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三章
3-111 君に十分、時間を上げましょう
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どこから出たのか、大きなヴニヴェルズムを連れた男性が、うっすらと微笑み、テロペアのお祖父ちゃんの武器に触れる。
「あるべき姿へ」
『うん。ないないしようね』
たった一言。それから大きなヴニヴェルズムがテロペアのお祖父ちゃんの武器をちょいっとつつくと、武器は石へと変わった。
誰? っていうか、助かった?
いや、それより、えーっと、どうやってここに? それも違うか。あまりにも疑問が多すぎて、オレは呆然としてしまった。
「貴様、何のつもりだ!」
テロペアのお祖父ちゃんが、今しがた己を止めた男性へと食って掛かる。
その人はテロペアのお祖父ちゃんと同じくらいの年頃ではあったが、彼とは相反するくらい穏やかな表情を浮かべていた。慈愛すら感じられる金色の瞳はゆるりと弧を描いたかと思うと、直ぐに隣の大きなヴニヴェルズムへと向かう。このヴニヴェルズム、大元、だよな?
「また力を貸してくれてありがとう」
『いーよ。テオバルトのお手伝いが出来て、とっても嬉しい』
大元も、ニワトリの頭にトカゲのしっぽが付いたような面妖な姿ではあったが、発言が可愛い。あまりの事に、オレはぼんやりとヴニヴェルズムを見つめてしまった。
ヴニヴェルズムを見ている場合ではないと思いつつ、上手く思考出来ない。
「クルトくん」
「は、はい!」
男性はオレの名前を呼び近づくと、立ち上がるのに手を貸してくれた。
「私はヴニヴェルズム。テオバルト・ヴニヴェルズムです。ヴニヴェルズム家の前当主です。よろしくお願い致します」
「えっ、あ、あの、ツークフォーゲル! クルト・ツークフォーゲルです! えっと」
「今はお喋りする間も惜しいので、簡潔にお話ししますね」
なんと言ったものかと、あわあわと口を動かすも、彼は唇に人差し指を当て、「しー」のポーズをしながら続ける。
ちょっと子供っぽい位の仕草のはずだが、妙に品が漂っていて不思議だ。
というか、ヴニヴェルズムの前当主って事は、ブレイデンのお祖父ちゃんか!? あっ、ライリーさんのお祖父ちゃんって思えば、似てるかも。
ん? じゃあ、悪い事したら手が腐るって言う人か! 怖い!
「君に十分、時間を上げましょう。その子からシュヴェルツェを追い出して見せなさい」
オレの脱線する思考回路は、この発言で一気に現実に引き戻された。
「今までの方法が間違っていると言うのなら、新しい方法を提示しなければいけませんよ。そうでなければ、納得しない者もいますから。彼のように」
金色の優し気な瞳は、テロペアのお祖父ちゃんを見つめる。
言っている事は間違ってない、気がする。でも、どうしよう。
「すぐに方法を見つけろとは言いません。ですが、彼を助けたいのなら、最低でも、シュヴェルツェを彼から追い出さなければいけません」
それは、そうだ。シュヴェルツェを追い出せなかったら、テロペアのお祖父ちゃんを止め続けるのは難しいだろう。
「それが出来ないのなら、今までの方法でやるしかありませんよ」
「……わかり、ました」
カラーを殺さずにいくには、十分以内にシュヴェルツェを追い出さなきゃいけない。オレに拒否権は無かった。
「何を勝手な――」
「君に拒否権はありませんよ。ねぇ、ヴニヴェルズム」
『うん。十分待つの、ヴニヴェルズムも賛成だから。痛いの可哀そう』
「……ふん」
テロペアのお祖父ちゃんの文句すら押さえつけた、ヴニヴェルズム家の前当主は、テロペアのお祖父ちゃんを促し、少し後ろに下がった。
どうする。どうやってカラーからシュヴェルツェを追い出せばいい?
十分しかない。やるしかないのはわかる。
どうやったらシュヴェルツェを追い出せるのか。この前の、グロリオーサの時はどうだったんだ?
