精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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二章

2-10 泥棒猫!?

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「ルース! ちゃんと謝ろう。これは絶対良くない。ルースと俺が悪いだろ?」
「ベルは悪くねーッス」
「それ、ルースは悪いって認めてる」

 ベルは不機嫌そうにルースを見る。何か、雲行きが怪しい。
 ケンカか? ケンカなのか?

「確かにオレは職務を全うしてねーし、悪いッス。でも謝らねーッス」
「おい、それはどうなんだ」

 オレだって謝るぞ、そこまで自覚してるなら。
 ベルが泣きそうになってるし、代わりにオレが口を挟んでおく事にした。

「アンタには言われたくねーッス。この泥棒猫」
「泥棒猫!?」

 何!? オレ、魚も肉も盗み食いしたりしてねーぞ! つまみ食いもしてねーし!

「何でクルトにそういうこと言うんだよ。クルトはお前の彼女を取ったりしてないだろ」
「彼女は取られてねーッス。けど……」

 ルースは濁しながら、チロっとベルを見た。

「お前、彼女いるのにシアをナンパしたのか!」

 こいつが何に対して嫉妬してるのかは知らないが、彼女がいるのにチャラチャラしてるのはいかがなものか。
 それも、オレの仲間のシアやアリアさんにチャラチャラしやがって。

「彼女が一人じゃなきゃいけないってルールなんか、ねーッス。大体、オレに彼女が何人いようとルトルト君には関係ねーじゃねーッスか」
「ルトルト君ってなんだ! オレはクルトだっつーの!」

 しかもなんで二回言った! 大事な事だとでも思ってんのか!

「ルト、落ち着いて。落ち着いてー」
「オレはクルトだっつーの!」
「ご、ごめん」

 オレに声をかけたのは、シアだった。直ぐに謝られたが、こいつにはルトって呼ばれてるんだった。これは悪かった。

「あ、いや、オレもごめん。ルトでいいわ」
「うん。ごめん」
「いや、いいって。オレもごめん」

 クールダウン、クールダウン……。
 何にも悪くないシアに謝らせたら駄目だろ、オレ。

「もういいよ。とりあえずこの二人を回収してくれる?」
「はい、直ぐにでも。では明日の時間は追って連絡致します」
「よろしくねー」

 見かねた所長が口を挟むと、ジギタリスは深々と礼をしてから部下二人の首根っこを掴んで何でも屋を後にした。
 外でも暫くぎゃーぎゃーと声が聞こえていたが、やがてそれも遠くなり、ようやっと静寂が訪れた。

「あ、あー、ベル、大丈夫?」
「……うん」

 所長が、躊躇いがちにベルに尋ねると、彼は僅かに頷く。

「あのさ、あいつってどういうヤツなんだ?」
「あいつ、って、ルースか?」
「そう、ルース」

 オレが尋ねると、ベルは真っ直ぐにこっちを見た。真顔だ。

「友達」

 はっきり、簡潔に一言。

「俺、11歳の頃に所長の養子になってるんだけど」
「え、そうなのか!?」

 じゃあ、アーニーの所での「置いて行かないでお父さん」みたいなやつ、所長のことか!? 置いていくなよ、お父さぁぁぁぁん!

「そうなんだってー。びっくりだよね」
「なんでお前は知ってるんだよ」
「さっき言ってたの。ルトが外でジッキーとどったんばったんしてた頃に」

 どったんばったんって……。いや、大体どったんばったんだったな。シアの想像は当たっていた。

「で、勝てた?」
「負けたよ! 負けました! でもそれは今関係ないだろ」

 クソ、所長め。変な所で茶々入れやがって。

「で、その、養子っていうのは、あの……」
「なった経緯はあんまり言いたくない。でも、とにかく所長の養子になって、最初の内は精術師の家にお世話になってたんだ。所長諸共」
「精術師の家!?」
「お前なら分かるかな。ヴァイスハイトっていう家」

 ヴァイスハイト……ああ、このあたりにあるお高めのレストランの! あれ、精術師の家だったのか!

