忘れじの契約~祖国に見捨てられた最強剣士、追放されたので外国でバトル系配信者を始めます~

朝露ココア

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5章 晩冬堕天戦

20. Oath

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 「……というわけで、三日以内に最終拠点グランドリージョンへ移住する手続きを済ませること。えーと……通行証はこれね」

 試合後、理事長サーラからレヴリッツは招集を受けていた。
 彼が受け取ったのは最終拠点グランドリージョンへの通行許可証コード。

 「ありがとうございます。
 マスター級になっても、他の拠点へ行ってもいいんですよね?」

 「うん。ただしプロ級以下のパフォーマーを最終拠点グランドリージョンへ連れて行くのはダメ。まあ、詳しい規則は他のマスターたちに聞いてよ。
 ……しかしなあ。ほんの一年足らずでマスター級まで届くとは思わなかったな」

 「率直にお聞きしたいのですが、理事長は僕とユニ先輩、どっちが勝つと思ってました?」

 正直、今回のパフォーマンスは褒められたものではない。
 勝利を目的とする昇格戦であっても、視聴者が理解しづらい闘いは避けるべきだ。逆転という魅せ場を用意できたからいいものの、あのまま負けていれば視聴者は興ざめしたに違いない。

 「勝つのはレヴリッツだと思ってたよ。あなたが途中まで手加減してた理由は謎だけど」

 「……手加減?」

 「ユニの大爆発フルブラストを食らうまでの時間。まるであなたはユニの高速についていけないみたいに狼狽えてた。アレは先輩を立てるためのパフォーマンスだったの?」

 レヴリッツは明らかに不利だった。
 しかし試合の中途に底力を発揮し、ユニに勝利したという形だ。
 あの覚醒がなければ、彼は負けていただろう。

 ユニの独壇場スターステージを裂いた業。
 あの根源が何なのか、レヴリッツ自身も理解していない。

 「……なるほど。理事長は僕をいささか過大評価してるようだ。
 僕は自分の力の根源がわからなかった。あの時、土壇場で振るった刀……その正体がわからないのです。今になってユニ先輩との闘いを再現しようとしても、思うようにいかないでしょう」

 「ん? どゆこと?」

 「僕はユニ先輩を倒した技を、どうやって習得したのか覚えてないんです。変な話ですよね?
 まるで呼吸するかのように、自然と手足が動いていて……繰り出すまでのプロセスを理解していない」

 サーラはレヴリッツの言葉を聞き、何やら考え込んだ。
 彼女は桃色の髪の毛先をいじりながら思考の海に沈み……やがて口を開く。

 「私とレヴリッツが出会った日のこと、覚えてる?」

 「今から二年ほど前でしたか。ええと……ヨミと一緒にいたのは覚えています。
 その時、自分が酷い怪我を負っていて……理事長に助けてもらったことも」

 「じゃあさ。レヴリッツが追放刑を受けた後、どうやってその状況になったのかは覚えてる?」

 「……?」

 なんだか思考が混乱してきた。
 自分の生い立ち、歴史は理解しているが……いまいちレヴリッツの過去は明瞭ではない。
 自分でも上手く説明しかねるほどに。

 「レヴハルト・シルバミネの追放刑が執行されたのは、今から二年と四か月前のこと。それから二日後に私とあなたたちは出会った。
 その空白の二日間……思い出せる?」

 「…………いや、思い出せません。
 ええと、なんで僕たちの出会いの話になったんでしたっけ」

 「ああ、わかった。気にしないで。
 まあ勝てたんだからいいんじゃない? それよりもOathのみんなと祝勝会でもしてきたら?」

 露骨に話題を逸らされた。
 レヴリッツは気がついていても、特に言及することはない。
 彼にとって自分の過去など興味を向ける対象ではなかったから。

 「それじゃ、僕はこのへんで失礼します」

 「うん、おつかれー」

 理事長室から去るレヴリッツを見送り、サーラは席を立った。

 -----

 『【雑談】お祝い会!!!【Oath】』


 翌日。
 今日は最後に第一拠点ファーストリージョンで配信をする日になる。

 全員が昇格を終えたOathは、興奮冷めやらぬ様子でスタジオに集っていた。
 四人は配信を開始し、ここに至るまでの経緯をリオートが説明する。
 デビュー当初の新人杯から、コラボ配信の数々、ペリの昇格戦、綾錦杯、記念ライブなどなど……

