忘れじの契約~祖国に見捨てられた最強剣士、追放されたので外国でバトル系配信者を始めます~

朝露ココア

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5章 晩冬堕天戦

2. マイスタイル

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 翌日。
 コラボ配信を終え、Oathの四人は雑談に耽っていた。

 ふとヨミが思い出したように言う。

 「そういえば私、昇格通知きたよ」

 「ああ、俺も昨日プロ級への招致メールが届いた。三か月後に昇格戦だってよ。デビューしてから九か月くらいか?
 全体の中では早い方だよな」

 ヨミ、リオートは衝撃の事実をさらっと言ってのけた。
 二人は昨日、プロ級への昇格を認めるメールを受け取ったらしい。

 「おお、やりましたね! 早くみなさんもプロ級にカモン!
 そしたらいつも一緒だもん……」

 日頃から第二拠点セカンドリージョンで暮らすペリは、どこか寂しさを覚えていた。
 プロとしての生活も楽しいが、アマチュア時代の方が馬鹿をやっていて雰囲気が明るかった。知り合いが少ないということもあり、どこかプロ級の生活は張り詰めているのだ。

 「そういえばレヴリッツくんは?」

 ペリに顔を向けられたレヴリッツは、ビクリと肩を震わせる。
 何度メールを確認しても昇格の通知は来ていない。

 「え、僕ですか? 僕は……来てない、ですけど?
 まあアレですよね。協会も僕が強すぎて恐れてるんですよね」

 「ファーーーーーwwwwwwwwwwwwww
 え、レヴリッツくんだけ来てないんですか????wwwwwwwwwwww

 どうせ「人格に難あり」とかで協会も持て余してるんですよwwwwwwwww
 レヴリッツ様の益々のご活躍をお祈り申し上げまァアアアアァ……ごふっ!?」

 煽り散らかすペリの脇腹を蹴って黙らせておく。レヴリッツにとってペリの煽りはもう慣れたものだ。
 レヴリッツの本性を知らないリオートは若干引いていたが。

 「僕の人格に難があるなら、ペリ先輩の人格は破綻してますよ。
 僕の実力も人気も、そこまで二人とは離れてないし……そのうち声がかかるだろう」

 「ま、まあ現実的に考えればそうだな。たぶん定員が二名で、独壇場スターステージ持ちの奴を優先で選んだとかじゃないか?
 次の機会にはお前が選ばれるだろ。あと女性に暴力を振るうのはどうかと思うぞレヴリッツ」

 「ああ、そのうち僕も二人に追いつくから……心配せず昇格戦に臨んでくれ。とは言っても、昇格戦は三か月後か。けっこう先だな」

 「正式発表は昇格戦の二週間前だから、それまでは内緒にしておいてね?」

 「わかった。ちゃんと応援しに行くから」

 ペリが苦悶の表情を浮かべて起き上がる。

 「あいたた……最近容赦なく他人に暴力を振るわれるのです。私は真摯に接しているのに……我が振り見て人は振り直せってやつですよ」

 「ペリシュッシュ先輩は……すごいですよね。配信の馬鹿げたキャラと、裏でのキャラが完全に一致している。
 俺も裏でおもしろい振る舞いを心がけた方がいいのか……?」

 真剣に悩むリオート。
 彼は生真面目すぎるきらいがあるので、ペリの悪影響を受けかねない。彼女の毒素から相棒を守るのがレヴリッツの役目。

 「いや、リオートはそのままでいい。そのままの君でいて。
 もしもリオートがペリ先みたいな人格破綻者になったら僕が折れる」

 「……? よくわかんないが、お前が苦しむならやめておくか」

 一周回ってリオートがペリのようになるのも見てみたい……ヨミは二人の様子を眺めながらそんなことを思っていた。
 何気なく時刻を確認すると、次の予定が迫っている。

 「……あ、そういえば私この後ダンスレッスンだ!
 みんなおつかれさま~」

 「俺もこの後ボイトレだな。最近は忙しいが……自分のスキルを高めることにやりがいも感じてきた。
 じゃ、またな」

 ヨミとリオートは慌ただしく場を後にし、気まずい沈黙が残った。

 「配信後にレッスンとか、みんなバイタリティが半端ないな」

 「レヴリッツくんはレッスンしないんですか? そんなんだからプロになれないんすよ。この先生きのこれないですね」

 「そうですね……そろそろ新規分野を開拓しないとマズいのはわかってます。歌とか踊りとか、なんか人を惹きつける要素がないと。
 養成所で訓練したけど、まだまだ素人ですから……」

 「あ、なに? ガチで悩んでる感じなのです?
 そうですねぇ……私も普段はふざけた人間(誠に遺憾)なのですが、配信に関わる創作物に関しては真摯に向き合っています。たまに投稿する歌とか、魂を削るつもりで」

 ペリの配信スタイルはプロ級になってから変わった。
 今までは露骨に媚びていたが、昇格してからはさらにネタに走る傾向になったようだ。

 しかし、アマチュア時代から変わらない姿勢がある。
 それは創作物に対する姿勢。FAファンアートを書いてくれた人の名前は必ず記載するし、曲をカバーする際には権利者の許諾は必ず取り、歌詞とテーマの解釈を綿密に行う。
 要するに、当たり前のことをしているだけ。しかし、その当たり前をできないパフォーマーが多すぎる。

 「そういえば曲の途中にふざけたラップを挟んだりするパフォーマーもいますが、先輩はそういうのしないですよね。何か理由があるんですか?」

 「曲、イラスト、ゲーム、配信における環境設備、その他もろもろ。それらはすべてクリエイターが魂を削り、想いを籠めて創ったモノです。
 私たちパフォーマーは……言い方は悪いですが、それらの被造物を人気とお金のための踏み台にしています。自覚がないパフォーマーがほとんどですけどね。
 
 自分が大切な想いを籠めて創ったモノを、ただの客寄せに使われる……消費社会の悲しき定めです。せめて私は偉大なるクリエイターさんたちに敬意を払おうと思うのです。
 これは私のスタイルで、あくまで他人に押しつけるつもりはないですが。そういった姿勢を持っていないと……いつか創作物に、視聴者に、世の中に底の浅さを見透かされてしまいそうで……」

 レヴリッツには自覚がそこまでなかった。
 おそらく実際に作る側に回ったことがなかったから。

 だが冷静に考えてみれば……無駄に消費するだけの行為は失礼きわまりない。ペリが色々なクリエイターに好かれ、曲などを提供してもらっているのも真摯な態度のおかげかもしれない。

 「なるほど、先輩がプロ級たる所以ゆえんを理解できた気がします。きっとリオートやヨミにも、そのような信念があるのでしょうね。
 ただ、僕の信念は……」

 『ただ人気を獲得したい』──ソラフィアートに挑むためにマスター級になりたい。それだけが原動力だ。信念が薄弱で、彼をパフォーマーたらしめる土台が脆い。

 「まあ、そういうスタイルは活動を続けていくうちに確立するものです。焦らず……とは言っても、レヴリッツくんはどうしても焦ってしまいそうですなあ。エビはせっかち。
 成功の秘訣が一つに決まっていないバトルパフォーマーだからこそ、どんなスタイルが正解かはわかりません」

 「僕のスタイル、か……ん?」

 話の途中で、一件の連絡が入った。
 自分のスタイルについて熟考する暇もなく次の用事が。

 差出人はエジェティル・クラーラクト。嫌な予感がする。
 文面にはただ一言、こう書かれていた。

 『屋上』
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