92 / 105
5章 晩冬堕天戦
10. イメージなんて頼りにならねえ
しおりを挟む
『なんでお前が飛び級してんの? 大した人気もない癖に』
『運営にどれくらい金払ったんですか? 参考までに教えていただきたいです!』
『辞退しろよFラン』
『お前優遇されすぎ。他のパフォーマーに申し訳ないと思わないの?』
「い つ も の」
定期的に燃える人間、それがレヴリッツ・シルヴァである。
掲示板でおもちゃにされるのは日常茶飯事だが、個人SNSにまで誹謗中傷のリプライが飛んでくるのは珍しい。もっとも、大半はレヴリッツを応援するリプライなのだが。
活動スタイル上、こういうアンチが生まれるのは仕方ない。
ただでさえ諸所のパフォーマーに喧嘩を売って実力で負かしているのだから。
「記念ライブが成功して浮かれて、エジェティル様から昇格を却下されて落ち込んで、飛び級がなぜか決まってて喜んで……そして炎上を見て沈む。
喜劇と悲劇の乱気流。僕は別に中傷なんて気にしないからどうでもいいけど」
デビューから一年が経ち、とうに炎上には慣れているし、こういった悪口でストレスを感じることもなくなった。むしろ楽しんでるまである。
彼が生まれ育った環境上、あまり自己肯定感がないのが幸いした。もしもレヴリッツがプライドの高い人間であれば、何年経っても炎上に病んでいただろう。
「Oath昇格戦まであと一週間……調整に入るかな。
ヨミとリオートの様子も見に行きたいし……僕がマスターに昇格するって聞いて驚いているのか、それとも……」
チームメンバーには少し申し訳なさも感じている。
リオートには共にマスター級になると約束したし、彼らを置いて行ってしまうことに負い目を感じてしまうのだ。もちろんマスター級になってもコラボはするつもりだが、大会などは階級などによって制限されてしまう。
だが、きっとOathのメンバーならば誰もがマスター級に上がってくれる。
レヴリッツは信じていた。
「あとは……マスター級のレイノルド先輩が僕を推薦してくれたらしいな。感謝のDMでも送っておくか。
……でも、面識のない僕をどうして?」
互いに名前くらいは知っているが、会話をしたことはない。
不思議に思いながらも、彼はレイノルドへ丁重にDMを送っておいた。
-----
その後、レヴリッツはOathの皆と広場で会うことに。
「俺はレヴリッツがマスター級になるなんて……当然のことだと思うが」
「まあそりゃ、レヴリッツくんですからね。ええ……」
「私も信じてたよー! レヴ、昇格戦がんばってね!」
予想通りの答えすぎて、思わずレヴリッツは笑ってしまった。
そう、Oathは互いに互いの成長を信じていた。
これほど信頼関係の厚いチームもそうそう見られないだろう。
ただし。一つ問題がある。
「イメチェン始めまぁあああす!」
「うおおおお!」
「ペリー!!」
白昼堂々、ヨミが大声で叫んだ。
それに呼応してリオートとペリもテンションをぶち上げる。
周囲の人は何事かと四人を見た。
レヴリッツは困惑する。
今は配信中ではない。
しかしながら、この異様なテンション。
呆れつつレヴリッツはヨミに尋ねた。
「イメチェン?」
「せっかく昇格するなら大きな変化が欲しくない?
というわけで、レヴが来る前にみんなで案を出し合ったのです!
まずはリオート!」
「おう。俺が考えたのは、髪型の変更だな。
まあ妥当な落としどころだろう。俺とレヴリッツはメッシュを入れたり、ヨミやペリシュッシュ先輩は結び方を変えたり……些細な変化でも、結構変わったように見えるもんだ」
リオートの案はまともだった。
昇格などの節目に合わせて髪型を変えるパフォーマーは多い。
だが、ペリが待ったをかける。
「リオートくん、甘いですね。それじゃ強烈なインパクトは残せません。
人を表現するのはキャラ付けです! つまり私は超清純派アイドル系に、ヨミさんはサングラスかけてイキってそうな陽キャに、レヴリッツくんはメガネかけたド陰キャに。そしてリオートくんは王族からホスト落ちした輩に!
ギャップで視聴者を驚かせるのです!」
「うーん……ペリ先輩。それは悪ふざけが過ぎると思います。クソ寒いノリは視聴者をしらけさせますよ」
「ク、クソ寒いノリですか……!?
おもしろいと思ったんだけどなあ……」
推しが急変して離れる人は多い。
過剰な変化はかえって衰退をもたらすだろう。
次いでヨミが悩まし気に語る。
「私はねー……色々考えてみたんだけど、思いつかなかったよ。誰かセンパイがいいアドバイスをしてくれないかなー?」
「──その悩み、聞き届けた。
イメージを変えたい。切なる願いだな」
悩む四人に忍び寄る男が一人。
その男は黒いマスクをつけていた。
何よりも惹かれるのが、頭頂部。
テカテカとした両側面に、黒い棒のようなものが乗っている。
いわゆる髷だ。
レヴリッツは彼の姿を見て。
いや、彼の声を聴いて……違和感を覚えた。
「どちら様ですか?
