精術師と魔法使い

二ノ宮明季

文字の大きさ
192 / 228
三章

3-86 マイペース!

しおりを挟む

 結局ルースの家族だけではなく、昨日までのメンバーは全員帰っているわけでも、帰るつもりでもなかったらしい。今日も朝からスーさんの家族の席に皆集まっていた。
 その確認をしてから、オレ達は準決勝前の選手控室へと入った。
 今日の相手は、あのカンナさんのチームだ。どう考えても強敵だろ……。

「あ! 昨日の!」
「あぁ、昨日の変態野郎回収の!」

 一応見知った顔に出会うと、安心するものだ。カンナさんの影からひょこっと顔を出したのは、まさに昨日、変態野郎がデンドロビウムをかどわかそうとしていた時に、変態を回収していったオレと同じくらいの男の子。
 大量にヴニヴェルズムをくっつけていた上に、精霊が見えていたっぽい事から、多分こいつもヴニヴェルズム家の人だ。ライリーさんの血縁者で間違いはないだろう。
 事実、瞳の形は違えど、美しい瞳の色はとてもよく似ていた。

「ヴニヴェルズム。ブレイデン・ヴニヴェルズムです」

 彼はちょろちょろとオレに近づくと、ぺこりと頭を下げながら名乗った。

「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲル」
「エーアトベーベン。ディオン・エーアトベーベンです」
「エーアトベーベン。ラナンキュラス・ツヴェルフ・エーアトベーベンだよ」

 名乗られたら名乗り返す。思わずオレ達精術師チームは全員名乗ってしまった。

「アタシはカンナ・プレトリウスです。よろしくね」
「クレソン・トレーガーです。今日はよろしくお願い致します」

 そして連動して、向こうのチームも名乗る。
 カンナさんはすごく大きくてムキムキで、一緒にいるクレソンさんもブレイデンも小柄に見える。なんかこの人、多分ベルと同じくらいあるんじゃないかな。本当に大きい。

「初めて会う精術師だー!」
「ん? 精術師と会った事がないのか?」
「ううん、初対面の精術師だなーって」
「あ、そういう意味か」

 ブレイデンは目をきらめかせながらオレ達を見てくる。管理官の中でも毛色が違う気配がする。

「ブレイデンさんは、ライリーさんやウィリアムさんのご兄弟ですか?」
「あ、呼び捨てとか、ため口で! 是非!」
「あ、ああ、そうさせて貰うね」
「ご兄弟です」
「え? あ、うん、そうなんだ」

 マイペース! ブレイデン、マイペースだ!
 思わず最初からため口にしてしまっていたオレとは違い、ディオンは丁寧に対応しようとしていたはずが、気が付けばふわふわとした空気感に振り回されそうになっていた。

「試合開始までちょっと時間があるし、よかったらお話ししない?」
「お、おう」
「そうだね?」
「楽しそうだね! 是非お話させて欲しいな」

 本当にマイペースだな、この人。ライリーさんの弟になるんだろうけど、あの含みのある感じは全然ない。
 どちらかと言えば警戒心ゼロで心配になる感じだ。
 こいつ、あの変態野郎とくっついてたけど大丈夫だったのか? 変な風に言いくるめられて、テキトーな事されなかったか?

「カンナ、クレソンさん、お話……」
「まずはこちらの許可を得てから、そういった話をして下さい。物事には順序というものがあるんですよ」

 一応あと二人が上司にでもなるのだろうか。オレ達と話をしようとはしゃいだ後に、ハッと気が付いたようにチームメイトの方を向いた。

「ごめんなさい。向こうのチームの方と親睦を深めてきてもいいですか?」
「どうぞ」
「ご指導ありがとうございます!」
「……仕方のない人ですね」

 一言嫌味を言われたはずが、ぱっと笑顔でお礼を言うものだから、嫌味っぽい上司的なクレソンさんも、困ったように笑う。

「えっと、カンナ」
「ブレイデンは自由にしててもちゃんとしてるから大丈夫だよ!」
「ありがとう!」

 いや、ちゃんとはしてない。どうもブレイデンは話がとっ散らかっている気がする。
 ディオンが小さい声で「ちゃんと?」と呟いていた辺り、この認識はオレだけではなかったようだ。

「エーアトベーベンも、ツークフォーゲルも初めまして」
『おう、はじめまして』
『おはつー』
『おはつかなー?』
『だいたいおはつー』

 大体って何だ。もしかして親父が情報収集の為にちょっと絡んでたか? 本人は「初めまして」って言ってるから、こっそり見てた、みたいな。

「ディオンもラナンキュラスもムキムキだけど、何を食べたらそんな風になれる?」
「え? え、っと、なんだろう。好き嫌いせずに何でも食べたら、かな」
「俺、好き嫌いないのに」

 唐突にディオン達の体系が気になったのだろう。ムキムキの秘訣を尋ねた。
 確かにブレイデンは、やや服に着られているかのように華奢だ。管理官の中だと、きわめて細い人なのではなかろうか。
 何しろ同じくらい……よりもやや小さい身長のクレソンさんよりも、身体の幅がきゅっとしている。具体的には、ガタイを指に例えた時に、親指と小指くらいの差がある感じだ。

「もしかしたら量が足りないんじゃないかな! あとは、バランスとか!」
「なるほど、バランスよくいっぱい食べる! そしたら俺もなれるかな? 特盛に!」
「なれるよ! きっとすぐにでもムキムキモリモリに!」

 ブレイデンは「やったー」と両手を上げているが、果たしてそれだけでなれるのだろうか。というか、バランスよく何でも食べただけでディオンサイズになるなら、オレも今頃ムキムキモリモリニョキニョキになっているはずなのだが。
 オレはそんな事を思いながら、しげしげとブレイデンを見た。
 全体的にコンパクトサイズっぽい体に、ちょっとぶかっとした制服。青いネクタイには、赤色の精霊石のタイピンのようなものがついている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...