175 / 228
三章
3-69 異母兄弟という説
しおりを挟む「どうも、初めまして。リリウム・ドライツェーン・バーナーです。恐れ多くもカサブランカ様の異母兄弟という説が流れている人間だよ」
「ちょっ、リリウムさん!」
慌てたのは、ヴニヴェルズムのお姉さんだった。そりゃあ、第一王位継承者と異母兄弟って説がある、なんて本人が言ったら、従者としては慌てるよなぁ。
本当にある噂なのかとルースの方を見ると、スッと視線をそらされる。ああ、事実あるのか。
「で、彼女が件のカサブランカ様の従者で――」
「ヴニヴェルズム。ライリー・ヴニヴェルズムです。以後お見知りおきを」
肩までのくすんだ金髪に、獣を思わせる金色の瞳の女性。彼女のした精術師式の挨拶に、その場にいる精術師集団はそれぞれ一気に名乗った。
「ツークフォーゲル家、並びにエーアトベーベン家とは現在交流がないですが、出来たら今後ともよろしくお願いいたします」
へら、と、どこか軽薄にも見える柔らかすぎる笑み。ライリーさん、笑うのが下手なのかなぁ。
「もし、精術師に関してわからないことなどありましたら、精霊を介してでもいいので、是非ご連絡くださいね」
「それは金がかかりますか?」
「ヴニヴェルズム家は、精術師の家を取りまとめる立場ですし、そういう情報でお金を取ったりしませんよ」
スティアが口を挟んだことに対し、彼女はちょっと考えたふりをしてから、また軽薄そうな笑みを浮かべた。
「ツークフォーゲル家……もとい、レヴィン・ツークフォーゲルさんとはお立場が違いますから」
「親父の事を知ってるのか!?」
「ちょっとした情報だけ。なにしろ関わろうとはしない方ですから」
ど、どこまで知ってるんだ!? この笑みのせいで、余計に把握し難い。そうか、この笑い方って下手なんじゃなくて、相手に情報を与えないためのものか!
そんなやり方があったとは。びっくりした。すごくびっくりした。
「それじゃあ、俺達の方も」
「エーアトベーベン家も、ちょっとだけですよ」
「……そう、ですか」
ディオンもちょっと口を挟んだが、やがてもにょもにょと口を閉じた。下手なことを言えば情報を取られかねない、みたいな感じがあるよな……。
味方なら心強いんだろうけど、どの程度近づくかはちょっと考えたいところだ。
「あ、ところでシアちゃん。ソニア君とは最近連絡とってる?」
「とってない」
「そうなんだぁ。困ったな」
ソニアという人は知らないが、リリウムさんがちっとも困ってなさそうな、口先だけみたいな口調で、言う。
「ソニャー、なんかあったの?」
「うん。失踪中なんだよね」
「失踪!?」
失踪!? 突然の言葉に、シアだけではなくオレも驚き、ついでにスティアも驚いた。
急に物騒な話になったな。
「うん。調書が取れてないんだよね。それで判明したんだけど、今、所在不明なんだ」
「あ、あわわわわわ……」
魔法使い枠なのか一般枠なのかは知らないが、数か月に一回の調書が取れていないというのは問題だ。
例えば就職管理局の調書を取る時期に就職してない場合は、自ら管理局に行って書類を作って貰う事も出来る。あれはいわば、人口の管理みたいなものも含んでいるものなのだ。
「お、お仕事は?」
「えっと、辞めたって事にはなってるんだけど」
シアが引きつった顔をしながら問うと、リリウムさんは困ってなさそうに困った顔を張り付けて答える。
「まー、さっくり言うと、ブッチした?」
「え、急に来なくなったって事? でもソニャーって、たしか全寮制の場所に就職したんじゃなかった?」
「そうなんだよ。だから、えーっと、ちょっと隠蔽されている内に失踪してたっていうか」
「あわわわわわわ」
あわわわわ。誰だか知らないけど、この国の体制、ちょっと変えた方がいいと思う。そんな簡単に人が失踪するのかよ。
「ま、君には接触してくるかもしれないから、何かあったら連絡して」
「わかった!」
「幸い近くに精術師もいるみたいだし、精霊を介してくれて構わないから」
「えっと……ああ、そっか! ライリン!」
ん? と思ったのも一瞬。シアが指さした先を視線でたどると、カサブランカ様の従者だという管理官の精術師にたどり着いた。ライリーさんの事か。
「そう。僕の傍にはライリンがいるから」
「ちょ、ライリンって、自分ですか!?」
「他に誰がいるのさ。ね、ライリン!」
「……はい」
小声でルースが「ファイトッス」と言っているあたり、このリリウムさんという人はこういうのがデフォなのだろう。で、苦手なのはリリウムさんの方なんだな?
「ところで、このライリンにはウィリアムっていう双子の兄がいるんだけど、そっちにもニックネームつけてあげてよ。この子、お兄ちゃんとお揃いが好きだから」
「あの、ちょ、リリウムさん……!」
「お揃いが好きなのは事実でしょ? それならウィルにもニックネームつけて貰わないと」
あのへらへらした笑いが底知れない感じがするな、と思っていたけど、どうもリリウムさんとセットになると勝手が違うようだ。ライリーさんは心底恥ずかしそうに止めている。
そりゃあ、普段はお兄ちゃんと凄く仲良し! なんてばらされたら、うちのスティアだって恥ずかしがるだろう。
「じゃあね、ウィルルン」
「ウィルルンね。戻ったらそう呼んでやろーっと」
「勘弁してくださいよ。あんた、それ、ウィルルンって呼んだら、自分の事もずっとライリンって呼ぶじゃないですか」
「そりゃあそうだよ。お揃いなんだから」
「この野郎」
おっと、本心が漏れたか。スティアが「この人を食ったような態度は腹立たしいだろうな」と頷いていた。
「冗談冗談。一回遊んだら元の呼び名に戻すよ」
「一回遊ぶのを入れないでくださいよ。リリちゃん先輩」
復讐とばかりに、シアが呼んでいたニックネームを口にするも、リリちゃ……間違った。リリウムさんはどこ吹く風だ。
「参考までに、ブラン様の事はなんとお呼びするんですか?」
「あー、かしゃぶやんかしゃま」
「何だって?」
こんなところで噛み癖を発揮するな。あと、そっちのテーブルでテロペアが「そういう噛み方もあるか」って勉強になったみたいな言い方すんのやめろ。もはやお前の噛み癖は、ビジネス噛み噛みって感じがするんだよ。
「……ランラン様」
「何だって?」
不敬罪に当たりそうで怖いんだが。
「あー、なるほどなるほど。ランラン様ですね。後で遊ぶって言ってるタイミングでブラン様も混ぜてあげましょう。ありがとうございます」
ふ、不敬罪回避?
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる