精術師と魔法使い

二ノ宮明季

文字の大きさ
159 / 228
三章

3-53 自分の気持ちばっかり押し付けてんじゃねー!

しおりを挟む
 会場で、お互いが既定の位置につくと、挨拶をして試合が開始された。
 ゼフィランサスはまっすぐにオレに向かってきた。お互い、支給された剣を手にしており、初っ端からの打ち合いだ。
 これは、ディオン達の方を見ている余裕はなさそうだ、と、一瞬だけ視線を向けると、彼は「大丈夫だから、そっちは任せた」と微笑む。お言葉に甘えて、こいつとの真っ向勝負と行こうか。

 再度撃ち込まれる剣を何とか避けて距離を取ろうとするも、直ぐに間を詰められる。こいつ――すばしっこい!
 観客席から「いいぞー、子供獅子!」と声がかけられると、ゼフィランサスは「誰が子供だ!」と吠えた。この隙に何とか体勢を立て直して、しっかりと距離を取る。
 集中しろ。周りの声を聞く必要はない。集中だ、集中。
 オレが心の中で唱えると、徐々に外側の声が聞こえなくなってきた。よし、これでこいつにだけ集中出来る。

「逃げてばかりで、恥ずかしくないの?」

 ゼフィランサスは長い金髪を靡かせながら、オレにビシっと剣を向けた。その姿は、確かに獅子のようだ。
 一瞬でも女の子みたいに見える、と思った過去のオレを殴ってやりたい。髪の長さなんか関係ない。雄々しさすら感じる立ち姿。

「逃げ方だって鈍かったし、今、僕が見逃してなければ体勢の一つも立て直せなかった。わかってる?」
「う、うるせー!」

 集中しても、こいつ、ごちゃごちゃ言いやがる!
 いや、駄目だ。こんな時こそ冷静にならねば。オレが油断してもいい相手なんていないんだ。
 こいつの戦いぶりは見たはずだ。
 武器は何だった?
 軽い身のこなし。素早い剣技。それから、魔陣符。

「君みたいに弱い人に、シアの事は任せられない!」

 ゼフィランサスは、そう言うとオレに剣先を突き付けた。木製の剣だが、ギラリと光った気がする。
 思わず怯みそうになったが、相手の言葉をよくよく咀嚼すると、納得がいかない。
 なんで、こいつに任せられない、とか言われなきゃならないんだ。
 シアはシアの意思で、何でも屋に来た。この「任せられない」というのは、こいつが何でも屋に入りたいっていう意味ではない事くらい、オレにだってわかる。

 再び剣がこちらに向かってくる。
 距離を稼いだのも束の間、あっという間に詰められて、オレは必死に攻撃を剣で受け止めた。

「シアを守るのは僕だ」

 至近距離で、ゼフィランサスは悔し気に顔を歪めた。

「シアは、絶対に僕が連れて帰る!」

 何が連れて帰る、だ。何が守る、だ。

「……うるせー!」

 オレは受け止めた刀身に力を込め、相手を押し返す。

「あいつの気持ち、一つも考えてないじゃねーか! 自分の気持ちばっかり押し付けてんじゃねー!」

 受け身でいたら、シアはシアの意思を貫けなくなるかもしれない。なんであいつのこれからを、オレの戦いで決めなきゃならないんだ。それ自体がおかしいだろうが!
 オレは腹の中から湧き上がる怒りを燻らせたまま、今度は打ち込む。
 何度も剣が打ち合う音が、その辺りに響いた。

