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5章 晩冬堕天戦
13. その日、人類は思い出したペリ
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『西側、ペリシュッシュ・メフリオンー!』
「ペリ先かよ……(絶望)」
観客たちが試験官ペリシュッシュを黄色い歓声で迎える中、レヴリッツとリオートは深い絶望に呑まれていた。
さっきの変な技名の試験官よりも悪質なパフォーマーだ。それは同じチームの彼らが最もよく理解していた。
「うわぁ……ひっどい顔してんねレヴリッツ。気持ちはわかるけどさ、一応相棒の晴れ舞台しょ? もっとマシな顔したら?」
「イオ先輩……だって、あんまりじゃないですか……」
またもや隣席に知人が座ってきた。
イオ・スコスコピィ。ペリの元チームメイトであり、昇格戦で相手となったプロ級パフォーマーである。
「うんうん、わかる。一試合目のリオートの対戦相手がサリー、二試合目がペリシュ。泣きたくなるよねマジ。でもさぁ……冷静に考えたらパフォーマーなんてみんな頭おかしいんだからさ、同じ穴の狢でしょ」
「そ、そうですね……なるほど。僕だってまともな人間かと問われれば、頷くことはできません。ペリ先輩はこの上なく圧倒的に地上で類を見ないレベルで、頭のおかしな方ですが……もしかしたら今日ばかりは真面目かもしれない」
「おねえちゃんの頭がおかしいですって!? いくらレヴリッツさんでも……それは言いすぎ……じゃないけど、言い方があると思います!」
また新手がきた。
ペリの妹……エリフテル・メフリオンが噛みついてきた。静かに一人で観戦したいのに、どうしてこう人が集まって来るのか。レヴリッツは首を傾げた。
「すみません、エリフテルさん。お姉さんを悪く言う気はあるのですが、言い方はもう少し工夫すべきでしたね。
……あ、試合が始まるみたいですよ。集中して見ましょう」
フィールドの中央、リオートは天を仰いでいる。
露骨にげんなりしつつも、それを表に出さないように努めて。
「あー……ペリシュッシュ先輩、ですか。
いやー対戦するの楽しみだなー。全力で闘いましょうははは」
「おやおやリオートくん……さてはビビってますね?
仕方ないことです。この【猛花の奇術師】が相手ですからね……ふふふ」
「ええ、ビビッてますよ。色んな意味でね。
本当に怖いですよペリシュッシュ先輩」
「安心してください。今日はリオートくんが主役ですから。
忖度するわけじゃありませんが、私が過度に目立つ大奇術は披露いたしません」
両者は煽り合いながら、じりじりと距離を取っていく。
所定の位置まで辿り着いたところでセーフティ装置を起動。
「俺が勝ちます。リオート・エルキス」
「それはどうでしょうか? ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! リオート・エルキス、一試合目の雪辱なるか……
──試合開始です!』
試合が始まったと同時、フィールドに二つの魔力が走る。
一つはリオートの魔力。おそらく独壇場を発動するつもりだろう。
そしてもう一つはペリの波長。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「俺の舞台で踊り狂え……
独壇場──【氷雪霊城】!」
まずはリオートの氷雪霊城が現れる。
バトルフィールドのど真ん中に現れた氷の城。闘技場全体の席から観戦できるように、端に城は作らなかった。
一気に跳躍したリオートは、城の頂上にある玉座に立つ。
「さあ、かかってこいよ先輩。俺の城を崩して見せろ」
「──わかっていましたよ、リオートくん。
あなたが独壇場を披露してくることは確実でした。ですから、私も対抗手段を用意したのです。目には目を、歯には歯を……我が秘策、とくとご覧あれ!」
ペリの魔力が一斉に波及する。
全身が粟立つかのような感覚。ギャラリーのレヴリッツとイオは目を見開いた。
「まさか……ペリ先輩、独壇場には独壇場で対抗する気か……っ!?」
「マ? ペリシュ、使えたんだ。
ここで初披露……ってとこかね。ウチも楽しみだわ」
独壇場の相克。
それは一流のパフォーマー同士の闘いを意味する。想像を絶する熱戦、予測不能の領域合戦。互いに全力をぶつけ合う熱い闘いが巻き起こるのだ。
「まさかペリシュッシュ先輩……俺と同じように独壇場を!?」
リオートに問われたペリは首を傾げる。
「いえ違いますけど。デカいもんにはデカいもんで対抗すんですよ。
とりあえずその城、壊しますね」
中央に城が聳え立つ中、ペリはそそくさとバトルフィールドの端へ。
そして……溝になっている部分に身体を丸めて入り込んだ。
「何をする気だ……?(嫌な予感しかしねぇ……)」
リオートはペリの奇行を警戒しつつ、魔装で防御力を高める。
周囲におかしなところは何もない。大規模な攻撃が来る魔力の波長も感じられない。彼は氷城の頂上から必死に周囲を見渡す。
一方、ペリは波及させた魔力を媒介とし……拡声魔法を起動。観客のざわつきを遮断し、一時的な静寂を齎した。闘技場が異様なまでに静まり返る。
彼女は粛々とナレーションを開始する。
「──その日、人類は思い出したペリ」
稲妻走る。
リオートの城を上回る巨大な影が、そこに立っていた。
観客はみな黙して「其」を見上げる。
「奴らに支配されていた恐怖を。
鳥かごの中に囚われていた、屈辱を……ペリ」
影が蠢いたかと思うと、凄まじい爆音と衝撃が伝播。
リオートの氷城は粉々に砕け散り……彼はまっ逆さまに落下する。影を見上げたリオートは思わず叫んだ。
「なんだぁぁあ!?」
「これぞ私の秘密兵器……超大型プレちゃんです!!
