95 / 105
5章 晩冬堕天戦
13. その日、人類は思い出したペリ
しおりを挟む
『西側、ペリシュッシュ・メフリオンー!』
「ペリ先かよ……(絶望)」
観客たちが試験官ペリシュッシュを黄色い歓声で迎える中、レヴリッツとリオートは深い絶望に呑まれていた。
さっきの変な技名の試験官よりも悪質なパフォーマーだ。それは同じチームの彼らが最もよく理解していた。
「うわぁ……ひっどい顔してんねレヴリッツ。気持ちはわかるけどさ、一応相棒の晴れ舞台しょ? もっとマシな顔したら?」
「イオ先輩……だって、あんまりじゃないですか……」
またもや隣席に知人が座ってきた。
イオ・スコスコピィ。ペリの元チームメイトであり、昇格戦で相手となったプロ級パフォーマーである。
「うんうん、わかる。一試合目のリオートの対戦相手がサリー、二試合目がペリシュ。泣きたくなるよねマジ。でもさぁ……冷静に考えたらパフォーマーなんてみんな頭おかしいんだからさ、同じ穴の狢でしょ」
「そ、そうですね……なるほど。僕だってまともな人間かと問われれば、頷くことはできません。ペリ先輩はこの上なく圧倒的に地上で類を見ないレベルで、頭のおかしな方ですが……もしかしたら今日ばかりは真面目かもしれない」
「おねえちゃんの頭がおかしいですって!? いくらレヴリッツさんでも……それは言いすぎ……じゃないけど、言い方があると思います!」
また新手がきた。
ペリの妹……エリフテル・メフリオンが噛みついてきた。静かに一人で観戦したいのに、どうしてこう人が集まって来るのか。レヴリッツは首を傾げた。
「すみません、エリフテルさん。お姉さんを悪く言う気はあるのですが、言い方はもう少し工夫すべきでしたね。
……あ、試合が始まるみたいですよ。集中して見ましょう」
フィールドの中央、リオートは天を仰いでいる。
露骨にげんなりしつつも、それを表に出さないように努めて。
「あー……ペリシュッシュ先輩、ですか。
いやー対戦するの楽しみだなー。全力で闘いましょうははは」
「おやおやリオートくん……さてはビビってますね?
仕方ないことです。この【猛花の奇術師】が相手ですからね……ふふふ」
「ええ、ビビッてますよ。色んな意味でね。
本当に怖いですよペリシュッシュ先輩」
「安心してください。今日はリオートくんが主役ですから。
忖度するわけじゃありませんが、私が過度に目立つ大奇術は披露いたしません」
両者は煽り合いながら、じりじりと距離を取っていく。
所定の位置まで辿り着いたところでセーフティ装置を起動。
「俺が勝ちます。リオート・エルキス」
「それはどうでしょうか? ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! リオート・エルキス、一試合目の雪辱なるか……
──試合開始です!』
試合が始まったと同時、フィールドに二つの魔力が走る。
一つはリオートの魔力。おそらく独壇場を発動するつもりだろう。
そしてもう一つはペリの波長。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「俺の舞台で踊り狂え……
独壇場──【氷雪霊城】!」
まずはリオートの氷雪霊城が現れる。
バトルフィールドのど真ん中に現れた氷の城。闘技場全体の席から観戦できるように、端に城は作らなかった。
一気に跳躍したリオートは、城の頂上にある玉座に立つ。
「さあ、かかってこいよ先輩。俺の城を崩して見せろ」
「──わかっていましたよ、リオートくん。
あなたが独壇場を披露してくることは確実でした。ですから、私も対抗手段を用意したのです。目には目を、歯には歯を……我が秘策、とくとご覧あれ!」
ペリの魔力が一斉に波及する。
全身が粟立つかのような感覚。ギャラリーのレヴリッツとイオは目を見開いた。
「まさか……ペリ先輩、独壇場には独壇場で対抗する気か……っ!?」
「マ? ペリシュ、使えたんだ。
ここで初披露……ってとこかね。ウチも楽しみだわ」
独壇場の相克。