あの時は、蛇が自主的に入って、自主的に出てきた。と、なれば、ヒントにはならないだろう。
じゃあ、シュヴェルツェは、どういう人を狙って入っているのか、だ。
こいつは人の負の感情が大好物の精霊。って事は、どこかに付け込んで入っているんだろうけど、それってつまり……?
「どうする? どうしちゃう? まあ、考え付く前に動いちゃうけど」
考え込むオレを前に、シュヴェルツェはオレに向けて石の飛礫を飛ばしてきた。これはカラーが持っていた魔陣符から出たものではない。
こいつは、多分、精術を使った。
オレは飛んできた石の飛礫を槍で弾き飛ばす。金属の音が響いたその瞬間には、シュヴェルツェは観客席の方へと走り出した。
カラーの大きな身体で「やっほー!」と言いながら迫っていく様は、脅威以外の何物でもない。ましてや観客席には、まだ避難していない人もいるのだ。
まずい、どうにかしないと! すぐに呪文を唱え、あいつの足止めをしないと!
「――あいつに突風を」
『このまま突風を起こしたらあいつにとって追い風になって、もしかしたら逆に助けになるかもしれないんだけど、いい?』
ツークフォーゲルの大元が、オレの肩の上で首を傾げる。
「よくない! やっぱりナシ! キャンセルで!」
『はいよー』
オレの呪文を無かった事にして貰い、大分遅れてはいるもののカラーに入ったシュヴェルツェを追った。ぐんぐん風を切るが、肩の上のツークフォーゲルの大元はどこ吹く風で『風は気持ちいいけど、シュヴェルツェはキモイな』などとオレに語り掛けている。
のんきだな! こっちは全力疾走してるのに、距離が開きすぎてて焦ってるんだけど!
吹き飛ばされた管理官が、シュヴェルツェに攻撃をして足止めをしようとしているのを見つつ、必死に追う。管理官は頑張っているが、シュヴェルツェは軽々と躱したり、逆に精術を使ってみたりと、どうにも上手くいかない。
距離を開けられたオレも、近くで頑張る管理官達も、全然シュヴェルツェを捕まえられないのだ。
「あるべき姿へ」
『うん。ないないしようね』
たった一言。それから大きなヴニヴェルズムがテロペアのお祖父ちゃんの武器をちょいっとつつくと、武器は石へと変わった。
誰? っていうか、助かった?
いや、それより、えーっと、どうやってここに? それも違うか。あまりにも疑問が多すぎて、オレは呆然としてしまった。
「貴様、何のつもりだ!」
テロペアのお祖父ちゃんが、今しがた己を止めた男性へと食って掛かる。
その人はテロペアのお祖父ちゃんと同じくらいの年頃ではあったが、彼とは相反するくらい穏やかな表情を浮かべていた。慈愛すら感じられる金色の瞳はゆるりと弧を描いたかと思うと、直ぐに隣の大きなヴニヴェルズムへと向かう。このヴニヴェルズム、大元、だよな?
「また力を貸してくれてありがとう」
『いーよ。テオバルトのお手伝いが出来て、とっても嬉しい』
大元も、ニワトリの頭にトカゲのしっぽが付いたような面妖な姿ではあったが、発言が可愛い。あまりの事に、オレはぼんやりとヴニヴェルズムを見つめてしまった。
ヴニヴェルズムを見ている場合ではないと思いつつ、上手く思考出来ない。
「クルトくん」
「は、はい!」
男性はオレの名前を呼び近づくと、立ち上がるのに手を貸してくれた。
「私はヴニヴェルズム。テオバルト・ヴニヴェルズムです。ヴニヴェルズム家の前当主です。よろしくお願い致します」
「えっ、あ、あの、ツークフォーゲル! クルト・ツークフォーゲルです! えっと」
「今はお喋りする間も惜しいので、簡潔にお話ししますね」
なんと言ったものかと、あわあわと口を動かすも、彼は唇に人差し指を当て、「しー」のポーズをしながら続ける。
ちょっと子供っぽい位の仕草のはずだが、妙に品が漂っていて不思議だ。
というか、ヴニヴェルズムの前当主って事は、ブレイデンのお祖父ちゃんか!? あっ、ライリーさんのお祖父ちゃんって思えば、似てるかも。
ん? じゃあ、悪い事したら手が腐るって言う人か! 怖い!