ヒャッハァー!! 蹂躙しろプレちゃん!」
全長50mを超えるプレデターフラワーを見上げ、リオートは戦慄して青褪める。
たしかにバトルパフォーマンスで使い魔の持ち込みは認められている。
認められている、が……
「ペリ先輩……あ ほ く さ」
「草。ダメみたいやね」
「おねえちゃんすごい! あんなでっかい怪物を従えるなんて!」
なぜかギャラリーでは歓声が上がり、実況解説も盛り上がっている。
この観客たちごと全部地ならしで吹き飛べばいいのに……とレヴリッツは頭を抱えた。もう終わりだよこの競技。
得意の独壇場を破壊されたリオート。
彼は冷や汗を拭い、地上を睥睨するプレデターフラワーを見上げた。大きさとはすなわち脅威の値そのもの。アレをどうやって攻略するべきか……悩んでいると実況が警告を出した。
『えー……ただいま協会から通達がありました。
規定により、全長20mを超える使い魔の投入は禁止されているとのことです。ペリシュッシュ試験官はただちに使い魔を収容してください』
「え……あ、そうなんですか。すみません。
プレちゃん戻って」
「出オチかよ」
ペリに命じられ、超大型プレデターフラワーは煙となって消えていく。
しかしリオートからすれば辛いものがある。独壇場の建造に費やした魔力を持っていかれた。二発連続はさすがに厳しい。
「一片氷心──《霜走》」
速攻。それがリオートの選んだ選択肢。
超大型プレちゃんが蒸発していく蒸気に紛れ、リオートは駆け出した。ペリは未だ呑気に魔装を構築している。
魅せ場もクソもないが、とりあえず勝てば昇格は実現する。
ペリシュッシュ・メフリオンの一番の怖さ……それは『得体の知れなさ』。正直、彼女と同じチームのリオートでも知らない情報が多すぎる。
プレちゃんとは何か。マジックの種は何か。本気を出せばどれくらい強いのか。
あらゆる情報が謎に包まれており、だからこそ彼女は厄介なのだ。
「《凍嵐》」
手の指すべてに氷の刃を装着。
このまま蒸気に紛れ、ペリを奇襲して押し切る。
モニター越しに状況を観察していたイオは、リオートの判断力に感心を見せる。
「へえ。リオートの択、悪くないんじゃね? 同チのレヴリッツ的にはどう?」
「相手が一般的な魔術師なら、奇襲の接近戦を仕掛けるのは悪くありません。
ただ相手がペリ先輩なので……あの人、変な魔術ばっかり修めてるんですよ。僕も何が起こるかわからないです」
素早くフィールドを駆けるリオートは、ペリの背後へ回り込む。
完全に間合いに入った。まだペリは索敵中。
(取った……!)
