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「さて、何を作ろうか」
マンティコアのお肉を前に、俺達は唸った。
何しろ大物だ。勇者におすそ分けをしたとしても、一日で食べきれるような量ではない。
と、なれば、ベエコンのように保存の利くものも作っておきたい。
蠍のしっぽはあんな事になって、食べられなくなったし、頭の方も失ってしまったのは残念でならないが。
尾は熱を加えればパリパリで美味しくなるし、頭は頬肉や脳のあたりも美味しいのだが……ちょっと、やらかしてしまったので今回は無い。残念過ぎる。
切り分けて柔らかいところは干し肉にしてもいいかもしれない。いや、しかしマンティコアはオークに比べると筋肉質で、野性味が溢れ、どちらかと言えば噛み応えのあるお肉だ。と、なれば、人間にはいささか硬すぎるか。
「うーん」
「魔王様、内臓は今朝の野菜と一緒に煮こんだらどうだろうか」
「トマトとピーマンと一緒に煮こんで、シンプルに塩と、ちょこっとのショーユで味付け、あたりか。美味しいスープになりそうだな」
トマトの酸味と、ピーマンの新鮮な味。そこにマンティコアのお肉の味がしみ出せば、充分に腹持ちの良い、美味しい物になりそうだ。
「いや、待てよ。ミソのスープにしても美味しそうだな」
「それなら根野菜を突っ込んだら美味しいんじゃないか?」
「美味しそうだな」
マンドラゴラを引き抜くのは心が折れそうだけど、美味しい物の為なら頑張ろう。
「スープは二種類にしよう。勇者のところには鍋で持っていくか……具材を持って向こうで作るか」
「向こうで作ったらいい。鍋も何もかも置いて来たではないか」
「それもそうか」
あの場所は、勝手知ったる空間だった。俺達が使っていた物がいっぱいあるんだから。
下準備としてドナベしてから持って行けば、あとは簡単に作れる。向こうにもドナベ出来る環境はあったが、今はどこまで残っているのかが怪しいから、ちょっと過信出来ないのが残念だが。
とはいえ、普通の鍋くらいは残っているだろう。仮に残って無くても、新しい鍋は置いてあるはずだ。無いと料理作れないし。
「お肉をひもで縛って、ショーユで煮込んでも美味しそうだな」
「それもいいな。しかし、オークと違って脂肪が少ない分、火を通した時の硬さが気になるだろうか」
「それじゃあ、味がしみ出す感じならどうだ?」
俺はレイラに提案する。
「硬いからこそ、噛めば噛むほど味になる。噛む事であふれるお肉の野性味あふれる旨味と、ショーユの香ばしさや甘さ。これが口の中で混ざると……」
「美味しい!」
「そうだろう」
これで、三品。ただ、保存となるとスープ二種は難しいからなぁ。もう少し何か欲しい。
やっぱり塩漬けは作っておくべきだよな。脂は少ないけど、ベエコンを作ってみるか?
硬い分、薄切りにすればいけるだろうか。
「ベエコンにする、とか、どう思う? 硬くなりそうだけど」
「ボクは硬いのは好きだぞ」
「じゃあ、ベエコンも作っておこう」
勇者が食べられなくても、レイラが食べられるならいいか。硬そうな食べ物は、俺達で食べよう。
それにベエコンなら保存も利く。俺達にとっての損は無い。
これで四品目か。もうちょっと何か……何か……。
「あ、そうだ」
ふと思い出し、ポン、と手を打った。
「腸は長くてしっかりしてたんだよ。肉を刻んで詰めて、ドナベしたら美味しいんじゃないか?」
「いいな。確か前にオークでやったが、美味しかった記憶がある。きっとマンティコアもいけるだろう」
五品目は、マンティコアの腸詰。
「あとは、折角だからそのまま肉も味わいたい」
ふむ。そのまま。
塩を振って、焼いて、ドナベする。シンプルであればあるほど、純粋な美味しさを感じられるだろう。
「いいな。美味しそうだ」
えーっと、これで六品か。このくらいでいいかな。
「レイラはもっと種類が欲しいか?」
「いや、このくらいで良いだろう」
これだけあれば、レイラは俺と同意見だったらしい。
「それじゃあ、開始だな」
「おう!」
粗方の計画を立てると、俺とレイラは外に出て、干しておいたマンティコアのお肉を協力して部位ごとに別け始めた。
頭部と尾はさようならしてしまったとして、まずは肩。肩でも、上部と下部とで別ける。
上部の方が、脂があって柔らかい、下部の方が筋肉質ながら旨味が強い。
粗方の解体はしているから、肩、足、腹、尻、内臓、翼、毛皮とザックリと別けてはいるが、ここから更に使い分ける為に別ける。
何しろサイズが大きい。コカトリスのようなサクサク捌けるサイズではなく、ドラゴン化したレイラと同じくらいのサイズなのだ。
毛皮はこの際置いておくとして、とにかく調理しやすいサイズにしなければいけない。
あと、勇者達に剣を返し忘れた。でもこれ、便利だなー。特に大物を捌くのにはもってこいだ。
欲しいって言ったらくれるかな? 駄目かな?