それは一流のパフォーマー同士の闘いを意味する。想像を絶する熱戦、予測不能の領域合戦。互いに全力をぶつけ合う熱い闘いが巻き起こるのだ。
「まさかペリシュッシュ先輩……俺と同じように独壇場を!?」
リオートに問われたペリは首を傾げる。
「いえ違いますけど。デカいもんにはデカいもんで対抗すんですよ。
とりあえずその城、壊しますね」
中央に城が聳え立つ中、ペリはそそくさとバトルフィールドの端へ。
そして……溝になっている部分に身体を丸めて入り込んだ。
「何をする気だ……?(嫌な予感しかしねぇ……)」
リオートはペリの奇行を警戒しつつ、魔装で防御力を高める。
周囲におかしなところは何もない。大規模な攻撃が来る魔力の波長も感じられない。彼は氷城の頂上から必死に周囲を見渡す。
一方、ペリは波及させた魔力を媒介とし……拡声魔法を起動。観客のざわつきを遮断し、一時的な静寂を齎した。闘技場が異様なまでに静まり返る。
彼女は粛々とナレーションを開始する。
「──その日、人類は思い出したペリ」
稲妻走る。
リオートの城を上回る巨大な影が、そこに立っていた。
観客はみな黙して「其」を見上げる。
「奴らに支配されていた恐怖を。
鳥かごの中に囚われていた、屈辱を……ペリ」
影が蠢いたかと思うと、凄まじい爆音と衝撃が伝播。
リオートの氷城は粉々に砕け散り……彼はまっ逆さまに落下する。影を見上げたリオートは思わず叫んだ。
「なんだぁぁあ!?」
「これぞ私の秘密兵器……超大型プレちゃんです!!
ヒャッハァー!! 蹂躙しろプレちゃん!」
全長50mを超えるプレデターフラワーを見上げ、リオートは戦慄して青褪める。
たしかにバトルパフォーマンスで使い魔の持ち込みは認められている。
認められている、が……
「ペリ先輩……あ ほ く さ」
「草。ダメみたいやね」
「おねえちゃんすごい! あんなでっかい怪物を従えるなんて!」
なぜかギャラリーでは歓声が上がり、実況解説も盛り上がっている。
この観客たちごと全部地ならしで吹き飛べばいいのに……とレヴリッツは頭を抱えた。もう終わりだよこの競技。
得意の独壇場を破壊されたリオート。
彼は冷や汗を拭い、地上を睥睨するプレデターフラワーを見上げた。大きさとはすなわち脅威の値そのもの。アレをどうやって攻略するべきか……悩んでいると実況が警告を出した。
『えー……ただいま協会から通達がありました。
規定により、全長20mを超える使い魔の投入は禁止されているとのことです。ペリシュッシュ試験官はただちに使い魔を収容してください』
「え……あ、そうなんですか。すみません。
プレちゃん戻って」
「出オチかよ」
ペリに命じられ、超大型プレデターフラワーは煙となって消えていく。
しかしリオートからすれば辛いものがある。独壇場の建造に費やした魔力を持っていかれた。二発連続はさすがに厳しい。
「一片氷心──《霜走》」
速攻。それがリオートの選んだ選択肢。
超大型プレちゃんが蒸発していく蒸気に紛れ、リオートは駆け出した。ペリは未だ呑気に魔装を構築している。
魅せ場もクソもないが、とりあえず勝てば昇格は実現する。
ペリシュッシュ・メフリオンの一番の怖さ……それは『得体の知れなさ』。正直、彼女と同じチームのリオートでも知らない情報が多すぎる。
プレちゃんとは何か。マジックの種は何か。本気を出せばどれくらい強いのか。
あらゆる情報が謎に包まれており、だからこそ彼女は厄介なのだ。
「《凍嵐》」
手の指すべてに氷の刃を装着。
このまま蒸気に紛れ、ペリを奇襲して押し切る。
モニター越しに状況を観察していたイオは、リオートの判断力に感心を見せる。
「へえ。リオートの択、悪くないんじゃね? 同チのレヴリッツ的にはどう?」
「相手が一般的な魔術師なら、奇襲の接近戦を仕掛けるのは悪くありません。
ただ相手がペリ先輩なので……あの人、変な魔術ばっかり修めてるんですよ。僕も何が起こるかわからないです」
素早くフィールドを駆けるリオートは、ペリの背後へ回り込む。
完全に間合いに入った。まだペリは索敵中。
(取った……!)
