精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-37 便利アイテムだろう

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 そんな事をしている横では、所長がすでにスーさん達に馴染んでいた。スーさんのお母さん、シアの事を離さないんだな。
 近寄ったらオレも確保されそうな気がするから、やっぱりちょっと距離を保とう。

『特等席か』
『とくとうせきだー!』
『やったー! おうぞくのえんぜつをちかくでみれるぞー』
『どうする? クロッカスいけめーん、っていっちゃう?』
『いやいや、いけめんはクレマチスだよ』
『じゃあ、クレマチスいけめーん』

 クロッカスとクレマチスって誰だっけ。多分王族の名前だとは思うんだけど、えーっと。
 あ! クロッカスはあれだ、国王陛下だ! つまり、ネモフィラの伯父か。陛下っていうと遠い存在っぽいのに、ネモフィラの伯父さんって思うと、急に近い人のような気がする。
 こんな事を口にしたら、不敬罪になりそうだからお口にチャックしておかないと。
 って事は、クレマチスは……あ、なんか、第一王子か第二王子だった気がする……。

『さわがしいやつらといっしょにいなければいけないとはな。ゆううつじゃ』
『うるせー、かめ。にるぞ』
『そうだそうだー。グレンツェントをつれてきてやくぞー』

 何故かヴァイスハイトとツークフォーゲルがケンカを始めた。仲が悪いな。あと、煮るとか焼くとか、そういうの精霊界で流行ってるのか? エーアトベーベンもツークフォーゲルを見て「焼き鳥」って言ったし、ツークフォーゲルも「じゅー」って言っていた記憶があるんだが。
 まぁ、とにかくそのケンカを、オレはスティアやエーアトベーベン兄弟と座りながら眺めた。
 ラナだけは「喧嘩はよくないよ」とか言っているが、精霊はそんな事お構いなしに続けている。

『きさまらこそ、にて、やいてやるのじゃ』
『ざんねんでしたー、グレンツェントがいないとやけませんー』
『グレンツェントが来たら協力してやるよ。カマド作り』
『やーいやーい、エーアトベーベンもこっちのみかただっつーの』

 楽しそうだな?
 えーっと、グレンツェントも聞き覚えがある。精術師の家の一つだとは思うんだけど……。とりあえず、連れてくるとか言ってるし、見に来てはいるんだろうな。
 あとで会うかもしれないな。会ったら今度はちゃんと挨拶しないと。
 昨日のテロペアのお祖父ちゃんに上手く挨拶できなかったのは悔やまれるし。無理やりにでも挨拶をぶっこむ!

「えー、大変お待たせ致しました」

 小さくキュインという音がした後、大きな声が聞こえた。きょろきょろとすると、スティアが眼下に広がる大きな舞台を指した。
 何か棒状の物を口元に当てて喋ってる。え? 声を大きくする魔法か何かか?

「なぁ、スティア」
「知らん。便利アイテムだろう」

 スティアはすげなく断った。
 次の瞬間には、ずらっと並んだ楽器の演奏が始まる。ハイルの街中に響いているのではないかというほど、賑やかだ。

「なぁ、ディオン」
「ごめん、分からないよ」
「わからないかぁ」

 隣にいたディオンに尋ねたが、やはりわからないらしい。オレと同じ精術師だもんなぁ。

「なぁ、ラナ」
「ごめんね、確かに大魔法使いではあるんだけど専門外で。確かに魔法使いは多少魔法を作る授業はあるんだけど、僕はとっても苦手だったんだ。友達の役に立てないなんて役立たずだよね」
「ごめん。そういうわけじゃないって」

 卑下が凄い。ラナはオレの言葉の何倍だ、というほどの塊を被せてきた。
 別にそんなに気にしなくてもいいのに。

「ルトよ」
「な、なんだよ」

 そんなオレに声をかけてきたのは、コスモスのお母さんに抱きしめられたままのシアだった。
 気が付くと飾り立てられているし、抱きしめられているのがもはや完全に「子供を抱っこ」という雰囲気になっているのが笑えない。さすがコスモスのお母さん。強い。

「何故あたしには聞かぬのか」
「……長くなりそうだから」

 嘘だ。本当は向こうの世界に行きたくなかったからである。

「聞かれてはおらぬが答えよう」
「お、おう。よろしく」

 こいつ、説明をしたいだけではなかろうか。

「あれは拡声器。あれを通す事によって、広い範囲に音を響かせる事が出来るの。あの棒状の中に魔法陣を仕込んでおいて、手元にあるスイッチを押すと連動して声を大きくするっていう作り。だから、あんな感じの形状だけど、裏と表があるんだよ」

 ふんふん。さっきの人が使っていた棒は拡声器って言うんだな。
 学校とかで使うと便利そう。

「もちろんアレ一つで十分響かせる事が可能なんだけど、今回はこれだけ大きな規模のお祭りだからね。もう一つ細工をしているんだ」

 もっと沢山の人に声を届くようにしている、って事か。
 国の行事だから、色んな魔法のアイテムを使いまくってるのかな。

「ほら、あの、ひさしの端っこの方をみて」
「ん?」

 シアの言うとおりに、ここに影を作ってくれているものの端っこをみる。限定的に作っているものなだけあって、端っこの方は柱のようなものがあった。
 しかしシアが言いたいのはこれではないだろう。その柱に取り付けられている、円盤のような物。これの事を言っているはずだ。

「あの丸っこい奴に拡声器で広げた声が当たって、さらに範囲を広げるの。ほとんどどの場所から聞いても声が聞き取れるはずだよ」

 あんな、丸い何かにそんなに凄い力が隠されているのか。

「もっと知りたい? 原理は――」
「大丈夫。何なのかがわかったからパレードを見たい」
「あ、そうだよね。そうしよ!」

 オレ達はそのまま正面のパレードへと向き直った。音楽がじゃんじゃんなっている中、シアがこっそりと「折角あたしが研究したやつだったけど、ここまでー」と言ったのを聞き逃してはいない。
 お前かよ、これ作ったの! 天才か!

「ちょ、シア、それって――」
「うお、聞いてたの? びっくりしたー」
「オレの方がびっくりしたわ!」

 あんな凄い物をお前が作ったのかよ。いつもは迷子の小さい女の子なのに!

「研究はしたけど、実用化した時にはあたしの名前は使われてないよ。結果だけ取られてるから」
「はぁ!? 何で!」
「研究の成功した人には、その魔法が使われる度にお金が入るからじゃない? だから多分、あたしが作った魔法でお金を貰っている人がいるんだと思う。でも、そういう事がよくあって、嫌になって前の職場を辞めたの。以上」

 うわぁぁぁ、それは辞める! 辞めて大正解!
 うんうん、やっぱりそんな事情の人を無理やり家に戻すのは間違ってるな。というか、列車で言ってた盗られたって話はこれかー!
 パレードを楽しそうに見ていたディオンやスティアが、目をまん丸くしてシアを見ている。だよな、びっくりだよな!
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