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三章
3-18 君の問題点は、よく見えたよ
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「クルト、ちょっといいかな」
「……うん」
試合後、次の試合までの時間を待合室で過ごす。沢山置かれた椅子の内の一つに腰を下ろすと、ディオンは困ったような顔をしながらオレの正面にしゃがんだ。
「傷は痛まない?」
「……い、痛くないし」
「痛いんだね」
オレの虚勢はあっという間にバレて、苦笑いをされる。
「君の問題点は、よく見えたよ」
うっ。作戦通りに動けなかったもんな。
ディオンがその後一人で圧勝出来たからよかったようなものの、オレは一人で暴走して、二人を混乱させてしまった。
「体が動かなくなる、だけが問題じゃない。頭に血が上って、冷静な判断が出来なくなる」
「……ごめん」
「責めているわけじゃないんだ」
謝ると、彼はゆるゆると首を横に振った。その後ろを、例の元手伝い屋達が担架で運ばれていくのが見える。
正直、同情は出来なかった。
「でも、あんなふうに危険な目にあってほしくないから、このまま話を続けたいんだけど、いいかな?」
「……うん」
オレは頷いた。
ディオンは怒らない。先程見せた強い意志で人を傷つける様など微塵も感じさせず、こいつはオレに優しく問いかける。
ディオンの近くに佇んでいるラナもそうだ。ラナは引くくらいブラコンだが、決して人に対して激昂するような事がない。オレは自分の短気が、急に恥ずかしくなった。
「クルトが冷静な判断が出来なくなる時って、どんな時?」
「……酷い事を言われた時」
「それって、クルトに対しての酷い事?」
オレに対しての、酷い事? それはもちろん腹立たしいが、今回の場合は……。
「……あいつら、アリアさんに変な事するって言った」
「うん。大切な人に対して、酷い事を言った時の方が、冷静な判断が出来なくなるんだね」
その通りかもしれない。オレに対して変な事を言うのは、まぁ、ギリギリ許せない事もない。
ただ、オレを貶める為に、精術師全体をバカにしたり、精霊を変な風に言ったり、大切な人を傷つけるような事を言われたりすると、どうしても許せなくなる。
「クルト、どうすれば正解っていうのは俺にはわからないんだけどさ」
俯いたオレの頬に、ディオンは手を添えた。そうして目を合わせるが、彼に怒っている様子は見られない。
「今度は、カッとなったら一度大きく深呼吸をしてみよう。それで冷静になれるかもしれないし、もし駄目でも、その時はまた他の方法を考える。こういう風にしてみない?」
「……うん」
やってみないと、上手くいくかどうかは分からない。当たり前の話だ。
だが、やってみない内は改善する方法すら見えてこないだろう。
「ごめんな。なんか、オレのせいで」
「違う違う。クルトのせいじゃないよ」
……オレのせいであんな事になったんだと思うんだけど。本当に違うのだろうか。
「クルトは仲間の為に怒る事が出来るんだ。これはいい事だと俺は思うよ」
良い事? ディオンは俺を過大評価しているんじゃないか?
「ただ、それで突っ込んで怪我をしてしまったら、その仲間が悲しむ。だから方法を覚えよう、っていう提案なんだ」
「うっ……。そういう事か。わかった」
正論だ。ちゃんとセーブを覚えないと。
「それに、カッとなってやってしまったのは、俺も同じだしね。さすがにちょっとやりすぎたかな、とは思うよ」
「……いや、ありがとう。次は頑張る」
今回、オレの行動を皮切りに、ディオンにまで暴走させてしまったのか。ごめん。
「うん、俺も頑張る」
「もちろん僕も頑張るよ!」
このタイミングで、ずっと静観していたラナが入り込んだ。
「それに、今回クルトが怒ったのも、兄さんが怒ったのも、仕方がない事だと思うんだ」
ラナもその場に弾むようにしゃがみ込むと、オレとディオンに凄く近い位置で続けた。これじゃあ、まるで内緒話をしているみたいだな。
しかも二人ともムキムキだから、ちょっと密度が凄い。
「クルトに酷い事をして、人として言ってはいけないような事を平気で口にする奴らだったんだ。それを兄さんが教えてあげただけなんだから」
多分フォローしてくれてるん、だと、思う。
「ありがとう」
「お礼を言われる事なんてないと思うけど……でも、どういたしまして!」
こいつ、ウザいけど根は悪い奴じゃないんだよなぁ。