真っ白な蒸気から抜け出し、彼は氷刃を振りかざす。
この距離から回避することは不可能。細切れとなった視界の中、ペリは自らの背後に刃が迫っていることを察知したが……間に合わない。
「終わりだッ……!?」
だが、リオートの攻撃は弾かれた。
たしかに攻撃は命中したが……美しい砕氷が宙に舞う。
ペリの体の一部が石のように硬く、ダメージが入っていなかった。
「刃が通らねえ……」
「ふふふ……メフリオン家に代々伝わる謎の魔術、『超硬化』。
奇襲対策に用意しておいた魔術なんですが……実はこれ、発動すると私も動けなくなるんですよ。それではおやすみなさい」
リオートの刃を防ぐために硬化したペリの首元。
しかし、そこからじわじわと……彼女の全身が硬化に蝕まれていく。やがて彼女は物言わぬ石仏となり、バトルフィールドの中心に立ち尽くした。
「え……いや、先輩困るんですけど。このっ!」
『……ペリ』
リオートが力を籠めて斬りかかっても傷はつかず。硬化したペリの石像は静かに佇んでいた。
「ど、どうしよう……おねえちゃんが石になっちゃった!?」
「エリフテルさん、心配しなくても大丈夫ですよ。時間が経てば戻りますから。
それよりも、この魔力の流れは……」
レヴリッツはフィールド全体を見渡す。どこか見覚えのある魔力の流れだ。
そう、これはたしかペリの昇格戦の時と同じ──
──《炎竜花》
瞬間、闘技場が紅蓮に染まった。
灼熱の花がフィールド中にぶわっと咲き誇り、すさまじい熱気が駆ける。地表に残っていた氷の欠片が跡形もなく溶けて……リオートは煉獄の中に立たされる。
相も変わらずペリは石となって動じず。
汗を流すリオートを見てイオは呆れかえった。
「同チの後輩相手に、しかも昇格戦で。
火攻めだよ。自分だけ石になって知らぬ存ぜぬ、後はリオートが倒れんのを待つだけ……いやー相変わらずクズだねペリシュ。卑怯ってレベルじゃなくて草」
「お、おねえちゃん……さすがにそれはクソだよ……擁護できないよ」
妹のエリフテルでさえ呆れているのに、またしても観客はなぜか歓声を上げている。見てて面白ければ何でもいいのだろう。
苦境に立たされたリオート。
目の前で佇む石ペリをどうにか攻略しなければ、炎のフィールドに体力を奪われて負ける。
(考えろ、この硬質化を解除する方法を……! ただの氷じゃ歯が立たない。今まで氷属性の攻撃に頼りきりだったツケをここで払うんだ……!)
物理的に石を砕くことは不可能。
炎熱の中、彼は思考を冷やす。ここに至るまでのプロセスを考えて……ペリのふざけた行いにはらわたが煮えくり返った。
「お、落ち着け……クソ、熱い!」
ペリは全身が石化してから炎花を展開した。
つまり、石化状態でも魔術を発動することができるし、魔術を発動するだけの意識があるということ。
にも拘わらず、石化しながら攻撃魔術を放ってこないのは何故か?
チームメイトのリオートはすぐにわかった。
(──舐めプだ)
リオートが炎に囲まれて苦しむ様を、ペリは内心ほくそ笑んで見ているに違いない。
ならば攻略法は「あの手」に限る。彼は石像の耳元に立って呟いた。
「……何をしている。闘えよペリシュッシュ先輩」
『……』
動かぬペリの肩を掴むと、熱くなった石面が手のひらを焦がす。
「忘れたのか? 何をしにここに来たのか……」
『…………』
「昇格戦の試験官をするためだろ?」
凄まじい圧を瞳に籠め、彼はペリの頭に声を投げかけ続ける。
「俺が、リオート・エルキスがプロ級昇格に相応しいかどうかを、判断するために……
闘うんだ。正々堂々と、試験官に相応しい態度で……」
『………………』
精神攻撃だ。
いや、精神攻撃と言うことすらおこがましい。なぜならリオートは正論を説いているだけなのだから。ただ当然の責務を問うているだけ。
「──これは、ペリ先が始めた物語だろ」
『ひゃ、ひゃあぁああぁっ!!!』
とうとう自責の念に苛まれたのか、ペリが半狂乱になって硬質化を解除した。
その瞬間こそリオートが待っていた瞬間。
「はぁあああっ!」
うなじにすばやく一刀。
急所を突かれたペリは呆気なくセーフティ装置を作動させられ、紅蓮の地面に突っ伏した。
『え、あっ……き、決まりましたーっ!
リオート選手、よくわからない手段でプロ級へ昇格を決めました!
ペリシュッシュ・メフリオンを試験官に任命したのは間違いでしたね!』
決着を告げるアナウンスに、ギャラリーは今日いちばんの盛り上がりを見せる。
一方、レヴリッツは頭を抱えていた。
「こんな勝負を前日に見せられて、僕は明日まともに闘えるだろうか……?」
「ペリ先かよ……(絶望)」
観客たちが試験官ペリシュッシュを黄色い歓声で迎える中、レヴリッツとリオートは深い絶望に呑まれていた。
さっきの変な技名の試験官よりも悪質なパフォーマーだ。それは同じチームの彼らが最もよく理解していた。
「うわぁ……ひっどい顔してんねレヴリッツ。気持ちはわかるけどさ、一応相棒の晴れ舞台しょ? もっとマシな顔したら?」
「イオ先輩……だって、あんまりじゃないですか……」
またもや隣席に知人が座ってきた。
イオ・スコスコピィ。ペリの元チームメイトであり、昇格戦で相手となったプロ級パフォーマーである。
「うんうん、わかる。一試合目のリオートの対戦相手がサリー、二試合目がペリシュ。泣きたくなるよねマジ。でもさぁ……冷静に考えたらパフォーマーなんてみんな頭おかしいんだからさ、同じ穴の狢でしょ」
「そ、そうですね……なるほど。僕だってまともな人間かと問われれば、頷くことはできません。ペリ先輩はこの上なく圧倒的に地上で類を見ないレベルで、頭のおかしな方ですが……もしかしたら今日ばかりは真面目かもしれない」
「おねえちゃんの頭がおかしいですって!? いくらレヴリッツさんでも……それは言いすぎ……じゃないけど、言い方があると思います!」
また新手がきた。
ペリの妹……エリフテル・メフリオンが噛みついてきた。静かに一人で観戦したいのに、どうしてこう人が集まって来るのか。レヴリッツは首を傾げた。
「すみません、エリフテルさん。お姉さんを悪く言う気はあるのですが、言い方はもう少し工夫すべきでしたね。
……あ、試合が始まるみたいですよ。集中して見ましょう」
フィールドの中央、リオートは天を仰いでいる。
露骨にげんなりしつつも、それを表に出さないように努めて。
「あー……ペリシュッシュ先輩、ですか。
いやー対戦するの楽しみだなー。全力で闘いましょうははは」
「おやおやリオートくん……さてはビビってますね?
