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5章 晩冬堕天戦

10. イメージなんて頼りにならねえ

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 『なんでお前が飛び級してんの? 大した人気もない癖に』
 『運営にどれくらい金払ったんですか? 参考までに教えていただきたいです!』
 『辞退しろよFラン』
 『お前優遇されすぎ。他のパフォーマーに申し訳ないと思わないの?』

 「い つ も の」

 定期的に燃える人間、それがレヴリッツ・シルヴァである。
 掲示板でおもちゃにされるのは日常茶飯事だが、個人SNSにまで誹謗中傷のリプライが飛んでくるのは珍しい。もっとも、大半はレヴリッツを応援するリプライなのだが。

 活動スタイル上、こういうアンチが生まれるのは仕方ない。
 ただでさえ諸所のパフォーマーに喧嘩を売って実力で負かしているのだから。

 「記念ライブが成功して浮かれて、エジェティル様から昇格を却下されて落ち込んで、飛び級がなぜか決まってて喜んで……そして炎上を見て沈む。
 喜劇と悲劇の乱気流。僕は別に中傷なんて気にしないからどうでもいいけど」

 デビューから一年が経ち、とうに炎上には慣れているし、こういった悪口でストレスを感じることもなくなった。むしろ楽しんでるまである。
 彼が生まれ育った環境上、あまり自己肯定感がないのが幸いした。もしもレヴリッツがプライドの高い人間であれば、何年経っても炎上に病んでいただろう。

 「Oath昇格戦まであと一週間……調整に入るかな。
 ヨミとリオートの様子も見に行きたいし……僕がマスターに昇格するって聞いて驚いているのか、それとも……」

 チームメンバーには少し申し訳なさも感じている。
 リオートには共にマスター級になると約束したし、彼らを置いて行ってしまうことに負い目を感じてしまうのだ。もちろんマスター級になってもコラボはするつもりだが、大会などは階級などによって制限されてしまう。

 だが、きっとOathのメンバーならば誰もがマスター級に上がってくれる。
 レヴリッツは信じていた。

 「あとは……マスター級のレイノルド先輩が僕を推薦してくれたらしいな。感謝のDMでも送っておくか。
 ……でも、面識のない僕をどうして?」

 互いに名前くらいは知っているが、会話をしたことはない。
 不思議に思いながらも、彼はレイノルドへ丁重にDMを送っておいた。

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 その後、レヴリッツはOathの皆と広場で会うことに。

 「俺はレヴリッツがマスター級になるなんて……当然のことだと思うが」
 「まあそりゃ、レヴリッツくんですからね。ええ……」
 「私も信じてたよー! レヴ、昇格戦がんばってね!」

 予想通りの答えすぎて、思わずレヴリッツは笑ってしまった。
 そう、Oathは互いに互いの成長を信じていた。
 これほど信頼関係の厚いチームもそうそう見られないだろう。

 ただし。一つ問題がある。

 「イメチェン始めまぁあああす!」

 「うおおおお!」
 「ペリー!!」

 白昼堂々、ヨミが大声で叫んだ。
 それに呼応してリオートとペリもテンションをぶち上げる。
 周囲の人は何事かと四人を見た。

 レヴリッツは困惑する。
 今は配信中ではない。
 しかしながら、この異様なテンション。

 呆れつつレヴリッツはヨミに尋ねた。

 「イメチェン?」

 「せっかく昇格するなら大きな変化が欲しくない?
 というわけで、レヴが来る前にみんなで案を出し合ったのです!
 まずはリオート!」

 「おう。俺が考えたのは、髪型の変更だな。
 まあ妥当な落としどころだろう。俺とレヴリッツはメッシュを入れたり、ヨミやペリシュッシュ先輩は結び方を変えたり……些細な変化でも、結構変わったように見えるもんだ」

 リオートの案はまともだった。
 昇格などの節目に合わせて髪型を変えるパフォーマーは多い。

 だが、ペリが待ったをかける。

 「リオートくん、甘いですね。それじゃ強烈なインパクトは残せません。
 人を表現するのはキャラ付けです! つまり私は超清純派アイドル系に、ヨミさんはサングラスかけてイキってそうな陽キャに、レヴリッツくんはメガネかけたド陰キャに。そしてリオートくんは王族からホスト落ちした輩に!
 ギャップで視聴者を驚かせるのです!」

 「うーん……ペリ先輩。それは悪ふざけが過ぎると思います。クソ寒いノリは視聴者をしらけさせますよ」

 「ク、クソ寒いノリですか……!?
 おもしろいと思ったんだけどなあ……」

 推しが急変して離れる人は多い。
 過剰な変化はかえって衰退をもたらすだろう。

 次いでヨミが悩まし気に語る。

 「私はねー……色々考えてみたんだけど、思いつかなかったよ。誰かセンパイがいいアドバイスをしてくれないかなー?」

 「──その悩み、聞き届けた。
 イメージを変えたい。切なる願いだな」

 悩む四人に忍び寄る男が一人。
 その男は黒いマスクをつけていた。

 何よりも惹かれるのが、頭頂部。
 テカテカとした両側面に、黒い棒のようなものが乗っている。
 いわゆるまげだ。

 レヴリッツは彼の姿を見て。
 いや、彼の声を聴いて……違和感を覚えた。

 「どちら様ですか?
 いや、その声は……まさか」

 「ケビン・ジェード。
 イメチェンして漢になったぜ」

 「!?」

 髷の男はケビンだった。
 いつの間にか彼は大きく外見を変えていたのだ。

 ペリが困惑した様子で問う。

 「え、なんで髷? なんで?
 気でも狂いましたかケビン。あ、もともと狂ってたわ」

 「俺は悟った。今の自分に足りないのは『漢気』だと。
 この凛々しい髷を見ろ! この髪型に変えてから配信の同接は伸び、持病が改善し、金運が一気に上昇し、戦績も好調になった!!
 ……彼女は消えたがな」

 ケビンは威風堂々と決めポーズを取る。
 これがかつての迷惑系パフォーマーだというのか。
 あまりの自信にヨミを除く三人は後退った。

 「ケビンセンパイ、すごい!
 イメチェンマスターですね!!」

 「おう、そうだ。
 手前も髷にならないか?」

 「それは嫌です」

 ヨミにきっぱりと断られたケビンは、首を横に振る。
 それから腕を組んでアドバイスを始めた。

 「まあマジレスするとな、イメチェンなんてのは協会が考えるもんだ。俺みたいに協会からも腫れもの扱いされてる奴は別だが。
 変化は視聴者が感じ取るものであって、パフォーマー側から露骨に発するもんじゃねえだろうな」

 彼の言は一理ある。
 正直なところ、レヴリッツも賛同の立場だ。
 少なくとも髷は却下。

 「……そうですね。僕は何も変えないことにするよ。
 バトルパフォーマーになってから今に至るまで、自分でもかなりの変化を感じ取っている。昔の自分の配信を見直したら、ほんとにテンションが低かったり、義務感が出てたり。
 でも今は違う。心の底から活動を楽しんでいる。視聴者もその変化は感じてくれているはずだから、何も変える必要はなさそうだ」

 どちらにせよ、マスター級になれば。
 レヴリッツの本懐は果たされる。

 それ以降のことは考える必要などない。
 『契約』を果たしたあとの未来は見えないのだから。

 レヴリッツの言葉に、三人は頷いた。
 これまでもこれからも活動スタイルは変わらないだろう。


 それぞれの健闘と栄誉を祈って。
 彼らは昇格戦へ身を投じる。
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