いや、その声は……まさか」
「ケビン・ジェード。
イメチェンして漢になったぜ」
「!?」
髷の男はケビンだった。
いつの間にか彼は大きく外見を変えていたのだ。
ペリが困惑した様子で問う。
「え、なんで髷? なんで?
気でも狂いましたかケビン。あ、もともと狂ってたわ」
「俺は悟った。今の自分に足りないのは『漢気』だと。
この凛々しい髷を見ろ! この髪型に変えてから配信の同接は伸び、持病が改善し、金運が一気に上昇し、戦績も好調になった!!
……彼女は消えたがな」
ケビンは威風堂々と決めポーズを取る。
これがかつての迷惑系パフォーマーだというのか。
あまりの自信にヨミを除く三人は後退った。
「ケビンセンパイ、すごい!
イメチェンマスターですね!!」
「おう、そうだ。
手前も髷にならないか?」
「それは嫌です」
ヨミにきっぱりと断られたケビンは、首を横に振る。
それから腕を組んでアドバイスを始めた。
「まあマジレスするとな、イメチェンなんてのは協会が考えるもんだ。俺みたいに協会からも腫れもの扱いされてる奴は別だが。
変化は視聴者が感じ取るものであって、パフォーマー側から露骨に発するもんじゃねえだろうな」
彼の言は一理ある。
正直なところ、レヴリッツも賛同の立場だ。
少なくとも髷は却下。
「……そうですね。僕は何も変えないことにするよ。
バトルパフォーマーになってから今に至るまで、自分でもかなりの変化を感じ取っている。昔の自分の配信を見直したら、ほんとにテンションが低かったり、義務感が出てたり。
でも今は違う。心の底から活動を楽しんでいる。視聴者もその変化は感じてくれているはずだから、何も変える必要はなさそうだ」
どちらにせよ、マスター級になれば。
レヴリッツの本懐は果たされる。
それ以降のことは考える必要などない。
『契約』を果たしたあとの未来は見えないのだから。
レヴリッツの言葉に、三人は頷いた。
これまでもこれからも活動スタイルは変わらないだろう。
それぞれの健闘と栄誉を祈って。
彼らは昇格戦へ身を投じる。
『運営にどれくらい金払ったんですか? 参考までに教えていただきたいです!』
『辞退しろよFラン』
『お前優遇されすぎ。他のパフォーマーに申し訳ないと思わないの?』
「い つ も の」
定期的に燃える人間、それがレヴリッツ・シルヴァである。
掲示板でおもちゃにされるのは日常茶飯事だが、個人SNSにまで誹謗中傷のリプライが飛んでくるのは珍しい。もっとも、大半はレヴリッツを応援するリプライなのだが。
活動スタイル上、こういうアンチが生まれるのは仕方ない。
ただでさえ諸所のパフォーマーに喧嘩を売って実力で負かしているのだから。
「記念ライブが成功して浮かれて、エジェティル様から昇格を却下されて落ち込んで、飛び級がなぜか決まってて喜んで……そして炎上を見て沈む。
喜劇と悲劇の乱気流。僕は別に中傷なんて気にしないからどうでもいいけど」
デビューから一年が経ち、とうに炎上には慣れているし、こういった悪口でストレスを感じることもなくなった。むしろ楽しんでるまである。
彼が生まれ育った環境上、あまり自己肯定感がないのが幸いした。もしもレヴリッツがプライドの高い人間であれば、何年経っても炎上に病んでいただろう。
「Oath昇格戦まであと一週間……調整に入るかな。
ヨミとリオートの様子も見に行きたいし……僕がマスターに昇格するって聞いて驚いているのか、それとも……」
チームメンバーには少し申し訳なさも感じている。
リオートには共にマスター級になると約束したし、彼らを置いて行ってしまうことに負い目を感じてしまうのだ。もちろんマスター級になってもコラボはするつもりだが、大会などは階級などによって制限されてしまう。
だが、きっとOathのメンバーならば誰もがマスター級に上がってくれる。
レヴリッツは信じていた。
「あとは……マスター級のレイノルド先輩が僕を推薦してくれたらしいな。感謝のDMでも送っておくか。
……でも、面識のない僕をどうして?」
互いに名前くらいは知っているが、会話をしたことはない。
不思議に思いながらも、彼はレイノルドへ丁重にDMを送っておいた。
-----
その後、レヴリッツはOathの皆と広場で会うことに。
「俺はレヴリッツがマスター級になるなんて……当然のことだと思うが」
「まあそりゃ、レヴリッツくんですからね。ええ……」
「私も信じてたよー! レヴ、昇格戦がんばってね!」
予想通りの答えすぎて、思わずレヴリッツは笑ってしまった。
そう、Oathは互いに互いの成長を信じていた。
これほど信頼関係の厚いチームもそうそう見られないだろう。
ただし。一つ問題がある。
「イメチェン始めまぁあああす!」
「うおおおお!」
「ペリー!!」
白昼堂々、ヨミが大声で叫んだ。
それに呼応してリオートとペリもテンションをぶち上げる。
周囲の人は何事かと四人を見た。
レヴリッツは困惑する。
今は配信中ではない。
しかしながら、この異様なテンション。
呆れつつレヴリッツはヨミに尋ねた。
「イメチェン?」
「せっかく昇格するなら大きな変化が欲しくない?