俺がそんな事を考えながら腕をえっちらおっちら別けていると、レイラは腹を別けていた。
こちらは、上部、中部、下部に別ける。
上部の背中側には脂がついたお肉。肉質は柔らか目で、脂身と赤みとの相性が抜群だ。
これがマンティコアであるが故に他の家畜よりも大きく、美味しいところがたっぷりで嬉しい。
中部は脂が少なく、上質な赤みではあるが……きっと硬いだろうなぁ。
下部は脂が多い。マンティコアのように筋肉質な身体であっても、そこは変わらない。
なぜならここに、生きていく為の栄養を蓄えているからだ。とはいえ、あくまでも他と比べて、だ。
オークと比較すればかなり脂肪は少ない。だが、ベエコンにするならここだ。脂が多くて、保存しても硬くなり過ぎない。
あーでも、ここを骨付きで焼いて食べるのも……煮込みも……うーん、迷う。
迷いながら、俺は尻に手を伸ばした。
変な意味ではない。俺のお尻でも、レイラのお尻でもなく、マンティコアのお尻。決してセクハラじゃないから、「チカン」って呼ばないでほしい。
ここはそのままでもいいのだが、足の先だけは切り離しておきたい。
本当、この剣ってやつは有能だ。骨も簡単に絶てる。欲しいなぁ。
で、この尻の部分……というか、お尻についている足のあたり。内側と外側とで味わいが変わる。
俺はそこを切り分けた。
あとは内臓だが、これは洗う事との戦いになる。
先程解体してきた後、これだけは水につけて置いた。容赦なくじゃぶじゃぶと洗っていると、真ん中を解体し終えたレイラが手伝ってくれた。
「もしかして、内臓はミソのスープの方が美味しいんじゃないか?」
レイラが丁寧に腸のあたりをゴシゴシしながら言う。確かに、ミソと相性がよさそうだ。
「じゃあ、こっちをミソのスープにしよう」
で、お肉をトマトのスープにする。どちらにしても美味しそうな事に変わりはなく、まだ処理の段階だと言うのにお腹が空いてきた。
じゃぶじゃぶと洗い、水を変えてじゃぶじゃぶ。
何度もじゃぶじゃぶと念入りに洗う。
特に腸。これにお肉を入れて調理するのだから、綺麗にしておかねばなるまい。
あとは胃も。なんていったって、直前に木を食べたのだ。流石にドライアドの木は食べるには向いていないので、まだ消化しきっていない木を取りだす必要がある。
こうして下準備を進め、内臓は下茹でが必要なものは下茹でして、灰汁を取っておいた。ここまで来たら、やっと調理だ。
マンティコアのお肉を前に、俺達は唸った。
何しろ大物だ。勇者におすそ分けをしたとしても、一日で食べきれるような量ではない。
と、なれば、ベエコンのように保存の利くものも作っておきたい。
蠍のしっぽはあんな事になって、食べられなくなったし、頭の方も失ってしまったのは残念でならないが。
尾は熱を加えればパリパリで美味しくなるし、頭は頬肉や脳のあたりも美味しいのだが……ちょっと、やらかしてしまったので今回は無い。残念過ぎる。
切り分けて柔らかいところは干し肉にしてもいいかもしれない。いや、しかしマンティコアはオークに比べると筋肉質で、野性味が溢れ、どちらかと言えば噛み応えのあるお肉だ。と、なれば、人間にはいささか硬すぎるか。
「うーん」
「魔王様、内臓は今朝の野菜と一緒に煮こんだらどうだろうか」
「トマトとピーマンと一緒に煮こんで、シンプルに塩と、ちょこっとのショーユで味付け、あたりか。美味しいスープになりそうだな」
トマトの酸味と、ピーマンの新鮮な味。そこにマンティコアのお肉の味がしみ出せば、充分に腹持ちの良い、美味しい物になりそうだ。
「いや、待てよ。ミソのスープにしても美味しそうだな」
「それなら根野菜を突っ込んだら美味しいんじゃないか?」
「美味しそうだな」
マンドラゴラを引き抜くのは心が折れそうだけど、美味しい物の為なら頑張ろう。
「スープは二種類にしよう。勇者のところには鍋で持っていくか……具材を持って向こうで作るか」
「向こうで作ったらいい。鍋も何もかも置いて来たではないか」
「それもそうか」
あの場所は、勝手知ったる空間だった。俺達が使っていた物がいっぱいあるんだから。
下準備としてドナベしてから持って行けば、あとは簡単に作れる。向こうにもドナベ出来る環境はあったが、今はどこまで残っているのかが怪しいから、ちょっと過信出来ないのが残念だが。
とはいえ、普通の鍋くらいは残っているだろう。仮に残って無くても、新しい鍋は置いてあるはずだ。無いと料理作れないし。
「お肉をひもで縛って、ショーユで煮込んでも美味しそうだな」
「それもいいな。しかし、オークと違って脂肪が少ない分、火を通した時の硬さが気になるだろうか」
「それじゃあ、味がしみ出す感じならどうだ?」
俺はレイラに提案する。
「硬いからこそ、噛めば噛むほど味になる。噛む事であふれるお肉の野性味あふれる旨味と、ショーユの香ばしさや甘さ。これが口の中で混ざると……」
「美味しい!」
「そうだろう」
これで、三品。ただ、保存となるとスープ二種は難しいからなぁ。もう少し何か欲しい。
やっぱり塩漬けは作っておくべきだよな。脂は少ないけど、ベエコンを作ってみるか?
