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一章
1-2 説明して貰おうか、我が妹よ
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いつの間にか駅には到着していたらしい。
お帰り、オレの意識。
お帰り、胃液を吐き出さない胃袋。
ただいま、美味しい空気。
「説明して貰おうか、我が妹よ」
「正当な報酬は貰った」
ベンチにぐったりと身体を預けたオレの質問に、スティアはこんな時だけ可愛らしい笑顔を浮かべて返す。
「詳しく話して貰おうか、我が妹よ」
「二人分の汽車の運賃にはなった」
オレは、大きな大きなため息を吐いた。
ベンチで風にあたりながら精神の回復を図るオレがいるのは、駅のホーム。
ここには、駅員の他に少女が二人いた。一人はオレの妹であるスティア(守銭奴)、もう一人は先程の巨乳ちびっこ大魔法使い(糖分の悪魔)である。
汽車に乗っていた大方の客は、オレの意識が復活するまでの間にそれぞれ必要な所へ旅立って行ったらしい。そんな中で、巨乳ちびっこ大魔法使いがここにいるというのはおかしな話である。
それにより、オレはすぐに理解した。妹がなんらかの小遣い稼ぎをしている、と。
「あ、あの。あたし、ネメシア・ツェーン・ディーしゅたべークっていいましゅ」
噛んだ。思いっきり、自分の名前を。
これは、オレ達精術師では考えられないような暴挙だ。なぜなら名前は力なのだ。
特に苗字は、家に居てくれる精霊そのものの名前。それを間違えるのは、とんでもなく失礼だ。
ちなみに、精術師というのは彼女のような魔法使いの前に活躍していた、魔法っつーか、精術を使う家系の者の事である。
世界には精霊というものが存在し、それら全てが自然を司り、オレ達の生活を支えてくれている。その精霊を視認し、自然現象サービスを受ける事が出来るのが、オレとスティアのような精術師の家系の者だ。
同じ精霊というくくりにするにはちょっとポジションは違うが、人の強い欲などから発生する、シュヴェルツェという名の黒い蛇も存在する。この蛇は一度倒しても何度も復活するし、復活する度に人間を唆してあくどい事をさせては喜ぶ性悪だ。
親父の代に一度復活していて、その時は大変だったとか何とか。
この、人間の汚さの塊が精霊化したやつをその都度倒すのも、精術師の仕事の一つ。だが、その役割すら忘れられ、それぞれの家系は衰退の一途をたどっていた。親父の時からそんなに長い時間が流れている訳でもないだろうに、よくもまぁそれだけ都合よく忘れられるものだ。
まぁ、残っている家は、精術師としての誇りを胸に、今も色々している……はずだが、全員もれなく就職難に陥っている可能性が高い。
理由は、魔法使いという、精術とは違う魔法を使う事が出来る存在が現れたからだ。おかげで(嫌味)、オレ達精術師は過去の産物と成り果ててしまったのである。
オレ達の生まれる前にはもう、精術師は昔の魔法使いとして馬鹿にされるような存在になっていた。そうなってしまうと、精術師の仕事で食いつなぐ事は難しくなった。
短くまとめよう、人生ハードモード。対して、ネメシアのような大魔法使いは人生イージーモード。羨ましい限りだ。
「……でースターヴぇーきゅっちぇいいます!」
俺が長々と脳内で自分の事について考えている内に、巨乳ちびっこ大魔法使いは言い直してまた噛んだ。何だこいつ。舌に鉛でもつけてるのか?
