達。されど人望足らず。
 ……ふむ、これは困った。どうにも小生のコメントは忙しない。『闘え、闘え』などと……どこのイェーガーか。血に飢えた人の多さに嘆きを隠せない。
 しかし小生は時間がなくてね……いずれか一方、決闘デュアルふけろうではないか」

 ミラクの言葉にレヴリッツは鼓動を打たれる。
 今、彼は視聴者からレヴリッツ・カガリと闘えと言われているのだ。

 これは好機だ。視聴者が多いマスター級パフォーマーの配信で実力を示せば、新規ファンの獲得につながる。
 曰く、時間がなくレヴリッツかカガリのどちらかしか相手できないとのこと。

 「…………僕は遠慮しておきます」

 しかし、彼は決闘を拒絶した。

 「は!? え、あんた……もしかして人格変わった?」

 「いや、今日は頭痛と腹痛が酷くてね。カガリに譲るよ、悔しいけど」

 普段は戦闘狂として振る舞い、格上を見つければ即座に挑むレヴリッツ。彼がマスター級という恰好の獲物を諦めたことに対して、カガリは青ざめて後退った。

 ミラクの実力は未知数だ。
 だからこそ、カガリの前で闘うわけにはいかない。仮に何らかのボロを出せば、自分がレヴハルトだとバレてしまう恐れがあるから。

 「え、えぇ……? まあ、あんたがそう言うなら。後で文句言わないでよ?
 せっかくマスター級と闘えるチャンスなのに……」

 「では、少女。いざ尋常に……Sha Mazyefu Dhuluk赫炎の決闘を
 空間拡張衛星を通し、戦場へ歩みを進めてくれ」

 ミラクは公園の隅に浮かんでいた衛星を起動し、バトルフィールドへ接続。
 現れたポータルを潜り、カガリもそれに続いて行った。

 ミラクの実力、カガリの底力。
 二つの力を見極めるべく、レヴリッツもまた戦場へ続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...