硬い分、薄切りにすればいけるだろうか。
「ベエコンにする、とか、どう思う? 硬くなりそうだけど」
「ボクは硬いのは好きだぞ」
「じゃあ、ベエコンも作っておこう」
勇者が食べられなくても、レイラが食べられるならいいか。硬そうな食べ物は、俺達で食べよう。
それにベエコンなら保存も利く。俺達にとっての損は無い。
これで四品目か。もうちょっと何か……何か……。
「あ、そうだ」
ふと思い出し、ポン、と手を打った。
「腸は長くてしっかりしてたんだよ。肉を刻んで詰めて、ドナベしたら美味しいんじゃないか?」
「いいな。確か前にオークでやったが、美味しかった記憶がある。きっとマンティコアもいけるだろう」
五品目は、マンティコアの腸詰。
「あとは、折角だからそのまま肉も味わいたい」
ふむ。そのまま。
塩を振って、焼いて、ドナベする。シンプルであればあるほど、純粋な美味しさを感じられるだろう。
「いいな。美味しそうだ」
えーっと、これで六品か。このくらいでいいかな。
「レイラはもっと種類が欲しいか?」
「いや、このくらいで良いだろう」
これだけあれば、レイラは俺と同意見だったらしい。
「それじゃあ、開始だな」
「おう!」
粗方の計画を立てると、俺とレイラは外に出て、干しておいたマンティコアのお肉を協力して部位ごとに別け始めた。
頭部と尾はさようならしてしまったとして、まずは肩。肩でも、上部と下部とで別ける。
上部の方が、脂があって柔らかい、下部の方が筋肉質ながら旨味が強い。
粗方の解体はしているから、肩、足、腹、尻、内臓、翼、毛皮とザックリと別けてはいるが、ここから更に使い分ける為に別ける。
何しろサイズが大きい。コカトリスのようなサクサク捌けるサイズではなく、ドラゴン化したレイラと同じくらいのサイズなのだ。
毛皮はこの際置いておくとして、とにかく調理しやすいサイズにしなければいけない。
あと、勇者達に剣を返し忘れた。でもこれ、便利だなー。特に大物を捌くのにはもってこいだ。
欲しいって言ったらくれるかな? 駄目かな?
俺がそんな事を考えながら腕をえっちらおっちら別けていると、レイラは腹を別けていた。
こちらは、上部、中部、下部に別ける。
上部の背中側には脂がついたお肉。肉質は柔らか目で、脂身と赤みとの相性が抜群だ。
これがマンティコアであるが故に他の家畜よりも大きく、美味しいところがたっぷりで嬉しい。
中部は脂が少なく、上質な赤みではあるが……きっと硬いだろうなぁ。
下部は脂が多い。マンティコアのように筋肉質な身体であっても、そこは変わらない。
なぜならここに、生きていく為の栄養を蓄えているからだ。とはいえ、あくまでも他と比べて、だ。
オークと比較すればかなり脂肪は少ない。だが、ベエコンにするならここだ。脂が多くて、保存しても硬くなり過ぎない。
あーでも、ここを骨付きで焼いて食べるのも……煮込みも……うーん、迷う。
迷いながら、俺は尻に手を伸ばした。
変な意味ではない。俺のお尻でも、レイラのお尻でもなく、マンティコアのお尻。決してセクハラじゃないから、「チカン」って呼ばないでほしい。
ここはそのままでもいいのだが、足の先だけは切り離しておきたい。
本当、この剣ってやつは有能だ。骨も簡単に絶てる。欲しいなぁ。
で、この尻の部分……というか、お尻についている足のあたり。内側と外側とで味わいが変わる。
俺はそこを切り分けた。
あとは内臓だが、これは洗う事との戦いになる。
先程解体してきた後、これだけは水につけて置いた。容赦なくじゃぶじゃぶと洗っていると、真ん中を解体し終えたレイラが手伝ってくれた。
「もしかして、内臓はミソのスープの方が美味しいんじゃないか?」
レイラが丁寧に腸のあたりをゴシゴシしながら言う。確かに、ミソと相性がよさそうだ。
「じゃあ、こっちをミソのスープにしよう」
で、お肉をトマトのスープにする。どちらにしても美味しそうな事に変わりはなく、まだ処理の段階だと言うのにお腹が空いてきた。
じゃぶじゃぶと洗い、水を変えてじゃぶじゃぶ。
何度もじゃぶじゃぶと念入りに洗う。
特に腸。これにお肉を入れて調理するのだから、綺麗にしておかねばなるまい。
あとは胃も。なんていったって、直前に木を食べたのだ。流石にドライアドの木は食べるには向いていないので、まだ消化しきっていない木を取りだす必要がある。
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