仕方ないことです。この【猛花の奇術師】が相手ですからね……ふふふ」
「ええ、ビビッてますよ。色んな意味でね。
本当に怖いですよペリシュッシュ先輩」
「安心してください。今日はリオートくんが主役ですから。
忖度するわけじゃありませんが、私が過度に目立つ大奇術は披露いたしません」
両者は煽り合いながら、じりじりと距離を取っていく。
所定の位置まで辿り着いたところでセーフティ装置を起動。
「俺が勝ちます。リオート・エルキス」
「それはどうでしょうか? ペリシュッシュ・メフリオン」
『両者、準備完了です! リオート・エルキス、一試合目の雪辱なるか……
──試合開始です!』
試合が始まったと同時、フィールドに二つの魔力が走る。
一つはリオートの魔力。おそらく独壇場を発動するつもりだろう。
そしてもう一つはペリの波長。さて、鬼が出るか蛇が出るか。
「俺の舞台で踊り狂え……
独壇場──【氷雪霊城】!」
まずはリオートの氷雪霊城が現れる。
バトルフィールドのど真ん中に現れた氷の城。闘技場全体の席から観戦できるように、端に城は作らなかった。
一気に跳躍したリオートは、城の頂上にある玉座に立つ。
「さあ、かかってこいよ先輩。俺の城を崩して見せろ」
「──わかっていましたよ、リオートくん。
あなたが独壇場を披露してくることは確実でした。ですから、私も対抗手段を用意したのです。目には目を、歯には歯を……我が秘策、とくとご覧あれ!」
ペリの魔力が一斉に波及する。
全身が粟立つかのような感覚。ギャラリーのレヴリッツとイオは目を見開いた。
「まさか……ペリ先輩、独壇場には独壇場で対抗する気か……っ!?」
「マ? ペリシュ、使えたんだ。
ここで初披露……ってとこかね。ウチも楽しみだわ」
独壇場の相克。
それは一流のパフォーマー同士の闘いを意味する。想像を絶する熱戦、予測不能の領域合戦。互いに全力をぶつけ合う熱い闘いが巻き起こるのだ。
「まさかペリシュッシュ先輩……俺と同じように独壇場を!?」
リオートに問われたペリは首を傾げる。
「いえ違いますけど。デカいもんにはデカいもんで対抗すんですよ。
とりあえずその城、壊しますね」
中央に城が聳え立つ中、ペリはそそくさとバトルフィールドの端へ。
そして……溝になっている部分に身体を丸めて入り込んだ。
「何をする気だ……?(嫌な予感しかしねぇ……)」
リオートはペリの奇行を警戒しつつ、魔装で防御力を高める。
周囲におかしなところは何もない。大規模な攻撃が来る魔力の波長も感じられない。彼は氷城の頂上から必死に周囲を見渡す。
一方、ペリは波及させた魔力を媒介とし……拡声魔法を起動。観客のざわつきを遮断し、一時的な静寂を齎した。闘技場が異様なまでに静まり返る。
彼女は粛々とナレーションを開始する。
「──その日、人類は思い出したペリ」
稲妻走る。
リオートの城を上回る巨大な影が、そこに立っていた。
観客はみな黙して「其」を見上げる。
「奴らに支配されていた恐怖を。
鳥かごの中に囚われていた、屈辱を……ペリ」
影が蠢いたかと思うと、凄まじい爆音と衝撃が伝播。
リオートの氷城は粉々に砕け散り……彼はまっ逆さまに落下する。影を見上げたリオートは思わず叫んだ。
「なんだぁぁあ!?」
「これぞ私の秘密兵器……超大型プレちゃんです!!
ヒャッハァー!! 蹂躙しろプレちゃん!」
全長50mを超えるプレデターフラワーを見上げ、リオートは戦慄して青褪める。
たしかにバトルパフォーマンスで使い魔の持ち込みは認められている。
認められている、が……
「ペリ先輩……あ ほ く さ」
「草。ダメみたいやね」
「おねえちゃんすごい! あんなでっかい怪物を従えるなんて!」
なぜかギャラリーでは歓声が上がり、実況解説も盛り上がっている。
この観客たちごと全部地ならしで吹き飛べばいいのに……とレヴリッツは頭を抱えた。もう終わりだよこの競技。
得意の独壇場を破壊されたリオート。
彼は冷や汗を拭い、地上を睥睨するプレデターフラワーを見上げた。大きさとはすなわち脅威の値そのもの。アレをどうやって攻略するべきか……悩んでいると実況が警告を出した。
『えー……ただいま協会から通達がありました。
規定により、全長20mを超える使い魔の投入は禁止されているとのことです。ペリシュッシュ試験官はただちに使い魔を収容してください』
「え……あ、そうなんですか。すみません。
プレちゃん戻って」
「出オチかよ」
ペリに命じられ、超大型プレデターフラワーは煙となって消えていく。
しかしリオートからすれば辛いものがある。独壇場の建造に費やした魔力を持っていかれた。二発連続はさすがに厳しい。
「一片氷心──《霜走》」
速攻。それがリオートの選んだ選択肢。
超大型プレちゃんが蒸発していく蒸気に紛れ、リオートは駆け出した。ペリは未だ呑気に魔装を構築している。
魅せ場もクソもないが、とりあえず勝てば昇格は実現する。
ペリシュッシュ・メフリオンの一番の怖さ……それは『得体の知れなさ』。正直、彼女と同じチームのリオートでも知らない情報が多すぎる。
プレちゃんとは何か。マジックの種は何か。本気を出せばどれくらい強いのか。
あらゆる情報が謎に包まれており、だからこそ彼女は厄介なのだ。
「《凍嵐》」
手の指すべてに氷の刃を装着。
このまま蒸気に紛れ、ペリを奇襲して押し切る。
モニター越しに状況を観察していたイオは、リオートの判断力に感心を見せる。
「へえ。リオートの択、悪くないんじゃね? 同チのレヴリッツ的にはどう?」
「相手が一般的な魔術師なら、奇襲の接近戦を仕掛けるのは悪くありません。
ただ相手がペリ先輩なので……あの人、変な魔術ばっかり修めてるんですよ。僕も何が起こるかわからないです」
素早くフィールドを駆けるリオートは、ペリの背後へ回り込む。
完全に間合いに入った。まだペリは索敵中。
(取った……!)