というわけで、レヴが来る前にみんなで案を出し合ったのです!
まずはリオート!」
「おう。俺が考えたのは、髪型の変更だな。
まあ妥当な落としどころだろう。俺とレヴリッツはメッシュを入れたり、ヨミやペリシュッシュ先輩は結び方を変えたり……些細な変化でも、結構変わったように見えるもんだ」
リオートの案はまともだった。
昇格などの節目に合わせて髪型を変えるパフォーマーは多い。
だが、ペリが待ったをかける。
「リオートくん、甘いですね。それじゃ強烈なインパクトは残せません。
人を表現するのはキャラ付けです! つまり私は超清純派アイドル系に、ヨミさんはサングラスかけてイキってそうな陽キャに、レヴリッツくんはメガネかけたド陰キャに。そしてリオートくんは王族からホスト落ちした輩に!
ギャップで視聴者を驚かせるのです!」
「うーん……ペリ先輩。それは悪ふざけが過ぎると思います。クソ寒いノリは視聴者をしらけさせますよ」
「ク、クソ寒いノリですか……!?
おもしろいと思ったんだけどなあ……」
推しが急変して離れる人は多い。
過剰な変化はかえって衰退をもたらすだろう。
次いでヨミが悩まし気に語る。
「私はねー……色々考えてみたんだけど、思いつかなかったよ。誰かセンパイがいいアドバイスをしてくれないかなー?」
「──その悩み、聞き届けた。
イメージを変えたい。切なる願いだな」
悩む四人に忍び寄る男が一人。
その男は黒いマスクをつけていた。
何よりも惹かれるのが、頭頂部。
テカテカとした両側面に、黒い棒のようなものが乗っている。
いわゆる髷だ。
レヴリッツは彼の姿を見て。
いや、彼の声を聴いて……違和感を覚えた。
「どちら様ですか?
いや、その声は……まさか」
「ケビン・ジェード。
イメチェンして漢になったぜ」
「!?」
髷の男はケビンだった。
いつの間にか彼は大きく外見を変えていたのだ。
ペリが困惑した様子で問う。
「え、なんで髷? なんで?
気でも狂いましたかケビン。あ、もともと狂ってたわ」
「俺は悟った。今の自分に足りないのは『漢気』だと。
この凛々しい髷を見ろ! この髪型に変えてから配信の同接は伸び、持病が改善し、金運が一気に上昇し、戦績も好調になった!!
……彼女は消えたがな」
ケビンは威風堂々と決めポーズを取る。
これがかつての迷惑系パフォーマーだというのか。
あまりの自信にヨミを除く三人は後退った。
「ケビンセンパイ、すごい!
イメチェンマスターですね!!」
「おう、そうだ。
手前も髷にならないか?」
「それは嫌です」
ヨミにきっぱりと断られたケビンは、首を横に振る。
それから腕を組んでアドバイスを始めた。
「まあマジレスするとな、イメチェンなんてのは協会が考えるもんだ。俺みたいに協会からも腫れもの扱いされてる奴は別だが。
変化は視聴者が感じ取るものであって、パフォーマー側から露骨に発するもんじゃねえだろうな」
彼の言は一理ある。
正直なところ、レヴリッツも賛同の立場だ。
少なくとも髷は却下。
「……そうですね。僕は何も変えないことにするよ。
バトルパフォーマーになってから今に至るまで、自分でもかなりの変化を感じ取っている。昔の自分の配信を見直したら、ほんとにテンションが低かったり、義務感が出てたり。
でも今は違う。心の底から活動を楽しんでいる。視聴者もその変化は感じてくれているはずだから、何も変える必要はなさそうだ」
どちらにせよ、マスター級になれば。
レヴリッツの本懐は果たされる。
それ以降のことは考える必要などない。
『契約』を果たしたあとの未来は見えないのだから。
レヴリッツの言葉に、三人は頷いた。
これまでもこれからも活動スタイルは変わらないだろう。
それぞれの健闘と栄誉を祈って。
彼らは昇格戦へ身を投じる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
53
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる