精術師と魔法使い

二ノ宮明季

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三章

3-52 よし、クルト。行こう

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 昼食後に始まった試合は、どんどん進む。
 三試合目のいい勝負を見た後の四試合目は、中々衝撃的だった。と、いうのも、四試合目は管理局のチームとの対戦だったのだが、オレ達と戦ったチームとはレベルが違ったのである。
 特に戦力になっているのは、ムキムキの女の人だ。観戦していた時にベルが「カンナさん!」とはしゃいだ声を上げたその人は、ディオン達が警戒していた相手。

 この人が、そりゃあもう、強いのなんのって。
 武器も何もないまま、単身で突っ込む。大将が突っ込むリスクなんてどうでもいいらしいが、それを補助していたのは、黒髪の男だった。確か、最初にカンナさん? を見た時に近くにいた人だ。
 彼女に比べて小柄な、オレと同じくらいの年齢の人。
 彼は冷静に状況を見ながら、精術を使ったのだ。
 心の中で「精術師だー!」と大声を出したのとほぼ同時に、近くにいたヴニヴェルズムが『ブレイデン、すごいすごい』『ブレイデン、がんばれー』と応援したので、彼がヴニヴェルズムの人間である事は分かった。
 それにしても……精霊も観客席から応援するのか。いいな、可愛い。
 あと、アーニーも「ブレイデン、頑張れー」と応援していた。知り合いかと問うと、友達だという答えを頂いた。
 折角歳の近い精術師だし、出来たらオレも仲良くしたいなぁ。

「よし、クルト。行こう」

 四試合目が終わってすぐに、オレはディオンに声をかけられて、試合へと向かった。
 相手は――あの、シアの親戚だというゼフィランサスのチームだ。
 ドキドキと緊張しながらも、試合の会場へと向かう。試合と試合の間に、ちょっとだけ休憩時間が設けされていたので、急がなくてもなんとかなるだろう。

「多分、あのゼフィランサス君は一直線にクルトに向かって来る事になる」
「おう」

 道中、ディオンが作戦を口にした。

「だから、そっちはクルトに任せたよ」
「……え?」
「ラナも、いいかな?」
「いいよ。兄さんの立てた崇高な作戦に文句なんかあるわけもないじゃないか。それに、クルトがあの人を引き付けてくれるなら、僕達にとってそんなに安心出来る事はないよ」

 ラナもいい、って言ってくれるのは有難いんだけど、どうも大げさすぎて、どう受けてもいいのかに迷う。悪気がない事は分かるんだけどさ。
 オレはちょっと考えてから、戸惑いを素直に口に出す事にした。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。本当に……いいのか? オレに任せても」
「もちろんだよ」

 ディオンが大きく頷く。隣でラナは、小さく何度も頷いた。

「クルト、頼んだよ」
「お、おう、頑張る!」

 どうやら本当に期待されているらしい。それならなおの事、頑張らなくては!
 オレはオレを奮い立たせるように、両頬を自分でペシンと叩いてみた。一瞬だけ、さっきのオレの試合を思い出したが、無理やりに隅へと追いやったのである。
 控室へと入ると、件のゼフィランサスとも顔を合わせた。そいつは早々に「あー!」と口にして近付いて来る。

「次は、僕と一騎打ちしろ!」
「の、望むところだ!」

 ディオンの思った通りと言えば思った通りなのだが、こうも正々堂々宣言されるとは思わなかったから、ちょっとびっくりした。

「あー……オレ達はクルトさんに手出ししないので、この二人に一騎打ちをさせてあげてもいいですか?」
「ああ、勿論ですよ」

 最初からそのつもりだったのだから、向こうの邪魔が一切入らないというのなら、かえってその方がいいと考えたのだろう。ディオンは頷いた。

「あと、試合ではよろしくお願いします」
「お、おう。よろしくお願いします」

 礼儀正しいし、憎めない人ではあるんだけどさぁ。

「悪い子ではないんですよ。卑怯な事とかも苦手だし……」
「うん、なんとなくわかるよ」

 ゼフィランサスのチームメイトは、彼をフォローした。うん、オレもわかる。悪い人ではないって……。
 でもなぁ、シアの事があるからなぁ。

「選手の方、入場して下さい」

 オレ達がそんなやり取りをしている内に、試合の時間になったらしい。オレ達はスタッフに促されるまま、会場へと足を踏み入れたのだった。

   ***

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