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三章
3-30 切符を拝見します
しおりを挟む「おれもわかった。ごめんね、頭がパーンしていゆだけのちびっこだと思ってて」
「失礼な! あたしはしっかりしてる、すらっと背の高い美女です!」
「それはないだろ」
「誰だそいつ」
オレとスティアがほぼ同時にツッコミを入れた。しっかりしててすらっとしてる美女って、どこで見た情報だ。テロペアのお姉さんか。
「すみません、切符を拝見します」
その時だった。入口の方から声をかけられたのは。
濃い青の制服に身を包んだその人物は、車掌さんだ。そっか、切符出さなきゃな。
「あー! シア!」
「ぴぃ!」
オレがごそごそし始めると、シアは名前を呼ばれてスティアの影に強引に隠れた。
「シア、いません」
「ここにいるが?」
「シア、ちがいます」
いや、お前はシアだろ。
「えっと、知り合いか?」
「シアじゃないから知らないもん」
「シア、あんまり変な事を言ったら、傷つくよ!」
怒るんじゃなくて傷つくのか。
車掌さんは帽子を取って、「ほら、ゼフィンだよ」と自らの顔を指差した。
長い金色の髪に、シアとそっくりな空色の垂れた瞳。加えて小柄なので一瞬女の子かとも思うが、体格は結構がっちりとしていて、ベルが「男か」と呟かなくとも男なのが見て取れた。
「っていうか、やっと見つけたんだけど。今までどこに行ってたの?」
「ぬぅぅぅ」
シアは唸っているが、スティアが隠れているシアを引っぺがしたので、ますます縮こまりながらオレの方に寄ってきた。こっちに来ても隠してやれないぞ。オレの席は窓際だし。
「ほら、シア! 帰るよ!」
「やぁぁぁだぁぁぁ! あたし、帰んないもん! 帰んない、帰んない! 絶対やーだー!」
「やだ、じゃないでしょ。お父さんとお母さんがどれだけ心配してたと思ってるの」
「知らぬわ!」
オレにしがみついたまま反論にならない反論をしている。その周りでツークフォーゲルは『しらぬわ』『しらぬわ』と楽しそうに飛び回った。
気に入ったのだろう。「知らぬわ」っていう返しが。
「あの、どなたかは存じませんけど、まずは落ち着いて下さい」
状況を見かねて、ベルが口をはさんだ。
最近は甘える相手が多いからかあまりしっかりした人、って感じじゃなくなってたけど、こういう時は頼れる先輩だ! 多分!
「……ま、まさか、お前達は誘拐犯か?」
「何故そうなった。脳みそがプリンにでもなっているのか?」
きょとん、と、面食らったベルに変わり、直ぐにスティアが辛らつに返した。脳みそプリンってやだなぁ。近付くだけで甘い匂いがしそう。
「おい、シア。大方貴様の血縁者だろう。このぶっ飛び方は」
「あたし、こんなんじゃないもん。血縁者だけど」
血縁者じゃん。
「シア、ついに認めたね?」
「しまった、今はシアじゃなかったはずが!」
「どこからどう見てもシアだったけどね。最初から」
「なんてこった」
何で誤魔化せると思ったんだ。特に血縁者相手に、特に何の準備もないまま隠し通すのは無理だろう。
「この人は、ゼッフィー。従兄」
「ゼッフィー?」
「ゼフィランサス! ゼフィランサス・ふゅんひゅ・でゆぷふぇにゅちょ」
「何だって?」
噛んだ、よな? さすが従兄妹。こんなところに似ている部分を見つけるとは。
「ゼフィランサス」
「うん」
オレ含め、皆頷いた。一応気になるらしい。
「ふゅんふゅ……フュン、フ」
「フュンフ」
「それ」
と、いう事は、5枚か。胸元の見えない制服だから気が付かなかった。
「でるぴゅふぇりゅと」
「何だって?」
一番の問題はこの苗字か。神よ、なぜ噛みやすい人の家にややこしい苗字をつけたのか。
「でりゅぷふぇるとだよ」
「お前も言えてないな?」
「え、へへ」
シアが見かねて教えてくれたが、残念ながらこいつも言えていない。
「デルプ! フェル! ト!」
「デルプフェルト」
「それ!」
区切る作戦、成功だな! オレ達はやっとシアの従兄妹の名前を知った。
ゼフィランサス・フュンフ・デルプフェルトな。で、シアにゼッフィーと呼ばれていると。
お、こいつも名前を伸ばすシリーズの持ち主か。
スッティー、ジッキー、モッフィーに続き、ゼッフィーが現れた。ん? ミリィも混ぜるべきか? ちょっと違う気がするけど。
「誘拐、とかいってすみませんでした」
「それはいいんですけど、何故そのように? うちは、クヴェルにある何でも屋アルベルトという店で、シアの事もごく普通に面接して取ったんですけど」
「……実は、シアは家出していまして」
ベルが話を進めると、ゼフィンは申し訳なさそうに話を始めた。
「そういえば、そんな話してたもんな」
「すっかり忘れていたけれど」
「うちの店でご飯食べてる時にもいってたもんにぇー」
ベル、アリアさん、テロペアが容赦なくシアを見る。うん、気持ちは分かる。
「何もなくてもトラブルメーカだな」
「おい、シア、そろそろオレを開放してくれ。服が伸びる」
「ごめんごめん」
次にスティアとオレがシアを見ながら言うと、ようやっとオレを開放してくれた。シアの視線の先には、ゼフィランサス。
「髪伸びたねぇ。背も伸びた?」
「そっくりそのまま返すよ。背も伸びた?」
ぐぬ、と、シアは言葉に詰まった。ゼフィランサスのカウンターがさく裂! 強い、強いぞ!
「ある朝、つまらぬ! って言い残して失踪したんですよ。この子」
カウンターでシアを倒したゼフィランサスは、オレ達に続きを語る。
「お前、それは家出ってレベルか?」
「え? だって、ちゃんと言ってるじゃん」
「どこが」
「つまらぬ、が」
つまらぬ、って、家出しますって意味だっけ? いや、違うよな。
「……え?」
ベルが眉間に皺を寄せている。だよなぁ! オレだって混乱したもんな!
「ま、まぁ、そんなわけで帰ってこなかったものだから誘拐も視野に入れて捜索していたんです」
「そりゃそうだ」
「仮に家出だったとしても、この方向音痴なので……」
「ああ」
納得した。オレだけではなく、この場の誰もが。
そういえばテロペアって、シアが方向音痴なのを知ってたな。ベルか所長か精霊に聞いてたのかな。
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