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三章
3-26 その頭、必要?
しおりを挟むこの状況で誰かを責めるのもなんか違うし、言った本人はさっさと先に行っちゃったし。
「……多分、父さんは知ってるよね?」
「あ、え、えっと」
だが、テロペアは矛先をお父さんに変えた。おお、攻撃的……。
「大体にして、家族全員クソジジィの酷い行動を謝ってるのに、父さんは頭の一つも下げられないんだ。その頭、必要?」
「い、いや……その、悪かった」
「遅くない?」
いや、もうそれはいいんだけど。確かにお父さんだけ謝ってなかったけど。
「実の子供は父さんじゃん。何でお嫁さんの母さんが先に謝って、父さんは最後まで知らぬ存ぜぬで通そうとしてるの?」
「……い、いや、そんなつもりはない、が」
親子ゲンカ勃発か? この状況に、若干周りはピリッとした。
若干、だけど。
シアとアリアさんはスティアに「大丈夫?」って話しかけているし、ディオンは尚も困惑しているラナを落ち着かせている。いつも元気なコスモスは空気を読んでか、スーさんに倣ってか押し黙り、所長は困ったようにこの場を見ていた。
ベルは小さい声で「じーちゃん、何で?」と呟いて首を傾げている。
本当に、普段だったらあり得ないような事が起こったのだ。それを嫌でも感じる。
「おれ、予想はついてるんだよ」
テロペアはじろっとお父さんを見た。あの目で見られたら、怖いんじゃないかな。
「大方、父さんが若い頃にあったっていうシュヴェルツェの関係で何かでしょ?」
……え、マジで? そういう、なんか、割と重大な話だったのか?
「二人とも、申し訳ない。皆さんも雰囲気を悪くしてすまない」
「いや、謝罪はもうお腹いっぱいなんだけど。親父、何かしたの?」
「そういう、わけではなくて、だな」
直接聞いてみるも、特にいい感じの回答があるわけでもない。あ、これ、ダメだ。
「と、とにかく、列車の出発の時間もある! 早く行こうか」
「逃げるの?」
「逃げるというか、その……」
テロペアが追撃するが、これ以上は特に意味はないだろうしな。止めてやろう。
「テロペア、もういいよ」
「いいの? クユトのお父しゃんの事でしょ? 徹底的に言葉でボコって聞き出してもいいんらよ。こいつがヘタレて何もかも無かった事にしようとしたのが悪いんだし、もっと言えばクソジジィが失礼な事を言いまくったのが原因だし」
「テロペア、お父さんをこいつ呼ばわりするのは――」
「謝れもしねーやつは黙っとけ」
うんうん、今回は仕方ないな。特に家族だと思うと、余計恥ずかしいだろうし。
「お父さん、今回の件に関しては、あたしもお父さんの味方はしないからね。謝れもしないとか最低。普段はあれだけ悪い事をしたら謝りなさいって言ってるのに。お父さんもお祖父ちゃんも……ほんと、最低」
「ル、ルイザまで」
思春期の娘としては、反発の種になっただけだ。
うーん、かえって悪い事したかな。でも、種を蒔いたのはオレじゃないしな……。反発の種に、水も肥料もあげた記憶はないし。
よし。よそはよそ! ヴァイスハイトさん家の事情だから、オレはこれ以上そっちには首を突っ込まない!
「え、えっと、ほら、本当に時間が無くなりますし、行きましょうよ」
助け舟を出したのは所長だった。腕時計で時間を確認しつつ、先を促す。
まぁ、ずっとここで実のない話をしててもな……。
「おう。オレもその方がいいと思う」
「どうせ言うつもりもない奴に付き合っている時間が勿体ないしな」
オレが所長に同意すると、スティアもコクンと頷いた。そうすると、やっと一同は列車のホームへと向かったのだった。
長かった。
あとはワイワイと「三人掛けの席が向かい合って二つになっているボックス席を取っている」という所長の発言から、席順を決めながら向かうだけだ。
当たり前のようにテロペアは「おれ、ベルと一緒がいい。クソジジィとボックス席にいるとかありえない」と暴言を吐く。
う、うん、わからんでもない。
途中のお土産屋さんに引っかかりそうになっているシアは、両脇からガードされて結局はそのまま列車まで引きずられていった。
ホームに入ると、びっくりするくらい大きな車体がそこにはあった。
つるんとしたフォルムに、花びらの痣を模したような模様。確かに線路はなく、あるのは大量の魔法陣の列だ。
「す、すげぇ」
これ、走るんだよな? タイヤは確認できないけど、ないらしいし……何だこれ! 本当に乗り物か?
「所長、これ、本当に動くんですか?」
「動くよ」
「乗った事あるんですか? 本当に、これ、進むんですよね!?」
乗り物には抵抗がないはずのスティアまで、所長に食って掛かっている。わ、わかる! これが動くところが想像できないもんな!
「乗った事はあるよ。ちゃんと動くし」
「そうだよ。これにはちゃんと理論があるもん」
所長に同意したうえで、うんうんと頷いているのはシアだ。まぁ、こいつなら乗った事があるだろうしな。
「いい? まずこの車体自体、魔法を使って軽くなるように設計されてるの。これは、軽くなるように薄く作った金属の板に、物質強化の魔法をかける事によって実現している。常に車体自体に魔法がかかっている状態だね」
……ん? 乗った事があると、こんなに詳しい話が出来るものなのか?
皆の顔を確認すると、ポカンとしてシアを見ていた。これ、シアが特殊なんだな? 皆が皆説明出来るような事ではない、というのだけは分かった。
「キッチンで押すだけで水が出るのとか、スイッチ一つで部屋の明かりがつくのと似てるの。回路を巡らせ、全体に魔法がかかるようになってる。魔力注入は、両側にある運転席にある魔法陣から行うの。だから、列車の関係者のほとんどは大魔法使いで、魔力注入の花形と言われているんだよ」
「ま、待て、ちょっと待て。なんだそのやたらと詳しい話は」
ストップ、と最初に声をかけたのはスティアだった。う、うん、お前が止めなきゃオレが止めてた。
全然わかんないぞ! なんだこれ!
「え? だってあたし、それが専門だもん」
「普段無駄に書いている数式は、まさか」
「そう。こういうのの理論だよ」
って事は、シアが奇声を発しながら紙に書き殴ったり、紙が無くなったら床や壁に描こうとしているあれは……あれは……無駄じゃない、凄い物だったって事か……?
「それで、あの線路の代わりの魔法陣は――」
「頼む、待ってくれ」
「ん?」
再び語り出そうとしたところを、またスティアが止めた。
「話自体は一応気になるのだが、発車時刻の方が今は気になる。ここでお前の話を聞いて乗り遅れる方が嫌だからな」
「あー、確かに」
彼女はコクンと頷くと「じゃ、行こう!」とはしゃいでぴょんぴょんと跳ねた。同時に、左右の手を握っているスティアとアリアさんの手もゆらゆら揺れた。
「あ、写真! ここで一枚写真撮ってからにしよう!」
オレが備品のカメラの存在を思い出すと、皆その場に並ぶ。
カメラを構えて全員を入れて、ついでにこのよくわかんない車体を入れて……。シャッターを押すと、ジジジ、と凄い紙が出てきた。ちょっとすると、皆が映し出される。
「はい、乗るよ!」
所長が皆を促し、ついにオレ達は列車へと乗り込んだ。
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