精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-36 ……なんか、いい場所を貰ったんだって

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 大会参加者の宿は、とってもいいものだった。
 ふっかふかのベッドに、ベルの腕には疎るものの美味しい朝食。しっかり休んで食べて、オレ達は所長達と合流した。
 迷子代表のシアは、今日は所長とアリアさんの間に挟まれている。
 オレ達の出る武術大会のように、迷子大会のようなものでもあれば、シアはぶっちぎりで一番になれるんだろうけどなぁ。それ以外で迷子がプラスで働く事は無いだろうし、出来たら迷子の克服をして貰いたいところだ。

「アリアー、ちゃんと飲み物持った?」

 テロペアは直ぐにアリアさんに近付き、至近距離で顔を見ている。おそらくこれは……顔色チェックだ。

「も、持ったわ」
「正確には、僕が強引に持って来たよ」
「フーしゃん、たまには役に立つね」
「泣くよ?」

 うん、それは泣いてもいいと思う。本当に泣きたいならオレの胸を貸してやろう。

「今から、スーさんにとっておいて貰っている場所に行くよ」
「へ? スーさん?」

 何でスーさん? そりゃあ合流するとは思っていたが、ここでスーさんが場所取りしているとは思っていなかったのだ。

「……なんか、いい場所を貰ったんだって。王族に」
「おうぞくに」

 スーさん、凄い人だとは聞いたけど……思ったよりももっと凄いぞ。

「それでも一応他の人の目もあるし、交流もしたいからーって言って、一般席の中では高級な場所を貰ったらしいけど」
「所長、何でスーさんが王族にいい場所を貰えるんだ?」
「そりゃあ、スーさんが王族の服を仕立てているからだよ」

 おうぞくのふくをしたてている。
 そういえばそんな話もあったな。えっと……あの人、何でハイルじゃなくてクヴェルに住んでるんだろう。もっといい所に住めそうなのに。

「……やばい」
「そうだね、やばいね」

 どう言っていいか分からず、色んな気持ちを込めて言えば、所長はこくりと頷いた。
 どう考えたって、すっごく忙しいってわけでもない何でも屋とは釣り合わない店だよな? スーさんの店は、例えばお客さんがいなくても大口のお客さんがいるから安泰って事だろうし。

「ってわけで、ぎゅうぎゅうになりながらパレード観戦する必要はなくなったけど、どんどん道が混んでくるし、早く行こう」

 所長はスティアを手招きし、シアのお守りを交換した。そしてベルの近くに行く。
 所長……さては一晩ベルと離れて寂しかったな?

「そうだな。混雑の中アリアを連れ歩くのも、シアを連れ歩くのも不安だしな」
「そ、そう、ね?」
「大丈夫だよー! 何とかなるなる」
「ならないから心配しているんだ」

 うんうん。スティアの言う通り。シアはなぜ己を過信するのか。

「アリア、後で髪の毛結いなおしてあげゆ。もっと涼しくなるようにしよ」
「う、うん、ありがとう」

 いいなぁ、アリアさんの髪を触るのか……。じゃない! オレ、女の子の髪を結わえるとか苦手だし、万が一オレが触ったせいであの美しい髪の毛が絡まってしまったりしたら申し訳ない。それになにより、アリアさんの髪に触れるなんて……恐れ多い。
 あー、でも、やっぱり羨ましいな。見るからにサラサラで、ふわふわっぽくて、いい匂いがしそうで。いやいやいや、消えろ煩悩!

「ジジィ達もスーしゃんのとこ?」
「多分。もしかしたら、その辺うろうろしてるかもしれないけど」
「あー、クソジジィがいませんように!」

 うーん、オレも出来たらテロペアのお祖父ちゃんには会いたくないなぁ。急に変な事言いまくるから、どうも苦手意識が芽生えてしまった。
 ツークフォーゲルに聞こうかとも思うが、どの道行く場所が変わるわけでもない。いるってわかると行きたくなくなるし、このままでいよう。

 段々と混んでいく人波を縫うように進み、やがてその場所にたどり着いた。
 他の観客席よりも高い位置に作られた特設観覧席、みたいな場所だ。

「みなさん、おはようございます。もう、結構混んでいたでしょう?」
「あ、おはようございます」

 スーさんがゆったりとこちらを見ながら問う。
 挨拶を返しながら確認すると、どうやらテロペアのお祖父ちゃんはいないようだ。お祖母ちゃんもいないけど。
 それからヴァイスハイトの大元もいない。精霊は多分お祖父ちゃんについて行ったんだな。
 他は、昨日一緒に列車に乗ってきたメンバーと、スーさんの両親がいるくらいか。
 スーさんのお母さんは、やっぱり大人しそうなふりをした次の瞬間には激しくなり、シアに抱き着いて頬ずりをしている。尊い犠牲だった。

「混みまくってたよー! 凄いのなんの!」
「こいつを確保しておくのが大変だったな」

 シアはそのまま頬ずりをさせながら答え、スティアは距離を取りながら続けた。完全にスティアもシアを「尊い犠牲だ」と思っているパターン。

「なんか、混雑していてちょっと大変でした」
「アリアー、座って。はい、水分。ちゃんと休んで」
「そうよ、アリアちゃん。昨日のタオル、洗って乾かしておいたから今日も使って」

 疲れたようで、ぺたっと座ったアリアさんに、テロペアとコスモスが寄っていく。
 ここは王族にいい感じの場所を貰ったとだけあって、ひさしのような物も設置されて入るものの、アリアさんの顔色は悪い。世話好きがわらわらと寄っていき、オレの入るスペースはなさそうだ。
 邪魔にならなそうなところに座っておこう。

「髪の毛結ぶよー」
「ちょっと、アリアさん真っ青じゃない。仰いであげるからこっち向きなさいよ」

 世話組にテロペアの妹のルイザまで参戦。武術大会の前の戦いがすでに起こっている。

「大丈夫? 僕にも何か出来る事があるといいんだけど」
「黙ってしょの辺で大人しくしてて。こっちは慣れたメンバーでどうにかしゅるから」
「そっか。わかったよ」

 ラナは手伝いをかって出たものの撃沈。慣れたメンバーという一言に、直ぐに引き下がる。
 体調の悪い人を前にしながら変に突っかかったりしないのは、こいつの良いところだな。

「アリア、朝食は何食べた?」
「えっと……」
「フルーツを少しと、ヨーグルト。それから、温かいスープとパンをちょっとだけ食べさせたわ」
「うん、まぁ、アリアにしては上出来かな。ありがと、ルイザ」

 アリアさんが答えるよりも先に、ルイザが答える。アリアさん、食事関係がチェックされてるんだな。この質問って、シアにしてもちゃんと答えられそうだし。

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