オレ達はそのまま反省点を少し語っていたが、やがて次の試合に呼ばれた。会場へと向かって、次の試合に臨む。
次こそは、間違ったりしない。
***
「……うん」
試合後、次の試合までの時間を待合室で過ごす。沢山置かれた椅子の内の一つに腰を下ろすと、ディオンは困ったような顔をしながらオレの正面にしゃがんだ。
「傷は痛まない?」
「……い、痛くないし」
「痛いんだね」
オレの虚勢はあっという間にバレて、苦笑いをされる。
「君の問題点は、よく見えたよ」
うっ。作戦通りに動けなかったもんな。
ディオンがその後一人で圧勝出来たからよかったようなものの、オレは一人で暴走して、二人を混乱させてしまった。
「体が動かなくなる、だけが問題じゃない。頭に血が上って、冷静な判断が出来なくなる」
「……ごめん」
「責めているわけじゃないんだ」
謝ると、彼はゆるゆると首を横に振った。その後ろを、例の元手伝い屋達が担架で運ばれていくのが見える。
正直、同情は出来なかった。
「でも、あんなふうに危険な目にあってほしくないから、このまま話を続けたいんだけど、いいかな?」
「……うん」
オレは頷いた。
ディオンは怒らない。先程見せた強い意志で人を傷つける様など微塵も感じさせず、こいつはオレに優しく問いかける。
ディオンの近くに佇んでいるラナもそうだ。ラナは引くくらいブラコンだが、決して人に対して激昂するような事がない。オレは自分の短気が、急に恥ずかしくなった。
「クルトが冷静な判断が出来なくなる時って、どんな時?」
「……酷い事を言われた時」
「それって、クルトに対しての酷い事?」
オレに対しての、酷い事? それはもちろん腹立たしいが、今回の場合は……。
「……あいつら、アリアさんに変な事するって言った」
「うん。大切な人に対して、酷い事を言った時の方が、冷静な判断が出来なくなるんだね」
その通りかもしれない。オレに対して変な事を言うのは、まぁ、ギリギリ許せない事もない。
ただ、オレを貶める為に、精術師全体をバカにしたり、精霊を変な風に言ったり、大切な人を傷つけるような事を言われたりすると、どうしても許せなくなる。
「クルト、どうすれば正解っていうのは俺にはわからないんだけどさ」
俯いたオレの頬に、ディオンは手を添えた。そうして目を合わせるが、彼に怒っている様子は見られない。
「今度は、カッとなったら一度大きく深呼吸をしてみよう。それで冷静になれるかもしれないし、もし駄目でも、その時はまた他の方法を考える。こういう風にしてみない?」
「……うん」
やってみないと、上手くいくかどうかは分からない。当たり前の話だ。
だが、やってみない内は改善する方法すら見えてこないだろう。
「ごめんな。なんか、オレのせいで」
「違う違う。クルトのせいじゃないよ」
……オレのせいであんな事になったんだと思うんだけど。本当に違うのだろうか。
「クルトは仲間の為に怒る事が出来るんだ。これはいい事だと俺は思うよ」
良い事? ディオンは俺を過大評価しているんじゃないか?
「ただ、それで突っ込んで怪我をしてしまったら、その仲間が悲しむ。だから方法を覚えよう、っていう提案なんだ」
「うっ……。そういう事か。わかった」
正論だ。ちゃんとセーブを覚えないと。
「それに、カッとなってやってしまったのは、俺も同じだしね。さすがにちょっとやりすぎたかな、とは思うよ」
「……いや、ありがとう。次は頑張る」
今回、オレの行動を皮切りに、ディオンにまで暴走させてしまったのか。ごめん。
「うん、俺も頑張る」
「もちろん僕も頑張るよ!」
このタイミングで、ずっと静観していたラナが入り込んだ。
「それに、今回クルトが怒ったのも、兄さんが怒ったのも、仕方がない事だと思うんだ」
ラナもその場に弾むようにしゃがみ込むと、オレとディオンに凄く近い位置で続けた。これじゃあ、まるで内緒話をしているみたいだな。
しかも二人ともムキムキだから、ちょっと密度が凄い。
「クルトに酷い事をして、人として言ってはいけないような事を平気で口にする奴らだったんだ。それを兄さんが教えてあげただけなんだから」
多分フォローしてくれてるん、だと、思う。
「ありがとう」
「お礼を言われる事なんてないと思うけど……でも、どういたしまして!」
こいつ、ウザいけど根は悪い奴じゃないんだよなぁ。
オレ達はそのまま反省点を少し語っていたが、やがて次の試合に呼ばれた。会場へと向かって、次の試合に臨む。
次こそは、間違ったりしない。
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