真っ白な蒸気から抜け出し、彼は氷刃を振りかざす。
この距離から回避することは不可能。細切れとなった視界の中、ペリは自らの背後に刃が迫っていることを察知したが……間に合わない。
「終わりだッ……!?」
だが、リオートの攻撃は弾かれた。
たしかに攻撃は命中したが……美しい砕氷が宙に舞う。
ペリの体の一部が石のように硬く、ダメージが入っていなかった。
「刃が通らねえ……」
「ふふふ……メフリオン家に代々伝わる謎の魔術、『超硬化』。
奇襲対策に用意しておいた魔術なんですが……実はこれ、発動すると私も動けなくなるんですよ。それではおやすみなさい」
リオートの刃を防ぐために硬化したペリの首元。
しかし、そこからじわじわと……彼女の全身が硬化に蝕まれていく。やがて彼女は物言わぬ石仏となり、バトルフィールドの中心に立ち尽くした。
「え……いや、先輩困るんですけど。このっ!」
『……ペリ』
リオートが力を籠めて斬りかかっても傷はつかず。硬化したペリの石像は静かに佇んでいた。
「ど、どうしよう……おねえちゃんが石になっちゃった!?」
「エリフテルさん、心配しなくても大丈夫ですよ。時間が経てば戻りますから。
それよりも、この魔力の流れは……」
レヴリッツはフィールド全体を見渡す。どこか見覚えのある魔力の流れだ。
そう、これはたしかペリの昇格戦の時と同じ──
──《炎竜花》
瞬間、闘技場が紅蓮に染まった。
灼熱の花がフィールド中にぶわっと咲き誇り、すさまじい熱気が駆ける。地表に残っていた氷の欠片が跡形もなく溶けて……リオートは煉獄の中に立たされる。
相も変わらずペリは石となって動じず。
汗を流すリオートを見てイオは呆れかえった。
「同チの後輩相手に、しかも昇格戦で。
火攻めだよ。自分だけ石になって知らぬ存ぜぬ、後はリオートが倒れんのを待つだけ……いやー相変わらずクズだねペリシュ。卑怯ってレベルじゃなくて草」
「お、おねえちゃん……さすがにそれはクソだよ……擁護できないよ」
妹のエリフテルでさえ呆れているのに、またしても観客はなぜか歓声を上げている。見てて面白ければ何でもいいのだろう。
苦境に立たされたリオート。
目の前で佇む石ペリをどうにか攻略しなければ、炎のフィールドに体力を奪われて負ける。
(考えろ、この硬質化を解除する方法を……! ただの氷じゃ歯が立たない。今まで氷属性の攻撃に頼りきりだったツケをここで払うんだ……!)
物理的に石を砕くことは不可能。
炎熱の中、彼は思考を冷やす。ここに至るまでのプロセスを考えて……ペリのふざけた行いにはらわたが煮えくり返った。
「お、落ち着け……クソ、熱い!」
ペリは全身が石化してから炎花を展開した。
つまり、石化状態でも魔術を発動することができるし、魔術を発動するだけの意識があるということ。
にも拘わらず、石化しながら攻撃魔術を放ってこないのは何故か?