 「……というわけで、無事全員が昇格することになった。俺とヨミはプロ級に、そしてレヴリッツはマスター級に。まあ、お祝いも兼ねて昇格戦を振り返っていこうか」

 〔みんな昇格おめでとう!!〕
 〔もう一年経つのか…〕
 〔Fランがマスター級になるの草〕
 〔どのバトルも面白かったね〕

 「じゃ、まずは初日ヨミから。ヨミの昇格戦の相手は……【陰伏】のジルフ先輩だったな」

 「うん。私の昇格戦は危なげなく終わったように見えるけど、ほんとはギリギリの闘いだったよ。ジルフ先輩、闘い慣れしてるだけあってすごく強かったから」

 〔陰キャ対陽キャって感じの勝負だったww〕
 〔派手だから見てて楽しかったぞ〕
 〔おもしろかった!〕

 ヨミの言葉を聞き、レヴリッツは改めて彼女の才覚に感心する。
 彼我ひがの力量差を正確に見極めている。
 そして先達へのリスペクトも忘れていない。

 「ヨミはデビューした当初、戦闘初心者だったよね。だけど、ここまで大きな失敗もなく数々のバトルを乗り越えてきた。本当に君の才能はすごいよ」

 「やっぱりヨミさんは『うんたらかんたらの真理』という能力が強いですよね。
 具現化能力……いいなー、私も欲しいペリ……」

 「ふふふ……私はまだまだ成長するよ!
 いつかみんなに追いついて、胸を張って一緒に配信できるように!」

 レヴリッツにしては珍しい純粋な称賛。そしてペリの率直な羨望。
 二つの言葉を受け取り、ヨミは明るく頷いた。
 彼女が昇格を認められたゆえんは、バトルの才能によるものだけではない。

 むしろ芸術的な方面──優れた動画編集や音楽のスキルが認められ、パフォーマンス能力が秀でていると判断されたからだ。

 今後も彼女は視聴者を楽しませるために、様々な物を創り続けていく。

 「次がリオート。僕的には……リオートの昇格戦は、正直ネタ寄りだった気がする」

 「ネタにしたくてしたんじゃねーよ。
 一戦目の相手……【月輪の風】サリーシュ先輩、続いて二戦目の相手は……」

 リオートは苦い顔をして視線をペリに送る。

 「【猛花の奇術師】──ペリシュッシュ・メフリオンですね!!!
 そう、私です!」

 〔リオートかわいそう〕
 〔私ですじゃないんよ〕
 〔草〕
 〔正直ネタ寄りのバトルの方が好き〕

 熱い昇格戦を迎えるつもりが、試験官のせいでとんだ茶番になりかけた。
 昇格できたからいいものの、昇格に失敗してたら相当な恥だ。

 「私はサリーシュセンパイの『蝉鳴夜せみなりよバジリスクタイム』、すっごく感動したよ! 見てて綺麗だったから!」

 「そうだね。同じエセ侍として、サリーシュ先輩の剣技は目を瞠るものがあった。僕も見習いたい点は多々あったよ。
 技名はふざけてるけど、実力は本物だったと思う」

 「ああ。技名に思わず吹き出して隙を晒したが、俺もあの人は実力者だと思う。
 あの人は・・・・、な……」

 リオートはさらに嫌味な視線を籠めてペリを見る。
 後半戦のペリはあらゆる点において、見習うべき点が一つもなかった。
 逆にすごい。

 「リオートくん、そんな『お前は先輩として失格だぜ』みたいな視線を向けられても照れるだけですよ。プロ級は変な人が多いんです。
 これからリオートくんも、私を超える異常者と接することになるのです」

