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一章
1-47 精術師の誇りにかけて
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「では、お姉さんのフルールさんからお願いします」
「は、は、はい!」
不意に話を振られたフルールは、肩を大きく震わせてから、緊張した面持ちでジギタリスを見た。ジギタリスは相変わらず眉一つ動かさずに、封筒から調書用の紙を取りだす。
「お名前と年齢、性別をお願い致します」
「あ、あの、えと、わ、わたし、わたしは、ベルンシュタイン! フルール・ベルンシュタインです。冬でじゅ、じゅ、じゅーはっちゃいにょ女です」
「……フルール・ベルンシュタインさん、冬で18歳になる女性ですね」
じゅうはっちゃい、突っ込んでやれ。真っ赤になって俯いてんぞ。噛み方がシアみたいだし。
「ちょっと、姉様渾身のギャグを滑ったみたいにしないでくれる?」
「ま、まって、違うの、ギャグじゃないの!」
ジギタリスは暫し首を傾げ、やがて「お、面白いですね」と困ったように答えた。
フォローのつもりのようだが、かえってフルールは涙目になっている。すかさずシアが「あたしとお揃いだよ! ドンマイ!」と続けたが、フルールは「ううう」と小さく返すだけだ。
「私相手では緊張しますか?」
「す、す、すみま、すみません」
ジギタリスは、眉間に皺を寄せる。この顔、睨んでるみたいで怖いんだけど。
「精霊の属性を……えぇと、教えてね。あ、いや、教えてにゃ? あ、いや、えぇと」
……え? なに、これ。急に「にゃ」とか。緊張しないように、っていう精いっぱいの配慮か? こいつ、もしかして変なヤツ?
表情に出にくいだけで、愉快なタイプか?
おそらく、今のオレはポカンと口を開けた間抜けな顔をしているだろう。スティアも、アーニストもそんな表情をしている。
ベルは気にならないようで普通だが、シアは「おおお」と謎の感動をしていた。
フルールはやがて小さく「ふふっ」と声を上げると、緊張の解けた表情で「ありがとうございます」と柔らかく微笑んだ。こういう顔したら、なんか、すっげー可愛い。
「大丈夫です。もう緊張は飛んで行っちゃいましたから」
「そうですか。では、続けて下さい」
咳払いして続きを促したが、語尾ににゃをつけた事実は変わらない。
もはや無表情でも、全くもって威圧感などというものは存在しないように思えた。
フルールは、ベルンシュタインは緑を司る精霊である事を答えると、今度はベルンシュタインの形状を聞かれる。
答えを元にジギタリスは絵を描くと、「こういった感じか」と確認を取った。この絵がまた、えらく上手かったのである。
他に、精霊石をどんな形で身に着けているかを確認すると、更に精霊石を武器の形状にさせて写真を撮り、サイズなどを測った。
「形状は変わりありませんね」
「い、いえ。実は少し前までは小さかったのですが……シアちゃんや、皆さんのおかげで何とか元の形状に戻りました」
「それは良かったです。精霊も喜んでおられる事でしょう」
精霊が喜んでる、とか気にかけてくれるあたり、やっぱりいいヤツかもしれない。よく見ると、ジギタリスにも何種類かの精霊がくっついていた。
「ところで、前回は写真を撮りましたか?」
「い、いえ、ここ何回かは写真の話は出ていませんでしたが……」
「……職務怠慢ですね。申し訳ありません」
ジギタリスは頭を下げる。ここの支局、後ですっげー本局から叱られそうだな。
オレがぼんやり考えている内にも調査は進む。次に確認したのは、武器の無い状態と、武器のある状態での精術の威力だ。これに対しても「問題ないですね」と一言添え、調書に記入してからアーニストの方を見る。
如何せん、室内でやったせいで、そこらへんに蔓が絡まり、花が咲き乱れてシアが喜ぶ事態になっているのがちょっと気になる。
「先に弟さんの精術も確認して宜しいですか?」
「いいよ」
そうしてアーニストも確認すると、さらりと書き込んだ。その後、アーニストの調書も次々と埋めていく。
「本来であれば、模擬戦を行った上で実力を確認するのですが、今回は既に実力を見て下さった方がいるので、そちらに確認しましょう」
ジギタリスはそこまで言うと、何でも屋メンバーを見回した。
「全然問題ねーぞ! 強い強い」
「俺も問題はない様に思えた。むしろ助けられたし」
「私も同感だ。フルールの精術もアーニストの精術も、中々役に立ったしな」
「あたしはよくわかんないけど、助かったよ! すごかった!」
オレ達四人の反応を見て、ジギタリスは大きく頷く。
「最後にお二人に確認です。現在のお仕事で問題などはありませんか?」
アーニストとフルールは顔を見合わせてから、声を合わせ
「ありません。精術師の誇りにかけて」
と答えたのだった。
「は、は、はい!」
不意に話を振られたフルールは、肩を大きく震わせてから、緊張した面持ちでジギタリスを見た。ジギタリスは相変わらず眉一つ動かさずに、封筒から調書用の紙を取りだす。
「お名前と年齢、性別をお願い致します」
「あ、あの、えと、わ、わたし、わたしは、ベルンシュタイン! フルール・ベルンシュタインです。冬でじゅ、じゅ、じゅーはっちゃいにょ女です」
「……フルール・ベルンシュタインさん、冬で18歳になる女性ですね」
じゅうはっちゃい、突っ込んでやれ。真っ赤になって俯いてんぞ。噛み方がシアみたいだし。
「ちょっと、姉様渾身のギャグを滑ったみたいにしないでくれる?」
「ま、まって、違うの、ギャグじゃないの!」
ジギタリスは暫し首を傾げ、やがて「お、面白いですね」と困ったように答えた。
フォローのつもりのようだが、かえってフルールは涙目になっている。すかさずシアが「あたしとお揃いだよ! ドンマイ!」と続けたが、フルールは「ううう」と小さく返すだけだ。
「私相手では緊張しますか?」
「す、す、すみま、すみません」
ジギタリスは、眉間に皺を寄せる。この顔、睨んでるみたいで怖いんだけど。
「精霊の属性を……えぇと、教えてね。あ、いや、教えてにゃ? あ、いや、えぇと」
……え? なに、これ。急に「にゃ」とか。緊張しないように、っていう精いっぱいの配慮か? こいつ、もしかして変なヤツ?
表情に出にくいだけで、愉快なタイプか?
おそらく、今のオレはポカンと口を開けた間抜けな顔をしているだろう。スティアも、アーニストもそんな表情をしている。
ベルは気にならないようで普通だが、シアは「おおお」と謎の感動をしていた。
フルールはやがて小さく「ふふっ」と声を上げると、緊張の解けた表情で「ありがとうございます」と柔らかく微笑んだ。こういう顔したら、なんか、すっげー可愛い。
「大丈夫です。もう緊張は飛んで行っちゃいましたから」
「そうですか。では、続けて下さい」
咳払いして続きを促したが、語尾ににゃをつけた事実は変わらない。
もはや無表情でも、全くもって威圧感などというものは存在しないように思えた。
フルールは、ベルンシュタインは緑を司る精霊である事を答えると、今度はベルンシュタインの形状を聞かれる。
答えを元にジギタリスは絵を描くと、「こういった感じか」と確認を取った。この絵がまた、えらく上手かったのである。
他に、精霊石をどんな形で身に着けているかを確認すると、更に精霊石を武器の形状にさせて写真を撮り、サイズなどを測った。
「形状は変わりありませんね」
「い、いえ。実は少し前までは小さかったのですが……シアちゃんや、皆さんのおかげで何とか元の形状に戻りました」
「それは良かったです。精霊も喜んでおられる事でしょう」
精霊が喜んでる、とか気にかけてくれるあたり、やっぱりいいヤツかもしれない。よく見ると、ジギタリスにも何種類かの精霊がくっついていた。
「ところで、前回は写真を撮りましたか?」
「い、いえ、ここ何回かは写真の話は出ていませんでしたが……」
「……職務怠慢ですね。申し訳ありません」
ジギタリスは頭を下げる。ここの支局、後ですっげー本局から叱られそうだな。
オレがぼんやり考えている内にも調査は進む。次に確認したのは、武器の無い状態と、武器のある状態での精術の威力だ。これに対しても「問題ないですね」と一言添え、調書に記入してからアーニストの方を見る。
如何せん、室内でやったせいで、そこらへんに蔓が絡まり、花が咲き乱れてシアが喜ぶ事態になっているのがちょっと気になる。
「先に弟さんの精術も確認して宜しいですか?」
「いいよ」
そうしてアーニストも確認すると、さらりと書き込んだ。その後、アーニストの調書も次々と埋めていく。
「本来であれば、模擬戦を行った上で実力を確認するのですが、今回は既に実力を見て下さった方がいるので、そちらに確認しましょう」
ジギタリスはそこまで言うと、何でも屋メンバーを見回した。
「全然問題ねーぞ! 強い強い」
「俺も問題はない様に思えた。むしろ助けられたし」
「私も同感だ。フルールの精術もアーニストの精術も、中々役に立ったしな」
「あたしはよくわかんないけど、助かったよ! すごかった!」
オレ達四人の反応を見て、ジギタリスは大きく頷く。
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「ありません。精術師の誇りにかけて」
と答えたのだった。
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