「旨そうだな!」
「美味しいぞ。俺の食事も美味しいだろ? ヴァイスハイト家直伝の技と味だからな」
「マジか……」

 そりゃあ旨いわけだ。
 つまりこいつは、レストランで修業してきたんだな。今は独立して何でも屋で料理人として……ん? なんか違うか。
 何でも屋は、所長の店? みたいなもんだし。

「所長は俺を拾ったは良いものの何にも出来なくて。それで、まぁ、ちょっとした縁でお世話になる事になって、その時俺と同い年だったテロペアってやつと仲良くなった」
「それが、ヴァイスハイトの息子にあたる、って事か」
「そうなる」

 ベルは一度頷くと、また口を開いた。

「その過程で、テロペアと仲の良かったルースとも友達になったんだ」
「何で13枚と精術師が友達になれたんだ?」
「ルース、精術師とかそういうの気にする奴じゃないから」

 あー、確かに、精霊はいるって言ってたもんな。チャラチャラしてて態度はアレだけど、オレ的には悪いヤツには思えない。
 勿論、ジギタリスに対する態度は無しだし、シアやアリアさんにチャラチャラうへへ、ってやつは止めてほしいが。

「テロペアはちょっと気難しいけど、人懐っこいルースとはなんか仲が良くてさ。俺がお世話になっていたあたりには、頻繁に家に出入りしてたし、あいつらのなれ初めは知らないけど」
「なれ初めって……」

 男同士に使う言葉じゃないだろ。
 あと、人懐っこい印象は最後には残らなかったんだが。

「だから、悪い奴じゃない。俺と友達でいてくれるくらいなんだから」
「いや、お前なら友達の百人や二百人、直ぐ出来るだろ」
「顔に寄ってくるからか?」
「そうじゃなくて」
「所長が13枚だから、俺と付き合うとステータスにでもなるのか?」
「いや、違うって」

 なんでこいつ、こんなに卑屈なの!? 今日は特に後ろ向きだ。

「お、お、オレだったらお前と友達になりたいから! だからいるだろうなーって思ったんだよ」

 ベルはきょとんとした表情を浮かべた後、はにかんだ。
 それからオレに近づくと、オレの手を握る。

「友達ゲット」
「な、なな、オレ、友達か! いいのか? オレでいいのか!?」

 うわぁ、友達だって! 友達だって! オレの初めての友達だ!
 オレのテンションは一気に上がる。

「うん、いい。所長、俺、友達捕まえた」
「良かったねベル。僕も嬉しいよ。ところでクルト、ベルを泣かせたら……承知しないからね」
「あったりめーだ! オレの初めての友達だぞ! 大事にするっつーの」

 ……あ、でも、友達だから大事にしたいって、こいつとルースの間にも言える事だよな。じゃあ、結構ショックだよなぁ。ケンカしてたし。

「えー、じゃあ、あたしもミリィとルトの友達がいいー」
「お、サンキュ。お前が友達二号な」
「所長、友達ゲット」
「良かったね、ベル。ところでシア、ベルと迷子になったら承知しないからね」
「そこは、もちつもたれつだよー」

 途中に入り込んだシアは、へにゃっと笑った。可愛いけど、こいつの迷子は全然可愛くないので、どうにかしてほしい。

「……ま、とにかくそういう訳なんだ」

 話が一区切りついたところで、ベルが苦笑いを浮かべながら強引に話を戻した。

「だから、ルースは悪い奴じゃないんだけど……なんで、あんな風な態度取るんだろうな」

 ため息、ついてる。アンニュイって感じで、こういう時の表情もイケメンだ。
 イケメンだけど、あんまりこういう顔はさせたくない。出来れば、笑っててくれる方が、オレとしては嬉しいが、友達とケンカしたばかりだと、四六時中ニコニコというのは難しいだろう。
 ただでさえ、ベルはニコニコタイプではないのだ。

「俺は、ルースとケンカしたかった訳じゃないんだけど」

 そりゃそうか。友達と、ケンカしたくてするヤツはいないもんな。
 なんとかしてやりたいけど、どこまで首を突っ込んで良いものか。明日、様子を見ながら仲裁できそうなら頑張ろう。

***

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