精術師と魔法使い

二ノ宮明季

文字の大きさ
191 / 228
三章

3-85 改めて話したいんスけど

しおりを挟む

 ついに大会三日目が来てしまった。
 昨日の一件の後、結局さらに犠牲者は二人出たらしい。どこかうんざりとした気分になりながらも、同じ宿に泊まっているメンバーと外に出ると、何でも屋の面々とルースの家族が待っていた。
 昨晩さっそく周知された死を刻む悪魔ツェーレントイフェルの一件の事をみんな知っているからだろう。皆一様に、不安げというか、心配そうというか、そんな表情だ。
 特に所長はオレ達を心配していて、「大丈夫?」や「帰ろう?」と、いっぱい口にしている。
 一番心配している相手は、当然ベルなのだろうが、そのベルは「むしろ昼間なら正々堂々行けるかもしれない」なんて、やたらと好戦的な発言をしたものだから、所長はもはやぶっ倒れてしまいそうなほど真っ白になってしまった。

「あ、あの、えっと、管理官もさらに厳重に警戒してくれてるみたいだし、えっと、元気出して下さい」

 見ていられなくなって、オレはなんとか励まそうと言葉を選ぶ。
 事実、昨日と比較してもかなり多くの管理官がその辺を歩いているし、管理官が守るべき市民も激減していた。
 とはいえ、元が多かったのだ。まだまだ人はいるし、今から帰ろうとしている人もいるしで、それなりに混雑してはいるのだが。

「あー、一応、改めて話したいんスけど」

 ルースが言い難そうに口を開く。

「昨日の夜、ジス先輩がオレの泊まってる宿に来て、結構説明してくれたんッスけど、大会続行するぞーっていう話」

 あぁ、やっぱり昨日オレ達の前で喋っていた通りになったんだな。どうも昨晩方向性がきっちり決まってからか、他の部屋には説明が入っていたようだったし、それの話だろう。
 特にルースは管理官だから、より濃い説明があったかもしれない。

「えーっと、大会は続行で、死を刻む悪魔ツェーレントイフェルが出たらそこを狙って捕まえるって話は、そのまんまだったッス」
「オレ達が囮のままって事だよな?」
「囮っていうかー」

 めちゃくちゃ話難そうに、ルースは一度口ごもる。

「つか、マジで棄権しねーんスか? オレとしては、ベルやテロペアの事は勿論、クルトもスティアちゃんも心配だし、棄権して欲しいんスけど」

 彼は困った顔をしたまま、続けた。心配だから、と言われれば、そりゃあ揺らがない訳じゃない。オレが出る、と言い張れば、他の何でも屋のメンバーはオレを置いて帰る事もしないだろう。
 更に、所長に関しては愛息子ベルに何かがありそうで不安がっているし、ベルはやたらと好戦的なのが不気味だ。

「あ! 別にディオンとラナの事を心配してないって話じゃねーッスよ? ただ、昨日、逃げないって決めたメインの奴がディオンっぽいッスけど、本当にそのまんまでいいのかなー、的な」

 この辺もジギタリスに聞いたのだろう。ジギタリス自身は、多分お父さんであるバンクシアさんから聞かされたんだろうけど。

「あと今のベルの反応見たら、ぶっちゃけとっとと帰った方がいいんじゃね? とは思ったッス」

 それはオレも思ったっス。

「……クルト、本当に俺に付き合って貰ってもいいの?」
「付き合う! それに、シュヴェルツェが絡んでいるのなら、精術師がどうにかしなきゃならないだろ?」
「そう、だけど」

 再度確認してきたディオンに、オレは大きく頷いた。
 怖くないと言えば嘘になる。けれども、来るとわかっているものを放置する事は、出来なかった。

「というか、その、ベルも、いいのか?」

 オレは恐る恐る、ベルにも尋ねた。

「絶対棄権しない」

 強い意志で、ベルは口端を引き結んだが、直ぐに小さな声で「けど、スティアやテロペアが嫌なら、棄権してもいい」と覆す。一応他の人の事は心配だったらしい。

「私は棄権する気はないぞ」
「おれは、ベユがやりたいならどこまでもちゅきあうよ」

 「どうせ片方のチームが棄権したって、この場に残るんだし」と、テロペアが続ける。うっ、そう言われると……。
 スティアに関しては、きっとオレと同じく「精術師の仕事」という強い意志もあるのだろう。

「別に強制するわけじゃねーッスけど」
「……とにかく、みんな気を付けて。危なくなったら自分の安全を第一に考えてね」

 ルースが言葉尻をごにょごにょさせていると、最終的には所長が土気色の顔をしながらぎこちなく笑った。ベルの強い気持ちの前に負けてしまったらしい。
 今日は、絶対に勝たなければならない。オレ達の敵は管理官のチームからシュヴェルツェに変わっていた。より、負けられない戦いが始まる。

   ***

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~

スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」  悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!? 「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」  やかましぃやぁ。  ※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

処理中です...