「あいつはあいつの考えがあって何でも屋に来たんだよ! お前、その辺の事をちゃんと聞いてるのか!?」
「――くっ」

 オレがさらに踏み込めば、ゼフィランサスは後ろへと跳んで避けた。そしてじりじりと後退しながら、懐から魔陣符を出す。
 魔法は風系か石の飛礫が飛ぶかのどちらかだが、オレは魔法陣を見て、どちらの魔法であるのかを理解する事は出来ない。
 シアなら余裕で何の魔法かの判断が出来るんだろうなぁ。オレも少し勉強した方がいいだろうか。
 とりあえず、どっちにしたってオレは一度立ち止まって構えた方がいい。無防備に突っ込んでもきっと攻撃を食らうだけだ。
 オレはゼフィランサスが下がるのに合わせて、警戒しつつゆっくりと下がった。

「あ! あんなところに!」
「え?」

 なんかあったか? オレはゼフィランサスの声に反応してきょろきょろとすると――次の瞬間には突風がオレを襲った。あいつ、騙した!
 ふいに食らった風に足をもつれさせていると、そこにゼフィランサスが距離を詰めてくる。卑怯な事したやつに、負けてたまるか!

「我はツークフォーゲルの名を継ぐ者。ツークフォーゲルの名のもとに、風の精霊の力を寸借致す」

 オレは早口に呪文を唱える。お前がそう来るなら、オレにだって考えがあるんだからな!

「オレとあいつに風を!」

 最後の一節を唱えた瞬間、オレとゼフィランサス、双方の背中側から風が吹いた。丁度、オレとこいつが風サンドイッチの具にされている状態だ。サンドイッチのパンの部分が風だから、食いでは少ないが、今は関係ない。
 相手は突然後ろから風に足カックンされた状態でよろめき、反してオレは来るとわかっている風に乗って一気にゼフィランサスとの距離を詰める事が出来る。これ以上のチャンスがあるだろうか。いや、ない。
 オレはそのまま剣で攻撃する。
 ゼフィランサスはよろめきながらもなんとかオレの剣を攻撃――じゃ、ない! オレを真っ直ぐ狙ってやがる!
 気が付いた時にはもう遅かった。互いの剣が互いの腹に当たっていたのだ。
 オレのゼッケンも、ゼフィランサスのゼッケンも、色が変わっている。

「……引き分けか」
「……引き分けだな」

 なんとも納得がいかない結果だ。

「でも、あの……君の言い分も一理あるな、って思った。後でシアには謝る」
「うん、その方がいいと思う。あと、オレにあいつの運命をゆだねるのは違うと思うんだ」
「だよね。なんか、ごめん」

 こいつ、やっぱり憎めないヤツではあるんだよなぁ。

「ところで他の勝敗は」
「ごめーん、負けたわ」

 オレ達がディオン達の方へと視線を向けると、ゼフィランサスのチームの大将が頭をかいていた。ゼッケンの色がばっちり変わっている。……ついでに、ゼフィランサスのチームのもう一人のゼッケンも色が変わっていた。
 審判の「勝負あり」の声も聞こえる。

「全滅じゃん!」
「ゼフィン含めてな」
「んぐっ!」

 思わず、といった様子で声を上げたゼフィランサスは、言葉のカウンター攻撃を受けた。

「あとは観客として楽しもう。な、ゼフィン」
「……うん」

 彼は小さく頷くと、ずんずんとオレに近付いて来る。

「クルト」
「お、おう」
「絶対勝ってよ! 応援してるから!」
「あ、ありがとう」

 ゼフィランサスは悔し気に頬を膨らませていたが、フン、と鼻を鳴らしてその場から立ち去った。表情や態度は「負けて悔しい」というのが前面に出ているものの、応援してくれる。
 オレはその気持ちを受け取って、ディオン達と共に会場を後にしたのだった。


 続く、本日最後の六試合目。誰もが予想した通りの結果というべきか、管理官のチームが勝った。あの、警戒されていたカンナさんという女性と、ヴニヴェルズムの男だ。
 明日はベル達Bブロックの試合をするから、最終日である明後日、オレ達はこの管理官のチームと戦う事になる。絶対に手強いが、負けたくはない。
 オレは「負けないぞ」と決心をして、ぐっと拳を握ったのだった。

   ***

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

処理中です...