137 / 228
三章
3-31 確認するの忘れてたの!
しおりを挟む「で、シア帰らないの?」
「やーだ。あたし、ルト達と一緒にいるもーん」
シアは、そういうと両脇のオレとスティアをグイっと引き寄せた。
「シア、暑い」
「シア、おっぱ……胸が当たってる!」
「……加えて、うちのバカ兄貴が鼻の下を伸ばしているぞ」
の、伸ばしてないしー! グイってやられた時に大きい胸がたぷたぷ当たったから、一応注意しただけですー!
「むぅぅ……あんなにシアにくっつかれて……」
ゼフィランサスは、キッとオレを睨みつけると指をびしっと向けてきた。
「お前!」
「お、オレ?」
「そう、お前!」
あぁ、名乗ってなかったもんな。名前がわからないのか。
「ツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲル」
「あ、ご丁寧にどうも……じゃなくて!」
違うらしい。なんだ?
「このタイミングで列車に乗ってるって事は、大会に出るの?」
「おう。皆で出るぞ」
正確には、ここにいるメンバー全員が出るわけでもないが、それは、まぁ、いいだろう。
「それ、僕も出るから」
「そうなんだ。よろしくな」
「あ、うん。よろしく……じゃなくて!」
違うのか。こいつ、よくわからないな。
そりゃあそうか! よく考えたらシアの血縁者。きっとこいつもどこかぶっ飛んでるんだ。
「勝負しよう! 僕が勝ったら、シアの事は連れ戻すから。絶対」
「えー、やだー」
オレよりも先に、オレにくっついたままのシアが不満げに口を尖らせた。
「やだ、じゃないの。僕、お店の名前も覚えたからね」
……む。強制かよ。
「……あの、どの道明日試合で一緒になると思いますし、この辺で解放してもらってもいいですか?」
やり取りに、ベルも少なからずムッとしたのだろうか。
少しとげのある物言いを平たんな声に乗せて、ゼフィランサスへと向けた。そのゼフィランサスは、ベルの方を見ると「うっ」とちょっと呻いた。
お前、今怯んだな?
「お互い、列車内でのトラブルは嬉しい話ではないですよね? ゼフィランサスさんはお仕事中ですし」
「んっ、むっ、た、確かに……」
怯みすぎ!
「と、とにかく! 僕が勝ったらシアの事は連れて帰るんだから! お邪魔しました! いい旅を!」
彼はそう言い残すと、オレ達の空間から去っていった。丁寧に、帽子をかぶりなおしながら。
「……それで、シア」
そんな中、最初に口を開いたのは、意外にもアリアさんだった。
「シアはどうしてそんなに帰りたくないの?」
「あたし、前の職場で研究してた魔法、全部勝手に盗られちゃったの」
魔法を盗られる、とは、どういう事だろうか。疑問が頭の中にぷかりと浮かんだが、とりあえずはそのまま続きを聞く事にした。
「あたしの作った魔法が、他の人の作った魔法として扱われるのは屈辱的で、もう辞めたいってパパとママに言ったんだ」
そういう事か。盗られるっていうのは、「手柄を取られる」に近い事。そして魔法を作っているという事は、シアのオリジナルの魔法の所有権を奪われたと同じ。
「そしたら、直ぐに耐えられなくて辞めるのはよくないって言われて」
……うん、それは嫌だな。
「結構名前の知れているような職場だったし、結局その辺もステータスになってたのかなーって思ったら嫌になっちゃって」
無理してまで嫌なところで仕事は出来ないよな。オレだって、何回も何十回も職場を転々としたが、嫌な場所っていうのは、本当に嫌だ。
「あたしは、ちゃんとあたしの意思でお仕事がしたい。ほんのちょっとの理不尽なら我慢だって出来るけど、自分の矜持を捻じ曲げてまでしなきゃいけないお仕事って何?」
オレだったら既に殴り合ってる案件だっていうのは、よくわかった。
「あたし、何でも屋でのお仕事は気に入ってるよ。楽しいの」
オレも気に入ってる。オレだって、楽しい。
そりゃあ所長は汚部屋だし、たまにねちっこいけど。でも理不尽な事は言わないし、オレ達の事を本気で心配してくれる人なのだ。
「だから……絶対帰りたくない」
そりゃあ、そうだ。こんな状態で、無理やり引きずって帰るって……あいつ、何を考えてるんだ? シアの両親に頼まれでもしているのか。
「あたし自身がやりたいと思った事を、あたし自身の責任でやる。それの一体何がいけないの?」
「うん、シア、よくわかったわ」
アリアさんがにっこりと微笑んだ。同時に手にしている林檎がぷるぷると揺れる。
「ちゃんとシアの気持ちがわかったから、もしもさっきのゼフィランサスさんが来ても、私が一生懸命説得してあげる」
そうか。シアが嫌がっている本当の理由がわからなければ対処方法もなかったのか。話を聞いたからこそ、説得をしよう、という選択をしたのだ。
「大丈夫よ。わたし、説得は頑張れる方だから」
「俺も一緒に説得してやる。だから安心しろ」
「ありがとう」
この二人が説得したら、なんとかなる気がする。二人の説得への力がどの程度の物なのかはわからないが、とりあえず強そう!
「……私も、その、なんだ……。多少手伝いくらいしてやる」
「オレだって! っていうか、そもそも負けないし!」
「やった! 皆大好き!」
スティアとオレも続けると、シアはにこにこ笑いながらまたオレ達をグイっと引き寄せた。だから、それは止めろって!
あとテロペア! 正面から可哀そうなものを見るような目を向けるのを止めろ! 別に鼻の下なんか伸ばしてない!
「ちょっと、すみません」
「うわぁぁ、出た!」
このタイミングで再びゼフィランサスが現れ、オレは思わずお化けでも出たような声を上げてしまった。別にびっくりしたわけではない。断じて。
「ご、ごめん。なんか変なタイミングで」
「で、どうしたんだ!」
何かあったのか? ここに戻ってくるなんて。
「……切符」
「切符?」
切符なら持っているが、それがどうした。
「切符! 確認するの忘れてたの!」
……あ、そういえば。こいつ、その為に来たんだったな。
オレ達は皆鞄やポケットから切符を出し確認して貰う。ゼフィランサスはその一つ一つにスタンプをついてから、一度ペコっと頭を下げた。
「いい雰囲気の中で悪いけど、僕だって絶対負けないから!」
で、これか。
やる事をやってから威嚇するのは、褒めてもいい気がしてきた。
「当列車は安全運転に努めていますが、お気づきの事がありましたら遠慮なく僕まで! よい旅を!」
あいつ、憎めないヤツだな。
それにしても締まらないな。さすがはシアの血縁者だ。
オレ達は妙に和んでしまい、そのあとは殺伐とした話はゼロ。シアの列車の説明講座に耳を傾けながら、進む列車に身を任せたのだった。
***
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる