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三章
3-54 今日はお疲れさまでした!
しおりを挟む一日のプログラムが全て終わった頃には、もう夕食の時間だった。昼のメンバーの中――特にグレイスのお母さんが「皆で食事に行きましょう!」と言った為、大所帯で食事に向かう。
大きい食堂、みたいな店があるらしく、目指したのはそこだ。
ちなみにテロペアのお祖父ちゃんとお祖母ちゃんは帰って来なかったので、二人足りない状態だ。
ちょろちょろとやって来たヴニヴェルズムが「あのねー、うちであずかってるよー」とか「テオバルトがワイアットをチクチクしてるの」とか言っていたので、まぁ、多分任せてもいいのだろう。
テロペアも「ふっ……いい気味」と薄ら笑いを浮かべていたし、ルイザも「父さんも行ってきたら?」と、しらーっとした視線を向けていた。
ヴァイスハイト家……うっかりしていたら内部分裂するんじゃないか? 大丈夫か?
オレの心配をよそに、テロペアのお母さんは「あ、セミー」と、夕方の木に止まっている虫を指差す。
「ああ、美味しそう」
ベルはベルで、その蝉を見ながらお腹を鳴らすものだから、所長は即「さあ、ご飯に行こう!」と率先して動き始めたのだった。
大きい食堂みたいな、と言われていたところは、本当に大きい食堂だった。
駅に近いところに建てられた、規模の大きい大衆食堂。ただ、自分で頼んだものは出来上がったら自分で取りに行く、というセルフサービス。こういうところはオレが住んでいた田舎には無かったから、珍しくてちょっと面白い。
全員、適当に固まりながらいくつかのテーブルに別れて座り、注文の品を皆受け取ってから、所長が「今日はお疲れさまでした!」と乾杯の音頭を取って食事が始まった。
オレのテーブルには、シア、スティア、アリアさん、エーアトベーベン兄弟、ベル、テロペア、ルースがいる。大きめの円形のテーブルで、アリアさんの隣にはテロペアが座り、強制的に食事をさせている。
セルフサービスに甘えてヨーグルトだけを手に入れてきたアリアさんの隣で、サラダやスープ、パンに肉類とバランスよく少し多めに持って来たテロペアが座り、にこにこしながら「食べようねー」と強制しているのだ。
アリアさんは必死にシアやスティアに「助けて」の視線を向けていたが、シアには「プリンをわけよう」と言われ、スティアには「私のポテトもわけてやる」と返されて撃沈。
うん、さすがにオレも、ヨーグルト一つを夕食と言い張るのはどうかと思います。
「あの、近くに座ってもいいですか?」
そんなオレ達に声をかけたのは、オレ達のグループの人ではなかった。
「んえっ……ゼッフィー」
「……シア、ちょっと話したいんだけど」
今日、オレが戦った相手――ゼフィランサスだった。正確には、ゼフィランサスとその仲間二人。三人で食事をしに来たところだったようだ。
「……ちょっとだけだよ」
「うん、ありがとう」
シアはちょっと警戒しながらも、ゼフィランサスの方をじっと見る。
アリアさんもそっちが気になるようだが、すかさずテロペアに「見るのはもぐもぐしながらでもできゆよー」と口にちぎったパンを入れられていた。介護か!
「シア、ごめん。シアがいなくなって心配していたとはいえ、何にも聞かずに強引に連れて帰るような話をしたのは間違ってた」
「間違っていたのが分かったなら、いいよ」
素直な謝罪を素直に受け入れる辺り、こいつらには素直な属性の血が流れているのか。
「また、仲良くしてもいい?」
「いいよ」
……きっと元々は、とっても仲が良かったのだろう。だからこそ、ゼフィランサスは最初に「誘拐されたんじゃ」と慌てたし、ずっと探していた。
オレに突っかかってきたのも、この辺が理由か。悪いヤツではないんだよなぁ、やっぱり。
「で、どこにいるの?」
「……お父さんとお母さんに言う?」
「そりゃあ言うよ! 心配してたんだよ、叔父さんも叔母さんも!」
家出娘だもんな。そりゃ言うわ。
「えー、じゃあ言いたくない!」
「いやいやいや、娘がどこにいるのかくらい伝えたっていいでしょ!?」
シアは腕組みをして考えているようだ。何故かベルが「伝えるのがいいとは限らないけど」ととってもとっても小さく呟いたのが気になりつつも、オレはシアの判断を待つ。
これ、勝手に外野がどうこうと騒いでいいような物でもないしな。
「……お父さんとお母さんが、邪魔しないならいいんだけどぉ」
「邪魔するような人達じゃないじゃん」
「だって、前の時がさぁ」
「お仕事の邪魔をしたわけじゃないでしょ?」
シアはぷくーっと頬を膨らましたが、やがて「……仕方ないなぁ」と肩を竦めた。
「あたしは今、クヴェルにある何でも屋アルベルトっていうところに勤めているの」
「楽しい?」
「楽しい! ご飯美味しい! 女子が可愛い!」
「迷惑をかけてない? 部屋中に数式を書きまくったり」
シア、心配されている。昔からこんなんだったんだな。
「ああ、それに関しては監視役がいるから問題はない」
「君は」
「そこのクルトの妹だ。そして、シアの同僚でもある」
口をはさんだのは、スティアだった。確かにスティアが一番お守をしているかもしれない。
いや、そうか? オレも相当お守してるぞ! えっ、どっちだ? オレとスティア、どっちの方がこいつの面倒を見てる? どっちでもいいんだけれども。
「そっか、しっかりしていそうだし、シアの保護者がいるみたいで安心したよ」
「安心のしどころがおかしくない? ねぇ、ゼッフィー、どういうつもりなの!」
「だって、シアはマイペースだし、方向音痴だし」
「ゼッフィーに言われたくないもん。方向音痴じゃん」
「シアほどじゃないよ!」
二人はやいやい言い合いを始めたが、やがて二人で一緒に笑った。仲、いいなぁ。
「でも、元気そうで安心した」
「ゼッフィーも元気そうで安心したよー。ゼッフィーは直ぐに泣いちゃうから心配してたんだよ」
「泣かない! 泣いてない!」
ゼフィランサスは顔を赤くして、くるっと仲間の方を振り向いた。
「泣いてないから!」
「わかってるわかってる」
「ちょっと涙目になる程度だもんね」
「なってない!」
このグループも仲いいなぁ。オレは微笑ましく眺める。
ゼフィランサスが、ごほん、と咳払いをすると、今度はオレに向き直った。
「さっきは負けたけど、僕、負けないから!」
「おう、オレだって負けないぞ!」
なんだかわからないけど、ライバル認定だな! 望むところだ!
「ゼフィン、話がまとまったのならご飯を注文してこよう」
「お腹空いたー」
「あ、ごめん。待っててくれてありがとう」
三人はそう言い合って、こちらに手を振って近くの席を確保してから、注文する所へと向かっていった。
シアはその背中に、「プリンがあったよー」と声をかけて、再び食事に戻る。プリンがあるかどうかって、そんなに重要な事か?
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