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三章
3-86 マイペース!
しおりを挟む結局ルースの家族だけではなく、昨日までのメンバーは全員帰っているわけでも、帰るつもりでもなかったらしい。今日も朝からスーさんの家族の席に皆集まっていた。
その確認をしてから、オレ達は準決勝前の選手控室へと入った。
今日の相手は、あのカンナさんのチームだ。どう考えても強敵だろ……。
「あ! 昨日の!」
「あぁ、昨日の変態野郎回収の!」
一応見知った顔に出会うと、安心するものだ。カンナさんの影からひょこっと顔を出したのは、まさに昨日、変態野郎がデンドロビウムをかどわかそうとしていた時に、変態を回収していったオレと同じくらいの男の子。
大量にヴニヴェルズムをくっつけていた上に、精霊が見えていたっぽい事から、多分こいつもヴニヴェルズム家の人だ。ライリーさんの血縁者で間違いはないだろう。
事実、瞳の形は違えど、美しい瞳の色はとてもよく似ていた。
「ヴニヴェルズム。ブレイデン・ヴニヴェルズムです」
彼はちょろちょろとオレに近づくと、ぺこりと頭を下げながら名乗った。
「オレはツークフォーゲル。クルト・ツークフォーゲル」
「エーアトベーベン。ディオン・エーアトベーベンです」
「エーアトベーベン。ラナンキュラス・ツヴェルフ・エーアトベーベンだよ」
名乗られたら名乗り返す。思わずオレ達精術師チームは全員名乗ってしまった。
「アタシはカンナ・プレトリウスです。よろしくね」
「クレソン・トレーガーです。今日はよろしくお願い致します」
そして連動して、向こうのチームも名乗る。
カンナさんはすごく大きくてムキムキで、一緒にいるクレソンさんもブレイデンも小柄に見える。なんかこの人、多分ベルと同じくらいあるんじゃないかな。本当に大きい。
「初めて会う精術師だー!」
「ん? 精術師と会った事がないのか?」
「ううん、初対面の精術師だなーって」
「あ、そういう意味か」
ブレイデンは目をきらめかせながらオレ達を見てくる。管理官の中でも毛色が違う気配がする。
「ブレイデンさんは、ライリーさんやウィリアムさんのご兄弟ですか?」
「あ、呼び捨てとか、ため口で! 是非!」
「あ、ああ、そうさせて貰うね」
「ご兄弟です」
「え? あ、うん、そうなんだ」
マイペース! ブレイデン、マイペースだ!
思わず最初からため口にしてしまっていたオレとは違い、ディオンは丁寧に対応しようとしていたはずが、気が付けばふわふわとした空気感に振り回されそうになっていた。
「試合開始までちょっと時間があるし、よかったらお話ししない?」
「お、おう」
「そうだね?」
「楽しそうだね! 是非お話させて欲しいな」
本当にマイペースだな、この人。ライリーさんの弟になるんだろうけど、あの含みのある感じは全然ない。
どちらかと言えば警戒心ゼロで心配になる感じだ。
こいつ、あの変態野郎とくっついてたけど大丈夫だったのか? 変な風に言いくるめられて、テキトーな事されなかったか?
「カンナ、クレソンさん、お話……」
「まずはこちらの許可を得てから、そういった話をして下さい。物事には順序というものがあるんですよ」
一応あと二人が上司にでもなるのだろうか。オレ達と話をしようとはしゃいだ後に、ハッと気が付いたようにチームメイトの方を向いた。
「ごめんなさい。向こうのチームの方と親睦を深めてきてもいいですか?」
「どうぞ」
「ご指導ありがとうございます!」
「……仕方のない人ですね」
一言嫌味を言われたはずが、ぱっと笑顔でお礼を言うものだから、嫌味っぽい上司的なクレソンさんも、困ったように笑う。
「えっと、カンナ」
「ブレイデンは自由にしててもちゃんとしてるから大丈夫だよ!」
「ありがとう!」
いや、ちゃんとはしてない。どうもブレイデンは話がとっ散らかっている気がする。
ディオンが小さい声で「ちゃんと?」と呟いていた辺り、この認識はオレだけではなかったようだ。
「エーアトベーベンも、ツークフォーゲルも初めまして」
『おう、はじめまして』
『おはつー』
『おはつかなー?』
『だいたいおはつー』
大体って何だ。もしかして親父が情報収集の為にちょっと絡んでたか? 本人は「初めまして」って言ってるから、こっそり見てた、みたいな。
「ディオンもラナンキュラスもムキムキだけど、何を食べたらそんな風になれる?」
「え? え、っと、なんだろう。好き嫌いせずに何でも食べたら、かな」
「俺、好き嫌いないのに」
唐突にディオン達の体系が気になったのだろう。ムキムキの秘訣を尋ねた。
確かにブレイデンは、やや服に着られているかのように華奢だ。管理官の中だと、きわめて細い人なのではなかろうか。
何しろ同じくらい……よりもやや小さい身長のクレソンさんよりも、身体の幅がきゅっとしている。具体的には、ガタイを指に例えた時に、親指と小指くらいの差がある感じだ。
「もしかしたら量が足りないんじゃないかな! あとは、バランスとか!」
「なるほど、バランスよくいっぱい食べる! そしたら俺もなれるかな? 特盛に!」
「なれるよ! きっとすぐにでもムキムキモリモリに!」
ブレイデンは「やったー」と両手を上げているが、果たしてそれだけでなれるのだろうか。というか、バランスよく何でも食べただけでディオンサイズになるなら、オレも今頃ムキムキモリモリニョキニョキになっているはずなのだが。
オレはそんな事を思いながら、しげしげとブレイデンを見た。
全体的にコンパクトサイズっぽい体に、ちょっとぶかっとした制服。青いネクタイには、赤色の精霊石のタイピンのようなものがついている。
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