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三章
3-85 改めて話したいんスけど
しおりを挟むついに大会三日目が来てしまった。
昨日の一件の後、結局さらに犠牲者は二人出たらしい。どこかうんざりとした気分になりながらも、同じ宿に泊まっているメンバーと外に出ると、何でも屋の面々とルースの家族が待っていた。
昨晩さっそく周知された死を刻む悪魔の一件の事をみんな知っているからだろう。皆一様に、不安げというか、心配そうというか、そんな表情だ。
特に所長はオレ達を心配していて、「大丈夫?」や「帰ろう?」と、いっぱい口にしている。
一番心配している相手は、当然ベルなのだろうが、そのベルは「むしろ昼間なら正々堂々行けるかもしれない」なんて、やたらと好戦的な発言をしたものだから、所長はもはやぶっ倒れてしまいそうなほど真っ白になってしまった。
「あ、あの、えっと、管理官もさらに厳重に警戒してくれてるみたいだし、えっと、元気出して下さい」
見ていられなくなって、オレはなんとか励まそうと言葉を選ぶ。
事実、昨日と比較してもかなり多くの管理官がその辺を歩いているし、管理官が守るべき市民も激減していた。
とはいえ、元が多かったのだ。まだまだ人はいるし、今から帰ろうとしている人もいるしで、それなりに混雑してはいるのだが。
「あー、一応、改めて話したいんスけど」
ルースが言い難そうに口を開く。
「昨日の夜、ジス先輩がオレの泊まってる宿に来て、結構説明してくれたんッスけど、大会続行するぞーっていう話」
あぁ、やっぱり昨日オレ達の前で喋っていた通りになったんだな。どうも昨晩方向性がきっちり決まってからか、他の部屋には説明が入っていたようだったし、それの話だろう。
特にルースは管理官だから、より濃い説明があったかもしれない。
「えーっと、大会は続行で、死を刻む悪魔が出たらそこを狙って捕まえるって話は、そのまんまだったッス」
「オレ達が囮のままって事だよな?」
「囮っていうかー」
めちゃくちゃ話難そうに、ルースは一度口ごもる。
「つか、マジで棄権しねーんスか? オレとしては、ベルやテロペアの事は勿論、クルトもスティアちゃんも心配だし、棄権して欲しいんスけど」
彼は困った顔をしたまま、続けた。心配だから、と言われれば、そりゃあ揺らがない訳じゃない。オレが出る、と言い張れば、他の何でも屋のメンバーはオレを置いて帰る事もしないだろう。
更に、所長に関しては愛息子に何かがありそうで不安がっているし、ベルはやたらと好戦的なのが不気味だ。
「あ! 別にディオンとラナの事を心配してないって話じゃねーッスよ? ただ、昨日、逃げないって決めたメインの奴がディオンっぽいッスけど、本当にそのまんまでいいのかなー、的な」
この辺もジギタリスに聞いたのだろう。ジギタリス自身は、多分お父さんであるバンクシアさんから聞かされたんだろうけど。
「あと今のベルの反応見たら、ぶっちゃけとっとと帰った方がいいんじゃね? とは思ったッス」
それはオレも思ったっス。
「……クルト、本当に俺に付き合って貰ってもいいの?」
「付き合う! それに、シュヴェルツェが絡んでいるのなら、精術師がどうにかしなきゃならないだろ?」
「そう、だけど」
再度確認してきたディオンに、オレは大きく頷いた。
怖くないと言えば嘘になる。けれども、来るとわかっているものを放置する事は、出来なかった。
「というか、その、ベルも、いいのか?」
オレは恐る恐る、ベルにも尋ねた。
「絶対棄権しない」
強い意志で、ベルは口端を引き結んだが、直ぐに小さな声で「けど、スティアやテロペアが嫌なら、棄権してもいい」と覆す。一応他の人の事は心配だったらしい。
「私は棄権する気はないぞ」
「おれは、ベユがやりたいならどこまでもちゅきあうよ」
「どうせ片方のチームが棄権したって、この場に残るんだし」と、テロペアが続ける。うっ、そう言われると……。
スティアに関しては、きっとオレと同じく「精術師の仕事」という強い意志もあるのだろう。
「別に強制するわけじゃねーッスけど」
「……とにかく、みんな気を付けて。危なくなったら自分の安全を第一に考えてね」
ルースが言葉尻をごにょごにょさせていると、最終的には所長が土気色の顔をしながらぎこちなく笑った。ベルの強い気持ちの前に負けてしまったらしい。
今日は、絶対に勝たなければならない。オレ達の敵は管理官のチームからシュヴェルツェに変わっていた。より、負けられない戦いが始まる。
***
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