 「勘弁してくれよ……」

 熱い闘志を秘めたる王子、リオート・エルキス。
 彼はバトルに惹かれてバトルパフォーマーになったが、パフォーマンスの部分を失念していた。露骨なキャラ付けや、見映えをよくするための戯れ。
 そんな要素を見落としていたのだ。

 逆に言えば、これからリオートはパフォーマンス部分が伸びしろになる。
 いまいち主張の薄いスタイルを、どのように色づけていくか……それが今後の課題。マスター級へ向けて、彼は今後も闘志を貫き通す。

 「では最後にレヴリッツくんですね!
 プロ級昇格戦の相手は【烈機の吸血鬼】イルクリス先輩、マスター級昇格戦の相手は【幻狼】ユニ先輩……いやー私からしても身震いするような傑物たちですね。よく勝てたなと思います」

 「ええ。僕も負けを覚悟した場面が何度もあった。
 けど……僕は最強だから負けなかった。それだけだ……フッ」

 〔レヴリッツ・シルヴァ最強!〕
 〔イルクリスも振り返り雑談でエビのこと話してたよ〕
 〔っぱエビよ〕
 〔ユニの試合は滅茶苦茶でようわからんかったw〕

 率直に言えば、レヴリッツは先達を舐めていた。昇格戦を迎えるまでは。
 しかしバトルパフォーマーのトップ層と闘ったことにより、彼の価値観は大きく逆転した。まだまだ強者は多い。
 そして、それらの強者を下す『天上麗華』の高さもまた理解したのだ。

 「イルクリスセンパイの『血染月夜リグドガーラ』が出てきた時、レヴはどうやって勝つんだろう……って不安になったよ。
 ユニセンパイの『韋駄天幻狼スエリカ』が出てきた時も……」

 「最近になって気づいたんだ。もしかしてバトルパフォーマンスの勝負って、独壇場スターステージの強さ比べなんじゃないかって。
 まあ、独壇場スターステージを上手く使いこなせてない僕が勝ったんだから、一概にそうは言えないけど」

 レヴリッツの領域は、いとも簡単にユニの領域に塗り替えられた。
 おそらくレヴリッツとイルクリスの領域が相克しても、イルクリスが侵食していた側だろう。自らの世界に引きずり込んだ者が格段に勝ちやすいのだ。

 「かなりの上位層になると、たしかに独壇場スターステージゲーだと言われてますねぇ。
 レヴリッツくんやリオートくんが扱う『ステージ』と、最上位層が扱う『ワールド』とじゃ、かなり格差があります。
 今後のレヴリッツくんの課題は、独壇場スターステージの質を高めることですかね……まあ私は独壇場を使うことすらできないんすけど」

 「そうだな。俺の使う氷雪霊城アゾフル・ステージは簡単に壊される。もっと強い意志を持って、魅せる舞台を用意しなきゃならない。
 今後の課題、か……いいかレヴリッツ。俺は、俺たちは……必ずマスター級になってお前に辿り着く。マスター級になるって約束したからな」

 リオートの言葉と共に、三人がレヴリッツを見つめる。
 彼らの瞳には決して揺るがぬ信念が宿っていた。
 高みを目指す志、あくなき闘志。

 信頼と敵愾心てきがいしんが織り交ざった、どこか心地よい熱視線。
 最大の友であり、ライバルである彼らの視線を受けてレヴリッツは……

 「待ってるよ、いつまでも。Oathは不滅だ。
 これからもふざけたり、まじめにやったりしながら……一緒に歩いて行こう。
 だから……これからもよろしく!」

 暗い過去を背負って歩む欺瞞の少年、レヴリッツ・シルヴァ。
 彼の往く道は一つだけ。

 もうすぐ天上に刃が届く。
 全ての軌跡を踏み躙り、契約を果たす時だ。
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