「君に十分、時間を上げましょう。その子からシュヴェルツェを追い出して見せなさい」
オレの脱線する思考回路は、この発言で一気に現実に引き戻された。
「今までの方法が間違っていると言うのなら、新しい方法を提示しなければいけませんよ。そうでなければ、納得しない者もいますから。彼のように」
金色の優し気な瞳は、テロペアのお祖父ちゃんを見つめる。
言っている事は間違ってない、気がする。でも、どうしよう。
「すぐに方法を見つけろとは言いません。ですが、彼を助けたいのなら、最低でも、シュヴェルツェを彼から追い出さなければいけません」
それは、そうだ。シュヴェルツェを追い出せなかったら、テロペアのお祖父ちゃんを止め続けるのは難しいだろう。
「それが出来ないのなら、今までの方法でやるしかありませんよ」
「……わかり、ました」
カラーを殺さずにいくには、十分以内にシュヴェルツェを追い出さなきゃいけない。オレに拒否権は無かった。
「何を勝手な――」
「君に拒否権はありませんよ。ねぇ、ヴニヴェルズム」
『うん。十分待つの、ヴニヴェルズムも賛成だから。痛いの可哀そう』
「……ふん」
テロペアのお祖父ちゃんの文句すら押さえつけた、ヴニヴェルズム家の前当主は、テロペアのお祖父ちゃんを促し、少し後ろに下がった。
どうする。どうやってカラーからシュヴェルツェを追い出せばいい?
十分しかない。やるしかないのはわかる。
どうやったらシュヴェルツェを追い出せるのか。この前の、グロリオーサの時はどうだったんだ?
あの時は、蛇が自主的に入って、自主的に出てきた。と、なれば、ヒントにはならないだろう。
じゃあ、シュヴェルツェは、どういう人を狙って入っているのか、だ。
こいつは人の負の感情が大好物の精霊。って事は、どこかに付け込んで入っているんだろうけど、それってつまり……?
「どうする? どうしちゃう? まあ、考え付く前に動いちゃうけど」
考え込むオレを前に、シュヴェルツェはオレに向けて石の飛礫を飛ばしてきた。これはカラーが持っていた魔陣符から出たものではない。
こいつは、多分、精術を使った。
オレは飛んできた石の飛礫を槍で弾き飛ばす。金属の音が響いたその瞬間には、シュヴェルツェは観客席の方へと走り出した。
カラーの大きな身体で「やっほー!」と言いながら迫っていく様は、脅威以外の何物でもない。ましてや観客席には、まだ避難していない人もいるのだ。
まずい、どうにかしないと! すぐに呪文を唱え、あいつの足止めをしないと!
「――あいつに突風を」
『このまま突風を起こしたらあいつにとって追い風になって、もしかしたら逆に助けになるかもしれないんだけど、いい?』
ツークフォーゲルの大元が、オレの肩の上で首を傾げる。
「よくない! やっぱりナシ! キャンセルで!」
『はいよー』
オレの呪文を無かった事にして貰い、大分遅れてはいるもののカラーに入ったシュヴェルツェを追った。ぐんぐん風を切るが、肩の上のツークフォーゲルの大元はどこ吹く風で『風は気持ちいいけど、シュヴェルツェはキモイな』などとオレに語り掛けている。
のんきだな! こっちは全力疾走してるのに、距離が開きすぎてて焦ってるんだけど!
吹き飛ばされた管理官が、シュヴェルツェに攻撃をして足止めをしようとしているのを見つつ、必死に追う。管理官は頑張っているが、シュヴェルツェは軽々と躱したり、逆に精術を使ってみたりと、どうにも上手くいかない。
距離を開けられたオレも、近くで頑張る管理官達も、全然シュヴェルツェを捕まえられないのだ。
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