「でぃーしゅたーべーく! ……うぅぅぅ」
ついに言い切れなくて涙目になり始めた。幼さが抜け落ちることなく成長してしまった顔に涙が浮かぶと、小さな子を虐めた気分になって、なんとなく申し訳ない。
「彼女は、ネメシア・ツェーン・ディースターヴェークだそうだ」
「です! よろしくお願いします、クルトさん」
結局スティアに苗字を代弁して貰い、巨乳ちびっこ大魔法使い――もとい、ネメシアは涙を拭って笑顔を見せる。ちょっと可愛い。
「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ」
名前はスティアから聞いているようだったが、一応名乗られたからには名乗り返すしかあるまい。それが礼儀だ。
オレは精術師の礼儀にのっとり、苗字を強調した方法で名乗る。
その上で、もう一度ため息を吐き、スティアをジロリと睨んだ。
「せ・つ・め・い」
必殺、区切り強調! 聞きたい事をちゃんと相手に伝えるのは大切な事である。
「なあに、予想もついているだろう。簡単な話さ。面接を受けるという職場が同じでな。その上彼女は極度の方向音痴らしい。どうせ同じ所に行くのだ、ついでに金も……人助けをしても問題はなかろう」
こいつ今、金儲けって言おうとしやがった。
それにしても面接、大魔法使いと一緒に受けるのか。定員は何名までだとかは募集のチラシには書いていなかったが、オレ、多分落ちたわ。
ふう、受ける前から気分はブルーになった。なんならブルー通り越してブラックでも構わない。
「あの、精術師さんなんですよね」
「そう、だけど」
なんだ、嫌味でもいうつもりか。精術師への嫌味は、巨乳相手でもゆるさねーぞ。
「名前、カッコイイですね!」
……え、何それ。予想もしてなかったんだけど。ていうか、格好いいって言った? 格好いいって言ったか?
オレはドキドキしながら「お、おう」とか適当に返した。
名前どころか、どこをとっても格好いいと言われた事の無いオレには刺激が強いくらいの発言だ。
確かに精術師は名前を大事にするし、個々の名前も現代とは少し変わった響きを持っているらしい。だが、それを馬鹿にされた事はあれ、格好いいと言われた事は無かったのである。
「さて、クルトも鼻の下を伸ばせる程度には回復したようだし、そろそろ行くか」
「おー!」
すたすたと歩き始めたスティアの後ろを、ネメシアは巨乳とリュックサックを揺らしながらついて行く。
「待てこら、鼻の下なんて伸ばしてねーよ!」
オレはと言えば、スティアの言った不本意な発言を必死に否定しながらベンチから立ち上がった。それから大きく深呼吸を一つしてから、二人を追ったのだった。
お帰り、オレの意識。
お帰り、胃液を吐き出さない胃袋。
ただいま、美味しい空気。
「説明して貰おうか、我が妹よ」
「正当な報酬は貰った」
ベンチにぐったりと身体を預けたオレの質問に、スティアはこんな時だけ可愛らしい笑顔を浮かべて返す。
「詳しく話して貰おうか、我が妹よ」
「二人分の汽車の運賃にはなった」
オレは、大きな大きなため息を吐いた。
ベンチで風にあたりながら精神の回復を図るオレがいるのは、駅のホーム。
ここには、駅員の他に少女が二人いた。一人はオレの妹であるスティア(守銭奴)、もう一人は先程の巨乳ちびっこ大魔法使い(糖分の悪魔)である。
汽車に乗っていた大方の客は、オレの意識が復活するまでの間にそれぞれ必要な所へ旅立って行ったらしい。そんな中で、巨乳ちびっこ大魔法使いがここにいるというのはおかしな話である。
それにより、オレはすぐに理解した。妹がなんらかの小遣い稼ぎをしている、と。
「あ、あの。あたし、ネメシア・ツェーン・ディーしゅたべークっていいましゅ」
噛んだ。思いっきり、自分の名前を。
これは、オレ達精術師では考えられないような暴挙だ。なぜなら名前は力なのだ。
特に苗字は、家に居てくれる精霊そのものの名前。それを間違えるのは、とんでもなく失礼だ。
ちなみに、精術師というのは彼女のような魔法使いの前に活躍していた、魔法っつーか、精術を使う家系の者の事である。
世界には精霊というものが存在し、それら全てが自然を司り、オレ達の生活を支えてくれている。その精霊を視認し、自然現象サービスを受ける事が出来るのが、オレとスティアのような精術師の家系の者だ。
同じ精霊というくくりにするにはちょっとポジションは違うが、人の強い欲などから発生する、シュヴェルツェという名の黒い蛇も存在する。この蛇は一度倒しても何度も復活するし、復活する度に人間を唆してあくどい事をさせては喜ぶ性悪だ。
親父の代に一度復活していて、その時は大変だったとか何とか。
この、人間の汚さの塊が精霊化したやつをその都度倒すのも、精術師の仕事の一つ。だが、その役割すら忘れられ、それぞれの家系は衰退の一途をたどっていた。親父の時からそんなに長い時間が流れている訳でもないだろうに、よくもまぁそれだけ都合よく忘れられるものだ。
まぁ、残っている家は、精術師としての誇りを胸に、今も色々している……はずだが、全員もれなく就職難に陥っている可能性が高い。
理由は、魔法使いという、精術とは違う魔法を使う事が出来る存在が現れたからだ。おかげで(嫌味)、オレ達精術師は過去の産物と成り果ててしまったのである。
オレ達の生まれる前にはもう、精術師は昔の魔法使いとして馬鹿にされるような存在になっていた。そうなってしまうと、精術師の仕事で食いつなぐ事は難しくなった。
短くまとめよう、人生ハードモード。対して、ネメシアのような大魔法使いは人生イージーモード。羨ましい限りだ。
「……でースターヴぇーきゅっちぇいいます!」
俺が長々と脳内で自分の事について考えている内に、巨乳ちびっこ大魔法使いは言い直してまた噛んだ。何だこいつ。舌に鉛でもつけてるのか?
「でぃーしゅたーべーく! ……うぅぅぅ」
ついに言い切れなくて涙目になり始めた。幼さが抜け落ちることなく成長してしまった顔に涙が浮かぶと、小さな子を虐めた気分になって、なんとなく申し訳ない。
「彼女は、ネメシア・ツェーン・ディースターヴェークだそうだ」
「です! よろしくお願いします、クルトさん」
結局スティアに苗字を代弁して貰い、巨乳ちびっこ大魔法使い――もとい、ネメシアは涙を拭って笑顔を見せる。ちょっと可愛い。
「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲルだ」
名前はスティアから聞いているようだったが、一応名乗られたからには名乗り返すしかあるまい。それが礼儀だ。
オレは精術師の礼儀にのっとり、苗字を強調した方法で名乗る。
その上で、もう一度ため息を吐き、スティアをジロリと睨んだ。
「せ・つ・め・い」
必殺、区切り強調! 聞きたい事をちゃんと相手に伝えるのは大切な事である。
「なあに、予想もついているだろう。簡単な話さ。面接を受けるという職場が同じでな。その上彼女は極度の方向音痴らしい。どうせ同じ所に行くのだ、ついでに金も……人助けをしても問題はなかろう」
こいつ今、金儲けって言おうとしやがった。
それにしても面接、大魔法使いと一緒に受けるのか。定員は何名までだとかは募集のチラシには書いていなかったが、オレ、多分落ちたわ。
ふう、受ける前から気分はブルーになった。なんならブルー通り越してブラックでも構わない。
「あの、精術師さんなんですよね」
「そう、だけど」
なんだ、嫌味でもいうつもりか。精術師への嫌味は、巨乳相手でもゆるさねーぞ。
「名前、カッコイイですね!」
……え、何それ。予想もしてなかったんだけど。ていうか、格好いいって言った? 格好いいって言ったか?
オレはドキドキしながら「お、おう」とか適当に返した。
名前どころか、どこをとっても格好いいと言われた事の無いオレには刺激が強いくらいの発言だ。
確かに精術師は名前を大事にするし、個々の名前も現代とは少し変わった響きを持っているらしい。だが、それを馬鹿にされた事はあれ、格好いいと言われた事は無かったのである。
「さて、クルトも鼻の下を伸ばせる程度には回復したようだし、そろそろ行くか」
「おー!」
すたすたと歩き始めたスティアの後ろを、ネメシアは巨乳とリュックサックを揺らしながらついて行く。
「待てこら、鼻の下なんて伸ばしてねーよ!」
オレはと言えば、スティアの言った不本意な発言を必死に否定しながらベンチから立ち上がった。それから大きく深呼吸を一つしてから、二人を追ったのだった。
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