真っ白な蒸気から抜け出し、彼は氷刃を振りかざす。
この距離から回避することは不可能。細切れとなった視界の中、ペリは自らの背後に刃が迫っていることを察知したが……間に合わない。
「終わりだッ……!?」
だが、リオートの攻撃は弾かれた。
たしかに攻撃は命中したが……美しい砕氷が宙に舞う。
ペリの体の一部が石のように硬く、ダメージが入っていなかった。
「刃が通らねえ……」
「ふふふ……メフリオン家に代々伝わる謎の魔術、『超硬化』。
奇襲対策に用意しておいた魔術なんですが……実はこれ、発動すると私も動けなくなるんですよ。それではおやすみなさい」
リオートの刃を防ぐために硬化したペリの首元。
しかし、そこからじわじわと……彼女の全身が硬化に蝕まれていく。やがて彼女は物言わぬ石仏となり、バトルフィールドの中心に立ち尽くした。
「え……いや、先輩困るんですけど。このっ!」
『……ペリ』
リオートが力を籠めて斬りかかっても傷はつかず。硬化したペリの石像は静かに佇んでいた。
「ど、どうしよう……おねえちゃんが石になっちゃった!?」
「エリフテルさん、心配しなくても大丈夫ですよ。時間が経てば戻りますから。
それよりも、この魔力の流れは……」
レヴリッツはフィールド全体を見渡す。どこか見覚えのある魔力の流れだ。
そう、これはたしかペリの昇格戦の時と同じ──
──《炎竜花》
瞬間、闘技場が紅蓮に染まった。
灼熱の花がフィールド中にぶわっと咲き誇り、すさまじい熱気が駆ける。地表に残っていた氷の欠片が跡形もなく溶けて……リオートは煉獄の中に立たされる。
相も変わらずペリは石となって動じず。
汗を流すリオートを見てイオは呆れかえった。
「同チの後輩相手に、しかも昇格戦で。
火攻めだよ。自分だけ石になって知らぬ存ぜぬ、後はリオートが倒れんのを待つだけ……いやー相変わらずクズだねペリシュ。卑怯ってレベルじゃなくて草」
「お、おねえちゃん……さすがにそれはクソだよ……擁護できないよ」
妹のエリフテルでさえ呆れているのに、またしても観客はなぜか歓声を上げている。見てて面白ければ何でもいいのだろう。
苦境に立たされたリオート。
目の前で佇む石ペリをどうにか攻略しなければ、炎のフィールドに体力を奪われて負ける。
(考えろ、この硬質化を解除する方法を……! ただの氷じゃ歯が立たない。今まで氷属性の攻撃に頼りきりだったツケをここで払うんだ……!)
物理的に石を砕くことは不可能。
炎熱の中、彼は思考を冷やす。ここに至るまでのプロセスを考えて……ペリのふざけた行いにはらわたが煮えくり返った。
「お、落ち着け……クソ、熱い!」
ペリは全身が石化してから炎花を展開した。
つまり、石化状態でも魔術を発動することができるし、魔術を発動するだけの意識があるということ。
にも拘わらず、石化しながら攻撃魔術を放ってこないのは何故か?
チームメイトのリオートはすぐにわかった。
(──舐めプだ)
リオートが炎に囲まれて苦しむ様を、ペリは内心ほくそ笑んで見ているに違いない。
ならば攻略法は「あの手」に限る。彼は石像の耳元に立って呟いた。
「……何をしている。闘えよペリシュッシュ先輩」
『……』
動かぬペリの肩を掴むと、熱くなった石面が手のひらを焦がす。
「忘れたのか? 何をしにここに来たのか……」
『…………』
「昇格戦の試験官をするためだろ?」
凄まじい圧を瞳に籠め、彼はペリの頭に声を投げかけ続ける。
「俺が、リオート・エルキスがプロ級昇格に相応しいかどうかを、判断するために……
闘うんだ。正々堂々と、試験官に相応しい態度で……」
『………………』
精神攻撃だ。
いや、精神攻撃と言うことすらおこがましい。なぜならリオートは正論を説いているだけなのだから。ただ当然の責務を問うているだけ。
「──これは、ペリ先が始めた物語だろ」
『ひゃ、ひゃあぁああぁっ!!!』
とうとう自責の念に苛まれたのか、ペリが半狂乱になって硬質化を解除した。
その瞬間こそリオートが待っていた瞬間。
「はぁあああっ!」
うなじにすばやく一刀。
急所を突かれたペリは呆気なくセーフティ装置を作動させられ、紅蓮の地面に突っ伏した。
『え、あっ……き、決まりましたーっ!
リオート選手、よくわからない手段でプロ級へ昇格を決めました!
