精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-46 ほら皆好きなところで好きなように過ごしていなさい


 あの人、うちのお袋とそう年齢が変わらないように見えるんだけど……都会ではこういう服が流行ってるのかな。お袋も本当はもっとバーン、って感じの服を着たいって思ってるのかな。

「ほら皆好きなところで好きなように過ごしていなさい。ママはここで遊んでるから」
「……そのママの面倒を見ているから、他の人に迷惑をかけないように見ておいてくれないかな?」
「あはは……」

 女性の後に続けたのは、同じくらいの年頃の男性。旦那さん……だろう。はちみつ色の髪の、ちょっと気が弱そうな人だ。
 言った相手は、その二人が去った後に残された、五人のキラキラ集団だろう。乾いた笑いは、その中のまともな服を着ていた男性だ。
 大体オレと同じくらいの歳かな、という感じの、ふわふわの金髪を持った男。特筆すべき服装は何もない。
 他のメンバーは、そいつとそっくりな顔をした金髪ふわふわ髪の男。こっちは、なんていうか「おとぎ話の王子様」って感じの服を着ていて、凄く目立つ。
 それから、はちみつ色のふわふわの髪の女の子が三人。一人は髪が短くて、猫耳のフードをかぶっている。短いズボンに猫の形のニーソックスを合わせていて、困ったように笑っている表情が可愛い。多分スティアやシアと同じくらいの年頃。
 それよりも年下と思しき長いはちみつ色のふわふわの髪の女の子は同じ顔で、片方は水色の落ち着いたワンピース。……いや、落ち着いて、る、か?
 フリルやらレースやらがふわっとついて、薔薇の柄だったりするワンピース。コスモスと比べたら落ち着いているって感じの服装だ。
 対して、もう一人の女の子はすさまじい。頭部にはアホみたいにでかいリボンをつけて、服装は派手なピンクの塊、という感じ。さらに、あちこちに目玉を模した何か、とか、怪しい顔をした星とか、そういうよくわからない柄やアクセサリーがガンガンついている。

「えっと、この辺にいてもいい?」

 オレがじっくりと観察していると、普通の服装の男性が聞いてきた。が、オレを含め誰かが頷く前に、コスモスがガンガン近付いて「グレイス! どうしたのよ、その服装!」と話しかけ……いや、問い詰め始めた。
 どうしたもこうしたも、そんなに驚くような服か? なんならあのピンクの塊が一番凄い恰好だと思うんだが。

「こ、コモちゃん。待って待って待って。初めましての精術師もいるし、先に挨拶させて。そんなに詰め寄らないで。お願いだから」

 比較的まともそうなそいつがコスモスとジリッと距離を取ると、オレ達に向き直る。

「えっと、僕はグレンツェント。グレイス・ゼクス・グレンツェント」

 それに対し、オレ達も皆名乗り返した。

「グレンツェント。ファイン・ゼクス・グレンツェントだ。ところで君達は新しく何でも屋に入ったという子だな? 可愛い。例えばこんな服を着て見たくないか? それとも、こんなデザインがいいか?」

 次に名乗ったのは、普通の服の男とそっくりな顔をしている、王子風の男だった。
 問題は、そいつがどこからともなく可愛い服を出しながらシアの方へと向かった事である。声はどちらかと言えば平たんで、真顔のまま近付いていく様は、ちょっと怖い。
 オレ、間に入った方がいいよな?
 そう思っているのはオレだけではなく、ディオンもだ。椅子から半分腰を浮かせ、どうしたものかという複雑な表情を浮かべている。

「よ、寄らないで!」

 シアは強い言葉で訴えた後に、「ぴぇっ」と悲鳴を上げた。その付け足した悲鳴、出さなきゃダメか?

「なぜだ。俺は可愛い服を勧めているだけだ」
「どこから出したの、その服!」
「懐だ。温めておいた」
「ぴぇー」

 やっぱりシアを助けた方がいいかなぁ。いいよなぁ。精術師だけど変態だもんな。
 でも、害があまりなさそうなのでどうにも直ぐに動けない。いうなれば、コスモスの同類に見えるというか。
 オレがおろおろと見ていると、服の裾をちょいちょい、と引っ張られた。そこには、猫耳フードをかぶった美少女がいた。
 えー、何で? 何でこんなに可愛い女の子がオレの服をちょいちょいしてるんだ!?

「ボクはグレンツェント。ブロワリア・ツヴェルフ・グレンツェント。同じくらいの年の男の子で精術師って、中々いないから、仲良くしてほしいな」
「お、おう。オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲル。えっと、よろしく、な?」

 可愛い。なんだこいつ。
 上目遣いでこっちを見てくるし、赤い瞳もキラキラ輝いていて宝石みたいだし。

「ちょっと、だまされない方がいいわよ。そいつ、男だから」

 テロペアの妹のルイザが、ため息交じりにこちらを見て言った。おと、こ?

「男!?」
「え? ボク?」
「うん、お前」

 え、男では、なくない? 猫耳フード、短いズボン、猫ニーソックスだぞ。しかもこんなに目がくりくりしてて、まつ毛が長いし、そりゃあ声は少しハスキー気味かもしれないけど、男って言いきれるほどでもないし。
 線も細いし、なんか仕草も女の子っぽいっていうか。なんならうちの妹よりもずっと女の子っぽく見えるんだが。

「お前じゃなくて、ロワ、って呼んで欲しいな」
「あ、う、うん。ロワ」
「ありがとう。ボクもクルト、って呼んでもいいかな?」
「それは、もちろん」

 可愛い。こんなに可愛いのに男って、何かの冗談だろ。

「一応、もう一回忠告しておくわよ。そこの猫耳野郎、男だから」

 猫耳野郎って、どこかで聞いたフレーズだけど……。あ、サフランかと思って聞いたら「誰よ」って言われた時か。

「えっと、男?」
「うん、ボクは男の子だよ」

 ……肯定かよ! えー、嘘だろー!?

「女の子じゃないとダメだった? 仲良くして貰えないの?」

 ロワは、うるうると涙ぐみながらオレを見ている。

「ダメだなんて言えるわけがないだろ、こんちくしょう!」
「ありがとう。とっても嬉しい!」

 アリアさんの次に可愛いレベルで可愛いのに、男かー!

「ところでルイちゃん。久しぶり」
「全然久しくないわよ。学校で会ったばっかりじゃない」
「だって、長期休暇に入ったんだよ。しばらく会えないな、って思ってたから、こうして会えて嬉しかったのに」
「ウザ」

 学校で会ってる、って事は、テロペアの妹と同じ歳か。同じくらい、って、一括りにされちゃったよ。
 噛みついてやりたいところだが、年下にぎゃーぎゃー突っかかるのもなぁ。今、ルイザと喋ってるところだし。

「ルイちゃん、もしかして」
「何よ」

 二人の会話はなおも続く。

「ボクの可愛さに嫉妬してる?」
「してないわよ! 馬鹿にしてんの!?」
「してないよ。もしもしてるのなら、ボクは全力でルイちゃんの可愛さを称えようとしていたくらいだもん」
「いらないわよ! 馬鹿じゃないの!」

 ……あ、これ、コスモスと同類だな?

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