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三章
3-90 あ! 誘拐犯!
しおりを挟む「すごいな! おめでとう!」
控室まで戻ると、既に次の選手も控えていた。つまり、当然、ベル達のチームもいたのである。
ベルは興奮したように近寄ってきたし、スティアはふんぞり返って「中々の動きだったぞ」と褒めてくれた。褒め……本当に褒めてるのか?
「ま、ちょっと無様ではあったけど? 一応おめでとーっていってあげゆね。精々決勝では気をちゅけゆ事だね」
テロペアは大分嫌味だったが、まぁ、ここは大人として飲み込もう。のみこ……のみ……の……。
「うるせー、ばーか」
飲み込めなかった。
「バカはクユトだよ。これで決勝に出ゆ事は決定ってわかってゆ? ちゃんと気をちゅけてねー」
わかってるし! 馬鹿じゃないし!
もしかしたら心配してくれているのかもしれないが、どちらかと言わなくても馬鹿にされている気分た。
「あっ、ジスごめーん。負けちゃった」
「いや、カンナさんはよくやったと思う。あとはこっちに任せてくれ」
オレ達が喋っている傍では、カンナさんが次の試合に出るためにここにいるジギタリスと話していた。ジギタリスとカンナさんは気心が知れた仲のようで、珍しくタメ口で話している。
「こんな事になるなら、アタシとジスが組めばよかったんだけど!」
「学生時代にやって、優勝しただろう。管理局に入ってからも、去年は一緒に組んで優勝したし、今年は無理」
「管理局内からの出場者は、優勝チームが2年連続同じメンバーはダメってケチだよね」
優勝してた。しかも学生の頃も、管理官になってからも。
というか、この二人は学生時代からの友人だったのか。通りで距離感が近いわけだ。
「よくわかんないけど、今回に関しては勝てればOKだと思って!」
「誰に?」
「誰もに!」
だれもに。強い……。
「よー。残念だったなー」
そのタイミングだった。ここにいるはずのないヤツの声が聞こえたのは。
ドアの方を見ると、あまり見たくなかったおっさんがいた。
「あ! 誘拐犯!」
思わず指差すと、カンナさんがすぐに動いて、おっさんの胸ぐらを掴み下げた。いくらカンナさんが大きくても、おっさんのほうが大きいから、結果的に下げた形だ。
このおっさん、デンドロビウムを連れ去ろうとしてたヤツだし、もっとやってやれ!
「何しやがったんですか?」
「何もしてねーよ」
「あのね、学生の女の子をどこかに連れて行こうとしてたの。ね?」
ブレイデンがマイペースに答えてからオレの方を見た。
「してた! 危ないから保護したし」
オレは大きく頷く。これでテロペアも理解したようで、「あぁ、ツルバギアの妹の連れ去り未遂」と呟いた。それ! まさにその犯人!
「逆逆。おっちゃんが保護しようとしてたの!」
「嫌がってたのに、か?」
ジトーっと見るも、おっさんは悪びれる様子一つない。
「俺、ヴニヴェルズムから聞いたもん。お嬢ちゃん一人? おっちゃんといいとこ行こうって誘い文句で絡んでたって!」
これはブレイデン。はっきりとヤツの罪を告発すると、その場の管理官が全員おっさんを見た。
「黒」
「黒ですね」
「完全に黒です」
「真っ黒ですぅ」
カンナさん、ジギタリス、クレソンさん、ジギタリスのチームの得体のしれない人。その順番で、おっさんの罪を認める。
カラーは何か言いたいようだが、むっつりと口の端を結んで睨んでいた。
とりあえずカンナさんが、おっさんの腹に一発拳を叩き込むと、「続きは後にするけど」と続ける。
「何しに来たんですか? 犯罪?」
「カンナ……お前……マジ脳筋……」
「何しに来たんですか? 犯罪?」
「おまっ、おっちゃんを何だと……」
「犯罪者」
間違いないな! ジギタリスも頷いてるし。
「ブレイデン、助けてー」
おっさんはカンナさんが掴み下げた手からスルッと抜け出すと、殴られた腹をちょっとだけさすってブレイデンの方へと向かう。
殴られたのに痛くないのか? あと、簡単に抜け出せるのかよ。
「アキメネスさん、犯罪は駄目ですよ! 悪い事したら、手が腐り落ちるんですからね!」
「何それ、初耳。怖すぎなんだけど」
オレも初耳。こわっ!
「そうなんですか? よくお祖父様が仰ってたので、悪い事したら手って腐り落ちると思ってました」
「ヴニヴェルズム家の教育方針に初めて慄いたわ。自然に腐るの?」
「えっと、腐らなかったら腐らせるって」
「お前のじーさん怖ぇ」
ブレイデンのお祖父ちゃんって多分、テロペアのお祖父ちゃんを回収して叱ってるって人だよな?
オレはそうっとテロペアを見ると、口元をにやーっとしていた。こっちもこわっ!
「アキメネスさんの手、腐らせる?」
ブレイデンは純粋な瞳でおっさんを見ながら首を傾げ、手を伸ばす。
「ブレイデンくん、止めなさい。あの人に触ると、貴方が腐りますよ」
「そうだよ、ばっちいよ」
「臭いですしね」
クレソンさん、カンナさん、ジギタリスの三人がすぐに注意すると、ブレイデンは慌てて伸ばした手を引っ込めた。
「そっか。じゃあもう触らないです」
「お前等なぁ!」
おっさんは怒ったけど、オレはブレイデンが適切に手を引っ込めてくれて安心した。どうも警戒心が足りていないブレイデンに対しては、ついつい心配してしまう。
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