ペリシュッシュ・メフリオンを試験官に任命したのは間違いでしたね!』
決着を告げるアナウンスに、ギャラリーは今日いちばんの盛り上がりを見せる。
一方、レヴリッツは頭を抱えていた。
「こんな勝負を前日に見せられて、僕は明日まともに闘えるだろうか……?」
「ペリ先かよ……(絶望)」
観客たちが試験官ペリシュッシュを黄色い歓声で迎える中、レヴリッツとリオートは深い絶望に呑まれていた。
さっきの変な技名の試験官よりも悪質なパフォーマーだ。それは同じチームの彼らが最もよく理解していた。
「うわぁ……ひっどい顔してんねレヴリッツ。気持ちはわかるけどさ、一応相棒の晴れ舞台しょ? もっとマシな顔したら?」
「イオ先輩……だって、あんまりじゃないですか……」
またもや隣席に知人が座ってきた。
イオ・スコスコピィ。ペリの元チームメイトであり、昇格戦で相手となったプロ級パフォーマーである。
「うんうん、わかる。一試合目のリオートの対戦相手がサリー、二試合目がペリシュ。泣きたくなるよねマジ。でもさぁ……冷静に考えたらパフォーマーなんてみんな頭おかしいんだからさ、同じ穴の狢でしょ」
「そ、そうですね……なるほど。僕だってまともな人間かと問われれば、頷くことはできません。ペリ先輩はこの上なく圧倒的に地上で類を見ないレベルで、頭のおかしな方ですが……もしかしたら今日ばかりは真面目かもしれない」
「おねえちゃんの頭がおかしいですって!? いくらレヴリッツさんでも……それは言いすぎ……じゃないけど、言い方があると思います!」
また新手がきた。
ペリの妹……エリフテル・メフリオンが噛みついてきた。静かに一人で観戦したいのに、どうしてこう人が集まって来るのか。レヴリッツは首を傾げた。
「すみません、エリフテルさん。お姉さんを悪く言う気はあるのですが、言い方はもう少し工夫すべきでしたね。
……あ、試合が始まるみたいですよ。集中して見ましょう」
フィールドの中央、リオートは天を仰いでいる。
露骨にげんなりしつつも、それを表に出さないように努めて。
「あー……ペリシュッシュ先輩、ですか。
いやー対戦するの楽しみだなー。全力で闘いましょうははは」
「おやおやリオートくん……さてはビビってますね?
仕方ないことです。この【猛花の奇術師】が相手ですからね……ふふふ」
「ええ、ビビッてますよ。色んな意味でね。
本当に怖いですよペリシュッシュ先輩」
「安心してください。今日はリオートくんが主役ですから。
忖度するわけじゃありませんが、私が過度に目立つ大奇術は披露いたしません」
両者は煽り合いながら、じりじりと距離を取っていく。
所定の位置まで辿り着いたところでセーフティ装置を起動。
「俺が勝ちます。リオート・エルキス」
「それはどうでしょうか? ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! リオート・エルキス、一試合目の雪辱なるか……
──試合開始です!』
試合が始まったと同時、フィールドに二つの魔力が走る。
一つはリオートの魔力。おそらく独壇場を発動するつもりだろう。
そしてもう一つはペリの波長。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「俺の舞台で踊り狂え……
独壇場──【氷雪霊城】!」
まずはリオートの氷雪霊城が現れる。
バトルフィールドのど真ん中に現れた氷の城。闘技場全体の席から観戦できるように、端に城は作らなかった。
一気に跳躍したリオートは、城の頂上にある玉座に立つ。
「さあ、かかってこいよ先輩。俺の城を崩して見せろ」
「──わかっていましたよ、リオートくん。
あなたが独壇場を披露してくることは確実でした。ですから、私も対抗手段を用意したのです。目には目を、歯には歯を……我が秘策、とくとご覧あれ!」
ペリの魔力が一斉に波及する。
全身が粟立つかのような感覚。ギャラリーのレヴリッツとイオは目を見開いた。
「まさか……ペリ先輩、独壇場には独壇場で対抗する気か……っ!?」
「マ? ペリシュ、使えたんだ。
ここで初披露……ってとこかね。ウチも楽しみだわ」
独壇場の相克。
それは一流のパフォーマー同士の闘いを意味する。想像を絶する熱戦、予測不能の領域合戦。互いに全力をぶつけ合う熱い闘いが巻き起こるのだ。
「まさかペリシュッシュ先輩……俺と同じように独壇場を!?」
リオートに問われたペリは首を傾げる。
「いえ違いますけど。デカいもんにはデカいもんで対抗すんですよ。
とりあえずその城、壊しますね」
中央に城が聳え立つ中、ペリはそそくさとバトルフィールドの端へ。
そして……溝になっている部分に身体を丸めて入り込んだ。
「何をする気だ……?(嫌な予感しかしねぇ……)」
リオートはペリの奇行を警戒しつつ、魔装で防御力を高める。
周囲におかしなところは何もない。大規模な攻撃が来る魔力の波長も感じられない。彼は氷城の頂上から必死に周囲を見渡す。
一方、ペリは波及させた魔力を媒介とし……拡声魔法を起動。観客のざわつきを遮断し、一時的な静寂を齎した。闘技場が異様なまでに静まり返る。
彼女は粛々とナレーションを開始する。
「──その日、人類は思い出したペリ」
稲妻走る。
リオートの城を上回る巨大な影が、そこに立っていた。
観客はみな黙して「其」を見上げる。
「奴らに支配されていた恐怖を。
鳥かごの中に囚われていた、屈辱を……ペリ」
影が蠢いたかと思うと、凄まじい爆音と衝撃が伝播。
リオートの氷城は粉々に砕け散り……彼はまっ逆さまに落下する。影を見上げたリオートは思わず叫んだ。
「なんだぁぁあ!?」
「これぞ私の秘密兵器……超大型プレちゃんです!!
