精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-28 特別に教えてやる

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「簡単に言えば、三人殺して、殺した人の爪を三枚剥いで行く殺人鬼だ」
「あ、それか。わかったわかった。なんかわかんないけど、三が大好きな殺人鬼!」
「クユト、耳かっぽじってよく聞きやがれ。情報専門の反応じゃないから、特別に教えてやる」

 テロペアはじっとオレを見ている。あの、ちょっとずつふざけて噛んでるような口調じゃなくなってきて怖いんだけど。

「お前でも知っている通り、死を刻む悪魔ツェーレントイフェルは殺した相手の爪を三枚剥いで行く。だが、それだけじゃない」

 もうこいつ、完全に噛んでない! 低い声で語り始めた! 何で!

「相手が魔法使いの場合は、痣も剥いで行くんだよ。それも、3、6、9、12、13枚の痣をな。だからと言って、それ以外の枚数なら安心という事もない。その場にいる、あるいはその日の殺害した相手が魔法使いだった場合は、枚数が合計で三にまつわれば持っていく。1枚と2枚がいれば、両方剥いで行くっていう事だ」

 め、迷惑! いや、迷惑じゃない殺人鬼はいないんだけど!
 どれだけ三に執着してたらそんな事になるんだ。というか、どうして三に執着してるんだ。

死を刻む悪魔ツェーレントイフェルは、一回の殺人で必ず三人殺し、ひと月に合計六人殺す。もちろんひと月分の人数は変動する事もあるが、それにしたって、最低ラインが六人だ」

 最低ライン六人って、国の人口がぐっと減りそう。世界滅亡でも目論んでるのか……?

「殺す時は必ず数えながら傷つけ、十三回目に傷つけた時に殺す。これが死を刻む悪魔ツェーレントイフェルの名前の由来だ」

 こ、怖い。死を刻む悪魔ツェーレントイフェルの情報もそうだが、徐々に熱っぽく語っていくテロペアも怖い。

「姿は毎回変わっている事から、何らかの魔法を使っているらしい。その日によって、女性にも男性にも、長身にも小柄にも見える。どんな魔法を使ってるんだか知らないけど」
「多分、それは幻術の類っていうか、そういうあれだね。あたしの物質をプリンに見えるようにする魔法に近いと思う」
「……へぇ。ありがと。あとでそのプリンの魔法、見せて」
「いいよー」

 口をはさんだシアの発言、びっくりする。お前の変な魔法って、もしかしてかなり凄い物なんじゃないか?

死を刻む悪魔ツェーレントイフェルは強いカリスマ性があるらしくて、模倣犯は後を絶たない。だが、模倣犯をそのままにしてくれるわけではないんだ。死を刻む悪魔ツェーレントイフェルにとっての美学に反する模倣犯を生かしておくのは嫌っていて、必ず殺しているんだから」

 美学って何! 全然わかんない!
 ……でも、まぁ、殺人鬼の思考回路を理解出来る方がヤバいか。

「その件で最近も管理局が追っていた相手を、死を刻む悪魔ツェーレントイフェルが殺した事件があったよ。ジスさんが会ったみたいだから、興味があったら聞け」

 ジ、ジギタリス、よく無事で済んだな。あいつやっぱり強いんだな。
 ん? という事は、どっちが先かは分からないけど、シュヴェルツェと戦って、死を刻む悪魔ツェーレントイフェルとも戦ってるのか? えっと……迷惑かけてごめん。

「最初の犯行は、約一年前のプラファーシュネー村だと言われている」
「あぁ! 木々に囲まれた雪深い村だろ。結構田舎だって、聞いた」
「お前、それを知っていて何で事件の事は知らねーんだよ」

 そんな事言われても……。なんか事件があったらしい、っていうくらいはぼんやり知ってるんだけど。詳細は知らなかったけどさ。

「その村に住んでいたゲゼル家。父親と、息子三人が仲睦まじく生活していたらしいが、ある日一変した」

 三、っていう事は、息子の三人が殺されたのかな。

「父親と、兄弟の上二人が死んだ」
「……えええええ! 息子三人じゃないのか!?」

 何その変化球!

「末っ子は隠れていて無事だったんだと。ただ、末っ子が3枚だったが故に、死を刻む悪魔ツェーレントイフェルに狙われるようになった。その悲劇が生んだのが、末っ子が身を隠すように転々としていた中での出来事だ。職場で仲良くなった人と、家族ぐるみの付き合いをしていたが、ある日その家の末の子と散歩に出ている内に、懇意にしていた家族が死んだんだ。彼の同僚の両親と、彼の同僚だった息子の三人が」

 う、うわぁ……。
 もちろん死を刻む悪魔ツェーレントイフェルは怖いし、やばいと思うけど、頬を上気させながら語るこいつもやっぱり怖い。何回でも思う。怖い。
 大体、なんでそんな細かい事知ってるんだ? そこまで新聞に書いてるものか?

「だから今は、その時の末っ子だった女の子と一緒に生活しながら逃げ回ってるんだと」

 今は二人って事は、もう一人増えて全部で三人になったところを狙われそうで嫌だなぁ。二人には是非元気でいて欲しいし、安心して生きられる環境になってほしい。

「あ、そうそう。一応これも教えておくけど、ぶちまけ男爵と混同するなよ」

 ぶちまけ男爵って、誰だっけ? ちょっと間抜けな響きなんだけど。

「ぶちまけ男爵っていう、美学も何もないような殺人鬼もいて、しばしば死を刻む悪魔ツェーレントイフェルと混同されているみたいだけど、全然違うから。別物。一緒にしたらぶん殴るぞ」

 もう一人の殺人鬼……えーっと、あ! あれか! 身元不明になるくらいぐちゃぐちゃになっている死体が見つかってるっていうやつ。確かそっちは犬歯が無くなるんだっけ。

「……え、っと」

 とりあえずテロペアの語りは終わったようだ。オレはゆっくりと情報を飲み込んでから、彼に向き直った。

「詳しい情報を教えてくれたのは、ありがとう。でも、あの」

 言うべきか否か迷うけど、言っちゃおう。

「個人情報まで知ってると、ちょっと引く」
「……にゃんのことー?」

 あ、いつものふざけた口調に戻った。よかったー、さっきのちょっと怖かったし。

「テロペア、なんでそんなに死を刻む悪魔ツェーレントイフェルの事に詳しいんだ? 新聞だけの情報じゃないんじゃないか?」
「ん? なんかねー、自衛の為に調べてたら詳しくなってただけらよ。だからベユは気にしなくていーの!」
「……そう、か?」

 ベル、腑に落ちてないな。奇遇だな。オレもだ。

「貴様、まさかファンなのか?」
「だからぁ、自衛の為に調べただけだってー」

 スティアも納得はしていないようで、思いっきり眉間に皺を寄せている。これはそんな顔にもなるわ。

「テロペア君、あの……」
「大丈夫らよー。ちゃんと調べてるから、アリアに何かあった時は助けるからねー」
「う、うん」

 アリアさんも複雑そうな表情を浮かべている。

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