チームメイトのリオートはすぐにわかった。
(──舐めプだ)
リオートが炎に囲まれて苦しむ様を、ペリは内心ほくそ笑んで見ているに違いない。
ならば攻略法は「あの手」に限る。彼は石像の耳元に立って呟いた。
「……何をしている。闘えよペリシュッシュ先輩」
『……』
動かぬペリの肩を掴むと、熱くなった石面が手のひらを焦がす。
「忘れたのか? 何をしにここに来たのか……」
『…………』
「昇格戦の試験官をするためだろ?」
凄まじい圧を瞳に籠め、彼はペリの頭に声を投げかけ続ける。
「俺が、リオート・エルキスがプロ級昇格に相応しいかどうかを、判断するために……
闘うんだ。正々堂々と、試験官に相応しい態度で……」
『………………』
精神攻撃だ。
いや、精神攻撃と言うことすらおこがましい。なぜならリオートは正論を説いているだけなのだから。ただ当然の責務を問うているだけ。
「──これは、ペリ先が始めた物語だろ」
『ひゃ、ひゃあぁああぁっ!!!』
とうとう自責の念に苛まれたのか、ペリが半狂乱になって硬質化を解除した。
その瞬間こそリオートが待っていた瞬間。
「はぁあああっ!」
うなじにすばやく一刀。
急所を突かれたペリは呆気なくセーフティ装置を作動させられ、紅蓮の地面に突っ伏した。
『え、あっ……き、決まりましたーっ!
リオート選手、よくわからない手段でプロ級へ昇格を決めました!
ペリシュッシュ・メフリオンを試験官に任命したのは間違いでしたね!』
決着を告げるアナウンスに、ギャラリーは今日いちばんの盛り上がりを見せる。
一方、レヴリッツは頭を抱えていた。
「こんな勝負を前日に見せられて、僕は明日まともに闘えるだろうか……?」
0
あなたにおすすめの小説
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。
アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】
それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。
剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず…
盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず…
攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず…
回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず…
弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず…
そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという…
これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。
剣で攻撃をすれば勇者より強く…
盾を持てばタンクより役に立ち…
攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが…
それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。
Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに…
魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし…
補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に…
怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。
そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが…
テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので…
追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。
そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが…
果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか?
9月21日 HOTランキング2位になりました。
皆様、応援有り難う御座います!
同日、夜21時49分…
HOTランキングで1位になりました!
感無量です、皆様有り難う御座います♪
【鑑定不能】と捨てられた俺、実は《概念創造》スキルで万物創成!辺境で最強領主に成り上がる。
夏見ナイ
ファンタジー
伯爵家の三男リアムは【鑑定不能】スキル故に「無能」と追放され、辺境に捨てられた。だが、彼が覚醒させたのは神すら解析不能なユニークスキル《概念創造》! 認識した「概念」を現実に創造できる規格外の力で、リアムは快適な拠点、豊かな食料、忠実なゴーレムを生み出す。傷ついたエルフの少女ルナを救い、彼女と共に未開の地を開拓。やがて獣人ミリア、元貴族令嬢セレスなど訳ありの仲間が集い、小さな村は驚異的に発展していく。一方、リアムを捨てた王国や実家は衰退し、彼の力を奪おうと画策するが…? 無能と蔑まれた少年が最強スキルで理想郷を築き、自分を陥れた者たちに鉄槌を下す、爽快成り上がりファンタジー!
防御力ゼロと追放された盾使い、実は受けたダメージを100倍で反射する最強スキルを持ってました
黒崎隼人
ファンタジー
どんな攻撃も防げない【盾使い】のアッシュは、仲間から「歩く的」と罵られ、理不尽の限りを尽くされてパーティーを追放される。長年想いを寄せた少女にも裏切られ、全てを失った彼が死の淵で目覚めたのは、受けたダメージを百倍にして反射する攻防一体の最強スキルだった!
これは、無能と蔑まれた心優しき盾使いが、真の力に目覚め、最高の仲間と出会い、自分を虐げた者たちに鮮やかな鉄槌を下す、痛快な成り上がり英雄譚! 「もうお前たちの壁にはならない」――絶望の底から這い上がった男の、爽快な逆転劇が今、始まる。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる