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二章
2-2 昇進したんだね!
しおりを挟む「ど、ど、どうぞー」
動揺し過ぎだろ、所長。
ツッコミ所満載状態での返事でも、入ってもいいと許可された事に変わりはない。就職管理局から来たと言うその人は、ドアを開けて入ってきた。
一度語尾に「にゃ」をつけた、堅物で威圧的な雰囲気をもつ変なヤツ――ジギタリスと、支給されている白い帽子を目深にかぶり、趣味の悪い柄シャツを着こんだ銀髪の13枚の男。それから、オレンジ色のおかっぱ頭のメガネ女子。
この三人が、オレ達の調査をする為に送られてきた就職管理官のようだ。
就職管理官は、基本的には三人一組で行動する、というのを聞いたことがある。例にもれず、こいつらも三人だ。
「お久しぶりです。皆さん、その後お加減はいかがでしょうか?」
ジギタリスが帽子を取りながら、前回と変わらぬ低い声で尋ねる。
その前回と違うのは、夏服になっている所か。やたらと長かったコートの代わりに、コートを頑張ってベストにして、丈を短くしたようなものを着ている。中のシャツは半袖になっており、随分と涼しげに変わっていた。
「ジスさん! 俺はもうすっかりいいぞ」
ベルは明るい声で、珍しく笑顔なんか浮かべて答えた。この笑顔がまたすごいイケメンで、もしかしたらオレンジ髪の女は惚れたんじゃないか、と思った。つーか、オレが女なら惚れてた。あるいは見惚れてた。
が、オレンジの女は惚れた様子は見せず、ちろっとベルの胸元を確認するにとどめる。
これは……枚数を確認していやがる! 嫌なヤツー!
「オ、オレもすっかり元気だ!」
オレンジ女の視線をベルに気付かせないように、オレは慌てて声を張り上げた。
本当はまだ傷があるけど、日常生活に支障が無いのであれば、傷の内にカウントはされない。オレ的に。
「あたしも問題ないけど、今問題なのは……」
シアも応えたが、言葉尻を濁してアリアさんを見る。うん、まぁ、今一番お加減が悪そうなのはアリアさんだわな。
「アルメリアさん、大丈夫ですか?」
「今日もなんとか生きてます」
「それは……えぇと、よかった、です?」
まぁ、疑問形にもなるよな。
目の前でソファーに倒れ伏した顔色の悪い美人が、なんとか生きてるって言ったら。
「一人足りないようですが」
ジギタリスは咳払いを一つすると、所長に向き直る。
「えー、あー、も、もうちょっとしたら帰って来るはず、だからー。えーとー」
「所長、忘れてたんだよー! どうしてやっちゃう? どうやらかしちゃう?」
「シッ! シア、言わないでお願い!」
「もう出ちゃった」
「……え、えへっ!」
シアの活用形が進化し続ける中、所長は必死にシアを大人しくさせようとした。が、上手くいくはずもなく、結局可愛くも無い愛想笑いを浮かべ、小首を傾げた。
正直、怖い。大人の男がわざとらしい笑みを浮かべて「えへっ!」と首を傾げる様は、ちょっとしたホラーだ。
コレがベルくらいイケメンだったら、あるいは様になったのだろうが、所長がやった所で心に響かない。
「……もうすぐ帰って来る、という言葉を信じますね」
「う、うん、お願いします。それより! うん、それより! 昇進したんだね! おめでとう!」
所長は必死に話をずらそうと、ジギタリスに話を振った。
見ると、ジギタリスの肩には6枚の痣をモチーフにした階級章がついていた。これは、前回は無かったものである。
何でも、就職管理官の中でも『階級持ち』という存在があり、ある程度偉くなると階級を貰えるらしい。
「おかげさまで、前回の大忙しでの功績が認められて階級を頂きました。見ての通り、六枚の管理官を名乗る運びとなりましたが、これまで以上に邁進してまいりますので、どうぞ今後ともよろしくお願い致します」
「良かったな、ジスさん。枚数無しだと中々上がれないって聞いてたけど、流石!」
「ありがとうございます。しかし、私一人の功績という訳ではないので、流石というのは身に余り過ぎる褒め言葉かと」
「そんな謙遜しなくてもいいだろ。とにかく、おめでとう」
「ありがとうございます」
クール! この人が語尾に「にゃ」をつけたなんて信じられないくらい、すっごいクール!
六枚の管理官は、階級の中では一番下とはいえ、平管理官から見たら凄く偉い。この次に、十二枚の管理官、#十三枚の管理官__ドライツェーンライトゥング_#と続くらしく、特に#十三枚の管理官__ドライツェーンライトゥング_#は次期国王候補だとか、現国王の直属の部下だとか、なんかそこら辺のすごそうなヤツだけに与えられる称号らしい。
もう、全体的に「らしい」ばかりになるが、とにかく、階級持ちイコール偉い! っていう事だ。ジギタリスは、すごく偉くなった!
「君が昇進したからメンバー変わったのか」
「えぇ、まぁ……そう、ですね」
どうやら、今まで何でも屋に来ていた管理官のメンバーではないらしい。
あー、でも確かに、今までと同じなんだったらオレンジ女がベルの胸元を見てるはずないか。顔見知りなんだし。
「新しくなりましたし、メンバーを紹介しても宜しいですか?」
「うん、お願い」
所長、まさかと思うけど、スティアが帰って来るまでの時間稼ぎがしたいんじゃないよな……? そりゃあ、メンバー紹介言い出したのはジギタリスだけど。
「こちら、ネモフィラ・アウフシュナイターです」
「どうも、始めまして。わたくしはネモフィラ・アウフシュナイターですわ」
「うーわー……。ジス君、ご愁傷様」
所長は憐憫の眼差しをジギタリスへと向けた。
うーん、なんで? いや、つーか、アウフシュナイターって聞き覚えが……えーと……。
「あー! 国王! 国王の苗字だ!」
「ええ。わたくし、現国王の姪にあたりますの」
「うえぇぇぇぇぇ!? マジで? 何で? 何で国王の姪が、こんな所でプラプラしてるんだ!?」
「国王の姪、階級持ってないんだな」
オレが驚いて大声を出す横で、ベルが姪を一瞥して呟く。
「……えぇ、まぁ」
あー、ジギタリス、すげー言葉濁してる。偉い人の姪が部下って、胃が痛くなりそうだな。
「で、そちらさんは?」
所長はネモフィラにはさして興味を示さず、未だに帽子を目深にかぶったままの男に視線を向けた。
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