ヒャッハァー!! 蹂躙しろプレちゃん!」
全長50mを超えるプレデターフラワーを見上げ、リオートは戦慄して青褪める。
たしかにバトルパフォーマンスで使い魔の持ち込みは認められている。
認められている、が……
「ペリ先輩……あ ほ く さ」
「草。ダメみたいやね」
「おねえちゃんすごい! あんなでっかい怪物を従えるなんて!」
なぜかギャラリーでは歓声が上がり、実況解説も盛り上がっている。
この観客たちごと全部地ならしで吹き飛べばいいのに……とレヴリッツは頭を抱えた。もう終わりだよこの競技。
得意の独壇場を破壊されたリオート。
彼は冷や汗を拭い、地上を睥睨するプレデターフラワーを見上げた。大きさとはすなわち脅威の値そのもの。アレをどうやって攻略するべきか……悩んでいると実況が警告を出した。
『えー……ただいま協会から通達がありました。
規定により、全長20mを超える使い魔の投入は禁止されているとのことです。ペリシュッシュ試験官はただちに使い魔を収容してください』
「え……あ、そうなんですか。すみません。
プレちゃん戻って」
「出オチかよ」
ペリに命じられ、超大型プレデターフラワーは煙となって消えていく。
しかしリオートからすれば辛いものがある。独壇場の建造に費やした魔力を持っていかれた。二発連続はさすがに厳しい。
「一片氷心──《霜走》」
速攻。それがリオートの選んだ選択肢。
超大型プレちゃんが蒸発していく蒸気に紛れ、リオートは駆け出した。ペリは未だ呑気に魔装を構築している。
魅せ場もクソもないが、とりあえず勝てば昇格は実現する。
ペリシュッシュ・メフリオンの一番の怖さ……それは『得体の知れなさ』。正直、彼女と同じチームのリオートでも知らない情報が多すぎる。
プレちゃんとは何か。マジックの種は何か。本気を出せばどれくらい強いのか。
あらゆる情報が謎に包まれており、だからこそ彼女は厄介なのだ。
「《凍嵐》」
手の指すべてに氷の刃を装着。
このまま蒸気に紛れ、ペリを奇襲して押し切る。
モニター越しに状況を観察していたイオは、リオートの判断力に感心を見せる。
「へえ。リオートの択、悪くないんじゃね? 同チのレヴリッツ的にはどう?」
「相手が一般的な魔術師なら、奇襲の接近戦を仕掛けるのは悪くありません。
ただ相手がペリ先輩なので……あの人、変な魔術ばっかり修めてるんですよ。僕も何が起こるかわからないです」
素早くフィールドを駆けるリオートは、ペリの背後へ回り込む。
完全に間合いに入った。まだペリは索敵中。
(取った……!)
