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三章
3-42 思う存分アイスに溺れて来いよ
しおりを挟む結果から言えば、ゼフィランサスのチームは勝った。これで、オレはあいつと正面から戦う事が決まったのである。
ゼフィランサスは巧みに魔陣符を使い、剣を使い、フットワークも軽い。長い髪をなびかせて戦う様に、どこからか「金色の子供獅子」という呼び名が飛び出した。案の定ゼフィンは「誰だ、今子供って言ったやつ!」と怒っていたが。
うん、分かる。勝手にあだ名をつけた上に、それに「子供」とか入っていたら、オレだって怒るわ。
なんにせよ、彼の動きは素晴らしく、チームメイトも綺麗に連携の取れた動きをしていた。これは強敵だろう。
観客席側の出来事でいえば、スティアがじっとシアの方を見て「貴様はなぜ運動が出来ないのだ」と呟いていたのは印象的だった。ゼフィランサスを見ていて、あまりの違いに驚いたらしい。
それにしても……オレ、本当にあいつに勝てるのかな。だって、勝手に二つ名とかつけられるくらいなんだぞ。オレ、つけられてないし。
そうして自信を失った頃、昼がやってきた。お昼の休憩時間――この時間に試合は行われず、選手も好き勝手に飲み食いし放題だ。
皆一回解散して、それぞれ好きな露店で好きなものを買ったら、またスーさん一家のスペースにお世話になろうという話をして、適当に露店を見て歩く。
「ねぇ、スッティー。あっちで売ってる飲むプリンが欲しい」
「いいだろう。一緒に行ってやる。これならアリアも飲めるな?」
「あっ、えっ……えへ、へ?」
女子達はそうやって姿を消すようだったので、買い終わったらあの場所で集合、とだけ伝えて、オレはエーアトベーベン兄弟とベル、テロペアという花の無いメンバーで買い物を続ける。
ちなみに、この買い物も所長が「これで好きなのを買ってきなさい」と渡してきたお金で成り立っている。所長、なんでこんなにホイホイお金出すの? ちょっと怖い。
「クルト、串焼きがある」
「肉!」
ごめん、所長。全然怖くない。
奢りのお肉、最高。
オレはベルに示された店で、ほくほくと多めの串焼きを手に入れた。別に俺一人で食べるわけではない。皆で食べる分だ。
「ベユ、アイス売ってゆ」
「本当だ!」
ベルはと言えば、テロペアに言われて目をきらめかせた。お前が甘いものに対して目をきらめかせるとは思わなかった。裏切りか。
「あ、でも、アイスは高級だから……いいや……」
「アイスが、高級?」
確かに安いものではないかもしれないが、それほど高価というほどの物でもない。特に魔法が発展して、冷やしたままの販売が可能である以上、極端に高い物にはなりえないのだ。
「だって、アイスは溶けるだろ?」
「う、うん」
そりゃあ、液体状の物を固めて作ってるからな。
「溶けたら、液体じゃん」
「だな?」
元に戻ったら液体だよな。
「食べ物なのに、食べられない。だから高級」
「……お、おう」
「変わってゆよねー」
変わってる。ちょっとよくわからない。
「で、でも、あの、高級品でも、所長の奢りだし、いいんじゃないか?」
「でも、皆で食べられるものでもないし」
遠慮しているベルに、オレは一歩近付く。こうなったら、何が何でもベルにアイスを食べさせる。
普段わがままも言わないんだから、お祭りの時くらい好きなものを食べて貰いたい。
それに、どうせ所長の財布から出るのだ。所長だって、ベルが好きなものを食べさせてやりたいだろう。
「ベル、飲むプリンは皆で食べられるものじゃない」
「……確かに」
「そうだよベユー。アイス買っちゃお。食べちゃお」
テロペアもオレと同意見らしい。一瞬視線が合ったかと思うと、大きく頷かれた。
よし、このまま畳みかけるぞ。
「でも、俺だけなのは」
「おれ、暑いから丁度アイスとか欲しかったんだよねー」
躊躇うベルに、テロペアが続ける。
今だ、と、オレはディオンとラナにも視線を向けた。
「うん、出来たら俺も欲しいな」
「僕も!」
よし! 通じた!
オレはアイスを食べられないが、アイスは甘い香りが少し控えめだから、串焼きの香りを嗅いでいれば誤魔化せるはず。
「でも、クルトは」
「オレは串焼きの匂いで大満足だから!」
間髪入れず、オレは今しがた買い込んだ串焼きを見せた。いい匂い。
「じゃ、じゃあ、欲しい」
「しょうこなくっちゃー。クユト、ここで串焼きフンフンしてゆ?」
「うん、してゆ。間違った。してる」
オレまで噛んじゃった。正確には噛んだわけじゃなくて、噛んだフリの人の口調がうつったって感じなんだけど。
「じゃ、ちょっと買ってくゆね」
「ごめんな、クルト」
「全然! 思う存分アイスに溺れて来いよ」
オレは大きく手を振る。ディオンが小さな声で「溺れるほどのアイスって」と呟いていたが、スルーしよう。
そうだよな、アイスに溺れるって事は、アイスは液体化してるもんな。ミスった。
オレは皆を見送ると、ついでに近くの露店でご飯になりそうなものを買い込んでおいた。サンドイッチや、サラダ、ソーセージ、塩漬け豚の炭火焼き。お肉多めなのは、笑って許してほしい。
「クルト、美味しかった!」
「おう、よかったな!」
買い物をして、再び待ち始めたオレの元に、ベルが飛んで来た。そうかそうか、そんなに美味しかったか。
テロペアに視線を向けると、大きく頷いていた。大喜びだったらしい。
「結構買っておいたし、そろそろ戻るか?」
尋ねると、皆頷いたので、オレ達はそのままさっきの場所まで戻る事にした。
***
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