精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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一章

1-48 きっと遊びに行きます

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 ジギタリスはとても忙しかったようで、書類の類を完成させると直ぐに引き返して行った。
 ついでに、と、スティアが所長への手紙を投函するように頼んだものも、おそらくやってくれたことだろうと考えると、あの人にも世話になったな、と思う。
 因みにスティアの手紙は、「オレ達が怪我をしたから帰りが遅くなる。正確な帰る日取りに目途がついたらまた連絡する」といった物だったらしい。確かに、最低一週間寝ているとなると、確実に予定日までに帰れないのだから、必要な手紙だった。

「で、シア。お前は寝てなくていいのか?」

 オレの部屋の椅子に座ったまま動かないシアに、スティアが問う。
 ……うん? なんか違和感あるぞ。なんだ?

「ほえ? シアって言った?」
「……言った」

 おお、違和感の正体は呼び名か。今まで頑なにネメシアと呼んでいたスティアが、ついにシアに心を開いた!
 オレは驚愕の表情でスティアを見る。

「お前も中々やるようだからな。認めてやる。ベル、お前もだ」
「ありがとう」
「ありがとー! 嬉しいよ、スティア!」

 直ぐにクールに礼を返したベルに続き、シアが弾んだ声をあげる。

「ま、皆僕の事もアーニーって呼んでくれていいけど? 僕も適当に呼ぶし」
「アーニー、皆さんに心を開いたのね」

 アーニスト……もとい、アーニーもスティアと同じだったようで、そっぽを向いて顔を赤くしながらもついでとばかりに歩み寄ってきた。
 あの一件で、オレ達の間には確かな絆がうまれたのだろう。

「あの、わたしも皆さんの事をさん付けするのを止めてもいいですか?」
「勝手にしろ」

 スティアは赤くなりながら答える。これ、完全に照れ隠しだ!
 全員嫌ではなかったようで、オレ達の呼び名が変わり、距離がぐっと近付いた。


 こうして更に二日も暮らせば、傷も治ってきて暇にもなってくる。
 お爺ちゃん先生は毎日傷の確認に来て処置をして帰ってくれたし、オレとベル以外はもう皆普通の生活が出来るようになっていた。シアはもう殆ど痛みも引いたようで、傷などを気にせず、別室でアーニーとお菓子パーティを開いたりしていたようだ。
 スティアはお爺ちゃん先生に、オレとベルが動いてもいいであろう日を確認すると、直ぐに手紙を書いて送った。完璧だ。

 その夜、アーニーとフルールの両親が帰宅した。
 本来の帰宅予定日よりもずっと遅かったせいで、二人は心配していたらしい。
 どうもオレ達の両親とは旧友だったようで、顔が似ているという理由で物凄く驚かれたりもした。オレ的には、二人の母が車椅子だったことの方に驚いたのだが……まぁ、あまり深くは聞かなかった。
 更に二日後、オレ達はついに何でも屋に帰るために駅にいた。
 フルールとアーニストはホームまで見送りについてきてくれている。

「じゃ、そこそこ元気でやりなよ」
「アーニー、お菓子いっぱい詰めた荷物送るから!」
「ありがとう。僕も何か甘いものを手に入れたらシアに送るよ」

 嫌味っぽく別れの挨拶をした筈のアーニーは、甘いもの攻撃であっという間に陥落した。陥落っていうか、甘落か?

「アーニー、おすすめのエロ本送るから」
「ありがとう。僕も良いものを手に入れたらベルに送るよ」
「なんっつー話してるんだ! しかも女子の前だぞ!」

 この二人、いつの間にそう言う話を言い合えるようになったんだよ! オレがベッドで睡魔に負けている間に、エロ談義でもしたのか!? したんだな!? 恥ずかしいヤツらめ!
 エロ本の類は、一人でこっそりニヤニヤ見るのがポリシーのオレとしては、堂々と話しているのを見るだけで恥ずかしくてたまらなくなった。

「……貴様等、よもや巨乳好きではあるまいな?」
「はぁ? 好きなのは巨乳に決まってるじゃん」
「あ、俺は下半身フェチだから、胸のサイズにはこだわりがない」
「あ、あの、公共の場ですし、そ、その、その辺で」

 スティアの一睨みに屈する事の無かった男子二人は、フルールが赤くなって止めた事であっさりと口を閉じる。
 本当に恥ずかしくないのか、こいつらは!

「ク、クルトさん、乗り物酔いが酷いと聞いたので、これ」

 エロ男子二人を止めたフルールは、話題を変える為にか、慌ててオレに小袋を差し出した。

「様々なハーブを配合して詰めた物です。具合が悪くなったら、これを揉んで香りを嗅いで下さい。そうすれば、乗り物酔いが軽減されますよ」
「お、おう! ありがとう!」

 本当に効くかは分からないが、あるだけで心強い。オレは小袋受け取って笑った。

「ルルちゃん、元気でね。ルルちゃんにもお菓子送るよ!」
「ありがとうございます、シアちゃん」
「あと、誰かについてきてもらって遊びに来るよ」
「わたしも、きっと遊びに行きます」

 女子二人は、きゃっきゃと嬉しそうに笑い合う。

「ま、遊びに来るときは私が付いて行ってやろう」
「じゃ、女子会出来るね」
「女子会、ですか。何だか都会的な響きがありますね」
「そ、そうかな?」

 うーん、女子は楽しそうだ。

「じゃあ、こっちは男子会するか?」
「夜通しエロ談義とか楽しそうだもんね。クルトも混ざるでしょ?」
「だ、誰が!」
「お前の好きそうな物、集めて置くからさ」
「だってさ。良かったね、クルト」

 男子会、なんか違う! エロ目的じゃねーか!
 オレが慌てつつも顔を赤くしていると、もうすぐ汽車が出発するとアナウンスがかかった。
 オレ達は慌てて汽車に乗り込み、席に座り、窓越しに見送りに来てくれた二人に手を振る。
 長かったし、辛い事もあったが、こうして汽車に乗り込むと、離れがたい気分にもなった。
 発車のベルがけたたましく鳴る。
 汽車は、肉厚な煙を吐き出し、オレ達の肉体を高速で運び始めたのだった。

   ***
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