真っ白な蒸気から抜け出し、彼は氷刃を振りかざす。
この距離から回避することは不可能。細切れとなった視界の中、ペリは自らの背後に刃が迫っていることを察知したが……間に合わない。
「終わりだッ……!?」
だが、リオートの攻撃は弾かれた。
たしかに攻撃は命中したが……美しい砕氷が宙に舞う。
ペリの体の一部が石のように硬く、ダメージが入っていなかった。
「刃が通らねえ……」
「ふふふ……メフリオン家に代々伝わる謎の魔術、『超硬化』。
奇襲対策に用意しておいた魔術なんですが……実はこれ、発動すると私も動けなくなるんですよ。それではおやすみなさい」
リオートの刃を防ぐために硬化したペリの首元。
しかし、そこからじわじわと……彼女の全身が硬化に蝕まれていく。やがて彼女は物言わぬ石仏となり、バトルフィールドの中心に立ち尽くした。
「え……いや、先輩困るんですけど。このっ!」
『……ペリ』
リオートが力を籠めて斬りかかっても傷はつかず。硬化したペリの石像は静かに佇んでいた。
「ど、どうしよう……おねえちゃんが石になっちゃった!?」
「エリフテルさん、心配しなくても大丈夫ですよ。時間が経てば戻りますから。
それよりも、この魔力の流れは……」
レヴリッツはフィールド全体を見渡す。どこか見覚えのある魔力の流れだ。
そう、これはたしかペリの昇格戦の時と同じ──
──《炎竜花》
瞬間、闘技場が紅蓮に染まった。
灼熱の花がフィールド中にぶわっと咲き誇り、すさまじい熱気が駆ける。地表に残っていた氷の欠片が跡形もなく溶けて……リオートは煉獄の中に立たされる。
相も変わらずペリは石となって動じず。
汗を流すリオートを見てイオは呆れかえった。
「同チの後輩相手に、しかも昇格戦で。
火攻めだよ。自分だけ石になって知らぬ存ぜぬ、後はリオートが倒れんのを待つだけ……いやー相変わらずクズだねペリシュ。卑怯ってレベルじゃなくて草」
「お、おねえちゃん……さすがにそれはクソだよ……擁護できないよ」
妹のエリフテルでさえ呆れているのに、またしても観客はなぜか歓声を上げている。見てて面白ければ何でもいいのだろう。
苦境に立たされたリオート。
目の前で佇む石ペリをどうにか攻略しなければ、炎のフィールドに体力を奪われて負ける。
(考えろ、この硬質化を解除する方法を……! ただの氷じゃ歯が立たない。今まで氷属性の攻撃に頼りきりだったツケをここで払うんだ……!)
物理的に石を砕くことは不可能。
炎熱の中、彼は思考を冷やす。ここに至るまでのプロセスを考えて……ペリのふざけた行いにはらわたが煮えくり返った。
「お、落ち着け……クソ、熱い!」
ペリは全身が石化してから炎花を展開した。
つまり、石化状態でも魔術を発動することができるし、魔術を発動するだけの意識があるということ。
にも拘わらず、石化しながら攻撃魔術を放ってこないのは何故か?
チームメイトのリオートはすぐにわかった。
(──舐めプだ)
リオートが炎に囲まれて苦しむ様を、ペリは内心ほくそ笑んで見ているに違いない。
ならば攻略法は「あの手」に限る。彼は石像の耳元に立って呟いた。
「……何をしている。闘えよペリシュッシュ先輩」
『……』
動かぬペリの肩を掴むと、熱くなった石面が手のひらを焦がす。
「忘れたのか? 何をしにここに来たのか……」
『…………』
「昇格戦の試験官をするためだろ?」
凄まじい圧を瞳に籠め、彼はペリの頭に声を投げかけ続ける。
「俺が、リオート・エルキスがプロ級昇格に相応しいかどうかを、判断するために……
闘うんだ。正々堂々と、試験官に相応しい態度で……」
『………………』
精神攻撃だ。
いや、精神攻撃と言うことすらおこがましい。なぜならリオートは正論を説いているだけなのだから。ただ当然の責務を問うているだけ。
「──これは、ペリ先が始めた物語だろ」
『ひゃ、ひゃあぁああぁっ!!!』
とうとう自責の念に苛まれたのか、ペリが半狂乱になって硬質化を解除した。
その瞬間こそリオートが待っていた瞬間。
「はぁあああっ!」
うなじにすばやく一刀。
急所を突かれたペリは呆気なくセーフティ装置を作動させられ、紅蓮の地面に突っ伏した。
『え、あっ……き、決まりましたーっ!
リオート選手、よくわからない手段でプロ級へ昇格を決めました!
ペリシュッシュ・メフリオンを試験官に任命したのは間違いでしたね!』
決着を告げるアナウンスに、ギャラリーは今日いちばんの盛り上がりを見せる。
一方、レヴリッツは頭を抱えていた。
「こんな勝負を前日に見せられて、僕は明日まともに闘えるだろうか……?」
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ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
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役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
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そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
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